妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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南商豪という男

 中央の反応で、以前から疑問に思っていたことがある。

彼らの目論見は幾つかあって南領に関する事は優先度の上であっても、最優先ではない筈だ。だから少しずつ追い詰めるか、逆に直接的でブン殴って終わりと言う具合であるはずなのだ。

 

しかしながら彼らの対応策は実に的確で、即座でこそないもののこちらが嫌だと思う方策を打ち出して来た。

 

「スパイは居るとは思ったけど、南部方面の元締めか何かが直ぐ傍に居るとは思わなかったな。どうりで対応が早いはずだよ」

 都に来て来訪を告げ、出仕に関する手配を整えていた。

底に送られてきた書状は日時を告げ、具体的に何をするかの内容を記載してあったのだが……。そこに西方奪還における『ピストン輸送作戦とやらを説明せよ』と言った内容が含まれていたのだ。

 

西方奪還の話をしたのは数名で、その中でピストン輸送の話をしたのは一人だけだ。もちろん侍女とかが忍者ッポイ何かが聞き耳を立てた可能性はゼロではないのだが。これが意味することは一つでしかない。

 

「……ピストン輸送? なんですのコレ?」

「二つの拠点を短時間で行き来させる輸送法だよ。こんな感じでね」

 脇から書状を覗き込んだ麗さんだが意味が分からなかったらしい。

戦場にしても行政に関しても詳しくない事から、どんな行為かを想像できなかったようだ。むしろエッチな方面を想像したらしく、昼間からそんな話をするなと赤面しながら注意されてしまった。

 

おそらくだが、この情報を持って帰った人物の話を上司もまた想像できなかったのだろう。だからその部分を、地方か何処か他国で使われている文言だと思ってそのまま記載したと思われる。

 

(これはどういう事かな? 『彼』にはちゃんと説明したはずだし、その場に忍者とか居たらやっぱり聞いているだろうし……意図的に説明を省いたとすると……)

 これまでスパイの元締めが近くにして、ある程度の権限で修正していたのだろう。

その元締めに直接ピストン輸送の内容を説明したが、その説明がされているならば手紙に記載する内容も変わっているはずだ。こんな書状を寄こせばバレるに決まって居るわけだが……『彼』がその事に気が付かないとも思えない。

 

つまりは気が付かせて、何らかの交渉をしたい。あるいは職業的に伝えはしたが『仕方ないからやっただけ、信用してくれ』と表明でもしているのだろうか?

 

(海路での奪還戦に乗り気だったし、内容に関する食い付きも凄かったしな。その辺を考えると是が非でも故郷の奪還に動いて欲しいから、スパイみたいなことをしてるって感じなのかな? そしてその事は本意ではないし、奪還してくれるなら西の大公じゃなくても良いと)

 過信は禁物だが、ここで正体をバラす意味が他に思いつけない。

そう思わせて信じさせ、僕を死地に送り込むとか? そこまでする必要があるとは思えないし、悌さまや侯爵さんに彼の正体を話してしまう事を考えたら割りに合わないだろう。

 

少なくとも彼……南商豪にそこまでする意味などないのだ。僕を殺したいなら暗殺者でも用意し、本人はスパイの頭目としての立場を守った方が賢いだろう。

 

(他に考えようがないし、ネタ晴らしのお陰で覚悟が出来たと思っておこう。しかし彼に話した事が筒抜けと言う事は、時間稼ぎは無駄だな。捨ててしまおう。全部の案を話さなくてよかった)

 立場もあるのだろうが、基本的に全部話したと思うべきだ。

ならばこちらも隠し事はせず、西方奪還が手早く行える海路案をさっさと切り出した方が良い。その方が裏表のない人間だと思われるかもしれないし、利用できると放置してくれる可能性は高かった。

 

そして……船を使い捨て、臨時の拠点にするアイデアを話さなくて良かったと思う。これを知られるかどうかで差があるのだ。もし背水の陣を敷かせるために船を壊す策を大公が採るとしたらどうだろうか? 再利用を考えて居る僕の案を潰すために、火を放つくらいはするだろう。

 

 西の大公に面会など出来なかった。そこに居たのは将軍と幕僚たちだ。

さすがに上手く行ったら自分たちの功績にするとは言わないが、僕がしゃしゃり出てくることに良い思いをして居そうにはない。

 

だったら呼びつけるなと言いたいが、彼らとしてもそうはいかないのだろう。

 

「この案を採用したとして、来年の今ごろには初期目標を達成できるのか?」

「彼らは僕の配下でも同盟者でもありません。今から使者として向かったとして、あちらの提示する条件を用意して赴かない限りは、要望を携えて戻ってくることになるでしょう。双方の進捗を合わせて出征準備を整えるのが精々かと」

「それでは遅い!」

 将軍は挨拶程度に留め、代わりに幕僚たちが好き勝手なことを言ってくる。

もし身内だけの討論会で同じことを口にしたら、『お前は馬鹿か?』と返されたに違いない。子供の使いではないから色々用意するにせよ、大きな交渉を一介のメッセンジャーが全てこなせる訳はないのだ。

 

諸条件を予想して相手の望む答えをある程度呑むことが精々だろう。もしそこから大きな要求をされたら、絶対に手に余るのでトンボ返りをする羽目になるはずだ。少なくとも水棲種族の方が信用しないだろう。

 

「貴殿の部隊はあっという間に城を再建したそうだが? 手を抜く気か?」

「建物と軍船の用意は別物です。この作戦案に記載した通り、陣地だけならば難しくはありません。しかし十分な数の軍船を建造するには時間が掛かりますよ。もちろんその間に使者として話は付けに行くと仮定して、です」

