妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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作戦立案とその始動

 北上作戦に関して最も紛糾したのは、方針による部隊規模の決定だ。

全軍で早期掃討を測るのと、精鋭部隊による広域運動戦。どちらが妥当でどちらがより損害が少ないかとモメ続けた。

 

形として見栄えが良く手っ取り早いのは前者であり、費用負担と言う意味でも経験則の蓄積と言う意味でも安全確実なのは後者であった。民兵なんか幾らいても大して役に立たないというのが原因であるのだが。

 

「気持ちは判るが一度くらいは全軍を動かす必要があろう。前例主義者どもを納得させねばならぬからな。もちろん中央対策だけではないよ」

 温厚な侯爵さんをしてブチ切れたモードにさせている。

国元でどれだけ官僚に文句を言われたのか想像できようものだ。このまま悩み続けたらナイスミドルになる数年後には、髪は残らず白くなっているに違いあるまい。

 

理論的にそんな馬鹿な事をやったら凄まじい金が飛ぶと判っているのに、体面とか中央とか身内の頑固者を理解させるのに無意味な金を使うとなれば判らなくも無かった。これが人間同士の戦争ならば、数で押すことに意味はあるわけだが魔物相手な上に、頭の悪いアンデッド相手と成れば無駄でしかない。

 

「公称一万五千。国元で治安活動や輸送の護衛に回す兵を含めて実働一万強……というのはいかがでしょうか? 最初の一撃以外は五千も要りませんが」

「そうするしかなかろうな」

 仕方ないので妥協案でいくことになった。

南領の総力を挙げたという設定で軍を動かさないと体面に関わるどころか、中央の意向を無視して適当にやったことになるというのが官僚陣の言い分である。一理あるので軍団規模だけはガワを維持し、実質的な中抜きをして内情を整える。

 

まあ治安維持やら輸送部隊に兵を回すって事は、南領が安全で平和な国になるって事で悪い話じゃないのだ。問題は人数の配分やら、前線に出たがる貴族や逆に国元に残りたがる貴族の調整がすっごい面倒くさいだけで。

 

「皆には迷惑をかける」

「我々はまだ。書面を貰って討議するだけですので」

「僕の方もみなさんにご理解いただけてるので満足ですよ」

 三徹目に突入したが、上層部に理解があるので幸いだ。

戦争をするのに補給の大変さや費用の問題を理解してもらえるなんて中々ないだろう。青くなるまで脅した甲斐があるという物だ。重要なのはここから身内で喧嘩をしないとか、手元にある数字がおかしな変化を見せないように見張る事だろう。

 

陰謀なんかなくたって我の強い連中はいがみあうし、検品なんかまともにできないから不正だって当たり前の様に蔓延る。

 

「序盤の山場を越えたら残る懸念事項はアンデッド巨人戦くらいです。あとは惰性になりますので、いかに中央の使者を抑えるかと身内の錆を落とすかになるかと」

「我が家からは弟を巡行使に派遣しましょう」

「連殿か。優秀な若者と聞いておる。よしなに頼むぞ」

 危険なのは巨大なアンデッドのみ。問題があるとすれば人間関係だけだ。

ここで悌さまは弟の連さまを思い切って重用することにした。これまで無役であったが、領地の監察官として緋家を中心に南領を巡回させる役目を与えたのだ。

 

これは地位の無い弟に権力を与えるという危険性を持ちながら、太っ腹な部分を見せることで、緋家を立派に切り盛りしているという証明になる。それを判って居るから総大将である侯爵さんも役目への就任を認めた。

 

「使者の方はなんとかしよう。銀殿にはすまぬが、なんぞ面白い料理でも出せんかね。結婚式に用意して居たような」

「予定している料理であれば直ぐにでも。そうでない場合は一から料理を説明せねばなりませんので、お時間をいただけたらと」

「うちの料理人にまた出向する様に言いつけておこう」

 前に鶏の塩釜焼きと川魚の奉書焼きを試食したことがある。

あの時に緋家の料理人にレシピを教えて何分か作らせたのだが、その料理を悌さまは侯爵さんにも食べさせたらしい。相談も含めて何日か逗留するということで、地方では珍しい料理として提供したそうだ。

