妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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文明開化の音がする

 上級貴族との謁見は無事に終わり、確認した魔物の数も問題ないと判った。

おそらくは全体スケジュールの遅延も寄り道程度で収まるだろう。話に聞いたところ依頼を持ち掛けた領主の方も高評価らしい。

 

と言う訳でここまでは大過なく順調に来れたので、後は城主や荘園主として頑張るだけだ。

 

「まさかあんな事を言い出すとは思いもしなかったよ。でも双羽くん風呂は難しいんじゃあ?」

「そうでもないですよ。お湯そのものは沸かし易くする方法があるんです」

 日本の江戸時代、米どころはむしろ寒い地域だった。

家来の数に比して石高が足りないので、仕方なく開墾によって国力を増やしたからなのだ。しかしながら寒冷に強い品種など無い頃である。当然ながら育て方が重要だったらしい。水路を浅くして陽で十分に温められるようにしたのだ。

 

要するに水は少量ならば沸かし易く、大容量であれば時間が掛かるという事だ。ボイラーそのものは古代ローマの頃からある技術なので、この世界でも当然存在する。誰も風呂なんか日常的に入れるようにしないだけだ。

 

「後は水を上手く調整する方法なんですが……川の水を引き込んでボイラーに水を汲み上げれば難しくはありません。風呂場を半地下式にすればポンプも要らないですしね」

 いわゆる温度の足りない露天風呂方式とボイラーの組み合わせを使う。

上流から下流に流れる水の勢いを利用し、川下に作った温泉施設へ汲み上げていく。後は銅か鉄か何かでボイラーを作って、温めた端から水を移動させてやればいい。なんだったらパイプ自体を温める方式でも良いだろう。

 

お屋敷の方は流石に下流に作ると洪水での浸水が怖いが、それこそポンプの設置を前提にするすれば下流に作る必要はない。どちらかといえば冷蔵庫をどうするかの方が悩みどころであった。

 

「後はサウナを通常の水蒸気流用タイプだけじゃなくて、ドワーフ式の焼き石タイプも併設すれば面白いともいますよ」

「あー。ドワーフは石に水を落とすタイプだっけ。その差は面白いなあ」

 この世界のサウナはお湯を沸かす時に出る水蒸気を利用する。

それはそれとして、ドワーフたちは鍛冶の炉などの利用で石を焼くのが簡単なのと、水が貴重なので焼いた石に水を落とすタイプのサウナになっている。お風呂に入らずサウナで汗をかき、水は最後に汗を落とすために拭う程度だ。

 

面白いのはその時に水を集めて再利用する前提である。

サウナに使った水蒸気も汚れた水も汗もまとめて回収し、濾過と蒸発を経て純水に変えることで再利用している。そういえばバビロン空中庭園も、蒸発した水の気化で温度を下げつつ水を再利用していると聞いた事があるかな。

 

(イメージとしてのバビロン空中庭園みたいな構図も悪くないな……。温度管理だけ取り入れる予定だったけど、外観も流用して悪くないかも)

 名前だけ聞くとファンタジーだが、実はそれほど珍しい概念でもない。

空中に浮かんでいる様に『見える』という構図と、そこでは『地域的』にあえり得ない植物を用意できる部屋があるのだ。密閉により温度管理を徹底し気化による低温を成し遂げた区画と、逆に温度を維持した温室の二種類がある。

 

今までは密閉による温度管理だけを流用させてもらうつもりだったのだが、この際、温泉施設の一部に空中庭園と思えるような外観を取り入れても良いかもしれない。どうせ半地下式にするのだから、浮いたように見える構図は難しくない。

 

(しかし温度管理という意味で言えば、仙人の住処が洞府というのも判る気はするな)

 洞窟の中でも一定の広さを持った居住空間。

風が吹かず熱が伝播しないので、冬は暖かく夏は涼しい空間である。要するにエネルギーの変動が少ない訳で、そこに山の精気や日月の精気を蓄えて神秘的な生活を送っているというわけだ。

 

ひとまず天然の冷暗室として保存食を置いておく場所としよう。

その名目で色々と洞穴を探しておき、一番エネルギーの蓄積が良い場所に洞府を開いてうちの神様をお迎えすれば良い。

 

(となると蔵として使う場所以外の洞穴への出入りを禁じた方がいいな。酸欠とか説明してもダメだろうし……ここは剛盾さんや紅梓さんの名前を使わせてもらうか)

 別に洞府だからといって洞穴でないといけないわけでもない。

しかし屋敷に設置するよりも、エネルギーの流入が少しでもある方が良いだろう。それこそもっと良い場所があるならば神様の意見を聞きながら移設しても良いくらいだ。

 

現状ではそのくらいに神職としての力が足りてないので、神様の助言が早く欲しかった。……というよりも現地民の下位互換という立場に耐えられないので、転生知識以外にも何らかのメリットが欲しい今日この頃である。

 

「そういえばうちの領地に来た時に暇な時で良いんですけど、希望者に文字を教えてもらっても良いですか? エルフやドワーフとの協定も結ぶ予定なんで、立入り禁止の看板作ろうかと」

「そんなの絵で良い気もするけど……まあいいよ教会で教えるから中心区画にヨロシク~」

 一か所二か所なら絵でも良いのだが、そうもいかないので文字で説明が必要だ。

文字を教える係なんて用意できないので青悟を利用する事にするのだが……この人はこの人で計算高いから、教会を作る場合に隅っこではなく中心部に作れと釘を刺して来た。確かに約束は布教に許可を出す程度で何処と入ってなかったしね。

 

しかし息を吸う様にこういうことを考えられるのは凄い。

僕も少しは学ぶと同時に、いつの間にか利用だけされていない様に気を付けなきゃな。というか利用されるだけならともかく、せっかく作った生活環境を奪われたら目も当てられない。その意味でもエルフやドワーフとの提携は重要だった。

