妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
やる事と情報のトリアージ
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開拓長官的なポジションに収まったものの、当面は情報を集めつつ様子見をする事にした。
新領地(仮)は無駄に広いので中央への言い訳としては十分だし、馬鹿みたいに広いからこそ情報が十分ではない。当然ながら何も生産して居ないので、収支が黒字になるのは遥か先だ。
まずは情報を集めてトリアージをせねば。こういう時は優先度を決めてから処理する方が早い。単純に人力や予算の問題で不可能な場所ならゴリ押しすれば良い。魔法や技術などの手段であったりモンスターであればその対処手段を用意すれば良い。何もないならば周囲の領地の産物と泡得て、何かに活かせるように現地で確認しなければならないだろう。
「と、言う訳で。お預けになってる第一回収穫祭を目標として頑張ります!」
「「おおー!」」
アンデッド湧きは農閑期に活性化するので必然的にその前後で出撃した。
一部の精鋭はその前に移動し、数を揃えたい諸侯は農作業が終わってから兵を出したというわけだ。僕の村は強い兵こそいないが、言う事を聞いてキビキビ動ける『使える者』は多い。またお祭りする暇はなんかないのでお預けだったのである。
もっとも領主層や商人などの希望者が眺めていく展示会を除いて、それほど大した事はしない。今年の祝辞と来年の祈願を行い、飲み食いして終わりである。
「お牛さまめ! 年貢の納め時なんだから!」
「一頭だけだよ? 来年以降も殖やさないといけないから勝手に締めたらだめだからね双葉」
お牛さまというのは肉用に肥育している牛である。
前に一部の動物はあえて豊富な穀物を与えていると言ったが、その中でも牛は食っちゃ寝の生活をさせてある。ずぼらで面倒くさがりな双葉には、自分が夢見て叶えられない生活をしているので羨ましいのだろう。
ちなみにお牛さまが動いていないのは単純に牛がやる労働を大トカゲにやらせているせいである。
(だいたい、あの大きなトカゲも微妙なんだよなあ。馬を飼う環境が無いエルフなら別なんだろうけど)
以前に捕まえて飼いならした六本脚の大トカゲ。
馬の六割くらいの移動力しかないが、より高い機動力と体力を持っているのだ。馬鍬や馬鋤を引かせるにはピッタリなので、無理に牛である必要はなかった。もっとも牛ほどパワーが無くてしかも牛乳を出さないので、他に使えるかと聞かれたら微妙な生き物だ。
今は牛馬の代わりになるから資金を使わなくても良いのだが、エルフとの交易で何かと交換する必要があるのでコストを掛けて居るという意味でも本当に利益が出ているか不明な点が多かった。
(まあそれでもトロッコよりマシか。苦労して開発した割りに使い道が無かったもんな。早く開拓地で良い場所見つけないと)
開拓長官に収まる時に、悌さまにアイデアがあると言ったのは嘘ではない。
自分の領地で使うつもりだったトロッコなのだが……壱の村と弐の村を繋ぐだけならば、舟の方が早いのだ。じゃあ鉱山に住むドワーフはと言うと……彼らは力強く少々の荷運びでは疲れもしない上、大量の鉱石を手に入れても薪の方が十分じゃないから意味がない。
少なくとも炭鉱の方も大規模に見つかって大量生産にでも踏み切るか、広範囲の工事でもしなければ使い道が無かった。
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そういう訳でいよいよ収穫祭に向けて動き出す。
本村である壱の村でやるのが正しいのだろうが防衛上の問題もあるし、弐の村の方が区切りが広くて見易く三圃式農業と大規模農業を組み合わせたモデルとなるためにこちらでやることにした。長屋造りの建物もあるから、お客を通し易いしね。
「そうだ! 二羽二羽、アレやろうよアレ! ゼリーでピカーってやつ」
「確認するけどゼリーが食べたいの? それとも幻灯機がみたいの?」
「両方!」
