妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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荘園を手に入れ、荘園に手を入れる

 無事に荘園を貰って騎士扱いされることになった。

領地付きの騎士であり国家に所属する騎士ではないが、それでも封建契約に基づく立派な契約だ。最低限のランクとはいえ裁判権も持つがゆえに簡単には反故にはされず、腕利きの傭兵上がりと言う評判と何より実績がある間は領主の方も遠慮するだろう。

 

なのでさっそく荘園の防衛と経営を始めるわけだが……。

最初に打つ手はもちろん、流入する無限湧きアンデッド対策と異種族との交流問題である。

 

「とりあえず敷地ギリギリに立ってる一家には可哀そうだけど、命には代えられないし保障と引き替えに立ち退いてもらおうと思う。横暴だけど権力を使うならこういう時だ」

 過去の出来事もあって、権力に笠を着て何かをするのは好きじゃない。

だがこればかりは危険な上に後へ尾を引くと何かと面倒なことになる。敷地の外に糧を求めるからと好き勝手に出入りされたら、アンデッドはいつの間にか入って来たり異種族ともめ事を起こすことになるだろう。

 

やるならば断固としてやるべきだし、住民が帰還を始めてない今がベストタイミングだ。人間というものは相談をされたら悩むし対抗手段も考えるが、居ない間に物事が進めば文句を言って保証を求めるのが精々なのだから。

 

「と言う訳で僕らは今の内に境目にある家を撤去して壁や建築用の資材に替えちゃうけど、その間に族長さんたちと連絡とってくれる?」

「こやつ今更何を言っておるんじゃ?」

「最初に話がまとまってからどれだけ時間があったと思ってるのよ」

 僕が苦渋の決断で家の撤去を使用としていると、二人は苦笑して肩をすくめた。

そして手渡されたのはドワーフの族長からは剛盾に、エルフの族長からは紅梓が代理人であると委任状である。もちろん白紙委任状では無いので、その都度連絡を取るし問題があれば抗議するとある。

 

だが大まかな協定は僕らの間で相談して良いという事なのだろう。ありがたい気遣いだと思う反面、先に言って欲しかったと思う。

 

「そういう訳で妥当な内容である事、この交渉が少なくとも百年は長続きする事が条件ね」

「契約の更新はあってもええと思うが、基本路線は継続してもらいたいの」

「……判ったよ。おかげ様で時間もある事だし細かい内容に入ろうか」

 僕も解体作業の手伝いに行くつもりだったけれど、こうなっては仕方ない。

初期の村人である徴兵組に予定変更を伝えつつ、村長宅へお邪魔することにした。

 

集会場であるその建物は広く、壁も厚いので少々の事では声も漏れないので丁度良い。領主の館を建てる余裕はないし、余裕が出来ても他の家で実験してからになるだろう。暫くは間借りさせてもらう事にした。

 

「基本ラインは前回伝えた通り。防衛のために大規模な建材が必要な時は、予め伐採や切り出しに関して話を通すよ。その上で追加条項が幾つか」

 そう言って用意した書面が二種、合計六枚。

一種目の羊皮紙は以前に伝えた『人間の開拓権』を譲り渡す事と、その条件付けを他の種族が立ち会って決める事が書いてある。この書類自体も他の種族に同じ物を渡し、任意の相手に予備を作って印章を押して保管してもらう許可も書いておいた。

 

これに関しては二人とも相違が無い事を確認するだけだ。以前から伝えていた事だし、その間に内容も吟味しているのだから間違い探しでしかない。

 

「追加要綱の一つ目。この荘園を最前線の城として使うから、どっちの種族も必要と思えば駐留しても良いよ。普段は協定の監視と交渉込みで、何人か……『外』が気になる人や協定を信じられない人が監視するくらいだと思うけど」

「可能であって必須ではない……ね。ここは問題ないわ」

 魔物との戦いに備えたいけど、別に人間同士の戦いに利用するつもりはない。

そもそも南領と西領は危険すぎて人間同士の戦いとは無縁だし、平和になり始めたら盗賊が出るくらいだろう。そういう時に他の種族に力を借りる必要はないし……領主が僕から領地を取り上げようと思ったら彼らの協力を疑うくらいだろう。正直その辺を疑う程度の仲が維持できるならば問題ない。

 

「しかし二つ目の交通許可にある冒険者ギルドちゅうのはなんじゃい? 自由な行き来を禁じとる割りにはこいつらは許すのよな?」

「行商人の方はまだ判るんだけどね。嫌な奴なら許可出さなきゃ良いんだし」

 過度な交流は面倒なことになるので、お互いの領域は守ることにした。

ここで通行許可を出すのだが、エルフの土地に行きたいならエルフの許可をその時に出す。その許可を出すためにも、一つ目で示した協定を監視する人は居て欲しいと書き加えている。一応は逆もあり得るのだが、異種族の領域から人間の領域に来る者は滅多に居ないので忘れていい。