 

その辺りを悌さまから聞いた侯爵さんは、ナチュラルに飯ネタを要求して来た。暇な時ならば幾らでも構わないのだが、徹夜続きの時に止めて欲しいものである。

 

 後は細部調整なので侯爵さんには下がってもらって悌さまと詰めの作業だ。

援軍に送ってもらう予定の紅包さまが来ない限りは、紅家の人には暫く出番はない。南領の本隊が出張るような事態にはならない筈だ。

 

「ともあれこの計画が上手く行けば、補給線が整い出費は現実的な物となります。中央が経済戦と社会戦を挑んでいたとしても何とかなるでしょう」

「経済戦に社会戦か。聞き慣れぬが言い当て妙だな」

 戦いは戦闘だけではなく宣戦布告した敵にのみ行う訳でもない。

現代の用語に近いが、悌さまは都暮らしが長いので普通に反応してくれる。あっちでは戦の話よりも陰謀の方が当たり前だろうし、そこまでいかなくともマウントの取り合いとかよくある事と思われる。

 

「まったく魔物が残っておるのに身内と争わねばならぬとは」

「国体の組織維持としては正しいのかもしれませんが、締めあげられる側としてはたまったものではありませんね。今は計画だけは万全な話を可能な限り現実の物としたい所です」

 諸侯の中で最も早く立ち直ったのは南領だった。

そこを牽制するだけならばまだ我慢できるのだが、意のままに動かして自領土の保全を図りたいという外戚の考えが透けて見える。国の為に全領主が立ち上がるならまだしも、上手くやったからと言う理由でそんな風に操られるのは御免である。

 

悌さまは都暮らしが長くとも南領の人間なので、僕と大し考えは変わらない筈だ。重々しく頷いて内情を確認して来た。

 

「その話だが……問題ないのだな?」

「現状では理論的に負けないところまではこぎつけました。後はいかに確実に戦力を送り届け、いかに数以外の追加要素を積み上げるかですね」

 軍師格としては『やれとおっしゃるならば』とか格好つけたいが……。

生憎とそこまで確約できるような自信はない。それに冷徹に色々と実行できる軍師サマというものは最後に信用度の問題で切られるのがオチである。自分としては傲慢であるよりも謙虚に親しみを持たれたいところだ。

 

それはそれとして主君の為に勝利を奪い取るのが軍師の役目だ。僕としてはデータを積み上げて安心感を持っておこう。

 

「アンデッド湧きの問題は何度も繰り返した通りの持久力です。疲れを覚えず戦力の補充が容易いのに食料を必要としない。戦う上でこれ以上ない性質をもっておりますが、戦闘力は低くなるという欠点を持っています」

「まず補給を叩く為に浄化儀式を行う。その意義は判るのだ」

 何度も説明したし、頭が良いので悌さまにアンデッドの害を説く必要はあまりない。

ここで口にしたのはあくまで話の呼び水だ。もちろん徹夜続きで頭がボーっとしているのもあるだろう。それらを振り切って本題に入る。

 

重要なのは計画は計画に過ぎず、数字は所詮カタログスペックでしかないことである。

 

「問題は数を集められぬ事と、巨人だな。どうなっている?」

「まずは数の方から。初動段階での数の問題に際しては、南領の総軍を動かすという建前のおかげで助かりました。当家は五千の兵を集めることは可能でも能力込みで維持することは叶いません。どうにか必要数の二千というところでしたので」

 前に言ったと思うが一つの村は人口300人ほどが一般的。

家を家を屋根で繋いだアーケード構造にしたり、一群全体に支邑込みで発展させてようやく500人というところだろうか? 緋家は開拓村が多い上に南領の出口を固めていることもあり、アンデッドの害をもろに受けて平均200人を超える程度でしかない。さらに金銭面や食料も酷いものだった。過去形なので回復中だが、それでも全快な筈がない。

 

