妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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最初にその話を聞いたのはその年の終わり。北上作戦の経過を一通り締めくくった時だ。
論功賞はいずれ行うにしても集計は必要だし、経理も担当した僕の報告と大地母神の司教に収まった青悟の報告を合わせなければならない。それぞれ単独ならば今までチャンスは幾らでもあったが、各団体での成果が落ち着くまで時間が掛かったのだ。
「まさか既に町が出来ているとはな」
「宿と倉庫だけですよ。収入が無いので移動可能な家屋をまとめて建ててみただけです」
開拓地を通した新しい街道に、幾つかの建物を建てた。
全て長屋造りで宿泊が可能、場合によっては倉庫遣いして良いとしている。前に貴族たちを接待に使ったプレハブ流用し、移築してまったのだ。開拓地は何もないが宿だけあれば商人は利用してくれる。露天形式でもよければ商人同士で売り買いできるし、倉庫として短期契約してしまっても良い。
そういった収入に献金を足したお金で赤字の貴族たちに補填をもたらし、北上作戦以前のマイナスをどうにかやり繰り可能な範囲で算段を付けたと報告を終わらせた。
「大地母神の教会はいかがかな?」
「経過自体は順調ですねえ。アンデッド湧きも収まりましたし、光の教団に資料共々引き継いで置きました。今のところ何とかなってると言うべきなのかなあ」
そんな感じで僕の方は赤字縮小を報告し、青悟は順調な経過を報告して終わりのはずだった。
「青悟さん。なにかあったんですか?」
色々報告を負えたのに、青悟の顔色が微妙だった。
普段はそういうところを見せずにもったいぶってるのだが、こういうのは割りと珍しい。何というか自分の底は見せずに良い所だけ見せようとしたり、お互いの利益になる時だけ面倒見は良い先輩風を吹かせるようなタイプだからだ。
彼は浄化儀式の件で司教か何か、こちら方面を統括する担当の司教になった筈だが……何かストレスの溜まることでもあったのだろうか?
「いやー。言う程の事か、それとも言わなくても良いような? あるいは言ってしまった方が良いのか微妙な案件でね」
「それなら俺も知ってるぜ。お前さんもこいつも放っておくと困るんじゃないのか?」
青悟は最初は誤魔化そうとしていた。
案件があるとは言いつつも、それほど重要ではない。しかし口にして相談する程の事ではないと言おうとしたのだ。
ここで口を挟んだのは経理報告の妥当性を論拠する代わりに、ついでに南方鎮台の復旧に首を挟ませて欲しいと頼み込んできた南商豪だ。ある程度は知っているらしく、その事が青悟の態度を変えさせた。これまでの間柄では自分の不利な所を見せようとしなかったが、第三者が居ることで隠しても無駄だと思ったのかもしれない。
「あー。事情を知ってる人が居たかあ。ならボクの方から話すのが筋かねえ。……魔王や邪神に操られた者を糾弾し、将来の禍根を絶つとかいうくだらない陰謀の芽が蔓延り始めてさ。これが厄介なんだよ」
(魔女狩りか……また面倒な)
結構深刻な問題だが、まだ燻り始めた段階ならば今のうちに判って行幸だと思うべきだろうか?
いわゆる魔女狩りは正義を味方に付けている事が厄介だ。無実を証明し難いどころか、逆に貶めて糾弾する方が簡単である。前世の魔女狩りは98%くらいは間違いだったらしい。正当な方も滅びた現地宗教の名残りじゃないかと聞かれたら怪しい所だろう。
そして何が問題かと言って、この行為はワザと間違って相手に嫌疑を掛ける事ができるのだ。挙句の果てに拷問や密告で嘘の証言を引き出し、証明を兼ねた拷問で死ねば無罪・死ななかったら有罪なんて馬鹿な例もある。
「その件で重要なのは嘘の証言や勘違いで裁判に掛ける事が可能で、それを止める者が『邪悪な者の追及をどうして止めるのだ、お前自身が邪悪ではないのか?』と言えてしまう事ですね。気に入らない村人どころか、商人がライバルを蹴落としたりもできますから」
「そこなんだよねえ。問題だとは思うんだけど、正面から止め難くって」
こういう所を見ると青悟もおぼっちゃんであり、貴族の子弟というのが伺える。
彼はあちこちで出始めた、『魔物に協力した村人を捕まえろ』とか『俺の倉庫は燃えたのに、どうしてあいつの倉庫は無事だったんだ!』みたいな意見に振り回されているだけなのだろう。大地母神の教会は下々の者に関わる者が多く、早い段階で耳にしてもおかしくはない。
