妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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同行者

 呼び出されたので都に行く準備をしながら資料をまとめる。

到着した直後から強引に軟禁される可能性も考えられるので、紅梓は後から合流し剛盾は残留してもらう形だ。捕まったら脱出するのに協力してもらったり、場合によってはエルフやドワーフと協力体制にあるという証言を貰う為である。

 

万が一に備えて指南車モドキを作る準備をしておき、対象を何にするかだけは決めておく。僕以外が捕まった時はその都度に決められるが、宮城に出仕した後に僕が捕まった場合はどうしようもない。その時に備えて指標は僕であり、おでかけ前に最大限の魔力を注ぐことになるだろう。

 

「どーして央都に行っちゃいけないの?」

「捕まる可能性があるからだよ。『お代官さま』も呼ばれてる可能性もあるし、できれば止めた方が良いと思うなあ」

 親しき仲にもパンチあり、というのが外交の基本らしい。

お互いに牽制しながら一時的に手を結ぶというのが外交の在り方で、最初にむりを主張したり相手の弱みをチラ付かせてから交渉に入るらしい。これが親しい貴族同士ならば話は別だが、中央の貴族と仲が良いはずも無かった。なお『お代官さま』というのは故郷に居た時の代官だ。双葉が妾にされそうになり、一緒に逃げる事になった原因である。

 

なお都である央都は正式には夏都と呼び、この国の名前は第二王朝『夏』という事になっている。群雄割拠前にあったらしい大きな王朝を春王朝と贈り名し、自分たちが継いでいると謡ったのだとか。もし今の貴族の中から次の王朝が勃興した場合、秋王朝にでもなるのだろうか。

 

「うっ嘘だ! 騙されないもん! 一人だけ美味しい物食べるのってズルイ!」

「騙してないってば。それに中央は光の教団の影響下だから基本的に美味しくないよ。知ってるでしょ」

「あー」

 前にも言ったかもしれないが、邪悪な力の影響を抜くために素材を煮込み過ぎなのだ。

産業革命直後のイギリス料理の様に、クタクタに煮込んで悪影響を乗り除く。これをスパイスで無理やり味付けしてる訳なので基本的に美味しくない。傭兵時代に双葉が怒った時、奮発してできるだけ 高級(だけど一見さんを断らない程度の店)に行ったことがあるが、技巧に凝ったりスパイスの差を感じ取るような物であった。おそらくは宮廷料理でも同じだろう。

 

僕は元日本人だから薄味は大丈夫なのだが……旨味どころか素材の味がしない料理はできるだけ食べたくない。岩塩が採れるらしく塩だけは豊富なのだけど、しょっぱさで誤魔化すのにも限界があるからね。

 

「それなら我慢するけど……。こっちで誰かに作ってもらっていい?」

「別にいけど砂糖の使い過ぎには気を付けてね。カラメルは特別な理由が無い限り作成禁止。カリントウとコンペイトウはもってのほか」

「ケチー」

 そんなこんなで人質に取られ易い双葉は村で待機してもらう事にした。

ここに居ればイザとなったらエルフの領域に逃げられるし、双葉が居れば僕の判断かどうか判り易いので、代官の黄三硯も他所の貴族に強気に出れるしね。

 

代わりに同行してもらうというか、お互い様と言う感じで協力し合う予定なのが紅包さまだ。彼も先の北上戦で活躍したという理由で呼びつけられ、僕と同じように都行きを求められている。場合によっては南領からの人質扱いされかねないので、僕が西領奪還の話をする時に、彼の話を出して戻る為の道筋を作る予定だった。

 

(紅家の使節に、都にある緋家の屋敷、そして南領と仲の良い貴族たちへの挨拶と進物。……ここまで用意して置けば、いきなり拘束されないとは思うんだけどな)

 一番困る事態と、一番されたくないことは違う。

されたくないのは拷問であり、双葉を捉えられて脅されることだ。しかし軟禁されて僕が人質になったり、作戦書だけ書かされるというのもできれば遠慮したいところだ。それさえ除けば勲章だの褒章自体は無くたって良い。

 

南領の諸候押しては戦争に駆り出されて赤字続きで人死にも出るというのは困りものだが、極論を言えば最悪の事態ではないので許容範囲だ。そういう訳で双葉が人質に取られたり、僕が軟禁されてもう会えないとかいう事態だけは最優先で対処しておいたのだ。

