妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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収穫祭が始まるにあたり、良い事と悪い事が一度に起きた。
先に言っておくと残念ながら子供が出来たとかではなく、僕の影響度が妙に高かったのである。先触れの使者がなければ大慌てで困ったであろう程に、今回のお客が多かったのだ。期待せずに出すだけ出して置けと言われたのだが、まさかほとんどが来るとは思っても見なかったと言える。
仕方がないので使うつもりのなかった予備のプレハブをすべて動員し、宴会用の食料やら屋台用の軽食を急遽増産する他無かった。
「しかしこの文面を見ると……素直に喜べそうにないなあ。絶対に様子見とか、食事をタカリに来てるだけでしょ」
領主は貴族なので手紙または使者を送るのは当然として……。
暇だし呼ばれたから行くとか、今年は肉用の牛を遠征費用に充てたから行ってやるとか嫌味交じりに書いてある。使者の場合は慇懃無礼でこそないが傲慢な所が透けて見えた。
これは僕の影響力が増したことを示すと同時に、恐れられたりはして無い事も示している。あくまで見たまま、雑多な人々が僕が何をするか様子を伺ってはいるが、意見を伺っているという訳ではないのだ。どんな奴かを見てやろう、利用できるならば利用するが、領内経営の為に意見を聞く必要などないという訳だ。
「それが判ってるなら良いんじゃない? まあ中央だと笑顔の裏で良からぬ事を企む者も多いからね。こっちは判り易くていいよ」
「青悟さんは言葉を隠すのは上手いですよね。手は口ほどにものを言ってますけど」
一足先に訪れた青悟は試作品の蒸留酒を片手に手酌をしていた。
酒の出来自体は特に何も言っていないので、何処か他の地域で味わった事でもあるのかもしれない。寝かせても居なければ、樽で香りも付いてないので評価し難いのもあるだろう。
しかし珍しい物を漁って飲み食いしに来ているという意味では、あまり他の領主層と変わりはなかった。
「商人連中も結構来てるんだな。俺が高く売りつけてこようとしたんだが、見られちまうか」
「阿漕な事はしちゃ駄目だよ? うちは明朗会計だから一度決めた価格は基本崩さないし」
「安くさせたいなら代価を寄こせって事だろ? 判ってるって」
蒸留酒を飲んでるのはもう一人居る。商人の南商豪だ。
彼一人だけなら『待て、ステイ!』と言えるのだが、青悟も一緒に現われたので断り難い。二人して揚げたホルモンを肴に早めの晩酌としゃれこんでいた。
「確認するが、あの滑車は購入できるのか? 真似るのはちとキツそうだ」
「どこまでオーダーするかに寄るけどね。可動半径や力を伝達する効率を上げようと思ったら、ドワーフの職人じゃないと無理だから費用はかさむよ」
南商豪が言ってるのは船着き場に設置したクレーンである。
荷物の積みかえパフォーマンスとかやったら、俺も欲しいと言い出した。それでも自前のコネで『コピー出来ないと口にとする』辺りは抜け目がない。おそらくは他の商人との差を付けようというのだろう。今からやって来る連中は、真似してみるところからスタートするからだ。
この場でコピー商品と純正の差を見極めて、真似るか発注するかを考えた上で、発注する場合は交渉も先にやっておこうというハラに思われた。
「南方鎮台にでも売り込む気?」
「いや? 水棲種族の連中にしとくよ。紅家の連中が何処まで関わるかは別にして、ここで見ていくだろうしな。そっちは開拓地か?」
「まあね」
クレーンそのものはこの世界にもある。
しかし僕は土台に横軸の回転を入れて、積み下ろしを簡単にするための土台になる木の板も専門で作っておいた。後はロープを所定の位置に掛ければ簡単にAからB、あるいは舟へと移動させらられるのだ。
