妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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必要なのは消火方法ではなく、防火対策

 あれから南領にも邪神の徒狩りがやって来た。

その間に色々と調べたのだが、ある意味で納得できる内容が判った。中心になっているのは西領の人々と、特にその管区を扱っていた光の神の教団ほか一部の神官である。要するに彼らは故郷を追い出され、あるいは故郷に親族を残して逃げ出さざるを得なかった人々だ。

 

魔族にも恨みを抱いているだろうが今は反撃出来ないし、唆されて仲間を陥れた者を許せないのは当然だろう。ついでに言うと神官たちは自分の教区を失って権益も何も無いのである。

 

「なるほど。これでおおよその経緯と構成は掴めました」

「そうは言うけどねえ。逆に言えば引かないって事じゃない? 君らが前に言ってたことが本当に起こり始めて気が気じゃないんだけど」

 いつもは澄ましている青悟が青い顔をしている。

彼は南領の教区担当だが……大地母神の教団なのでそれほど発言力が強い訳ではない。長くその地位にいたわけでもなく、北上作戦で浄化儀式を行ったからだ。邪神の徒狩りが南領にも飛び火すれば急に名声と地位を得た彼が嫌疑の対象になりかねないし、そうでなくともこちらでの問題を収めなければならない立場なのだ。

 

要するに疑いを向けられつつ、同時に中間管理職として彼らに協力をしなければならず、同様に教区の信者も守らねばならないのである。情報が固まり次第に僕の所にすっ飛んできた。

 

「いえいえ。この情報が無ければ面倒なことになって居ましたよ。これで対策は立てられます。対抗手段ではありませんが対処療法以上なのでひとまず安心できます」

「本当? 双羽く~ん。信じるからね!」

 男に抱き着かれても嬉しくないので適当にあしらっておこう。

彼には悪いがあくまでウイルスに対するワクチンのようなモノだ。魔女狩り状態になり難くする為の手段であり、捕まって嫌疑を掛けられてから何とかする手段ではないのだ。

 

急ぎ手紙を三通ほど書く準備を行い、同時に過去の資料から幾つか取り出して参照用に同封することにした。本当は冒険者ギルド用にするつもりだったがこの際、無償で提供するしかないだろう。

 

「悌さまを通して紅家から南領全体に話を通しましょう。同様に青悟さんも大地母神の神殿や、東領や中央のコネがある領主に手紙をお願いします。いいですか? 彼らの目的を逆算すれば、邪神の徒狩りをいきなり止めるのは無理でも、これ以上の延焼を避けられます」

「……言いたかないけど、向こうは向こうで大変なんだよ? で、どんな案なんだい?」

 これから重要なのは『情報の共有』と『法秩序』である。

邪神や魔王にそそのかされた者を探し出し、宗教裁判に掛けて処刑したいなどと言う者はそう多くないのだ。あくまで西領出身者の不満が爆発しているだけであり、西領奪還こそが大本なのだ。中央を牛耳る西大公とその部下たちにとっては、旧領回復に向けた声は自分を応援する声なので放置しているだけだ。

 

これに加えて一部の邪な連中が権勢や財貨を奪うために便乗しているだけで、西大公たちも都合が良いから黙認しているのである。

 

「彼らの勢力を三つに分割してやり過ごします。一つ目は西領奪還派、これは作戦自体が軌道に乗れば自然と収まります。『そんな事よりも西に行こう!』と計画書や賛同者を集めれば勝手に味方になってくれるでしょう。問題なのは二つ目の、他人の権力や財産目当ての寄生虫ですね」

「西領奪還はまあ納得は出来るかな。でも二つ目は難しいよ? みんな目の色変えてるからね」

 今すぐ西領奪還しろと言われても困るが、面白い事に出来たら口にした方が困る。

何しろ南領に費用と兵を負担させて疲弊させたくとも、速攻で攻略したら領地を奪われるかもしれないと思うからだ。実際に北上作戦では速攻を掛けたし、位置関係的にもその根拠が十二分に保証されている。そして不満を上げている者たちにとっては『未来が見えないから不満』なのである。

 

もし五年後くらいに確実に奪還可能な作戦を立てているとしたらどうだろうか? もっと早くできないのかと言う者は居ても、その流れを止めようとする者はいないのだろう。だから重要なのは、欲深い簒奪者たちへの対策である。

 

「邪神の徒が魂を売り渡し、財産や権勢を築いている。だから奪い返すのは当然という、法に基づいていない行為が罷り通ってるのが問題なんです。盗賊団や敵対領主を倒した時の慣例が踏襲されているだけですからね。ですから全体に話を通して、没収できないようにしましょう。それで幾分は収まりますよ」

「あっ……」

 魔女狩りで大商人や小貴族を潰したとしよう、その財産を奪って良い法律などはない。

ただ盗賊団や敵対する貴族を倒した時、その地域や財貨を奪う権利は打倒した者に与えられる慣例はある。もちろん何処かの固有財産と判明して居れば、返納することを求める慣例もあるわけだが……。この慣例を強引に適用し、同時に後継者をも処刑することで有耶無耶にして没収しているだけなのだ。

 

だから予め、それらを法令で定めておけば良い。貴族の土地と財産は国庫に、商人ならば商会なり組合に渡るという法律。後継者を拷問してはならないという法もかな。

 

「奪っても自分の物にならない。そんな法律があれば無理を通したりはしませんよ。有力者や聖職者個人による強引な裁判を禁止し、嘘の密告に対して厳しく当たれば尚の事です。その場で言っても言い訳と取られるだけですが、南領全体であったり、東領も含めた全国区で話を通したらどうでしょうか? もちろん光の教団や西領出身者も奪還戦の話で巻き込みます」