双葉がねだっているのは中央の軍監を驚かすために用意した料理である。
硝子の器に寒天ゼリーを入れて、下から明かりで照らすことで幻灯機……要するにプロジェクターみたいな光景を演出できる。軍監も驚いていたが双葉も気に入ったようだ。
水棲種族から手に入れた寒天らしき物はまだあるので問題ないのだが、問題は味付けの方である。あの時は軍中でもあり甘いデザートではなくスープとしての味付けだったのだが……。
(甘い御菓子としての使い道があると教えるべきかな? ……でもなあ。砂糖は他の物に使いたいんだよね。紅梓さんを調査に送り出す時にプリン風寒天を作って在庫が減ったもんな)
水棲種族と付き合い出し、エルフにサトウキビを育ててもらっている。
しかし砂糖を運んでもらうにしても限りはあるし、エルフの方は遥かに先である。その辺りを知っている青柳は、アイコンタクトをすると即座に首を振っていた。
なお後日、この時のアイコンタクトを浮気かと勘違いされ、誤解を解くのに甘いゼリーを双葉の為に用意することになった。
「剛盾さん。頼んでる蒸留装置と撹拌機は作れそう?」
「片方だけなら何とかなりそうじゃが……時にお主、もし蒸留装置と似たような物があると言ったらどうするかの?」
「大前提として技術の転売はしないし、元はドワーフ製だと記述。もちろん新開発した改良技術はそちらに公開するよ。エルフ製の薬草樽や果実樽を仕入れたいなら応相談。僕を経由しないなら口は出さない」
「よし売った」
ドワーフやエルフの凄い所はやはり意思の統一性である。
彼らは同族が勝手に秘匿技術を流出させたりはしないし、何かの交渉時に使えると判断したら秘かに連絡を取り合って、交渉窓口にその許可を出している。
僕が蒸留装置を作りたいと言っても、剛盾が指示する範囲だけで協力し裏で上と話し合っていたのだろう。そして技術公開しても元が取れると判断したので、今回の話を出したのだろう。
「やっぱり蒸留技術あったんだね。持ってそうな気はしたんだ」
「しかし果実の樽はともかく薬草樽か」
「僕の知ってる知識の中に別の酒を詰めた樽を使って、独特な香り付けをするって技法があるんだよ。瓶詰めは良くも悪くも日光以外に影響ないからね。アルコールは醸造を繰り返すと味気なくなるから、香り付けに使うそうだよ」
ドワーフは酒が好きだし、鍛冶や細工の技術レベルが高い。
醸造技術は初歩だけなら紀元前からあったらしいし、ドワーフならば持って居そうな気はしたのだ。木材は鍛冶に使うので余ってないから、瓶詰めだろうと予想は出来た。
なので予め彼らが食い付きそうなネタは探していたのである。
「まあええ。じゃが撹拌機の方は何に使うんじゃ? 棒でかき回せば十分じゃろう」
「山ほど回す時にには向かないよ。それに……比重が違う物を分離する時に、同じ機構を使い回せるからね」
撹拌機は縦回転と横回転を組み合わせる、初歩の手回し機構である。
絡繰り仕掛けとしては簡単な物なので専門家でもない剛盾でも作ることは可能だ。もっと楽をしようと歯車を増やすならば専門家のドワーフでも呼ばないとならないが。
そう言いながら冷温室とでも言うべき部屋から卵を回収に行った。そこは複数の部屋と壁で囲まれた中心部分で、温度の変化が少なくなっている。青柳が温度低下の魔法を使えるので、保全能力と組み合わせればそこそこ温度を保てる場所であった。
「色々混ざり合った物として判り易いのはヤッパリ卵かな? これは網で何とかなるけど、卵黄まで崩れてると別けるのは苦労するよね?」
「そうじゃのう。時間を掛ければそのうち分離すると思うが」
次に卵をグチャグチャに混ぜ、前に作ったガラスの器に投入。
武器のスリングを取り出し、ゆっくりとグルグルと回転させていった。すると比重の差でグチャグチャに混ざった卵黄と卵白が分離し始める。この作業が面倒で場所を食うのだが、撹拌機の先を取り換え混ぜる為の棒ではなく、容れ物を固定する形にすればこんな面倒な事は要らなくなるのだ。
真面目な話、剛盾を説得するためにやってるけど僕の目的は大層な事はないので、言い訳用でもある。腕が疲れるまで手で回したくないんだよね。