一つの村から徴収できる戦力は平時で十数名、限度いっぱいに徴募して数十名から百名というのが限界だった。もちろん精鋭であるはずがない。

 

「以前の作戦通りに兵員輸送車両で精鋭を先行させて場所を確保し、投石器や荷車で前線を構築。そこへ徐々に部隊を送り込んで、儀式に必要な安全圏を確保します。移動途中に天幕内でアンデッドが湧かない限りは、この初動段階で敗北することはないでしょう」

「そこは良い。では巨大なアンデッドはいかがする? 橙家の近くに居る個体が移動せぬとは限らぬ。いや、増えぬとも限らぬのだ」

 最大の問題である無限の体力と無限湧きは対処できる。

ここまでは籠城しながら戦うために、野戦築城すれば何とでも勝算を積み上げる事が出来た。しかし強力な個体に対して、どう対処するかをまだ説明していなかったのを思い出した。

 

侯爵さんは紅包さま合わせて三人の豪傑をぶつけます……といったら信じてたよな。まあ息子が強いと知ってるとか、それが三人も居れば無敵だと思えるのだろう。しかし悌さまはそうも行かない。身近な二広が地味に強いタイプなので、戦闘力が判り難いというのもあるだろう。

 

「ジャイアントゾンビは肉体強度を残している可能性はありますので、アンデッド最大の欠点である知性が無いという事を利用します。例を挙げると、囮には100%引っ掛かりますから」

「なるほど。場所を誘導して罠に嵌めるという事か」

 僕は頷きながら、掌に手刀をクロスさせた。

巨人の強大な攻撃力を、予め用意した受けとめ易い場所に促すだけでも違う。だいたい攻撃力が高い相手と馬鹿正直に数で殴り合ったら死体の山である。もちろん余裕があればもう幾つか仕込めれば問題ないだろう。

 

片方の掌を握り込む仕草にしつつ、今度は近くにあった色々な物を集める。インク壺を油に見立て、羊皮紙を削るためのナイフを専門の大刀に見立てる。まあもっと楽な方法があるのだが。

 

「アンデッドの長所にして欠点の中には、総身が体力に変換されているという物があります。骨身も内臓も筋肉も全てが体力に直結しており、異常にタフネスで急所が存在しない。これは一見、長所に見えます」

「確かにな。……続けろ」

 自分でも同じ状況ならばどう戦術を組むのか考え始めたのだろう。

魔物というものは情報が無ければ脅威だが、情報を集めてしまえばそれほど恐ろしい存在でもない。特にアンデッドは弱点山盛りで、知性を残した上位の個体以外はむしろ弱い部類でしかない。

 

ゆえに突くべきはその欠点。知性が無い事を利用して、守り易く攻撃し易い場所に誘導すればよい。突如現れたのであれば、時間を稼いで攻撃準備を整え一方的に攻撃すれば簡単に倒せてしまう。

 

「内臓も筋肉も体力と化している。これは逆にいえば、筋力のバネを活かし魔力を活かした集中的な攻撃が出来ないという事。出し抜く知恵も無く罠ごと武者を潰す膂力もありません。叶うならば足を払って縫い留め、固定してでも倒してしまいましょう。もちろんそこまでいかずとも殴り続ければいつか倒せます」

 そして知性が無いからこそ、致命的な罠に嵌っても逃げ出そうとは思わないのだ。

アンデッドゆえに眠りはしないが、最終的にはガリバーに挑む小人の様にロープで括りつけるのも良いだろう。巨人であれば筋力で千切ったり、ジャンプして抜ける可能性もある。しかし大きなアンデッドと化しているのであれば、時間を掛ければ地面に杭を打ちそこに紐を繋げて罠とするのは難しくも無かった。

 

こうして作戦運用を整えたことで、集まって来る木材を加工しつつ農閑期を待って作戦を始動。もちろん相手も農閑期に活性化することから、一部の味方はその前に出発させたのである。




 と言う訳で作戦を立案し、上手く行くように調整しながら開始となります。
まあアンデッド相手に戦うのは簡単なので、雑魚には勝ちました。
じゃあ本命を倒すか……という話になるかと。
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