妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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魂鎮めの祀り

 再び訪れた南方鎮台。その様子はかなり変わって居た。

破壊された壁と壁の間を腰までの高さの柵で繋いでいる。これならばアンデッドを止めることができるし、万が一誰かが向こう側に取り残されても乗り超える事ができるのが大きかった。木材を省エネしながら籠城策を行うための工夫である。

 

そして何より……人々の反応がまるで違っていたのだ。

 

「双羽双羽。なんだかスッゴイ歓迎されてるね」

「僕らじゃなくて侯爵さんや悌さま達だろうけどね。まあ南領総軍が歓迎されてるなら良い事さ」

 去年の今ごろは大量のアンデッド湧きで大変だったはずだ。

それが蓋を開けてみれば南領軍の先遣隊がバリケードを築き、周辺警備までやってくれている。詳しくは伝えていない筈だが、侯爵さん率いる本隊が到着すればさらに良くなると、何となく態度で判るだろう。

 

大抵の住民は周辺の掃討を南領軍が本腰を入れて行う……とでも思っているはずだ。まさかこれからお祭りが始まるなどとは思っても居まい。

 

「二羽殿。悌さまが采配を任せると」

「承知しましたとお伝えください。代官の到着を待って全てを終わらせます」

 側仕えの緋七司が僕の馬車に伝令に来た。

近衛にやらせる仕事ではないが、人だかりの中で特別感を出すためだろう。僕も慣れない軍師モードに突入する為、馬車を前面に出して先発隊の元に急いだ。

 

それなりの屋敷を侯爵さんや悌さまの宿として借り受け、その周囲に天幕を張っている。僕の馬車はガラス窓があるので特徴的であるため、先発隊を率いる大柄な男に迎え入れられた。

 

「八大殿にも恙なく」

「……軍師殿の到着をお待ちしておりましたぞ。俺ではなく、主に代官殿がですがね」

 先遣隊の隊長はかつてフェーデで隠居させた緋八大だった。

貴族家の当主としては引退した身だが、そのまま村に居座っていたら彼の意見を優先されてしまう。そのために八大は緋家預かりの身となり……今回は汚名返上のチャンスと言う訳だ。

 

とはいえ活躍しても騎士としての身分が上がるだけで当主としての復帰は許さない。その事を知って居るからこそ、八大も嫌味を混ぜて口にしたのだろう。逆説的に考えれば、緋家の行動に対して影響力が増したとでも思ってくれればよいのだが。まあ息子が成人するまでは無理か。

 

「代官殿が? お会いしたいとは思ってましたが、向こうからとは意外ですね」

「勝手にみっともない物を作るなと。もっとみっともない状態で壁を放置したのはあちらでしょうがね。……ゴホン。まあ用事の方はいつアンデッド退治の出征を行うのかと何度も問うておられました」

 幾つか想像できるのが代官の役目と権限だ。

本当に壁を邪魔だと思っているならば強権で先発隊を追い出せばよい。しかしソレをやってないというのは、南領総軍のやることに口出し出来ないのだろう。あるいは出来たとしても、南方鎮台の都市機能を守る上で仕方なく認めているということだ。

 

おそらくは『南領を上手く使って南群の治安を取り戻せ。南の連中が疲弊すれば疲弊するだけ良い』と言う程度の指令しか受けていないのではないだろうか?南領総軍をコキ使いたいが、南方鎮台の治安も大事で中途半端な決断しかできないということだろう。

 

「それはそれは。ご苦労をおかけしました。申し訳ありませんがこれからお祭りの準備に取り掛からなければなりません。三日掛かるので四日目には終わらせるとでもお伝えください」

「……まったく意地の悪い。全部伝えてしまえばその場で居なくなるでしょうに」

「新しい指令を貰って来ないならそうするんですけどね」

 八大も何処かのタイミングで計画の全容を知ったらしい。

まあ最初から聞いていれば色々考えられるが、いきなり聞けば良い反応はすまい。だが彼は騎士として、そして現地でアンデッドと戦う身として計画の重要性は理解しているようだ。苦笑いを浮かべながらも頷きを返した。

 

何というか代官が中央と連絡を取って、こちらの計画を全部伝えられては困るのだ。こちらに抱き込めるなら話は別だが、代官は所詮中央から派遣された役人に過ぎない。それを期待するのは間違いだろう。

 

 

「銀殿。こちら南方鎮台の代官殿です。面会を求められておりますが」

「一息吐いたところなので構いませんよ。祭りの準備も概ね終わりました。あとは大地母神の教団に運営を任せるのみですから」

 翌日になり、適度な所で面会することにした。

どうせ指示するだけなのだから、直ぐにでも会えみたいな嫌味が何度も飛んできた。しかしながら日程の問題でこれは重要なのだ。あまりにも急がせては教団の方も嫌な顔をするし、もし中央から茶々入れがあった場合は代役を立てねばならない。

 

幸いにも青悟が昇進して今回の儀式を執り行うらしく全ては計画通りに進んでいると喜んでいた。なおこの儀式をうちの神様がやるのは不可能である。神としての格がまだあがって居ない上に、九天玄女様にとって死体というのは人間の姿の一形態に過ぎない。知性あるアンデッドを尸解仙と呼ぶ文化圏の神様にはやれというのがお門違いだろう。

