妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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交通網の一新。それを目標とした時点でするべきことが三つある。
一つ目は計画の全容をハッキリと明示する事、二つ目は実験段階をスムーズに終える事、三つ目は水棲種族の周知をキッチリやりきる事だ。
どこまでやるか判らない壮大な計画では、成功を危ぶむ者が居るのは当然ながら、『もしかしたら自分の所も』なんて思う貴族は山のように出て来る。何人かはともかく希望の全てを叶えるのは無理なのだから。そして水棲種族を魔族に間違われるのだけは絶対にやってはいけない。
「まずは本当に可能なのかを実験してみましょうか。浚渫までするかはともかく、最初は交通量の見込めるエリアで行います」
「あ、ああ。そうだな。試してみないと」
選んだ場所は開拓にはあまり関係ない場所だ。
ただしそこに橋を架けることが出来れば良い宣伝になる上、荷物を運びこんだり逆に不要な土を持ち出したりするのが簡単になる。運が良ければ献金を受けることも可能だろう。何しろ今まで道では無かった場所を通る事が出来れば、関税などを払わずに済むのだから。
今までの技術レベルではありえない架橋による混乱と、判り易い実験に対する納得が出来た所で畳みかけるべきだろう。新たに計画書を配った。
「架橋計画は五段階。実験を初動として可能かどうか、どの程度難しいのかを確かめます。本命の架橋は第三段階で、開拓へ協力する貴族への対応が五段階目ですね」
「その銀殿……貴殿の順番がかなり低いようなのだが?」
「必要ないでしょう? うちの領地は陸路も水路も順調ですからね」
計画書に必要なのは妥当性だ。所詮は絵に描いた餅でしかない。
だから実験を最初に、その成果を確実に出すための本命を中盤に。余計な宣伝であったり開拓全体への関与は最終段階である。そこに自分の領地もサンプルとして含めるのだが今のところ無理に必要な物では無かった。せいぜいが豚さんやら鶏が食べる木の実を収穫し易くなる程度である。
ではなぜ自分の領地を明記したかと言うと、僕が開拓長官の権限を無理には使用しないという事。それでいて協力的な貴族には、どの程度の順番で恩恵を与えるかを示す例としてである。自分を後回しにするが、キッチリ候補に入れている辺りで判ってくれるだろう。
「必要もないのにうちの領地に計画してるのはサンプルにできるからですね。昨日みたいにうちを訪ねる人が沢山居れば、一目で判りますから。とはいえ積極的には要りませんので……」
「うむ。判った。それ以上は言わずとも良い。なあ?」
「そうだな。その先は我も理解しておるとも」
正確には『我々だけが理解して』いれば良いという事だろう。
理由と代価によって順番を変更し、場合によっては自分の権利を譲っても良い。その全てを説明したら意味がないのだ。退屈な宴会に参加し、これまた退屈な儀式とやらに参加し、その上で今まで残っていた開拓メンバーのみが知って居ればいい情報。それらを売り買いすることで彼らは発言権を得たり、ちょっとした余禄を得る訳である。
何か所ほどに橋を架ける予定であるのかその地域は何処か、無理を利かすために必要な材料などの代価は何であるのか……ソレを知っているのはこの場で情報を貰い、何か変更があれば教えてもらえる立場の自分たちだけが知って居れば良いという事であった。
(よし。これでこの場に居るメンバーは言う事を聞きそうだな。水棲種族たちも乗り気みたいだし、何とかなりそうだ)
そもそも今回の話は、浚渫作業をスムーズ化するのに水棲種族が居たら便利かも?
