妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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解放戦の終了

 東の境にある城を取り戻すのはそれほど難しくはなかった。

荷車を壁にした幌馬車戦術で壁を作り、投石器を使いながらゆっくりと前進。途中で飛ばした岩を拾って使い回す余裕すらあるほどである。

 

南方鎮台と違って無人であったこともあって城に入り込んでいる無数のアンデッドたちも、壁で分断し投石器で削った後で戦えば脅威になる個体など存在しなかった。

 

「バリケードを設営次第に大地母神の教団を呼び、我々は南下して南群東部を解放します。道中に巨人のアンデッドが居るコースは最後に回して、さったと残りを攻略してしまいましょう」

「「はっ!」」

 去年まで騎士たちが苦労したアンデッドを容易く攻略した為か、彼らの反応が変わって来た。

この後は大地母神の教団が浄化の祀りを行い、来年以降はもう苦労することはないのだ。仮に全てを浄化できずとも、万鹿柵を超える程の大群が現れることは二度とない。

 

南領の兵士たちが奮い立ち、彼らを率いる騎士たちが僕の伝えた任務を忠実に果たそうとするのも当然なのかもしれない。

 

「どういうことですかな? 巨人のアンデッドは恐ろしいとでも? 速やかに討伐されるべきだと思いますが」

「あれは攻城兵器の様なものですよ、軍監殿。正面から挑むのではなく効率的に処理すべきです」

 ゆっくりと確実に攻略を進めたこともあり、中央から派遣されてきた軍監が間に合った。

色々と文句を付けて来るのだが、彼は監視・報告するのが役目なので作戦に対する感想しか出せない。少なくとも中央と南領の実力差が大きく開いていない以上は、唯唯諾諾と従うような相手ではない。

 

攻城兵器に例えた時、彼は少しだけ考えた後で再び口を開く。攻城兵器に例えた意味を解釈する為だろうが、理解したからと言って黙る様では派遣されてきた意味がないので続ける気だろう。

 

「最後に全軍で総掛かりにし、身動きできない所を倒すと? 南領の兵は勇猛果敢と聞いておりましたが、勘違いだったようですな」

「相手が知性のある魔族ならば正面から挑むこともあったでしょうね。しかし知性の無いアンデッドという状態を、データとして情報を分けてみれば面白い事が判ります。あれらは目で見ないので隠れても無駄ですが、目で見ていないので自分以上の遠距離攻撃を理解できないのです」

 数に任せて袋叩きにするのかと問うてきたので、違うと言い返すことにした。

だいたいそんなことをしたら被害はでるし、全軍を動員している時間が掛かってしょうがない。橙家の周辺にいる貴族家の領地を解放したら、兵士たちは西の城に向かわせるつもりなのだ。

 

さて、ここで敵の動きを考えてみよう。仮に巨人のアンデッドは50mレーダーの付いた攻城兵器だと思って欲しい。50m以内ならばどこに隠れても見つけることができるが、60m以上離れると魔法知覚で感知できないのである。まあ実際にはもう少し距離はあると思うが、概ねこんな存在だ。

 

「最終段階で兵士は不要です。木を切り倒して射線を切り開き、山の稜線越しに投石器で攻撃します。もちろん道中にロープやバリケードで罠を作りますけれどね」

「なっ……。まさか……」

 せっかくなので地面にどういう光景かを描いて見せた。

先回りした一帯が木を伐採し射界を確保。投石器を使っても邪魔をせず、万が一見つかったとしても問題ない高さの位置から射撃する。投石器というものは山なり弾道で飛ぶ岩なのだ。地形効果を利用して何が悪かろう。

 

「そ、それでは活躍をしたとは報告できませぬぞ?」

「どうぞ。僕の役目は彼ら騎士と兵士の一人を誰一人として欠ける事なく故郷へ送り返す事。そして南領の役目は南群一帯を人類の領域に居り戻す……来年度以降のアンデッドを出さない事ですから」

 軍監の役目は主に二つある。戦場を監視し不道徳と功績を報告する事だ。

臆病風に吹かれて何もしなかったとか、盗賊の様に何もかも徴発したなどと讒言することが第一の恐ろしさだ。しかしこれは任務を既に果たしつつあり、南群東部は壊滅しているので徴発しようもない。つまりは問題視されるようなことはなかった。

 

そして功績に関して僕には不要である。そもそも南領の誰かが大活躍をしたとして、中央が褒章として南群に領地をくれるはずもない。もし現時点で橙家の縁者が見つかって復興させるのであれば、ここで活躍する意味があったのだろうけれど。

 

「ひ、一人も? 騎士だけではなく兵士も?」

「はい。この度の北上……南群解放作戦でただの一人も戦死者は出しておりません。おそらく最後までそうなると思います。せっかくですから報告書と計上した全数値を確認してみますか?」