 

そして二つの種族を利用して表に出したアイデアが冒険者ギルドだ。口入れ屋を仲介とする傭兵組合と何処が違うかと言われたら、あまり違わないのだが……。

 

「傭兵と違ってまず戦闘を前提にしない。魔物を狩って欲しいという依頼は出すしスコアに応じた褒章も用意するけど、調査や収集の代理とか何でも屋かな? ただしその審査は厳正にするつもりだよ。とりあえずこれを見て」

「何よ、そのコイン?」

「……ふむ。等級性か」

 やはりこの手の話には先人の知恵を借りよう。

生前のフィクションには冒険者ギルドと等級性というのがあった。

 

そういうのが無い話もあるけれど、その多くは銅クラス、銀クラス、金クラスと言う感じで鉱物の価値に応じたランク分けをしている。物が鉱物の例えだけに剛盾の方は直ぐに察しがついたようだ。

 

「そっ。一般的な冒険者は銅ランクで見習いは鉄。銀というのは長年任務をこなしたり腕利きなど信用のおける人。金ならその人の保証だけで何人も客に招けたり、領地の防衛くらいなら任せても問題ないような達人になるね」

「私が銀で紅梓が金なのは納得いかない~」

「でもまあ……分かり易い区分ね」

 話に割って入った双葉と満更でもない紅梓だが、その二人の差が判り易い。

どちらも僕らからみれば同じくらいの信用があるが、双葉はエルフ族の間で信用を得ているわけでは無い。対して紅梓の場合は族長の代わりに交渉に出るくらいだし、剛盾も文句を言わないのだから実力も名声も認められているのは確かだ。

 

これらの昇格基準を明確に設け、厳正するだけで銅ランク以下の連中が勝手に森や山に分け入らないのは判ってくれると思う。

 

「だいぶ考えとる様じゃが、傭兵の誰もが冒険者ギルドに加入するとは限るまい? 口入れ屋に頼まれて動くだけの方が楽なんじゃし」

「そこは特典も考えてるよ。今の出入り禁止免除もそうだけどね」

 真面目な話、冒険者ギルドの方に馴染みがあるから作りたいだけだ。

ついでに言うと神様の教義が殆ど現世利益を追い求める事になるので、社会貢献的な部分を混ぜたいとか、フィクション並に有名になるなら利用したいという腹積もりもある。

 

それはそれとして剛盾が言うように、何らかの利益がなければ誰も利用しないだろう。

 

「ギルド参加に金は要らない代わりに資格試験は厳正。メリットとして知識や道具類の調達へランクに応じた補助を与えます。例えば僕が集めた魔物の知識と倒し方。あるいはドワーフの名工が鍛えた装備の購入権とか?」

「むっ……そこまでするのか」

 僕は弱いので戦った魔物の情報は系統立てて用意している。

どんな厄介さでどんな場所に棲んでいるのか、そういうのを聞かれたら応えられるようにしていた。それは彼らも理解しているし、討伐スコアを上げて名声や金を稼ぐ時などは、決め打ちで狩り易い獲物を探したものだ。

 

知識であれば銅ランクは閲覧許可、銀ランクは模写の許可、金ランクであれば蔵書の持ち出し許可をしても良い。もちろん裏道として、仲間にそういう情報を集めて欲しいと依頼を出すのも良いだろう。依頼の為に依頼を出すとか、報酬に折り合いが付けばの話だが。

 

「知識と言う意味では地図もかな。迂闊に他所の領地で地図描いてたら罰せられるけど、覚えるのは自由だよね? だけど冒険者なら自分で描かなくても閲覧は出来るし、銀なら書き写したって良」

「模写して売ろうとするアホは論外ってことね。OK」

 意外かもしれないが、地図と言うのは軍事知識だ。

江戸時代にも持ち出そうとして問題になったシーボルト事件もあるが、どの場所に何があるかが判れば攻めるのも簡単だ。

 

それに情報はギルドの既得権益であり、これを持ち出して小銭を稼がれても困る。依頼主が頼んだらその限りではないが、そもそもそれだけの金を払える大商人なら自分で専門家を調達できるだろう。

 

「概ね他もこんな感じなら問題ないわ。何日か掛けて考えても良いんでしょ?」

「うん。そいつも本来なら持ち出しは困るけど、どうせスパイも居ないから今は持ち帰っていいよ」

 他にも幾つか条項はあった。

例えば開拓権を譲った場所でどうしても欲しい物があれば、既定の料金を払って該当種族から購入する事。逆に欲しい要望があればこちらからも売る事や、中継ぎを受け持つことなどが記載してある。

 

とはいえどれも境界線を決める意味では当然の事であり、口に出さずとも当たり前の事までワザワザ記載しているのは『領主に許可を受けた』とか『向こうの種族が許可出した』とか第三者が勝手にやりそうなことを、前もって禁止しておいたのだ。もちろん引き渡し義務もあるが、罰則としては当該種族の掟や慣習を優先することになる。