この様子だと青悟は偉くなったことで、そういった話を持ち込まれたのだろう。そして対処し難い問題の解決を迫られていると言う訳だ。『自分自身が対象にされる』と想像していない辺りが実にお坊ちゃんである。
「だろ? 俺らみんなに共通する問題だし、サッサと対策しちまおうぜ」
「ボクらも? 村人とか町人の話じゃなく?」
「ですね。東領や南領が無事なのは魔王と取引したからに違いないとかどうです? 勿論やろうと思えば西領出身者でも嘘の証拠と証言で罪をでっち上げられますよ。究極的には大地母神教団の一部は邪神に乗っ取られ、協力したうちの神様は使い魔だとか言われかねません。外の国から来た商人なんか良い的ですね」
南商豪がそういった方向にアンテナを立ててるのは被害に直面し易いからだろう。
彼は外の国の人間なので、逃げる場所こそあれどこの国の中では理由を付けて迫害され易いからだ。貴族の息子であり何かと守られ易い青悟と真逆の立場である。
ともあれ彼らのおかげで情報が早めに手に入って助かった。もし理由を付けて中央に呼び出された後に、適当な密告で捕まえられたらどうしようも無かったからね。
「銀。今の話は本当なのか?」
「悌さま。可能性としては高いと言わざるを得ません。政敵を葬る方法としては非常に効果的な手段です。僕らは理由を付け易いですしね。それに戦場での流れ矢が一矢だけなら誤射の可能性がある様に……一回だけなら誰でも良いと思いませんか?」
言われるまでは気が付きもしなかったが、言われてしまえば前世の記憶を参照できる。
歴史でも物語の中でも魔女狩りと言うのは始まってしまえばどうしようもない。狂熱がバカ騒ぎを呼び起こし、いつしか発起人の足元にも火を点ける。何しろ財産を奪い商売の利権を奪い、復讐やら追い落としが簡単にできるのだ。雇われた事のある人間に金を持たせ、『あいつは邪悪な儀式をしていた』と偽の目撃証言をさせれば良いのだから。
そして確認の最中に攻め殺すことを目的として、『死ななかったら有罪、死ねば無罪』と拷問を掛ける事ができる。恐ろしい事に『拷問しても生きていたので有罪だったが、罪を告白したので断罪した』と言って『聖なる力で処刑した』と言い張ることも可能なのだ。
(まあ前世の歴史とか物語の話もゴッチャゴチャに覚えてるからアヤフヤな部分もあるんだけど……。でも可能なのは確かだよね)
問題なのは、邪神の徒を狩り出す話が今までもあったという事だ。
これまではそこまでやらなかったとしても、『使える』と思った中央の貴族がそういう流れを作らないとは限らない。何しろ現時点では南領が一人勝ちと言うか、被害者枠から一抜けした所だ。川の多さで防御し易かった東領よりも、将来性だけなら上かもしれない。
ましてや辺境開拓という手段で、これまでの負債と傘下貴族の不平を別方向に反らせているのだから。
「でもどうかな? ボクらはアンデッドの被害を何とかしたじゃない」
「その辺は言い訳次第ですね。『浄化儀式が上手く行ったのではなく、アンデッド召喚の儀式を中断したのだ。嘘だと思うならば証拠を見せてみろ』と、本来証明する側が、できるはずのない側に対して証明を要求したらどうしようもありませんから。相手の長所を短所であると言い切るのがコツになります」
いわゆる悪魔の証明は覆しようがない。
この例の場合はアンデッド湧きが持続しているシステムがあるとして、打ち消す方法を僕らは取った。この時に湧かせている儀式を誰かが中断した可能性はゼロではないのだが、そんな事を証明するのは本人以外は無理なのだ。仮に可能だとして儀式の実行者本人か、対戦経験が多い光の神殿くらいなものだろう。
「ではどうするのだ? このままでは中央に赴くのは危険、理由を付けて行かないのも逆説的に肯定できてしまうが」
「幾つか案がありますが時間が掛かります。それと本当にそうなるとも限りませんので、積極的に動くと着想させてしまう事になります。暫くは対抗策を実行するために、方々へ連絡しつつ様子を見ましょう」
悌さまが不安そうに尋ねて来るが、こればかりはどうしようもない。
水棲種族の件を穿った目で見られても困るのだが、逆に言えば一番危険な時期では無くて良かったと考えるしかない。言い訳の弁論と、魔女狩りを起こさない為の方策を実行しながら様子を見る事にした。
だが燎原の火の如く、このバカ騒ぎは燃え広がっていったのである。むしろ騒動を計画したのが魔族ではないかと思うほどの勢いで……。
と言う訳で証明しようのない魔女狩り騒動の始まりです。
まだまだ噂段階であり、外国人の商人じゃなければ気が付かないレベル。
しかし様子を見ている間に……と言う感じですね。