何処に使うかと聞かれたら、開拓地を水路沿いに広げていくとしか答えようがない。一番の理想は紅家の使ってる河川と、こちらの河川を繋ぐ位置にある湿地帯を水路で打通することである。
「へえ。その辺りは今度詳しく教えてもらい所だねえ」
「青悟さん処にも声を掛けますよ。開拓地に大地母神の神殿はつきものですからね」
「必要な物があれば俺が特別価格で調達してやるよ。と言う訳で、俺らの成功を祈って乾杯といこうぜ」
やはり専門性というのは侮れない。
大地母神の神殿には農耕テクニックなどが蓄積されているし、食べられる根菜などもエルフとは別口で詳しかったりする。そして商人の知恵やコネクションというのは重要だ。僕らが知らない物も、頼めば仕入れてくれる可能性があった。
彼らにだけではなく僕にもできることはあるが、やはり専門性による発展度合いの差は捨てがたかった。蒸留技術を目指しても微々たる物だったのに、ドワーフと共同開発すれば一気に進んだのと似ている。
「「「乾杯」」」
僕らは開拓地を上手く切り盛りするために、それぞれの範囲で協力し合うことにした。
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当日より前に来て話そうとする者や、自分は贔屓されて当然だと思う者。
双方ともに平等に扱い、あくまで慣例などから上に置かねばならない者だけを上に置いて正しい判断をしたと見せて置く。
その中で非常に面倒くさい相手が急遽参加していた。その人物のお陰で食料やらお土産が妙に増えてしまった。今回の収穫祭だけ見ると大赤字だろう。
「義兄上! 新しい料理が出てきましたね。私が取り分けましょう」
「いえ、連さまはお座りになっててください。うちの者がやりますよ。あくまで最初のカットだけ入れますので。それに僕はまだ結婚しては……」
緋家の次男である連さまとその護衛や取り巻き達の参陣である。
彼らも僕を無視できなかったんだねーなどと甘い事は言って居られない。彼らは彼らで、僕の顔を立ててやったと喧伝するだろうし、僕がこの村で何をやってるかを調査に来たというのもあるだろう。
そして何より面倒くさいのが、連さまが無邪気に善意を振りまいている事である。
「まあまあ。私はここで一番下の年齢ですから。それに義兄上は南領の英雄ではありませんか」
「えーまあ。しかしそういうことは専門の者がやった方が……」
「あ……」
何というか連さまは『ちゃっかりした末っ子』という感じだった。
他愛のない用事を率先してこなし、重労働や遠出などの用事は他人に押し付けるタイプだ。周囲から『真面目で偉い』『上級貴族なのに年長者を敬ってる』と褒められ易い事をやっている。
それと、まだまだ若いから仕方がないのかもしれないが……。料理を勝手にとりわけ、自分の皿に大盛りで注いでいくのはどうかと思った。しかも人数配分を無視して『上席にいる貴族』たちだけで分配してしまい、下座で護衛してたり眺めている騎士や、招待している商人連中には配らないのが酷い。
(まあ普段は家から来た下々の者には残り物を渡すそうだからなあ。そういう常識じゃあ間違い無いんだけど……。向こうには別の料理を出さないとな)
こんなことなら配分し易く持ち帰り難い、鍋料理でも用意すれば良かったと思わなくもない。
あるいは配膳係を数か所に分けて、それぞれワゴンか何かの手押し車を用意しておくとか。その辺は来年以降にするとして、今は料理の配分でも考えよう。
ひとまずハンバーグやら揚げ物をこちらで片付けてしまったので、持ち帰りも可能な様にしたパイ系の物を向こうの席で出すように指示しておいた。聞かれたら戦場食バージョンの研究とでも言って誤魔化そう。中身がミンチってのは同じだしね。
「義兄上! あそこにある白い塔はどんな料理なのですか?」
「……あれは女の子や子供用向けのお菓子ですよ。白い塔の形は、これから婚礼を祝福される者へ多めに取り分けます。今回は初の祝祭ですのでうちの銀双葉を主としますが、来年は姉上にも用意しますね」