 

「元からそのつもりですよ。それと進入禁止だけなら絵で済むんですが、危険だから禁止なのか、それとも協定に抵触するからとか区別できないと行けませんしね。ドワーフの所に出入りする許可を出した奴が、自分なら大丈夫だと鉱山毒の穴に飛び込んでも困りますから」

「そういえばそうだねえ。でも君も凄いこと考えるよね。普通なら開拓権こそが領主の華なのに」

 エルフとドワーフとの協定で、収穫物の制限やら侵入禁止区画とかを取り決める。

そこにある文物は何をしても良いというのが領主の特権だ。それこそ平民に何をしても許される……と言う事には成っている。本当にやったら問題が起きるので普通ならばそんなことはしないが。

 

とはいえ故郷で普通じゃない代官が平気で面倒な事をしてくれたので、そういうのが嫌だからこそ今の僕らがあると言えた。

 

「これから数十年爪に火を灯して開拓なんか嫌ですよ。僕は目の届く範囲で面白おかしく暮らせればそれでいいです。それに木を伐採したら植林しろってのは間違いじゃありませんしね」

 普通の領主なら領地の広さと爵位の高さが自慢になる。

しかし僕はそんな物はどうでも良いし、言った通りより良い生活を目的としたい。そのためには開拓権なんか放り出し、何だったら必要量はエルフやドワーフから仕入れたって良いのだ。その方が職人の育成が要らないまである。

 

じゃあ発展性が無いかと言うとそうでもない。

侯爵さんに宣言した通り、風呂やら食事やらで発展すれば十分に楽しい生活が送れるし、洗練される過程でブランドが確立すれば行商人だって訪れるだろう。

 

「そういう訳で連中と仲良くやってれば放っておいても行商人は来ますからね。僕としては定期的に金さえ落してくれるなら何の文句も無いです」

 基本的に異種族との交易は難しい。

性格的に気難しい連中が多いのもあるが、文化が違い過ぎて禁忌とかの許容範囲が違い過ぎるのだ。こっちの種族でOKな事が、あっちの種族でダメとか平気であるのだからやって居られない。

 

対してうちの領地ではエルフとドワーフが最前線の盾にする事になるだろう。

協定の監視やら交渉役も兼ねて何人かが駐留していくだろうし、そいつらの中には行商人とまともな話が出来る奴も居るはずだ。少なくとも行商人が信じてくれればそれで問題は無い。

 

「広げたくなったら反対側って聞いてるから良いとして、侯爵閣下の領地防衛の援助は?」

「それは真面目にやりますし必要なら続けますよ。何だったら隊を再結成しても良いでしょ。あっち方面はそれなりに収穫が美味しいですから」

 荘園主候補がまとめて配置されたら反対側を広げるのは無理だ。

仲間から領地を削れば仲違いしてしまうからだが……普通の領主ならばむしろ結託するのを避けてバラバラに配置するだろう。だから領地の広さに関しては問題ない。

 

そして侯爵さんちの領地が広いというのが面倒であり、面白い点でもある。

広過ぎる上に飛び地があったりして手が足りないからこそ援助を喜ぶのだ。中央にズケズケと顔を出されたいわけでもないし、基本は辺境部へのテコ入れになる。そして辺境部というのがミソだ。

 

「収穫って?」

「アンデッドばかりがモンスターじゃないですしね。……何より海があるのが大きいです。五分とは言いませんが飛び地を認めてもらえれば、往復する理由も作れますからね」

 この世界には魔石なんか都合の良い物はない。

あったとしてもただの結石だろうし基本的に価値などなかった。しかしまったく利用の仕様がないアンデッドと違って、綺麗な毛皮や羽毛であれば意味が出て来る。

 

そんなものは期待できないレア・ドロップみたいなものだが、海へ進出できれば別なのだ。エルフの集落を横断しても行けるがどうせ行くなら人間側の土地を通りたい。

 

「海かあ。海産物は好きじゃないんだよね。東領出身者の私が言うのもなんだけど」

「それもありますが塩ですね、やっぱり。貝紫は怪しいとして運が良ければ砂糖が採れるかも」

 塩は割りと高額なので自前で調達できれば自由に使えるようになる。

高級染料である貝紫は期待する方が間違いなレベルだが、砂糖は南国への船が出せるか次第だ。

 

南領は秋口の朝晩や冬が一日中寒いくらいだが、船でもっと南に行けば話は変わって来るだろう。どこかに常夏の島でも無いものか。

 

「砂糖か! それは夢が広がるねっ。もし見つかったら喜捨してもらえるとありがたい」

「喜捨というならうちの神様が優先ですけどね。まあ販売せずに取り置きしなきゃ問題ないでしょうか……って、そもそもまだあるかもどうか分からないので無い物ねだりは止めましょう」

 少量だったとしても儲けることは期待して居ないので、自分ちで独占すればいい。

うちの神様は呑兵衛なので甘い物はそれほど好きでも無かったはずだし、むしろ梅酒みたいなのを作るために使う程度の筈だ。

 

そして何より飛び地が認められるのかすら怪しいので、余計な期待はしないで欲しい。

 

いずれにせよ荘園の運営計画は順調に始まった。




 と言う訳で本日から一日一回予定になります。
筆が乗ったとしても、翌日以降のストックになるかと。

とりあえず今日の所は順調である経過報告くらいでしょうかね。
他所の貴族のお手伝いなんか書いても仕方ないし、お風呂を準備するのも難しくはないです。
この辺は故郷を出る前に色々と失敗したこともあり、成功できそうな事に絞っております。
(ガラスを作れる炉を作って、温室を囲ったら理由付けられて安く買い叩かれたとか)
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