 

「剛盾さん。例の物は完成した?」

「一応は……というところかのう。ただのガラス板なら簡単なんじゃが、それでは意味がないんじゃろうしな。今のところは目が悪い奴が昔に見れた場所を、時間をかけて元の様に見れる程度だの」

 剛盾に残ってもらうのは協力関係を証言してもらう為だが、とある品が未完成だからだ。

透明度の高いガラス製品を作れるようになった時に考慮はしたが、優先度は低かったので手も付けてはいなかった。西領奪還作戦の話が出た辺りで研究し始めたものなので、完成して居なくても当然なのだが……。

 

作ってもらっているのはレンズである。万華鏡を綺麗に見せる程度にしか考慮して居なかったし、これは鏡の方がメインだったので技術レベル的には大したことが無かったのだ。

 

「しかしレンズなんぞ研究して何をするんじゃ? 文字を大きく見たいわけじゃあないじゃろう」

「大きくしたいのは遠くの光景だよ。レンズを二枚作って万華鏡……覗き鏡みたいな筒に入れて遠くを眺めるんだ。そうすると相互に影響しあって遠くの物が近くに見える。冒険にも戦争にも航海にも使える便利な道具だよ」

 要するに欲しいのは望遠鏡だった。

遠征する時に役立つが、それ以上に偵察の時に有益だ。相手の総数とか魔族を調べたい時に、近寄って精査するのが一番だが危険性を考えるとそうもいかない。一人・二人ならば神の祝福で鷹の目だとか蛇の目などの加護を持つ者も居るだろうが、広範囲かつ安全な距離を考えるとどうしてもこうなるのだ。警備の方だって無能であるはずがない。簡単には覗けないし聞き取ることも難しいはずなのだから。

 

それゆえに何人もの人間が望遠鏡を持つことが有望なのである。隠密が得意な者が遠くから観察し、あるいは色々な建物に潜んで、相手の総数を確認しておくのである。

 

「誰もが蝦衛視くらいの視力を持てて、蝦衛視ならさらに遠くを見れる。そういうのができれば理想的だけど、遠い方は急がないから奪還戦に間に合う程度のペースでお願いします」

「まあそういう事なら任せて置け。ワシらとしては小さい物を見る方が面白いんじゃがの」

 ひとまず説得材料ではないので望遠鏡は急がない。

贈り物にするだけならば研究中のレンズで十分だ。どこの貴族の所領にも目が悪い人間は居るし、行った先で渡せば向こうで勝手に受け取り手を探すだろう。

 

こうして最低限の準備を整えた僕は、尋ねる先の分+@の手紙と贈り物を用意して都に旅立つことになった。

 

 この旅は出掛ける前から暗鬱だったが、途中から頭を抱えたくなった。

合流予定だった紅包さまに、余計な人物が二名ほど増えたのである。先に言っておくが大通連は最初から連れて来ていないし、ついて来られても困るので望遠鏡の試作品と一緒に大弓を渡して狙撃の練習をさせている。

 

簡単に言うと予定外の人物が都行きに同行したがり、同時機にやって来た客人(?)が僕と同行を宣言してしまったのだ。

 

「これはどういう料理なのかしら? あなた説明してくださる?」

「料理など食べられれば十分。食物に感謝していただくべきですのに、なんたる不信心。異端者はこれだから……」

「ははは」

 移動し始めて数日目、何度目かのやり取りが始まった。

余計な二人は勝手に同行して勝手に馬車に乗り、挙句の果てに勝手に宿に予約していた。そこで料理を食べるだけならまだしも、味やら料理法に文句を付け、じゃあ僕が料理するから野営しようと言えば……この有様である。

 

どちらも僕から見れば目上に近い相手であり、敵にも味方にもなる人物なので敵対する訳にはいかないという難しい相手だった。

 

「これは魚の身を磨り潰してそれを丸く固めた物です。それを煮込んだり燻したりして大地を呪った邪悪な力を抜き出し、もう一度煮込み煮込み直した物ですね。それと僕は光の神の信者ではありませんので、異端認定は止めてくださると助かります。猊下」

