妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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今回の北上作戦で全面的に得をした者が居るとしたら、それは商人だ。
どんなに倹約しようが大量の物資が動き、少しでもかき集めようとするなら買い取るしかない。普段ならば手前勝手な文句を付けられて支払わねぬ可能性もあろうが、中央から文句を付けられないためにそういうのは軒並み禁止している。
そして何より行動をスムーズに、少しでも行き来の日程を削減するために、事前に街道を広げたり盗賊や魔物の類を討伐してあった。
「君にとって我が世の春じゃない?」
「まあな。渋ちんの連中もたんまり出してくれたぜ」
南商豪は事前に僕経由で北上作戦の計画を知っていた。
紛れも無いインサイダー取引だが、どのタイミングでどの物資が必要になって何時値上がりするか予想し易く、今後に何を売りに行けば良いのかおおよそ把握している。もちろん詳細を伝えたりはしないが、事前計画を知って居れば幾らでも予想はつこう。
そう……まるで紅家や緋家に出入りする御用商人のように。
「まさか見積もりの代金に金貨じゃなくて情報を要求するとはね。戦闘での価値は覚えてたけど、商売にも使える事は忘れてた」
「それはご愁傷様。とはいえ商人の真似をして儲けるつもりは無かったんだろ? そこは負けとけよ。こっちは教えてくれなくても知ってる範囲で儲けたし、出し抜かれるよりは良いだろう」
この男には正直な部分と狡い部分がある。
僕が納得しなくても勝手に情報を抜けると言った上で、取引に応じさせて正確な情報を持って行った。それだけならば『騙される方が悪い』とやらなかった分だけ信用を置いても良い。いかし問題なのは、御用商人の仲間入りをしたフリをしたことだ。
そして中小の商人を巻き込んで自分の商会に組み入れ、それなりの物資を確保すると共にその看板を現実に近づけたことだ。兵を出せない領主に街道整備の仕事を割り振ったので、おそらくは『お前が使う道も太くさせてやるよ』とゼネコン政治家の様に囁いたに違いあるまい。
「僕としてはこっちの名前を勝手に出さなきゃいいけどね。妙な誤解をされても困るから」
「欲がねえなあ。あんたの名前を売り込むチャンスだと思えばいいのに。どうせ万が一にも負けねえ戦いなんだろ? そこは投資だと思っとけよ」
言葉巧みで自尊心をくすぐって来るが大通連と同じ人種だと思えば油断はできない。
気が付いたら中央の政界・財界へも喧嘩を売って、南領発の陰謀だとか挑戦状とかを勝手に売りかねなかった。僕にその気はなくとも、この男は持てるチャンスを最大限に使うだろう。釘を刺しておくにこしたことはない。
まあ暴走する時は釘を刺してもダメだろうが、禁じ手だと言われたことくらいは守るタイプに見えた。言われなかったら何をやっても良いというタイプにも見えるのだが。
「アンデッド湧きが活性化するのは農閑期。その前に先発隊を送り出したから負けはないよ。君の投資者たちにも安心してもらっても良い……」
「何だよ。歯切れが悪いな足りないモノでもあるのか?」
「現状では十分。むしろこの先を勝手にやって良いのか悩んでてね」
こういうと何だが、これっぽっちも負ける気などない。
野戦築城に十分なだけの車両を付けて、言う事を聞いてくれる領主の兵を中心に送り込んでいる。勝手に戦線を広げられない限りは負ける要素がないのだ。その辺りの懸念事項を考慮し、戦うための戦力ではなく現地で防衛戦を築く為の戦力を用意した。
指揮官として選んだ領主と補佐の騎士も、実直で余計な行動をしないタイプを選んでもらっている。作戦指示書にも『予定外の事態があれば引いて良い』と書き込んでいるので、ジャイアントゾンビが出ても問題ないはずである。
「先? 浄化儀式に必要な物は教団が用意するし、南方鎮台は中央の連中が決めるって言ってなかったか?」
「滅びてる領主家の話さ。部下にそこの出身者が居てね。血縁の人間が生きていたら復興を支援してやれないかと相談を受けてはいるんだ。まあ本人が望んで、かつ中央が認めればの話だけど」
勝つのが当然であれば考えることはその先になる。
浄化儀式でアンデッド湧きを抑えるという事は伝えてあるが、大地母神の教団は既に安全地帯で待機している。紅家の主催する南領本隊が南群入りする頃にはすべて終わってる予定になっていた。本隊の役目はむしろ統治と地方掃討用だと言っても良い。
「中央は判るとして本人の問題って? 普通は貴族に戻してやるっていったら喜ばないか?」
