妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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村に戻ると北上作戦から派生した三つの項目を文面にしたためる。
一つ目は橙二尾の見たアンデッドの巨人の報告。二つ目は南群全体の様子と諸費用の予想。最後に規格化に関する計画書だ。
真っ先に書き上げたのはアンデッドの分布図である。巨人の位置を始めとして東側と西側、そして農閑期に増え始めるという住民や旅人の証言。何者かが『ウッカリ始末を忘れて集まってしまっている』という現状を照らし合わせて今後の推移を完成させる。
「これを届ければ任務終了っと。同じものをあと三通も書かないといけないのが苦痛だけど。見積もりが終わったらそれも書かなきゃな」
この報告を元に出兵、南群を浄化して周辺を守る所まで押し上げる。
それで南領は安全になるし、中央が代官なり領主を派遣して来れば維持管理を任せて安泰である。誰も送って来なければ南領に組み込みかねないので、おそらくは誰かしら送って来るだろう。
詳細を書いたこの書類は緋家だけではなく紅家にも送り、そこから南領に属する諸侯へ伝達される手はずだった。おそらくは紅家から出兵への要請文と共に送られるだろう。真偽のほどは現地で見た貴族たちが把握するだろうし、兵のすべてまで口を塞ぐのは無理なので、中央も嘘だとは断じ難い。
「北上作戦自体は別にやったが勝ちだから良いんだけど……この費用は頭抱えるだろうなあ。まあ、でなければ中央も南領いじめに使わないだろうけど」
見積もりを頼んだ南商豪は南でも中央でも商売をしている。
だからどちらの商人から物資を購入すれば、どの程度の価格差になるかと書き記していた。矢弾に鎧などはまだしも、毎日消費する食料や飼い葉などは馬鹿にならない。一カ月単位でもかなりの金額になり、半年・一年と時間を掛ければ恐ろしい金額になるだろう。ましてや城の再建にまで手を出したらどれほどの金殻が飛ぶのか判別が付かない。
ゆえにできるだけ初期段階で北上し、兵は最小限に抑える浄化儀式が重要なのだ。南群全体を浄化してアンデッドが湧か無くなれば、後は中央から流れて来る個体だけを順次始末して行けばよい。
「城の再建とか一貴族が賄うには頭おかし過ぎる。大諸侯でも辛いぞコレ」
手元にある資料は先に受け取った緑林洞と、後から送ってもらった東の城だけだ。
洞窟を利用できる緑林洞ですら馬鹿にならない費用が掛かるのに、東の城になるとその比ではない。もちろん貴族が民を引き連れて、労役で材料を切り出し基本作業をやらせれば安くはなる。しかし食料は途中から自領だけでは賄えなくなるし、重要な部分は職人に発注する必要があるので凄まじい金額になるのだ。
はるか昔に南群地方の王様がやった時ですら、広大な領土に支えられた状態で数年から下手をすると十年以上掛けた筈である。それを他所から来た諸侯が代理でやったら、凄まじい予算になるのは目に見えていた。
「どれだけ費用が掛かるか判らない……だからこそ『最終目的』が重要なんだろうな」
過去の王侯貴族は、城に凄まじい金額が掛かろうとも最終目的に合致するならば許容した。
それは領土を守るためであり、新たに領土を得る為だ。作り上げた豊かな町並みを守るためであれば、非常時以外には使わない壁で覆って総構えの城郭すら築き上げる。
今回の北上作戦もみな同様の覚悟を決めているはずだ。小さくは目の前のアンデッド掃討で平穏な暮らしを、大きくは中央が馬鹿な考えを起こして粛清の軍勢を送って来ないように協力。実際には大事になる前に動くのだがちゃんと大義名分を用意している。
「しかし何を目標にすればみんな盛り上がるのかな? 僕は新しい目標を見つけはしたけどさ」
北上作戦を取り仕切るだけで僕の株は上がる。
そこから青悟と大地母神の教会に功績を渡し、周辺を浄化すれば平和になって大助かり。戦費も抑えられるし、開拓地に付き物の協会とも仲良くなって万々歳だ。しかしそれ以上……城を再建しろだとか、西領を奪回城だとか言われても困るのだ。
僕はまだ企画化のアイデアと職業訓練学校を作るというネタを推進すればよい。そこに九天玄女さまの名前を盛り込めば言う事はないのだ。しかし他の貴族たちはたまった物ではないだろう。
「その辺りの目的を適当に探しとかないとな。この際、南群を我が物に……とか言い出されても困るからね」
財政管理とかもやってる主流派は嫌な顔をして、必要な経費を払って終わりである。