「そういえばそのような事を言っておりましたか。本当に小神の徒であれば良いのですがな。それと私は一介の司教です。猊下などとは恐れ多いので止めていただきたい」

 難しい相手の一人目、光の教団からやって来た司教である。

僕の異端審問を行うという命令に対し、都で待つのではなく南領までやって来た奇特な人である。厳格で謹厳実直、そして清貧を旨として僕の行動に一々文句を付けてくれる。

 

この人物と出逢ったことに対する良い面と悪い面は、交渉とか賄賂とかそういうちゃちなモノは全く通じず、言いがかりも拷問もしないが四六時中見張り続けるという面倒な人であった。

 

(悪い人じゃないし都に入るなりとっ捕まるよりマシだけど……。どうみても窓際の人だよね。押し付けられた貧乏籤を真面目にやるし、しかもこの人を説得しても証言に価値無しとされたら一緒なんだよなあ)

 名前を黄二志と言い、黄三硯の隣の町出身の司教である。

管区はとくになく大司教の補佐を務める無任所の司教であり、本来ならばついてきているはずのお供の司祭が同行していない。どう考えても派閥政治に負けた可哀そうな人なのだが、本人にまったくその認識がないのだ。

 

そしてもう一人だが……。

 

「あなた。私の質問に答えていただけませんか? それは素材の段階でしょう? 見たところ中間状態で二種、和え物らしき汁が複数あるのですが」

「見ての通り片方は煮込みで、片方は揚げ物ですね。添え汁で味を変え、甘味や塩気に苦さなどの違いを愉しむ料理ですよ麗さん。発展形として粥や鍋物に入れたり、もっと大きな料理の添え物としても利用可能かな」

 もう一人の女性は緋麗。来年には結婚する僕の奥さん予定の人だ。

年齢としてはもう数年で三十、アラサーと言うべきだろうか? いわゆる化粧美人でスッピンになると普通の顔であると思われる。もちろん戦いの才能や魔法の才能はなく、しかも貴族かつ人質暮らしだったので鍛える余地など全くない人物であった。

 

悪い面をあげるとしたら貴族の良識にドッブリと浸かり、招かれて都に行くことは名誉な事だと信じていることだろうか。ついでに言うと貴族の体面から宿の一番良い部屋を取ろうとし、最初の頃は紅包さんとばかりニコニコ話していた。もし貴族的恋愛譚だったら、僕は名ばかりの夫で紅包さんが愛人かなあ?

 

(あまりの落差に紅包さま逃げちゃったしな。正直、この性格は何とかして欲しい)

 最初は紅包さまも合流していたのだが、彼にとっても年上で好みのタイプではない。

その為に所要を勝手に捏造し、早馬に乗って都へと駆けて行ってしまった。おかげでNTRな展開は免れたが、気難しい二人と面談し続けて胃の痛い道中となった。と言うかこの人も捕まったら人質になって助けねばならないのだろうか?

 

(とりあえず、適当な理由を付けて何処かに隔離しておかないとな。馬鹿じゃないのが幸いだから説得できる……と思うし)

 最初こそツーンとしていたが、道中に色々と説明したら納得はしてくれた。

一番高い部屋の料金と道中の予算を説明したら、計算は出来るらしく青い顔をした。ちゃんと予算と経済観念を緋家の現状込みで説明したら理解を示すのに、何も知らない時は一番高い宿を僕の許可も得ずに取る辺りはお嬢様なのだろう。色々と教えていかねば何処かでやらかしそうである。

 

なお理解は示したが貴族らしい代案を要求された。代案があれば納得する当たり馬鹿では無いが、馬鹿では無いからこそ適当な良い訳だと納得しない。仕方ないのでテロ対策も兼ねて、中間の値段から低ランクの部屋を四部屋くらいぶち抜きで借りる事にしたのは良い思い出である。

 

ちなみにこの人は即落ち二コマ系の人で、都に着くなりお土産の眼鏡を友人知人に配ろうとするやらかしをしそうになった。




 最初は面識のある紅包さんと仲良くなり、都到着と同時に掴まる予定でした。
しかしそれでは当たり前過ぎて面白くないんので、胃の痛い道中に変更。
主人公も馬鹿じゃないし、待ち構えている敵(?)も馬鹿じゃないので
良くある展開は適当にカットして、本題に入る感じですね。

あとは名前だけしか出てない麗さんをそろそろ出したかったのもあります。
典型的な高飛車悪役令嬢なんですが。
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