妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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収穫祭に向けて実行する事はそう多くはない。
今更ジタバタしても仕方がないし、何人かの貴族や商人に紹介状を送ったら、後は今までの積上げをより深くより見易くするだけだ。
まずは弐の村にある船着き場を川の両岸に拡張して浚渫。片方は船溜まりで、もう片方はローターリーだ。コンクリート製の底を作って張ってあるので、木材などを積み下ろす時も足を踏ん張れるようになっている。
「クレーンもどきも完成したし、倉庫代わりの長屋を展示会の会場にした……こんなもんかなあ」
滑車を使ったクレーンで荷物の楽々積み下ろし。
こちらの設置が後になったのだが、コンクリ性の支柱で右往左往できるようにしたため、コンクリート製の床を足場にする意味がなくなったとか言われてしまった。
別々の技術なのだが……実際の作業者にとっては苦労した分だけ残念なのだろう。気持ちは判るがクレーンの完成はドワーフ技術者が増えたおかげなので、いつになるか判らなかったのだ。
「閘門の方はどうだい? 問題ないなら水を溜めて水位を上げるけどさ」
「問題ない。やっとくれ」
村の中に水路を作って、単純な堀していると説明したことがある。
それも浚渫して全体を拡張し、深さ広さの両方を本格的にしてみた。展示会を行う弐の村は大規模農業と三圃式農業の実験場でもあるので、村を三分割する大きな堀だ。もちろん舟が通らない時には通行用の板を渡す。しかしいつも深い堀にしていたら水が冷え、植物の育ちが悪くなってしまう。
そこで用意したのは水門で水の流入を堰き止めて、水の溜め具合を調整できる閘門を作ってみた。これならば必要なだけ水路に水を流せるし、高い位置にある水路から水を適度に抜けば浅く広いことで温かい状態を保てるのである。
「二羽二羽! お舟が浮いたよ!」
「はしゃがないの双葉。おっこちたらズブ濡れで風邪ひいちゃうよ」
「そしたらおふろ入るからいーもーん」
水路を浚渫したことで小舟ならば自在に動かせるようになった。
川から乗り換えで楽ちんだが、本来は農業用で荷物を運ぶ為である。それほど大きくないから動き回ると転覆しないまでも乗ってる人間は落ち易いのだ。
そして今回、展示会用に労役を増やした代わりにこちらにも設置したのがお風呂である。浚渫すると泥だらけになる上、体が冷えるから直ぐに温める必要があるからだ。もし水路をもっと浚渫して、コンクリ製の側溝を張るならばまだまだ重要だろう。
「お疲れ様。問題ないようだしお風呂入って来なよ」
「ほうじゃのう。先にいただかせてもらおうか。いくぞい」
「「おう」」
ドワーフの技術者と人足たちはこないだの取引でやって来た。
蒸留技術を貰って代価に色々渡すことになったのだが、その後に撹拌機が評価されたのだ。そして撹拌機は結局、遠心分離機とは別物になった。剛盾さんはあまり意味が無いと言っていたが、やはり安定した速度で分離・撹拌の両方をこなせることに意味があると錬金術師や薬師たちが判断したそうだ。
その辺の技術を煮詰める為とクレーンの改良もしたかったので、様々な技術者と人足を呼んでもらい、撹拌機・遠心分離機・クレーンの完成品はドワーフの方でも使うという事で折り合いが付いたのである。
「ところでのう。コンベアって何に使うんじゃ?」
「ほうじゃほうじゃ。水路と水車を組み合わせたら臼がまわる様に、板の床が動くのは判るんじゃが、ちっとも意味が分からんぞ」
「トロッコと一緒で数が増えないと駄目かな。残念だけど今は意味がない技術だね」
人足たちは風呂に行ったが、技術者たちに僕は捕まってしまった。
勢いで提案してしまったベルトならぬ板のコンベアーだが……大量生産しないと意味がないんだよね。エスカレターにするほどパワーは出ないし、これに関しては明らかに時期尚早だった。今のところは農作物を勝手に移動させて、離れたところで受け取るとか、そのまま臼で引く程度にしか役立たないだろう。
少人数で何かを為せるのは凄い事なのだが、別に人員に困って居ないので意味がないのだ。手回し式の小型エレベーターで見張り塔の屋上に矢弾や料理を運ぶのは、意味があると受け入れられたのでアイデアの活かし方次第なのかもしれない。
(家庭内手工業と分業を組み合わせて難民対策までは思い付いたんだけどなあ……。肝心の材料が山ほど無ければ意味がないんだよね)
元はといえば難民対策で考えた手法だった。
何も出来ないのが難民とよく言われるけれど、分業させてしまえば難民でも覚えられる仕事があると思ったのだ。例として服を挙げれば、一グループ目が布を切り、二グループはボタンや飾りを用意し、三グループ目がそれを決まった場所に縫い付ける。こういうことを思いつけば『第一次産業革命万歳!』と僕がヒャッハーするのも仕方ないだろう。
しかし残念なことにソレをするだけの材料が無かった。生糸でそんな事はさせられないし、そもそも天蚕の数があまり殖やせてない。じゃあ綿花はというと、この辺では採れないのか数が少ないので試せないのである。麻とか木綿でも探してもらうところからスタートである。
(収穫祭までに何かを作るのはもう無理だな。農業用の見本、職人用の見本、商人用の見本。それらが全て集まることで領主用の見本……にも成ってるのか?)