「先ほど聞いたピストン輸送とやらで補えば良いではないか」

 一夜城の話を知らないこともあり幕僚の数人は驚いていた。

そんな手法があるとは聞かされてないのだろうが、逆に聞いている者は平然と痛い所を突いてくる。こういうところが現地スパイによる情報収集の恐ろしい所だが、将軍の麾下にも派閥があるようで面白かった。

 

しかし将軍の方はまったく動じてない。どんな話も『そうか』と言う感じでスルーしている。もしかしたら部下が優秀なタイプなのか、あるいは複数人居る中で窓際の下級なのかもしれない。逆に身分だけは高い御坊ちゃんの将軍と言う可能性もあるが。

 

「陸路ならばそれも可能でしょう。しかし場所は海、それも冬ですよ? 小さなボートを引っ張ってもらい人を運ぶにせよ、今度はその準備と交渉に時間が掛かります。少なくとも想定される要望以上の代価を要求されるでしょうね」

「その程度の条件、呑んでやればよいではないか! 所詮は沿岸部の話であろう!」

「……同じ言葉をオアシスや鉱山に置き換えてください。砂漠に人は少ないのだ、湖の一つや二つくれてやれば良いだろう。山なら鉱山は幾らでもあるだろう。故郷の方にそう説明できますか?」

 面倒なのは西領出身者と中央出身者が混ざり合っている事だった。

どちらも沿岸部に関しては関心が薄く、縄張りとか貴重な土地での利権などに無頓着な所がある。まあ西領の港に住む人々が全滅して居るとか、半減して居れば話は違うのかもしれないが……。少なくとも話の初動で南領の沿岸部を保障として渡せと言うだろう。西領を確保したら返すとでも言うに違いない。

 

いずれにせよ僕の手には余る。一介の貴族、それも成り立てで名望などない男に務まるはずはなかった。個人的な仕事やら集団としての紹介ならともかく、国家と種族単位の取り決めなのである。

 

「陸路ならば五年は掛かる計画を、海路も使えば三年には短縮できます。ここから二年を目指すならば発言力があり、相手からも信用される地位の人間が交渉役に就く必要があります。僕に出来るのは、その御方に案を提示して情報を集めてくる位なものですよ」

 もちろんこの話を引き受ける人間は侯爵さんではない。

南領の代表者たる彼ならば問題はないが、そんな人物を交渉の場に引き出せるはずがない。ましてや南領の領地や縄張りを担保に使って、水棲種族と交渉しろなんて提案したら僕の首は切り離されている可能性はあった。

 

ある程度は中央なり西領に地位か身分を持ち、水棲種族や南領との間を取り持てる人物である。侯爵さんと僕の中間……紅包さまでも難しいだろう。彼は武芸者としてはともかく、将軍や政治家としては名前を馳せて居ないからだ。

 

「そういう事ならば打ってつけの人物がおるぞ。本人も望んでおるだろうから問題ない」

「閣下? それは……?」

「末の弟だ。沿岸部を取り込んだ時にアレの母が嫁いできた」

 ここにきて将軍が口を挟み、幕僚の一部が首を傾げた。

見たところ中央出身の幕僚が疑問を抱いているので、この人物は西領出身者なのだろう。……というか大公さんの息子か甥であろうと思われた。

 

そしてこの情報で一連の話が僕の頭の中でつながる。西大公の一族に沿岸部が併合され、お姫様か何かを要求された沿岸部の小国でもあったのだろう。そのお姫様は妾と成って子を産み、年齢的にも属国出身と言う事もあって、子供は放置気味に育ったと思われる。

 

「弟を正式な使者として条件を整えさせよう。銀双羽と申したな? 貴様にはその副使の地位と……そうだな。見返りに海路側の監督官の地位もやろう。無理のないペースで構わんが、確実に軍を整えるのだ」

「……承知いたしました。非才の限りですが、全力を尽くします」

 やられた……というのが正直な感想だった。

貴族のお坊ちゃん出身の将軍なのは間違いがないが、よりにもよって西領の上位者だったようだ。少なくとも末っ子で放置気味の弟よりも上の地位に居るのは間違いがない。

 

そして副使はともかく監督官というのは罠だ。南領の軍師格のまま責任を負わせる為だろう。予定通りの進捗ができないならば、それはお前のせいだという為だ。他の人間に任せても良いはずだが、この方法を取れば正式に理由を付けて、僕を呼びつけられるのだから。

 

(しかし……あいつ、王子さまじゃないにしろ公子さまだったんだな)

 おそらくは南商豪と名乗る男が弟だろう。

併合した姫に産ませた子供なので地位が低くないがしろにされており、彼としては故郷を取り戻したいのだろう。それも西領全体よりも、母親の故郷である沿岸都市だ。独立は無理にしても、自由都市としてある程度の裁量が任される展望も見えているのだろう。

 

何せこの将軍閣下が期待している、水棲種族に対する補償と言うのは予定されている領地であると思れた。既に放り出した土地ならば、幾らでも自分達の知らないところで切り貼りしてくれと言えるのだから。




 と言う訳で西の大公じゃなくて、その息子が出てきました。
まあお飾りの将軍で、部下が嫌味を言ってただけですが。
そして今まで出てきた南商豪という男は、潜入用の偽名と言う感じですね。

なお前に『普通の商人から予定を変えた』と後書きで書いたのは
中央からのスパイでランクは普通の商人だったけど、頭目が自らやって来ただけです。
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