妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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収穫祭の次の日は、収穫祈願祭。
アフターフェスティバルというかネクストシーズンというべきか。次の年も良い収穫がありますようにと祈って終わる。
その時に用意しておいた手鏡を二枚。白木にビーズのような装飾を施した物と、漆塗りで金と貝殻を装飾した蒔絵造りの物を渡す。
「ありがと。大切にするね」
「うん。そうしてくれるとありがたいけど……。大切なのは双葉の方だから、万が一の時は脱出してよね」
普段はここまで言わないが偶には良いだろう。
少なくとも昨日に機嫌が急降下したことを踏まえて、サービスしておく事に意味はある。まあ鏡なんか幾らでも作れるし、人材と言う以上に双葉が大切な事に嘘はないのだ。
とはいえここで何も言わずに収めると、後に問題が残るので二つある事に言及しておく。でないと二枚ある事に興味を示している誰かさんが余計な注文をしかねないからだ。
「これが白黒二枚造りなのは僕らの出身地にちなんだのもあるけど……片方は持ち運ぶ用で片方は家に置いとくやつね。好きな方を置いといて」
「じゃあこっちかな? キラキラして可愛いし♪」
双葉が選んだのは白い方だ。ビーズをイメージした小さな色ガラスを嵌めてある。
他にも真珠を入れたり、クズ真珠を磨り潰して装飾に利用している。太陽にかざした時の光沢と輝きはまるで魔法少女の様であった。もう一枚の螺鈿造りの方は漆黒と金で豪華ではあるが、持ち歩き難いのでこういう決断なのだろう。
双子の邑出身の僕らを示すには丁度良い鏡と言える。この世界には無い概念なので特に言わなかったが『比翼連理』をイメージしたりもしたんだけどね。
「……来年以降はどうするの?」
「あーえーとね。この鏡は贈答用や象徴としての記念となる最初の一つ。来年は家財として最初の一つに鏡台を研究する予定なんだ。その後は日用品で良いかなって思ってる」
僕の方から来年は麗さんの嫁入りに合わせるとは言えないので、双葉が気を使ってくれた。
その事に感謝しつつ、双葉には第一号の品を用意したと明言。そして麗さんには麗さんに、別口の意味で最初の品を用意する。双葉用が持ち歩きを可能とした最初の品で、麗さん用は公式的な顔でありその為の用意だと象徴できる品である。その後はコンパクトでも何でも良いだろう。
そしてその言葉を聞いたことで、後ろで気にしていた連さまがようやく納得したという顔をしていた。妾というか以前からの恋人が居る事とか、そういうのを生産する必要がないのは貴族なので特に疑問はないだろう。それはそれとして、姉への贈り物やら公私の区別を僕がしているのかは気にしていた筈なのだから。
「ガラス製品はその辺なんだね。じゃあ家畜は?」
「予定よりも牛を増やそうかと思ってる。昨日の有様を考えると少し不安だからね。豚は最悪購入すれば良いし、鶏は卵を常備したいから減らしたくない」
双葉が気にしているのは主に来年のお食事である。
うちの村の総生産力なんか簡単に増やしようがないので、何かを犠牲にして他の何かへと振り替えるしかないのだ。小麦を色々な料理に使ったり換金する以上は、単純に飼料を増やして家畜を増やせないのである。
その辺を考えたら何処の村でも飼ってる豚を減らすのが一番と言えるだろう。売れる物を増やした時に、再購入し易いのも流行り豚だしね。それに肉を食べたいなら鶏を殖やして、卵の合間に食べれば良いのだ。卵は御菓子にも使えるし鶏はスペースを取らないからね。
「義兄上。牛を増やすのであれば、あの申し出を断らなければ良かったのでは?」
「それはお互いの費用と価値観が共通して居ればの話ですね。多くの穀物を与えてこれからも太らせる牛の予定でしたし、向こうは向こうで貴重な労働用の力強い牛です。価値観が違う物を交換し合うのは難しいのですよ。しかも申し出は一対二でしたから」
昨日の宴会の後、牛を食べない習慣の領主から申し出があった。
牛はこれほど美味しいのかと感動したらしく、どうやって作るのかとかを尋ねられた。その時に肉専用に育てた牛である事と、豊富な穀物を与えた実験用であることも告げている。その領主は他の領主の手前、牛を二頭出そうと言ったのだ。
それだけならば太っ腹な申し出に見えるが、それはどうだろうか?
「費用は判りますが、価値観の差ですか?」
「連さまはそれほど驚かなかったところから、専用の肉牛を献上されて食べたことは多いのですよね? しかし世間では鍛え上げた農耕用の牛の方が一般的です。どちらも貴重には違いないのに、二頭も出した牛が美味しくなかったらどうでしょうか? 料理というものは味付けを少し間違えれば不満が残りますからね」
何というか初めて食べた感動というのは特別だ。
それと同じ感動を与え続けるのは難しい上に相手の料理人の腕もある、せっかくニ対一で交換して置いてマズかったらどうだろうか?