 

「どういうことですかな? 民は不安に怯え苦しんでおるのです。この街だけではありませんぞ! その事を思えば勝利を願う宴などせずに疾く蹴散らして行くべきでしょうに」

「ああ、申し訳ありません。まさにその為の準備なのです。我々はアンデッドを蹴散らしに来たのではなく、その被害を終わらせに来たのですから」

「何を……?」

 挨拶も適当に終わらせ、さっさと行けと怒鳴っていた代官が黙った。

まあ判らないよね。判らないように偽装もしてきたのだから仕方あるまい。表向きは宴の準備でもしていたように見えるだろう。金持ちの上級貴族ならば本当に数日掛けてお祭り騒ぎをするだろう。

 

だがこれは祭りというよりは、祀りなのだ。アンデッドの迷える魂を鎮め、二度と蘇ってくれるなと祀る為の祭り。

 

「アンデッド湧きは例年の害でしょう? ですから浄化の儀式を行って二度と行わないようにいたします。ご安心ください。儀式を終えれば速やかに東の城を奪還に向かいますとも」

「なっ……浄化の……儀式を?」

 考えもしなかったとか、『どうしてソレを思いつかなかったのか』という表情だ。

アンデッド湧きは例年の悩みであり、この代官も頭を抱えていたはずだ。民衆を守り経済を守り、どうにかしろという中央の要求。南領を動かせと言う権限違いの無茶振り。そういう問題を片付けるには確かに浄化儀式と言うのは有効なのだ。

 

ただその為には『ここからここまで綺麗にします』という指標と、『儀式を行っている間も大丈夫です』という保証の二つが無ければならない。加えて何処かの教団へのコネクションが無ければ難しい。大きな都市を預かる代官とはいえ思いつけなくて当然なのだ。

 

「無制限に湧く増援などなければこの八大、いえ当家の武将らにとってアンデッドなど物の数ではありませぬ。安んじてお待ちあれ」

「は、はは。そうですな。しかし、しかしですぞ。それならば西の城や、中央方面にも儀式を行うのでしょうな?」

「やって良いのであれば行いますとも」

 八大が胸を叩いてわざとらしくアピールすると代官も一度落ち着いて新しい火種を探し始めた。

この南方鎮台が安全になるのであれば彼の落ち度はなくなる。それならばオマケの命令である『南領を疲弊させろ』という命令に従おうと思ったのだろう。

 

可哀そうだがこの流れは想定済みだ。ゆえに続く言葉のやり取りもほぼ決まって居た。

 

「良いも何も、中央からの御指示でしょうに。浄化でも何でもされればよろしかろう!」

「西の城は間違いなく取り戻しましょう。その儀式も。さて……同じ言葉を大神殿の方々の前でおっしゃれますか? それで良ければ勝手に中央でも行いましょう。無理ならば当面は関所を作って、徐々に安全圏を広げる事になりまう」

「あ……ひ、光の……」

 この国は魔物との戦いが長かったので光の神殿の勢力が強い。

開拓地が多く、大地母神の勢力が比較的に強い南方面ならば問題ないのだ。しかし光の神の教団の影響かが強い中央で、勝手に他所の教団がやって良いとは言えまい。だからこそ大地母神の教団とも『今後に出征と、同じ儀式を続ける場合』という限定で彼らを守り、影響を広める手助けを組む同盟関係にあった。

 

「いかがですか? まずは難しい事を考えずにパーっと酒でも飲まれては? 嗜まれない場合は菓子や煙草も用意しております。南の次は東、そして中央。その時には問題が無くなりますとも」

「そうですな……そうですな」

 と言う訳で代官さんは一足先に宴会へ突入。

中央へ指示を請う時間を遅らせる事にする。後は東の城なり西の城へ軍監が来た時に合わせて、プレハブによる即席復興を見せつければ南部における戦闘の終息宣言を出しても問題あるまい。

 

そうやって準備を整え、アンデッドの害を鎮める為の祀りを紅家が南領総大将として主催し、大地母神の教団が青悟の元で執り行う。

 

『みなの者! 長く待たせてすまない。これより死者を弔う祀りを始めよう。これが終われば次の城でも同様に行う。もちろんその次の城でもだ! これにより、南部一帯よりアンデッドの害は消え去る!』

「「おお!!」」

 バルコニーから侯爵さんが顔を出し、良く通る声で盛り上げる。

もちろんサクラは何人も配置しているが総大将のお声掛かりであり、自然と周囲が熱狂するのも当然だ。悌さまを始めとした緋家や他の南領貴族たちも駆けつけている。総軍として動くのはこれから一週間ほどだろう。しかしそれだけの時間があれば十分であるし、それ以上の時間をかければ予算がひっ迫するというお寒い状況だった。

 

まずは無事にここまでこぎつけた事に喜び、次は東の城……いや橙家の周囲まで移動した巨人アンデッドを討ち取って喜びたいものである。




 来週の更新は少し飛び飛びになると思います。
土日に二万字ほど書いて、それを寝る前に字数増やして予約。
翌日に時間を置いて見直してる感じなのですが、日曜日に用事が入りました。
土曜だけで二万字書けるとも思えないので、必然的にペースが落ちます。
楽しみにしている方が居られましたら、申し訳ありません。
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