妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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自分だったらこうするという案を書き上げて、次に来たのは自分の限界を知る事だった。
具体的に言うと思い付いていて当然のアイデアを盛り込んでおらず、この世界の住人から未熟なアイデアを貰って気が付くという事だ。
彼のアイデアが未熟なのは後発なので当然であるが、元の世界の知識を持っていた僕が思いつかないのは不甲斐ない。まあ記憶を保全してあると言っても、全部思い出せる訳でも、思い出したとしても使うかは別なのだが。
「と言う訳でどうせ重要じゃないなら、移動させることを前提に簡素な仕上げにしたらと思うんだが……ダメか?」
「いや、そうじゃないよ。忘れてた技法を思い出してるだけ」
南商豪が見積もりと同時に持って来たアイデアは、施設を移動させるというものだった。
どうせ不要な城なので、ここで建設した後に復興予定の場所に移動させ直すというものである。中央の領分なので直ぐに誰かの領地化するわけでもないが、無味な施設をガッチリ立てるよりは、移動させることのできる状態で簡素化するというモノである。
移動させるための建物を建てる。この世界としては新しいアイデアであるが、僕は元の世界でプレハブやら何やら知っている。加えて自分の領地でも既存の建物を材料にして見張り塔やら壁を作ったこともあるので、気が付いていても良いアイデアだったのだ。
「技法? 既にそういうのがあるのかよ?」
「まあね。僕は知恵とコツの神様の信徒だから幾つか知ってるし、教えることもできる。例えばそうだね……大枠の骨組みをしっかり計算して作って、外側の板も同じサイズで張り付ける形で組み上げるんだ。ちょっと見てて」
紙はもったいないので、野営中ともあって地面に描いていく。
縦・横・高さを仮に10x20x5くらいの長方形で造ると仮定する(比率と長さは適当)。そこに張り付ける板を1x1x1と1x2x1の定格であらかじめ作っておき、これを張り付けて端っこを固定していくという図形だ。もちろん固定したり外したりというのは、流石に大工に任せて釘やら紐が必要だろうけど。
こういう建物を何組も用意して置いて、それとは別に最初から大きく造った長屋造りの物を用意する。これに使う板やら柱も定格で作っておいてどちらでも作れる……要するにサイズは長さ以外は同じ建物であると簡単に図形で示した。
「スゲエじゃねえか! このアイデアなら売れるぜ。どうしてもっと早く言わなかったんだよ」
「僕も忘れていたというか再建も含めて勝手に決めて良い物じゃないしね。それに『思いついた案は、実は始まりに過ぎない』という言葉が僕らの中ではあるんだ」
プレハブ工程どころか一夜城すらない時代である。
南商豪ならずとも顔を赤らめて興奮するし、職人を何人も雇える商人ともなれば幾らでも商機を思いつけるだろう。今ごろは頭の中でどういう風に売り出すかを検討しているに違いない。
それはそれとして昔から漫画……特に料理物で言われている言葉がある。『馬鹿め。お目はそのアイデアを完成系だと思ったのだろう。しかしそれは始まりに過ぎなかったのだ』と先輩格・師匠格の料理人が『今度こそ勝てる!』と思い上がった主人公を叩きのめすシーンだ。
「始まり? 他に何があるってんだ?」
「この形と大きさが決まって居る事を規格って言うんだ。同じ形状で同じサイズ、どこで注文しても同じってね。例えば鍛冶職人が自分が造り易いサイズで作ってる釘とか工具を、同じ規格で作ったらどうなる? その商品が他の商人に先駆けて君の商会で扱ってたら?」
「そ、そりゃあ……大工たちは当然俺の所で買うよな」
もちろん間に立ち塞がる問題は色々ある。
頭の固い職人は基本的に自分の考えた理想、もしくは過去からの惰性で同じ物を作るのだ。釘だって工具だって、『このサイズが良いに決まって居る』とか『この位が一番作り易い』という考えの延長で作っているのだから。
なのでまずは言う事を聞いてくれる職人を探す必要がある上、作り始めたら以後も同じサイズで無ければならない。第●号という規格の差は必要だが、同じ号数で別物だったら困るからだ。
「しかし、それって本当に可能なのか?」
「基本的に無理と言うか、無理だったから僕も忘れてたんだ。今回みたいに、一から全部差配できる可能性でもなければまず無理だよ。だから前提段階から見直さないといけない……作るのは規格じゃない、話を聞いてくれる職人や、ちゃんと規格品を扱う部下の商人だ」
つまり最重要なのは人間の育成であり、その前段階である教育なのだ。
これまでは村人に文字とか初歩的な数を教えて済ませて来た。村の生活にはそれで十分だし、村の職人たちも好奇心の高い者たちが多かったから話を聞いてくれたというのもある。だがこのアイデアを押し通したいならば、最初から教えることを前提に素人を育てるくらいのつもりでなければならないだろう。