それに筋肉質に育ち切った牛を貰っても作業用にしかならないし、相手の性格次第では死亡寸前の牛を渡される可能性もある。一頭に対して二頭も渡したのだから向こうの方が上だから黙れと言われたら言い返せないのである。何せ世間では労働用の方が上、肉牛は趣味と贅沢の範疇でしかないのである。
「別の例えをするとしましょうか。文官とし育った男に、明日から騎士として取り立てるから頑張れ。働き次第では荘園主や領主としてやろう。あるいはその逆で騎士見習いの従卒に、文官として書面を書けと言われても困るでしょう?」
「それは……そうですね。どちらも私は可能ですが、部下の中には致命的に向かない者も居ますから」
連さまはこの間の北上作戦で、後方の治安担当だった。
敵の居ない楽な任務と言われていたが、広範囲を効率的に回る必要があるので食料や飼料の手配が大変だったはずだ。ただでさえ前線に送り届けているわけだし、どこの領地に余剰があるとは容易には判らない。僕の所にも何度も『何処にあるんだ教えてくれ』と使者が訪れたこともある。
僕としては面倒なので後方の物資集積状況を教えて、どの辺りで回収すれば良いかを差配したのだが……その辺りで親近感でも持たれたのだろうか? まあ親近感と言うよりも『楽ができる』と思っただけかもしれないが。
「ですのであの時は断るしかなかったのですよ。虎の子の力強い牛と、美味しい肉牛がどの程度で釣り合うか? これは専門家でも呼んで来なければ難しい事ですから」
「なるほど。それで育て方や料理を教えるところから始めたのですね」
あの場では南商豪も居たが、彼の価値観は交易商人だ。
地元に根差した牛の価値管理は難しいだろう。それに市場の管理人だって基本は子牛のオークションである。都の大きなところの商人だったら……双方を金で買い取って、両者に均等な差分で売りつけるという事でもやったかもしれない。
その後は各種技術の報告会を経て、牧畜と同じように何を重視するかを決定。
基本的には前年通りとして、コンクリ製品やらプレハブ小屋に関して開拓地向けに出荷す余地があると修正したくらいで終わる。
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一通り終われば後片付けだ。貴族たちも昨日の段階でほとんどが見切りを付けている。
大抵のものは朝の段階で帰途に付き、この段階でも残っているのは開拓地に関して関係している者くらいだろう。
要するにここからは開拓地に関する指示になり、基本方針を伝えるという事だ。
「まずは長期的に意味のある場所と予算確保し易い場所からになります。紅家との境にある湿地帯を浚渫して水路を作り、他の場所でも街道の延長などになりますね。もちろん調査チームの報告次第ですが」
「ふん、水路か。お前の所は儲かるらしいがな」
一部不満のある領主も居たが、それは予想通りだ。
どんなことでも全てが賛成されるなどありえない。それでも不満だけに留まるのは、そもそもの開拓権が僕にあることだからだ。彼らはその援助の見返りに、色々な物を受け取るだけに過ぎないのである。
その意味では真っ向から不満を述べるというのは、中々に勇気が要る事であり、同時にありがたい事だった。秘かにため込まれる不満の方が対処し難いのである。
「商人たちから要望と資金が渡されましたからね。開拓資金もおぼつかない現状では、彼らの意見も組まざるを得ません。とはいえ初期報告も含めて資料をどうぞ」
「どうだかな。資料の数字など幾らでも捏造できるだろう」
「それは言い過ぎだぞ」
実のところ、この流れは半分仕込みだ。
サクラとなる者を予め予定し、根回しして意見を率直に言ってもらうようにしてある。何処まで不満を述べても良いのか、どの辺で抑えるつもりなのかを予め談合してあるという訳だ。
もちろん代わりの見返りもあり、領地の境界線やら別の開発計画などを約束してあった。
「……まて。これを見ると橋を架けるとあるが……本当に可能なのか!?」
「先日見て頂いたクレーンがありますよね? あの手の物を動員して柱を敷設します。その上で中間の柱と柱を架けるのであって、吊り橋ではありません」
「馬鹿な。……一体どうやって……」
サクラを頼んでいた領主だが、その報告書には驚いたようだ。
今回の目玉として用意した規格であり、今まではあり得なかった場所に橋を敷設できると、交易路やら何やらがまるで変わるのである。
生活の便利さやら関税などの問題で大きな変化が出る筈であった。
「あの辺りは川が急流だし、そもそも谷だぞ!?」
「そうだ! 滑車で降ろし、滑車で組み上げるにしろ、そもそも荷物をどうやって組み立てるのだ?」
「紅家の近くに住む水棲種族と連絡が取れます。彼らの中で人足として雇える者を集め、下からやってもらうんですよ。僕らだと泳げない場所でも、彼らにとては少し冷たい程度ですから」
これは考え方の差である。急斜面の谷と考えるから問題なのだ。
水中呼吸できる者を集め、下から上に登ってもらえば良い。もちろん登りに向かない場所もあるが、人間が降りるよりも安全な行き来ができる。絶壁を降りるのと、急斜面を登れる手段を構築するのでは大きな差である。
そして今まで不可能だったからこそ、そこに利益が集まるのだ。
「水棲種族……話には聞いたことがあるが……」
「確か頭が魚だが、魔物ではないと?」
「その通りです。ご自分の配下や、通りかかる行商人。後は御友人の領主にも伝えておいてください。水棲種族は魔物ではない、むしろ有益な味方だと」
この話をした段階で、彼らの反抗心は既に消えていた。
何しろ彼らの領地もまた開拓地に近く、その恩恵を受けるのだ。場合によっては、自分の領地にも敷設できると思っているに違いない。
と言う訳で後夜祭も終了!
開拓地開発のために動く感じになります。
なんというか道を開拓したり、橋を掛けたりコンクリ使ったりと
ゼネコンみたいなことをしてますね。