妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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都にある緋家の上屋敷に到着して、面倒くさい事実を通り越して恐ろしい内容を使用人に教えてもらった。なんと旅の途中で麗さんはお付きの者に手紙を出させて、勝手に宴の準備を始めていたのだ。しかも交流のある貴族やら世話になった人を集め、お土産とか面白い話をするとか触れ回らせたとか。
文句を言いたくなったので遠慮なしに文句を言うつもりだが、苦笑するしかないのは善意ゆえということだ。貴族社会に無知な僕の為に、上流貴族だったらやるべきことを代行してくれたそうだ。
「上流貴族たるもの広く社交を持ち、戦場や宮廷でお世話になった方にはそれなりのお礼をするべきですわ。あなたがご存じないから、私が間に合うように手配したまでです」
「それなら最初に注意して欲しかったな。村に……領地に産物を届けさせるとか出来たからね」
招待客の中には北上戦での軍監とか、司教さんの同僚なんかも呼んであるそうだ。
功績を挙げても軍監やら巡見使に粗相を働き、あらぬことを密告された例は多いとか、司教さんは賄賂とか通じない堅物だが同僚までそうではないと、上から目線で言い訳をされた。まあ嘘はないだろうし、自分の夫となるべき男に疵を付けない為と理解はできる。
しかし彼女の行動はお付きの者に指示を出しただけで完結しており、僕に相談も事後報告も無かったのだ。
「財政的に余裕があり、お土産にも余裕があるなら話は別なんだ。相談無いのは問題だけど、そこまで怒る気はないよ。でも無い袖は降れない。このままだと良かれと思って最悪の状況になるパターンかな」
「終わったことを何時までもグチグチと。あなたは知恵者として名を売ったのでしょう? ご自慢の頭脳で何とかして見せなさいな」
あまりの理不尽さに腹が立つのを通り越し、一周回って冷静になって来た。
何と言いうか生前で読んだフィクションにもよくあるけど、高飛車なお嬢様の話って正論も暴論も等しく腹が立つよね。自分の暴走がキッカケなのに、それに文句を言ったら男の愚痴はみっともないと返すとか苦笑する他はない。
ただこの手のタイプに下手に出るとか、いつか判ってくれるというのはダメだ。転生してからその事は良く判ったし、生前も流されてナアナアで終わらせたときは逆効果だった。
「まあ……何とかするしかないんだけどさ。実際にはお土産がなく資金も怪しい状況だけど、逆転の手を打つ代わりに約束してもらう事が一つある。当然の事は以降、勝手に行動しない事。僕はその手の討論に成れてるからね。むしろ言われないより、言われて相談する方が良い」
「……変わった方ですのね。普通は気が付く前にやっておけとか、逆に余計な事はするなとおっしゃるのに」
この世界の貴族は奥さんにそういうことを期待するらしい。
面倒な裏方作業を人知れずやっておけとか、何もするな自分の指図通りに動けと言うらしい。もっとも僕は転生者で常識が色々と違うし、この世界でも傭兵暮らしが長かったから男女の区別なく討論はするんだけどさ。
ともあれ麗さんも僕の言う事は理解したようだ。あるいは無いない尽くしの状況をどうするのか様子見というところだろうか?