要するに職人や商人の学校を作るという事である。自分の村に作るなら過剰であるが、町の復興であったり南群全体の復興であるならば十分に意味があるはずだ。
「人を育てる? その必要があるのか?」
「雇っている丁稚の全員が使える丁稚だった? 違うから一部の人間のみを抜擢するとして、その中で現地の店を任せられる人間は何人いた? でも雇う者が全員、数や計算などの初歩的な知識を知って居れば話が変わる。性格の方を選べるんだ」
当たり前だが村人や町人を教育する領主なんかいない。
僕は人が居ないからやったし、それでも必要な部分までしかやれていない。しかしこの地方全体を普及させるならば職人見習いと商人見習いは何人居てもいい。
そして学校で教えるのであれば、教材や商品として扱い易い規格品というのは便利であるし、それで覚えた彼らも使ってくれるだろう。
「最初は数字と計算を教える場所で共同で教える。どうせどこでも使うんだから共同でいいし、それなら何人放り込んでも良い。そこから職人を目指したい者や商人を目指したい者を選抜して教えていく」
「士学みたいなもんか? まあそういう事ならば判る」
この世界では基本的に私塾で教えるか、試験入学の士学という学校に行く。
そこから見込みがある者は役人や軍官僚を目指したり、魔導師を目指して色々と専門的な教育を受けるわけだ。そういう場所くらいしか先生となる人や、専門教育できる人間へのコネクションが無いとも言える。
黄三硯は頭の良い妹に金を出して士学に通わせ、魔法の才能が有ったからコネクションで専門機関で学ぶという事なのだろう。
「そこで学ぶ時の教材は全部規格を作る。同じ重さ同じサイズ同じ形状の物をたくさん用意する。もちろん練習に立てる家やら、作る工具なんかも規格を目指してキッチリ教えるわけだよ。そういう目的にするならば、このお城にも意味があるんじゃないかな。『黄の町』が学問の町である様に、ここを商人や職人の町を教えるにするんだ」
幸いにも南群の復興はまだ先で、完全に終わるのは遥か先。加えて西領の話もある。
つまりここで教えていくことは意味があるし、その過程で規格を作ればここで生産する品を商品として売れるという事だ。流通して増えれば増える程にあちこちで使われるようになるだろう。仮に真似されてコピーが出回るとしても、同じ物をコピーした方が早いので規格だけは残る。
まあ問題は、その話を『上』に通さなきゃいけないわけだけれど。
「夢は果てしないな!」
「夢だけはね……」
何が面倒かって、この話は城の債権を僕らが担うという前提である。
まず南領の総意としては中央の意向に沿って戦闘し続けるのは本意ではない。加えて南群に所属する貴族自体は中央の所属であり、ある程度は縁者に割り振られるとしても全員ではないだろう。それこそ完全直轄になって代官だけ割り振られる可能性すらある。
南領の後押しで城のどれかを確保するのか? そこまで紅家や緋家が望むとは思えないし、中央が戦いではなく再建を命じたとして……完成しそうなところで取り上げられる訳だ。真面目にやる気力が削がれるのは今から判る様であった。
「浮かない顔だな。何か懸念でもあるのか?」
「再建を何処の勢力がやるのか判らない。中央から南領が命じられてるのは本当だし、北上作戦とその前後を仕切ってるのは確かに僕なんだけど……決断するのは『上』なんだよ。見積もりと一緒に計画書を提出して、君の名前を出すことは可能だけどね」
この場合の上とは中央かもしれないし、南領の誰かかもしれない。
事前にこの話を通しておけば侯爵さんは企画書を使ってくれるかもしれない。緋家がやるなら決めるのは悌さまだが、僕の提案通りになるだろう。
だが中央が最初から何もかもやる場合には無意味だ。計画書を読んでくれればよいが、場合によっては何も聞かずにハイそれまでと言う可能性もある。南領としてはそれ以上の負担が無ければ万々歳なので、特に反対もしないだろう。
「いずれにせよ見積もり計画への報酬は出すし、君を推薦はする。後はそうだな……僕が戻ってから規格という概念の仕上げまではやっといても良いね。それを買うと言うなら相応の額で渡してもいい」
「それなら俺の方に不満はない。適当な頃に顔を出して経過を聞きに行くとするよ」
こうして僕らは別れ、路線の変更をしながら計画を進める事にした。
南群を領地としてもらえる可能性は高いが、何処かの復興を任される可能性はあるからだ。
そこの復興に今回の計画を用いつつ、僕は領地の発展に、南商豪は商会の繁栄に利用することにしたのである。
という訳でいやいや南群に関わるのではなく、やりたいことがあるから関わる。
その為にイニシアティブを採りに行く感じですね。
といか押し付けられた仕事をやっても面白くありませんが、意欲を持ってしたい事の為に
そういう事に気が付いた主人公です。