そんな思い付きから来た物だった。ここは陸上なので昨日の宴会には無かったが、紅家の者に聞くことは出来た。何らかの方法で定期的に水に浸かることができるならば、彼らの力を借りることができるのか? そう尋ねたら可能だろうという返事が貰えたのだ。
あくまで予想に過ぎないが、幸いにもそれなりに付き合いがある者だった(残念ながら見たことはないそうだ)ので、時間は掛かるかもしれないが陸上での行動が得意な者が派遣されてくるだろう。
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橋を作るための土台やクレーンの土台をコンクリートで作り上げていく。
その後にセメントで造ったのは箱型の……要するにプール状構造である。四面をコンクリートの板で覆ってから、それを継ぎ接ぎするように追加でセメントを流し込む。今のところ速乾性が弱く、保全能力でサポートしないと製造できないので僕しか造れない。
そしてこの目的は当然ながら水棲種族が休めるようにするための配慮だった。もちろん穴と蓋のセットを設け、水の入れ替えも可能にしてある(生活魔法の浄化で十分だったが)。
「何から何まで申し訳ありません、銀大人」
「いえいえ。こちらの都合もありますからね。可能な限りの援助を整えるのは当然ですよ」
こちらで動けるか確認するために、先行して水棲種族が何人かやって来た。
その中に旧知の蝦衛視が居た。鷹の目を持つ彼が来たのは役目に即したからか、それとも水棲種族では価値が低い位からか? ひとまずは水棲種族からの厚意とでも思っておこう。一から信頼関係を築くのも面倒だしね。
ともあれこの先行メンバーの役目は、河川で水棲種族がちゃんと動けるかと高低差のある場所で作業が出来るかと言う確認も兼ねている。
「これは今のところ僕しか作れませんが、水の巫女を教育できればそちらでも可能になるでしょう。水中にいる魔物から逃げる時とか、鮫が多いエリアの避難所くらいだろうけど」
「その辺りは急いでおりませんので、お互いに将来を楽しみといたしましょう」
丁度良い人材が居ないらしく、水棲種族からの巫女派遣は行われていない。
正確には彼らの種族ではなく島に居る人間たちのようだが、やはり急いでいないからこそノンビリと探しているのだろう。こちらも急いでいないし、来たら育てようというレベルでしかない。
その辺りの話を済ませた上で、さっそくやるべき事の話になる。
「ひとまずの目標はこの近くで行動し、足場を組んだり上流へ登る練習をしていただきます。どの程度ならば無理なのか、補助具があればどの程度は可能になるのか忌憚のない意見を聞かせて頂けると助かります」
「ということであれば、クレーンの先に持ち手や足場を付けた紐があると助かります。我々は多少の泥濘や滑りでは転びませんので」
「……というとこういう感じですか?」
蝦衛視は単刀直入に要望を上げて来た。
やはり翻訳魔法が勝手に丁寧語にしているだけで、実際には判り易い人物なのかもしれない。とはいえ第三者がいる状況だと、この翻訳魔法の柔らかい表現はありがたい。
そして僕は地面に棒でクレーンの絵を描き始める。まずは土台と滑車にロープ、そして先に平べったい板とその150cmくらい上にある手で掴むためのアームである。
「はい。このような仕掛けです。これがあれば行き来で余計に歩かずに済むかと。まったく素晴らしい。複数生産してただければ、予備を買い取りたいと思います」
「ではそのように。最初の幾つかは形状や耐久力テストを兼ねますのでお代は良いですよ。ただ持ち帰って使う時は、腐ってないかに気を付けてくださいね」
褒めてくれるのは嬉しいが実は元ネタがある。
ロボット物でコックピットに乗り込むための綱である。幾つかのロボット物で見たことがあったのだ。クレーンそのものも僕が設計したし、両者の機能を結びつけるのは難しくない。あえていうならば、言われるまでクレーンでやろうとは思わなかったことくらいだ。
前にも感じたことだが、僕の記憶は保持されてはいても自在に思い出せるわけではない。あくまで『そういえばこんなことあったな』と思い出せるだけなのである。
「残る問題は食事くらいだけど、魚の方が良いんですっけ?」
「肉も食べられない訳ではありませんが、魚の方がなじみが深くて助かります。龍学才殿のご助言では、人間たちの前ではその方が誤解されずに済むとのお話も頂きました」
言われてみれば魚も肉も変わりはない。
しかし魚の方がなじみがあるのだろうし、人間から見ても魚しか食べないとそういう種族に見え易い。しかし肉を貪り食ってたら魔族ではないかと誤解も受けるだろう。食べるだけならば他でも食べられ訳だし、こっちに出稼ぎに来てる最中くらいは魚だけの方が良いという事らしい。
こうして彼らが陸上メインの生活に慣れる訓練と建設の訓練を行いつつ、徐々にこちらの人間へ文字通りの顔合わせをしていくのだった。
と言う訳で水棲種族を受け入れて、こちらで生活実験。
ある程度慣れた後で、次回に本格的な実験を行う感じです。
今回出て来たフック付きロープは、ダンバインやガンダム作品に出て来たやつですね。
コックピットのキャノピーから垂れ下がり、足で踏んで手で持って登るやつです。