「もし君が何処かの国の王侯貴族の末息子だったとして、後継者候補にしてやるから商売なんか放っておけ。何だったら懇意にしている商人が貰ってやっても良いそうだ。とでも言われて嬉しいかい?」
「あー。完全に納得したわ」
別にこいつが王侯貴族だと疑っているわけではないが判り易い仮定だろう。
せっかく商売が軌道に乗って面白いところなのに、そんなもの不要だから貴族にしてやる。今までの成功も何もかも捨てて、自分を捨てた環境に戻ってこい。そんな言い方をされたら腹が立つはずだ。それでなくとも本が好きとか、絵を描いて居たいとか本人の趣味は千差万別なのだから。
「別に滅びた貴族家全部を復興させたいわけでも、本人のやりたいことに遠慮したいわけでもないんだよ。ただ今回は部下たちの頼みであっち方面を調べたこともアンデッドの巨人を見つけた一因だからね。少しくらいは配慮してもバチは当たらないだろう?」
「そういう事なら任せとけよ。中央で商売するついでに調べといてやるよ。もちろん本人の希望込みでな」
最初は行動を起こす言い訳に橙家を使った。
蓋を開けてみると北上作戦に際して他の貴族家の一員だった……という触れ込みの縁者が多数参陣を申し出た。中には小なりとも部隊を避難先で揃えた者も居るが、殆どの者は本当に縁戚なのかすら疑わしい者ばかりだ。
要するにその辺の人物像を調べ、同時に彼らの要請もあって『旅を発した』という建前造りである。橙家の話をしたのもアリバイ工作の一環でありつつ、調査可能ならば縁者であるという裏を取りたいのもあった。
「妙に協力的だね。そりゃ調べてくれるなら、復興できたら彼らの御用商人として推薦はするけどさ」
「それもあるが……買い取ってくれるんだろ? その滅びた連中の借用書。今なら捨て値で転がってる筈だからな」
「チャッカリしてるよ」
魔物に滅ぼされた家に価値などない。
元は貴族だったというのは市井に置いてステータスになりはするが、中央にとって意味などなさない。つまりは南群一帯が復興したとして、彼らの領地が戻るとは限らないのだ。もちろん縁者が生きており、功績を上げれば可能性は高まるが……。
いずれにせよ彼らが作った借用書は現時点でただのゴミである。仮に貴族に復帰できたとして、前の家が由緒正しくない場合は『無関係の家です』ということで踏み倒すだろう。南商豪はその証文を捨て値で買い取り、貴族家へ付ける首輪代わりに僕らに買い取りをさせようとしていると思われた。
「保証は二つ。第一に中央が復領を認めずとも一定額までは保証する。第二に可能としても誰が認められるか分からないけれど、総合額での相談を認める。代わりに全部が全部買い取れないことだけは覚えておいて」
「それでいい。その辺りで適当に博打を打つさ」
おそらくだが今回の顛末として、南群に所属する領主復領をそこそこ認めるだろう。
中央が制御しようとする前に北上して、三つの城を確保してアンデッドが出ない様に浄化の儀式まで済ませて、中央との境に警備の関所か何かを置いて街道を守る。そこで戦闘終了宣言を出されると、南領に余裕が残ってしまうのだ。
城は全て中央の直下に置いて代官を派遣し、代わりに南領へ縁のある貴族の復興支援をやらせる。領地は一切渡さないが、遠慮のある貴族家が復活すれば権勢は増す。その代わりに大規模な出費が付いて回るという訳だ。
「……先に言っておくけど、こっちで名前を挙げようとする馬鹿の証文は要らないから。多分、際限が無くなる。予算だって無限にあるわけじゃないしね」
「型に嵌めちまった方が楽だと思うがね。まあ依頼主がそれでいいならそうするさ」
もちろん幾人かの貴族家は復帰させず、中央なり西の貴族をねじ込んで来るだろう。
その中には借金してでも賄賂を上層部に送り、あるいは見栄えのする戦力を送り込もうとするだろう。賄賂の影響よりもこちらに監視網を置くという意味であちこちに少しずつ送られると思われた。そこまでは予想できるが、彼らが負う借金までは面倒見切れない。
上手く行けば首根っこを押さえられるだろうけれど、スパイと言うだけならばただの行商人なり傭兵で良いのだ。あえてそこまでする意味があるとも思えなかった。場合によっては居直って貸し倒される可能性だってあるのだから。
そうして南商豪を見送り僕らも南群へ進撃。問題なく南方鎮台に入場して北上作戦の半分を終えようとしていた。
と言う訳で勝利が見えた戦いなので、布石を置きながら移動。
移動し終わったころには勝利が確定し、じゃあ次回は浄化の儀式ね!
と言う感じですね。戦闘よりもこういう調整作業とか次回にするであろうインフラ関係の方が主人公は得意です。
裏工作はまだまだ素人だし、妙に白くあろうとするので無駄も多いのですが。