連さまが特に注目したのは、よりにもよってウエディングケーキだ。
あれはデコレーション込みで目玉だし、暖かい所に放置も出来ないので会場の中で涼しい場所に飾ってある。保全能力も欠けてあるが限界はあるので、適当なところでサッサと切ってしまう予定だった。
ひとまずここで静止しないと、あれも勝手に分配されてしまうだろう。せっかく今日の日を楽しみにしている双葉に悪いし、ここいらで強硬してでもイニシアティブを取り返さねばなるまい。
「御菓子……甘いのですか?」
「連さまが知ってる高級なものほどではありませんよ。婚礼を控えた者たちを祝うイベント用と言う方が主ですから。……双葉、前倒しで切っちゃおうか」
「……うん。早く切ろう、直ぐ切ろう」
料理をパクついていた双葉だが、僕が話題を振ると即座に反応した。
このままでは勝手に分配されてしまうし、仮に気に入られたらかなりの分量を持って行かれる可能性はあった。だから双葉と一緒に儀式的にやって、主に女子で分配するというのをやってしまわなければならない。
そして儀式として実行するために、あきらかに戦闘用ではない長さの薄いナイフを用意。僕と双葉の二人で握り締めたのだ。
「みなさま。宴もたけなわですが、この地に芽生えた新しい儀式を一つ。婚儀を祝福する料理を、門出に新しい夫婦たちが切り分けます。お菓子ですので主に奥方や妾、あるいは子弟で分ける事になります。……あとはお酒の呑めない方には代わりにお相伴になっても良いかと」
「ケーキ。入刀」
僕が説明するのを待っていた双葉は、普段の面倒くさがりが嘘のように勤勉に働いた。
躊躇せずにケーキを両断し、分配開始。そのおかげもあって、自分の分を多めに切り分けて持ち去ることに成功したのだ。面倒くさい状況だったが、なんとか問題を起こさずにやり遂げる事に成功した。
ただこの判断が上手く行ったのは、あくまでお菓子だからだ。領主連中はお菓子などと軟弱な者は食べないし、地方は味付けが濃い方が好まれるので、それなりに上品に味付けたケーキはそれほど人気は無かった(下戸の領主が食べはしたが)。
「優しい味ですね! 私はこのお菓子を気に入りました。イベント用とのことですが、普段は食べられないのですか?」
「さもしい事を言うようですが、これには蜂蜜ではなく砂糖を使っております。後でお家の料理人や五塀老にもレシピを渡しておりますが、イベント時に絞らないと厳しいかと」
「そうですな。少々厳しいやもしれませぬ」
僕が話を向けると緋五塀は苦い顔をしていた。砂糖を使う菓子を強請られたら大変だからだろう。
まあ実際には僕には伝手があるので、そこまで費用は掛からない。何度か作ることはあるだろうが……その事を正直に話すと大変だろう。連さま派を率いてしょっちゅう押しかけては平らげていきかねない。
そんな風に思っていたら別のアイデアを思いついたようだ。
「では来年の楽しみにしておりますね!」
「ははは……その時に備えて牛も殖やしておきましょうか」
来年も来る気かよ……と思ったが、今年の終わりか来年には麗さんという方と結婚するのだ。
悌さまから見れば妹、連さまから見れば姉。彼とその派閥が来て食べ散らかすのは今から確定したような物である。今年だけでも大赤字になりそうなのだが、来年の備えが今から怖い程であった。
なお、このことで一つだけ良かったことがあるとすれば、貴公子に見える連さまを双葉が不倶戴天の相手だと判断したことだ。万が一にもNTRな展開はあるまい。生まれながらの貴族ではない僕にとって、そのことだけが唯一の良かったことである。
と言う訳で収穫祭は終わりです。
元は身内でつつましやかに終わるのと、問題の噂を聞くだけの予定でしたが……。
それだけでは面白くないので、邪魔者を追加。
代わりに問題の噂を聞くのが遅くなり、対処が遅れる感じですね。