 さすがに驚いた軍監にこれまでの報告書を見せた。

面白いのは負傷者と戦死者の数を見て一度、掛かった費用の代価累積を見て二度驚いたことだ。まあ代価であって金貨じゃないからそのままの数値にはならないけど、馬鹿みたいな数字だもんな。

 

何しろ現段階で掛かった費用は金貨一万を既に超えている。経理畑ではない彼には驚きの数字であったのだろう。

 

「……確かに戦死者は居られぬようだ。しかし随分と金を握らせたようですな」

「何分、こちらは領内ではありませんので。それに住民も居ませんから食料を徴発する訳にもいきませんしね。最終的に掛かる費用を考えると頭が痛いです」

 札束で頬を叩く(意訳)のかと聞かれたら、そうするしかないと答えるしかない。

領地ではないから穀物が生えていても収穫する訳にはいかず、壊滅した領地の解放なのだから住民から手に入れることも無理なのだ。必然的に領内から輸送させるか、商人から買い取るしかない。

 

まあ実際には出兵しない領主に任せた食料の代金やら木材に、領内巡検とか街道整備の費用も入れてるんだけどね。各地の貴族が受け持った労働の代価として、そのくらいになるという計算なのだ。

 

「この資料、頂いても?」

「どのみち後で提出しますが構いませんよ。他国や魔族と戦争しているわけではありませんから防諜の必要もないですしね」

 言い訳用の資料なので余計な事は書いていない。

あくまで各領主がまともに出兵したら食料の合計が幾らほどで、手持ちが幾ら。それらを商人から買った場合の予想値として記入し、最終的な費用は最後に計算して確認することになる。

 

ただし南領の総軍本部や貴族たちが代価をどういう形で支払うとか、その代価の代わりに何をやって居るかなどは記載してはいない。最終的に辻褄合わせをして、相場の高いレートで買わないということを教えてやる必要は……少なくとも今はない。

 

「同じ物を三通用意しています。もし紛失された場合は南領総軍に映しを頼まれると良いかと。流石に最新のデータは僕の所にしかありませんが」

「そうさせていただきましょう」

 こうして南群東部域も解放。山が一つハゲ掛かったのも記載。

この地の領主が決まったら適当な埋め合わせを代価で支払うという旨を記し、やはり一定期間ごとに総軍へ送っておいた。

 

ちなみに巨人のアンデッドは三人の豪傑たちが訓練代わりにトドメを刺した。ある程度削っても能力が落ちないのがアンデッドであり、そこまで不利になっても撤退しないのが特徴だ。大通連はともかくあまり戦えない紅包さまは、愉しんで体を動かしていたようだ。

 

そして……。

 

「ぎ、銀殿!? あれは一体、どうしてあんな物が……私の目がおかしくなったのか」

「何って東の境にあったお城ですよ。復旧まではやれという指示でしたので、直すように指示しておきました」

 橙家の辺りまで到達し、巨人のアンデッドを倒して直帰。

一週間もかかってない筈だが、その間に城が復旧しているのが驚きだったのだろう。特に家屋が立ち並び、今にでも住民や兵士が入城できそうなのが特徴である。

 

まあプレハブ建築を知らない人間が見たら驚くよね。この時代は天幕の方が簡単なのだが、木材と違って布の方が調達が難しいので仕方がない。

 

「馬鹿な。正味五日も掛かって居ないはず……」

「ですから壁も木材です。石の壁を建てるなら流石に時間が掛かりますが、その辺はご勘弁ください。群雄割拠の時代と違ってこの辺りは城の必要な区域ではありませんから、そこまでやってしまうのは躊躇われました」

 まるで必要だったら石の壁でも建てた。

そう言わんばかりの表情で出来る限りハッタリを効かせて見せる。もちろんこんな短期間でやるのは無理だが、時間と材料さえあればコンクリ製の壁だったら行けそうな気もする。

 

それはそれとして、追撃の準備も必要だろう。侯爵さんに頼まれた食事を色々と指示しないといけない。レシピは教えてあるが、演出とかもあった方が良いだろうから。

 

「既に侯爵さまが御待ちの様です。今宵は久しぶりに夕餉の晩餐を用意しております。田舎料理ですがぜひお楽しみください」

「はは。ご冗談を楽しみにしておりますよ」

 最初にやってきた時は、二種類のフライを用意した。

片方は肉に衣をまぶしてあげ、もう片方はすり潰して練り物にしてから衣をまぶしてあげた。それに銀の食器を組み合わせ、毒殺がありえないと見せつけておいたのである。

 

今回用意したのは色違いの寒天ゼリーをガラスの器に入れて、下から明かりを灯して幻灯機にしたものだ。愉しんでくれると良いのだが。




 と言う訳で勝てると判ってる戦いなのでサクッと終了。
どちらかというと中央からの嫌味に対抗する話でした。

また昨日も書きましたが、書き溜めが出来ないので来週からは飛び飛びくらいになります。
明日のUPはありませんので、楽しみにしている方には申し訳ありません。

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