何かを用意できるとしても、小物を増やしてもお土産を用意する程度だ。
そこまでする意味はないし、意味があるとしたら紅家や緋家から直系の誰かが遊びに来る時くらいである。そう言う場合は先触れの使者が来るので、今のところ無理に用意する必要はない。万が一来てしまったら在庫の中から渡せばよいだろう。
別に目立つ必要も何かを誇る気も無いが、緋家全体の経済事情がよろしくないので何かしら産業を盛り立てる必要があった。
(この辺の技術を見た商人が買ってくれるとか、他の領主が真似して生産力が上がってくれれば来年以降が楽になるんだけどなあ)
今のところ淡い期待でしかないのが辛い。
個人としては充実しているが、緋家の軍師的なポジションに収まってしまったのでこのままだと来年以降が困るのだ。逆に誰かが食いついてくれると非常に楽になる。
もちろん前世と違って特許なんか存在しないので、商人が形だけパクってこちらの商品価値を下げ、領主層は何も感じずに過ごして終わりと言う可能性もゼロではなかった。
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残りの時間で可能なのは、後は料理関連くらいだろう。
メインの料理は色々考えられるが、屋台にも少々お高目の物を比較的安価に置いてある。まあ人形焼きとかグラノーラの類で、冒険者だとか行商人が試しに買う程度でしかないだろうが。
となれば後は食事関連に集中するべきだが、こちらもスープを煮詰めるくらいしかやる事がない。冷蔵庫なんかないし弐の村には氷室すら存在しない。だから当日になって焼いたり煮込んだりするくらいなのだ。一部の例外は存在するのだが。
「内臓を洗い終わったそうですよ。本当にあんなグロい物を食べるんすか?」
「それは普段から食べ慣れてないせいだよ。多分だけど豚の内臓だったら煮込みで食べてると思うけどね」
牛を捌いてある程度の分類に分けた。
肥育を始めて一年目だし部位の味わいなんか意味はないだろう。ひとまず肉は壱の村にある氷室で熟成させて、内臓は中身を洗ってから寸断し、一部はホルモン鍋として一部は油で揚げて干し肉加工である。
しかし面白いのは農民である緋六耕が拒絶感を示している事だ。豚の内臓の煮込みとかは奥さんが作ったのを食べて居ると思うので、牛の無数にある胃袋とか見てゲテモノだという先入観でもあるのだろう。
(この様子だと牛の丸焼きを祭りの時に食べたりはしなかったのかな? まあ傭兵になったくらいだし、恵まれた村じゃなかった可能性はあるな。牛が貴重な時期に飛び出た可能性はあるけど)
五の数字までは町になっており、六からは開拓村だ。
緋五塀老人の領地が町で、六耕の故郷が村だからそう思うのだろうがおそらくはそれほど勘違いではない筈だ。北上作戦に出て来た兵士もそれほど多くなかったし、垢ぬけている様子はなかったものね。
ともあれせっかくの貴重なお肉を無駄にする事はない。煮込み料理や干し肉にして、村人全員で頂くべきだろう。
「骨の方は?」
「一応は骨だけで煮込んでます。豚の方と比べてはみますけど、量が無いですからね。味比べ程度になると思いますよ」
牛は貴重なのであまり数を捌かない。
お客には揚げ物やら豚と鳥のハンバーグなどを振舞う事もあり、牛は村のみんなで食べる予定だ。お貴族様に食べさせなくても良いのですか? みたいな事を言われるが、この辺は贔屓して悪い事もあるまい。まあ牛が貴重だから何人来るかも判らない客に出したくないのもあるが。
もし客に出すとしたらもう何年か肥育を続けてからだろう。物々交換で牛の数を増やし、分母も分子も多く成れば乳牛も肉牛も殖やせるのだ。そうすれば潰した乳牛をみんなで食べて、お客にはご馳走として肉牛と言うのも悪くはないだろう。
「そういえばスープを作った後の骨はいつも通りに?」
「ええ。磨り潰して薬品の材料にします。一部は食用の実験に、残りは膠の元に」
間抜けな話なのだが、技術者が増えて膠の事を知る機会があった。
動物の骨やら色々な物からコラーゲンを取り出すのだが、『煮汁が固まるじゃろ? あの効果で』という例え話を聞くまで、ゼラチンに出来そうだとは思いもしなかったのだ。
ただ磨り潰すよりは成分を抽出し、精練しながら効果のある粉にしないと意味がないそうなのだが。牛と豚の骨はスープの材料にしていることもあって、オマケ程度だがないよりマシだろう。
(ゼラチンが完成したら寒天ゼリーよりも柔らかいゼリーが作れるな。歯応えが違うから食べ比べするのも面白そうだ)
生クリームは思ったよりも美味しくないし形状も保てないが、一応は完成した。
試作品の小型ケーキを作ったら双葉は気に入ったようなので、今回の収穫祭は一定以上の成功は保証されている。後は何とか無事に乗り切るだけだろう。
その事を考えたら、商人や貴族が技術を気に入るとか商品になるとかいう展開は、成功すれば御の字だとでも思っておこう。
と言う訳でサクっと準備を終えたので次回は収穫祭です。
まあサクっとと言っても、成功したことばかりではありませんが。
とりあえず明日はまたお休みで日曜日にUP予定。
土日に何も無ければ元のペースに戻るとは思いますが……。
書き易さとか内容の問題で、来週以降も飛び飛びのUPになる可能性はあります。