「ひとまず眼鏡の方はサンプルを並べて覗き込む体験会にしよう。その上で自分の視力に合う現物を後から贈る。予備や友人に欲しい場合は買ってもらうけどね。この方法ならば数は要らないし、手垢が着いた物は贈れないからね」
「なるほど。そう言えば旅の途中で使った時は中々合いませんでしたわね」
お土産である眼鏡の事を麗さんが知って居るのは僕が見せたからだった。
どうやら僕がこういうのを持っている事で『周知しておけと言われた』と思ったのだろう。どうしてその状況で『伝えろ』という指示の可能性の方を優先したのか不明だが……。
確か王女様の侍女として行儀見習いしてたんだっけ? どうみても人質なのだが、そういうことを叩き込まれたのかもしれない。
「その方法で縁者の方にお土産を『いずれ』用意するのは判りましたわ。肝心の軍監の方や司教さま方は? あの方たちは是非とも味方になっていただきたいかしらね。そういう意味でもパーティに予算を掛けたいのですけど……家に頼れないの?」
「緋家の実情は伝えたでしょ? 借財は禁止。仕方ないので眼鏡を卸す権利でも売るよ。……あいつを呼ぶのはちょっと気にかかるけど」
まずお金の方だが南商豪にでも眼鏡を売る権利を渡そう。
緋家経由で僕らがばらまくのとは別に、彼にだけ独占的に売ることを許可する感じだね。もし彼が現時点で金を用意できないならば、友好的な商人に接近してもらう事になるだろう。
その上で残り二人だけど……。
「軍監と司教さんには見せてない別のお土産を渡そう。麗さんには興味なさそうだし、西領奪還戦に関わる軍事物資だから見せない方が良いんだけどね」
「拝見したいところですけれど……そういう事なら我慢しておきますわ」
教会の方には魔物の資料とか、浄化儀式とかでの段取りでも話すとしよう。
軍監の方は正直気は乗らないのだが……開発中の望遠鏡でも渡すしかないだろうか? あるいは悌さま以外には話していない海路での進軍の話を伝えるとか?
いずれにせよこの両者にはハッキリとした方向性があるので、それなりの内容で納得してくれるだろう。土産は土産で現物をくれとか、袖の下を寄こせと言われたら面倒でしかないのであるが。
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お客さんを招待して眼鏡のセールスをしながら、ふと考えたことがある。
今回の事態を引き起こした麗さん自体ではなく、その流れに類似性を覚えたのだ。これまでは何とかなっているがこれからもそうだとは限らない。可能かどうかは別にして出来るだけ対処しておいた方が良いだろう。
武芸者の大通連、商人の南商豪、貴族令嬢の麗さん。場合というか趣味嗜好の延長上で双葉や剛盾も含まれるだろうか? 一同がやらかすのは何故か、水棲種族やエルフたちがやらかさず時として南商豪も見える範囲に収めている基準は何だろうか?
「もしかして僕って舐められてる? もしくは好き勝手にしても怒らないと思われてるとか」
「何をいまさら。対処できる範囲というならあんたの魅力って事でいいんじゃないか?」
「そういうものかな」
酒を片手に頷いたのは南商豪だ。
眼鏡の権利を売る話をするために呼んだら、他の商人や貴族を連れてグレーゾ-ンな技術給与の商談を持ってきやがった。おかげで懐は温かいが、貴族から話を聞くと結構突っ込んだ内容までベラベラしゃべってくれて苦笑するしかなかった。
結果的に麗さんと同じ『僕の利益になる範囲』で留めてはいる。しかし独断で動いたのは同じだし、もし僕が中央の貴族に捕まってたら承諾を待たずに売り払っていたような気もする。解放されたら提供はしてくれたのだろうけれど。
「それよりも海路の話までして良かったのか? あれはあんたの隠し玉だったと思うんだが」
「君が察してる段階で頭の良い人にはバレてるから構わないんじゃない? まあもう一枚切り札を思いついたし、時間も確実に稼げるから困らなくなったというのが正しいかな」