しかしその辺を知らない非主流派は『これだけ出費を強いられたのだから、領地を増やしても良いはず』とか言い出しかねない。かといってその気にさせなければ、北上作戦にすら反対しかねないのが面倒なところである。
僕は目の前の書類と格闘しながら、これからの作業の中に他人の目的探しと言う馬鹿馬鹿しい内容を放り込むことにした。
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それはそれとして温めたアイデアを実行に移すのは楽しい。
移動中に考え練り上げたものを、一つ一つ実験しながら有益な物に変えていく感動は説明しがたい。
僕は渋る剛盾を説得しながら規格化を進める事にした。
「同じ物を作れと言われてものう」
「剛盾さんにまでずっと作れとは言わないよ。軌道に乗るまでの面白い所だけでいいからさ。その後は有益だったら使うくらいでいいさ」
面白い物を作りたい、見たことのない新しい物を作りたい。
ドワーフの剛盾が協力してくれるのはそんな理由だ。だからこそ同じ物を作り続けるという規格化に関しては渋られた。そこで規格という新しい概念が成立するまでの、最高に面白い部分のみに巻き込むことにしたのだ。
「そういうことならええが、何をすればええんじゃ?」
「まずはこの前に作った分銅があったじゃない? アレをもう少し大袈裟にして有効活用しようか。同じ重さの材料をいつでも持ってこれたら、色々作る時に楽でしょ?」
前に保全能力を元にした指南車モドキを使って分銅を作り上げた。
同じ指標への方向を固定し続ける為、指定した重さの値を割り出すのに使えるのだ。もちろん何度も繰り返し、まったく同じ場合・近似値の場合・多い場合・少ない場合と言う、色々な針を用意しなければならなかったのだが。
しかしこの同じ重さの金属を用意するというのは有用なのである。最初に色々と用意すれば、その加工で『似たようなサイズ』に整える事が可能なのだから。
「こういう感じの基準を作るところから始めようと思うんだ。逆に職人が愛用するような道具はダメだね。あればっかりは職人ごとの手足にカスタマイズしないと」
「判っとるならええ。まずはそころからか……」
地面に文字と絵で軽く書いて説明する。
チェインメイル用の鉄線を適当に作り、鋼鋏でそれを切れるようにする。すると誰でもチェインメイルを作り易くなるし、職人が凝るべきは鋼鋏の使い易さとか、もっと良い鎧に力を注げばよい訳だ。分銅で同じ重さに釣り合う様にすればよいので、やるべきことは簡単である。
この行動には目安としての意味がある。実際には剣であるとかの方がよく造るし、道具で言えば釘の方が多い。しかし説明として判り易いのである。
「これが完成したら次は金の塊とか、鉄の塊かなあ。資材として管理する時とか、売り買いする時に使い易いからね。インゴットってやつ」
「定型の金殻や鉄塊か。まあそうじゃろうのう」
この辺は鍛冶師たちには付き物の悩みだ。
用意した金とか材料がどこまでまともで、どこまで扱い易いかは重要である。最悪の場合、注文しておいた中身がクズということもあるので、目利きから監視までちゃんとやっておく必要があるわけだ。
そんな感じでまずは剛盾が納得してくれる部分から始めた。他の器具に関しても、ガラスの皿やら色々作り上げ、以前に興味を示したドワーフの薬師や錬金術師に送りつけて置く。もちろん規格が完全に整えば、黄三硯の妹経由で中央の魔導師に見せても良いだろう。
「終わったら最終的に移動可能な建物を作ってひとまず終わりかな?」
「なんじゃいそれは」
「予めサイズと形状を固定した柱と板を用意してから、一気に組み上げるんだよ。これだと結束を解けば簡単に崩して移動可能だからね」
ちなみに剛盾は途中から夢中になった。
エポック・メイキングは面白いというか、同じ形の柱と板で色々とパズルのように組み立てるというのは、才能がある者にとっての遊びだからだ。特に凝ったのは組み上げを簡単にする為の穴と棒の組み合わせだったり、不要なはずの窪みを作りロープで固定し易くする工夫であった。
彼の本分は鍛冶師であり、その延長である貴金属の細工物である。木工関連はその辺の大工よりマシ程度で、その腕前と工夫がプレハブを作る工程で磨かれていくのが面白かったのだろう。
最終的に小屋と長屋の二つを何とか作れるようにして、規格化までの第一歩が終わった。
と言う訳で帰還して計画書を提出して終了。
おそらくは対アンデッドに関しては、これだけで楽勝になるはずです。
まだアンデッドが大量湧きしておらず、何処にどれだけいるか判ってますしね。
後は規格化の企画がスタートした感じ。