「気温が高くなるまで放置すると危険ってのもある。食事用だったら食事用の問題が、薬品なら材料がね。それに歯車による機構で回すと安定するでしょ?」
「ううむ。そう言われると確かにそうじゃのう。錬金術師に相談して重要そうなら時間を増やすとしよう」
撹拌機やその応用である遠心分離機を使うメリットは『他人』である。
自分がやる時は目で見て詳細を把握すれば良いが、弟子やら徒弟だとそうはいかない。剛盾もその辺は判っているので、こういう言い方をすれば話を聞いてくれるのだ。
そして判ったと思うが、彼は自分が面白いと思う事を重視する。せっかくの余暇ともなれば鍛冶や細工を行い、あるいは自分が未熟な事の修練に充てている。ゲームの中登場人物と違って説得が重要なのである。
「……話し終わった? 今日はその卵で何を作るの?」
「あー。せっかくだし撹拌機がある時のメリットを示しておこうか。収穫祭のメインにも関わって来るしね」
「メイン!? なになに? それってお菓子? それとも主菜!?」
退屈そうにしていた双葉がジーっと卵を見つめる。
本当ならば最後まで隠し通し、サプライズしたいところだがそうもいくまい。ならばこの機にお披露目と行こう。
まずは分離した卵黄を脇にのけ、卵を追加してある程度の卵白だけを用意した。
「卵黄だけの料理が美味しくなるって茶碗蒸しやプリンで説明したよね? でも卵白が余るともったいないので別の使い道をします。どのくらい混ぜるかと言うと、軽く二百回くらいは混ぜるかな。聞いてみるけどやってって言ったらやってみたい?」
「絶対にイヤ」
真顔で答える双葉だが、もし味わったら作ってくれと頻繁に言うだろう。
御菓子は好きだが、とてもとても面倒くさがりなのである。少なくともこういう事をやらせるのは絶対に無理だ。とりあえず簡単な変化だけ見せれば良いので、泡立ててメレンゲを用意しつつ、暖炉にある炭の中を弄って木片を放り込み火を点け直した。
転生するまでは知らなかったのだが、水を掛けずに灰の中に放置すると、炭火が残り易いのだ。コンロの無い時代の家庭の知恵というやつである。
「時間が無いからコレで済ませるけど、卵白は撹拌する回数で別の料理に使えるんだよ。茶碗蒸しとかプリンならそんなに要らないけどね」
「それって寒天ゼリーってやつだよね? スープじゃなくて卵白を使った料理なの?」
「うん。泡雪っていうやつね。寒天じゃなくてゼラチンってのを使えば別の料理になるはずだけど、僕は知らないからコレしか作れないけど」
寒天は水棲種族が知ってたから良いのだが、ゼラチンは作り方が判らない。
なのでメレンゲに寒天を混ぜ、砂糖……は貴重なので蜂蜜を使う事にした。このまま肉に塗ればゼリー寄せみたいになるはずだが……今はお菓子用だ。
火に掛けた水と寒天とメレンゲを混ぜる。後は冷ませば泡雪と言うお菓子の出来上がりである。
「この泡雪には卵白を使ったけど、収穫祭のメインに使うやつは牛の乳から作るから最低でも二百とか三百とか混ぜないといけない。お願いされる度にそんな事はやってれないし、他の料理人にやらせる時は目安の回数を教えにといけないからね」
そう、僕が作りたいのは生クリームである。
正確には生クリームを使ったウエディングケーキと言うべきか。収穫祭のメインとして白く飾り立てたケーキを双葉と一緒にカットするのだ。きっと一番大きな場所が欲しいというだろうけどね。
ちなみに剛盾はこの後で撹拌機を作ってくれたのだが、一番最初の任務は酒を混ぜる事であったとさ。
と言う訳で新章の序盤は収穫祭に向けての話です。
過去に試したことも色々成功したり失敗したり、完成したけど意味が無かったり。
そんなことを繰り返しつつ、展示品や料理を用意するという感じですね。
なお主人公は自分が知らないことは覚えていないので……。
ゼラチンの使い道は知っていても作り方は知りません。
その内に豚骨スープもどきから発展して、コラーゲンだけ取り出すのでしょうけど。
そこまでは寒天で代用するという感じですね。
また、前にも告知しましたが今週は書き溜めが無いので、二日か三日に一度となります。