軍監とか司教さんへ『貴方たちだから』ともったいを付けて海路の計画を話した。
秘密にするとか言っていたけれど今ごろは上司たちへ喋ってるだろう。南商豪が意外に思ったのが秘密を喋った事であり、海路を使うルートに関しては以外にも思っていない様に、中央の上層部も察している可能性はあったから遠慮なく話したというべきだろうか? まあお土産が足りないってのが一番の理由なんだけどさ。
ともあれ陸路で十年掛け確実に西領を奪還する計画と、リスクも増えるが海路で五年の計画。この二つを軸に出兵案を練り、仄めかすところからスタートした感じである。
「新しい切り札ねえ……。そいつが何かは聞かないでおくが、取り返せそうか? この際だが全部はいい。俺からすると港だけでも回収できれば良いんだ」
「あからさまだと呆れるべきか、それともその方が騙されなくて信用できると言うべきかな」
「そりゃどうも。で、どっちなんだ?」
まず大前提になるのが水棲種族との協調だ。
彼らを作戦全体、特に上陸戦での主戦力として計上できるならば海路はアリになる。彼ら以上に海流や風向きを知って居る者はおらず、魔族が思っていないペースで進軍できるからだ。この交渉自体は実のところ難しい訳でもない。
何しろ水棲種族が団結力と伝達力を何より重視する程に、彼らの出生率やら生存性は低いのだ。大規模な赤潮やら海の魔物など陸の視点ではそう多い訳ではないが……彼らから見ればどうだろうか? 常にどこかで起きている禍でしかない。西領にある居住地がゴッソリ使えないのは痛いだろう。
「水棲種族は動かせる。少なくとも今動くしかないと思わせることはできる。そういう意味で戦力と案内人に不安は無くなるんだ。むしろ大公閣下たち上層部が認めてくれるかの方が問題だね」
「それは判る。あんた以上に物判りの良い貴族はそう居ないからな」
水棲種族が持つ短所の一つは陸上拠点と交渉力を維持できない事だ。
外見に関しては気にすまい、有益ならばそういう事に目を瞑るのが人間と言う物だ。しかし陸上で長期の活動が難しいということが、単独での西側沿岸奪取が出来ていないことに繋がっている。また紅家のような有力者とコネを結んだとしても、彼らの事を理解して居ないのでまともな話に合いには加わり難いのである。
その点、僕は彼らの長所と短所を一通り知っている。継続的に陸上で活動できない点は、彼らが僕らを裏切ったり陸地に領土を求めないという意味で長所だと言い切る事も出来る。彼らの活動時間を測り、上陸戦や哨戒のみに任務を充てるなど生態に応じた割り振りもできる。
(普通ならここまで追い込まれてるとは思わないんだろうな。この辺はスケール・メリットならぬデメリットかな)
水棲種族は大集団が基本であり、海の脅威があるので基本的に目先の事しか動かない。
その為に人間に警戒され易く、同時に自分たちの居住地の確保や安全圏の保証などに大きく左右される。この先何十年と不安を抱えるよりは今に賭けた方が良いのは判るだろう。
こういう理屈で水棲種族は動くし、動くことを保証もできる。仮に頷かない場合は、協力してくれる範疇で彼らの協力を有効に使えば良いだけなのだ。少なくとも海路で偵察隊を送って、海路で回収するだけでも安全性が違うからね。
「……問題は港に防御力なんざないぞ? 向こうは陸路貿易の方が盛んだったからな。あんたご自慢の移設用の家屋だってそう運べない。いや、兵の数を送るなら天幕の方が良いはずだ」
「うん。だから僕の新しい切り札はそこなんだ。向こうで確実な方法で籠城して敵を引き付ける」
「はっ?」
南商豪は意味が分からないという表情を浮かべた。
まあ、そうだよね。籠城し難いと言ったのに自信満々に籠城が切り札だと言ったのだから理解は難しいだろう。難しくなきゃ相手の意表も突けないから意味が薄いのだが。