「その手があったか!」

 下書き用に木の板を使って、そこに判り易く案を書いていく。

重要なのは『邪神の徒を狩りをやって良いルール』と『本当だった場合と冤罪だった場合の対処』を明文化することだ。それらを受け入れるならばやって良いし、むしろ積極的に協力しても良いと告げる。もちろんそこには時間稼ぎや対象者隠蔽の内容なんか入れない。あくまで宗教裁判をやるルールであり、冤罪防止用でしかない。

 

例えば邪神の徒を狩り出す裁判を行う場合、異なる宗教教団複数からなる司教や神官数名が必要。裁判に寄らぬ拷問での自供強要と、密告や自供のみを証拠とした処刑の禁止。密告が本当で数々の証拠が上がれば報酬を得ても良いが、裁判の間は同席する事。そして嘘だらえの冤罪だった場合は逆に処罰されることを盛り込んでおく。

 

「でもさ、前に言ってなかった? 相手の長所を短所であるかのようにいうのがコツだって。厳密なルールを口にするのは、お前たちが邪神に教えてもらった方法だと言われたらどうするのさ?」

「ですから先に明文化し、内容そのものは妥当な内容するんです。この法を持ち出しても対抗手段にはなりませんが、冤罪を掛けようとする者の絶対数は減りますからね。後は……そうですね。その時に口にした内容だけじゃなくて、『前後の行動』を参考にしてもらうのはどうでしょうか?」

 陥れる時は何でも理由が付けられる物だ。

例えば『泣いて馬謖を切る』という話があるが、コレを逆にすることも可能な訳だ。命令系統を糺すためにあえて非情に徹した行為を、自分の命令を聞かない者は愛弟子でも斬り捨てる権力欲の亡者と言うこともできる。だから冤罪そのものを一気に減らすわけではなく、あくまでワクチンであり、ウイルスの脅威を受け難くするだけである。

 

しかし彼らが来る前に明文化すれば、その場しのぎの言い訳ではないことになる。そして悪事を働いたとされる者が、本当に悪事を働いたかどうかは『行動の全容』で判断するしかないのだ。

 

「前後の行動?」

「そうです。これまでまったく悪事を働いたことのない商人や貴族が、僅かな期間だけ召し抱えた配下に密告されたとしましょう。現地を調べても対象者を良く言う者は居ても、悪く言う者は居ません。逆に密告者の記憶がない、あるいは怠け者だったら? まあ冤罪を掛けられた者の全員が全員そうではないでしょうし、本物のスパイなら情報だけを提供するでしょうけどね。例として青悟さんの場合は判り易いですよね」

 無自覚に嫌われる人も居るが、おおよその冤罪はこれで防げる。

社員を薄給でこき使うブラック企業でも無ければ、そこまで現地での情報が悪くはないらないだろう。少なくとも、陥れる方はそう思う可能性は高い。ましてや冤罪を着せたら罰せられるならば、無理して冤罪を着せることはないだろう。

 

「青悟さんで言えば浄化儀式をしてますし、光の教団にも成果を引き継いでるでしょ? 邪神の徒からすれば、この国を困らせたいならアンデッドは放置すれば良いし、成り上がる手段ならば途中で光の教団に任せる訳はありません。同じことが僕らの様に、アンデッド退治で協力した諸卿にも言えますよね」

「そういえばそうかなあ……」

 僅かな代価を求めて戦争する馬鹿は居るので一概には言えないが……。

物事には効率と言う物がある。金貨百枚を一時的に得るために、金貨一万枚を消費したり、これまでの商売を捨てる者は居ないだろう。青悟を例にする場合は、邪神の徒として絶対にありえない行為なのだ。それこそ勇者を今すぐ殺せるとか、滅ぼす寸前でもない限りはありえまい。

 

そして積み上げと言う意味では事前に証拠を残して置けるし、これまでの行為そのものが重要なのである。

 

「僕や仲間たちは南領の安定、ひいてはこの国のために動いてきました。大地母神の教団を通して入植者を助け、アンデッドを浄化した青悟さんは尚の事。せっかくですから西領を奪還する作戦を幾つか用意しておきましょうか。その状態で僕らを処刑しようという連中は限られると思います」

「それもそうだねえ。……なるほど、だからこそ話を通しておくのが重要なわけか」

 ようやく青悟も元の調子を取り戻し始めた。

目線は僕が引っ張り出した資料の方に注がれている。手紙の内容自体は伝達事項なので大したことはないが……。資料の方はアンデッド討伐や、精霊やら昆虫型の魔物対策のデータである。こういった物を用意し、周辺に配る者が魔物の手先であるわけがないのだ。

 

僕に関して言えば、緋雁原や南方鎮台で『迂闊に結界で塞いだら二次災害が起きる可能性がある』と発言し、思わぬ事故を防いだ発言がある。それだけならば時間稼ぎにとれるかもしれないが、その後にちゃんと魔物は退治して居るし、南領からアンデッドの被害を終わらせたのだ。採算どころの話ではないだろう。

 

邪神の徒対策を整えたわけだが……、敵(仮)の方が一枚上手だったと言えよう。

南領の中で重要人物を処刑できないと判断し、叙勲という実体性のない罠で中央に呼び出しを受けたのだった。




 と言う訳で自体が本格的になる前に対策中です。
史実から適当に、魔女狩り対策を持ってきました。
しかし残念ながらこれは地味な作戦であり、その場で何とかできません。
また割り切って強引に出る人間は対処できないんですよね。
知者が不得意とするのは、何時だって暴力ですので。
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