 

「とりあえずまだ先の話だから締結しても一年後には不具合の再確認が必要かな。それに決め事が厳正過ぎたら意図的に破る馬鹿も出て来るし、魔物や災害みたいな緊急避難時に文句をいうのもどうかと思う。そういう時はその都度に話し合おうか」

 上に聞け下だから知らない、下の約束は上は周知しないとかは駄目だ。

人間があまり異種族に信用されないのはこの点のお役所仕事が問題だった。役所以外でも下請け孫請けのなどの例もある。急いでカッチリ決める必要はないが、道筋くらいは作っておこう。

 

そういう感じで堅苦しい事を決めたので、後は楽しい話に移行したいものだ。

 

「そうだ。二人とも余裕ある時でいいからちょっと協力してくれないかな? 今の内にやっておきたいことがあるんだけど。ちゃんと報酬は払うからさ」

「なんじゃい?」

「簡単そうな事なら構わないわよ?」

 やるべき事は終わったので、やっておいた方が良い事業を始めたい。

かつての失敗の焼き直し。時間が掛かるから荘園主になった今の内にやっておいた方が良いし、今ならば以前の様な目に合わないはずなのだから。

 

具体的に言うと金策であり、今までの貯えが飛んでいく前にやるべきだろう。

 

「剛盾さんにお願いしたいのは僕の欲しい建物と、剛盾さんの欲しい鍛冶場の位置決め。紅梓さんの方は森にある植物をちょっとね……」

「別にワシは……あった方が嬉しいのは確かじゃがな」

「そのくらいなら、まっいいんじゃない? 薬草取ってこいだと簡単すぎてつまらないけど」

 これから作りたいのは温室なので、火事場と風呂場は近い方がいい。

温めた空気も利用できるし、日当たりや水回りも合わせて場所の選定は大事だ。

 

そして何より温室で育てるのは貴重な薬草とか売れる花になる。

以前は町の鍛冶屋と自分たちの知識だけだったが、ドワーフとエルフの協力を得られればもっと良い物ができるだろう。もちろん売り物とする以上は、エルフがいつでも取って来れるような植物は避けるべきだろうけれども。

 

(前は焦り過ぎてリソース全部突っ込んだところを取り上げられたからな。今回は慎重に行かないとね……)

 この世界では良い条件の場所で野菜や花を育てることはある。

だが温室なんか誰も作ってなかったし、故郷に居た頃、獲物を売ってから得た資金で建設した当初は地味な売上ながらも嬉しかったものだ。しかしこの時の僕はすっかり舞い上がって忘れていた。

 

街に近い方が良いし、資金も少なかったから土地は借りて済ませたのだ。

その時に『貸し賃と割に合わない』『次の契約は更新しない』とか言って、土地の持ち主に取り上げられてしまった。自分としては最初の資金を回収できてないので地味な売り上げだったが、貸主から見れば僅かな金で貸したのに儲け過ぎていると見られたのだろう。初期費用とか維持費とか考えてはいないと思うが……。

 

(そういえばコンビニが初期の混乱を乗り終えて、儲かり始めた頃にも似た話があったと聞いたことあったのにな……。でも、今回は自分の荘園だ。誰にも文句は言わせないぞ!)

 今回は以前よりもずっと良い条件が揃っている。

試験データはあるし、職人の腕も集める植物もずっと良い物だ。済む所と場所が離れてないし、保全する能力で温度や水はけを維持することも出来るかもしれない。

 

順調にいけばこれからの出費を抑えられる以上の成果があるはずだが……やはり荘園の独自色を出せるのは大きいだろう。




 と言う訳で領地経営モードが開始する話でした。
といっても全体計画を始めたばかりで、発展するのはまだまだこれからですが。

『エルフやドワーフとの協定』
 大きな効果としては対魔物としての同盟を結べ、異種族との交易も行える。
弱い効果として、領主が敵対する可能性が僅かに下がる。
(異種族と本格的に交渉した者は少ないので、良くも悪くも未知数)

『鍛冶屋の設置』
 いろいろな物が生産されるようになる。
ただし依頼する場合は、費用ないし材料の現物が必要になる。

『お風呂の設置』
 大きな効果としては住民のリラックス度が上がり、村の知名度が増える。
弱い効果としては健康指数が微妙に上がる。
これは殺菌などを生活魔法で行えるため、この世界ではそれほど健康に寄与しない。

『温室の設定』
 大きな効果としては薬の材料が定期的に確保できるようになり、知名度も上がる。
弱い効果としては資金が僅かに確保できるようになる。
これはレアな植物を見つけていない事や、花が売れるような大きな町に近くない為。
(そもそも、ドワーフ族やエルフ族と接しているくらいには田舎である)
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