穀倉地帯である中央から西領のど真ん中までそのまま交易路だ。そこから地形が上下に延び、さらに西へ別の国が連なっている。西領の上下は海やら山を介して南領や北領と連なっていた。そんな地形なので城は沿岸部には少ないのである(北と南に面した所にはあるけれど)。
「どういうことだ?」
「街道から西進するより前に海路から進軍し、敵の一隊を引き付ける。魔物は一体一体が人間よりも強力だから、引き付けて分断する意味は大きい。ここまでは良いよね?」
「ああ……」
相手の戦力のみを分断するには、どちらかが囮である必要がある。
しかし中央から西へ向かう途中にある西方鎮台は魔族にとって攻略されて久しい。前線拠点として既に修復されているだろうし、こちらに少数を派遣しても意味が薄い。かといって陸路で攻める方がオーソドックスなので、こちらの方が主力にならざるを得ないのだ。
そうなると当然ながら海路で攻める方が囮にならざるを得ないが、敵が先にこちらを殲滅するために主力を割いた場合は何の防御手段も無いので各個撃破されるのはこちらだろう。やるならば主力が西方奪還に向けて動き出すよりも後、裏口を叩く程度にしか使えないと思うのが一般的である。
「もし囮として引き付けるならば、人間より強い魔物と一対一で戦えるように籠城戦をする必要がある。しかし防備に向いた港なんて存在しないし、守りに向いた場所は当然上陸もし難いし、物資も持ち込めない。普通は」
「じゃあどうするんだ? 水棲種族がバザーに用いてる艀を使うにしても限界があるぞ? 重要なのは水深と湾内の地形なんだ」
「……完成品を持ち込むならね」
いつもより食いつきが強いのが気になるが、何となく理解できた。
もしかしたらこいつ西領の出身者じゃないだろうか? 外国の人間で南商豪と名乗りはしたが、故郷または奥さんの故郷が西領と言う事は普通にあり得る。南の豪商人になる予定という言葉が、南で豪商人になるしかない……という意味かもしれない。
それはそれとして、彼が口にした艀を使うというのも考えた。あれを縦に繋いで水深の浅い場所にギリギリまで乗り付けるという方法だが、それだと重量物を持ち込み難いのだ。
「完成物じゃない?じゃあどうやって防御するんだ? 板切れを持ち込んだって柵が精々だぞ」
「それで良いんだよ。柵を三重に築き、その後ろに壁を立てる。規格統一した木材なら、船に積める量も『水棲種族が持てる重さ』にも調整し易いからね。完成品は投石器や大型のクロスボウだけあれば良いんだ」
「あ……」
簡単に言うと『墨俣一夜城』と『長篠の戦』の複合技である。
奇襲で上陸地点だけを確保し、初期の作業用立地と攻城兵器の配置場所にしてしまう。重要なのは海が天然の堀となり、魔物の移動ルートが固定され進んで来るのが判るような地形である。移動経路が丸判りなら、投石器とアーバレストで撃ちまくればいいのだ。
なんだったら船を複数用意して一隻ほど座礁させてしまっても良い。本格的に撤退する時には困るが、艀に掴まり泳いで逃げるのも良いだろう。普通ならば死ぬだけの逃走ルートだが、水棲種族の協力があれば海は死地ではない。
「この方法を取るなら最初に獲るべきなのは中間地点にある島かな。そこに物資を運びこんでピストン輸送すれば良い。あ、ピストンってのはこういう感じで小さく動く輸送の事ね」
「あ……ああ」
思わずこちらでは使わない言葉を使用してしまったが、これが後で思わぬ収穫になる。
以外と言えば意外だし、思いつかなかった方がおかしいレベルで小さな気づきは声まで存在した。
要するに彼は西の大公に親しい人間であり、南領の情報を知り状況をコントロールする為に送り込まれたスパイの様なものだったのだろう。どうりで僕の出した案が早い段階で対策され、軌道修正した形でこちらに戻ってくるはずである。
と言う訳でちょっとしたトラブルを片付けつつ、次回に向け詳しい話を。
二十五年計画を相手に否定させるための案にしつつ、海と陸から攻める感じ。
まあこういう感じで不利な戦線を受け持たないと、貴族のなったばかりの主人公が活躍する機会はないですからね。