妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】 作:ノイラーテム
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南商豪という男は思えば最初から奇妙な所があった。
水棲種族の所で僕が作った商品を見て、河川協同組合を設立したという話を聞いてお近づきに成りたい……と最初だけは殊勝にしていたのだ。それでいて傲岸不遜で自主独立の気風がある事を隠しもしなかった。
それでいて僕の用意した技術で勝手にやるという風情は見せたが、不思議と自嘲はしていた。そして極めつけは橙家の縁者を探す件だ。探すだけなら低俗な候補が幾らでも居ように、まだ連れてきては居ない。
「思えば籠の鳥仲間を増やすのが嫌だったんだろうな。僕も領主生活を望まない人は紹介しなくて構わないって強要しなかったし」
南商豪の母親が西領に併合された独立領のお姫様だったとして……。
領土獲得のために担ぎ上げられ、領主に成れと言われる人間に感傷を抱いてもおかしくはない。もちろんそれなくして策謀が成り立たないならば、自分の代わりに差し出すかもしれないが……。橙家に関してはダメ元の話だったし、特に触る気はなかったのかもしれない。
そんな風に自室おして駆りている部屋で考えて居た時、ノックする音と共に麗さんが部屋に入って来た。
「あなた。白南終って方をご存じ? 面会を求められているそうなのだけど」
「……覚えはないけど、心当たりならあるかな。多分、大公閣下が妾に産ませた子供だよ。公子に付ける名前じゃないけどね……。見知った人の本名だと思うけどあんまり驚かないで欲しいかな」
おそらくはこれが南商豪の本名だろう。
白というのは大公家の御料地で、白紗という砂の台地にある都市の名前だと思う。オアシスを囲んだ総構えの城で、砂地から城壁を攻撃し難い事もあって鉄壁の守りだと昔は言われていた場所である。過去形なのは魔族に攻め落とされたからだが。
その上で本来ならば貴族の子弟には付けない出身地の名前も、戦で奪った女の息子という意味ならば何となく理解できる。そして末っ子であり、これ以上は子供はいらないという意味で終と言う名前を付けられたのではないだろうか?
「よう。黙っていて悪かったな」
「キリー・ゲラルドだったっけ? それとも南商豪の方が良かったかもしれないけど」
やはり南商豪が公子さまであった。
彼の名乗った名前を鑑みれば、偽名であると同時に本名を気に入って居ないことは判る。南と言うのは出身地なのでまだしも、終わるなどという単語を名前にされて嬉しかろうはずがない。
名乗り方に引っ掛けられたというべきだが、最初から疑う様なうさん臭さだったので不思議と腹が立ってはいない。彼の部下が潜むよりは、警戒心を強くして騙されることを計算に入れられたからだろう。
「覚えててくれたんだな、ソレ。一応はおふくろが付けてくれた故郷の名前だから結構気に入ってるんだぜ?」
「……それでキリーさんは何の用事で? いや、まあ世間的には公使と副使の顔合わせなんだろうけどさ」
向こうが身分としてはありえないくらいにフランクなので、こっちも単刀直入に返す。
彼の立場はともかく、それが望みであろうと思われるからだ。僕の場合は転生者な上に悪代官から逃げ出した身なので、北領にはそれほど望郷の念はない。前世に関しても暮らし易かった当時の生活の方が懐かしいくらいである。
故郷を懐かしむ気持ちに共感は出来ないが、大切な場所と言うならば仲間や恋人と共に作り上げた村こそが第二の故郷だろうか。奪われたくないという気持ちであれば納得は出来る。
「話が早くて助かる。前にも言ったような気がするけどな。判ってるだろうが俺としちゃあ、おふくろの故郷であり俺が育った町を取り戻したいわけさ。西領なんざ正直どうでも良いがね」
「ふ~ん。そう言い切れるなら余計な重みが無くて助かるけどね」
割り切った答えは助かるが、本当にそうだろうか?
義理人情と言うのは捨てがたいものだ。西領自体はともかくとして、彼を助けたり協力した部下たちや商人などを見捨てられるのだろうか? 出来たとするなら本心で付き合いたい相手ではないし、出来ないのであれば今後が難しくなるのだけれど。
とはいえ建前でも言い切ってくれるならば判ったと言い返しておこう。作戦を考える上で、ある程度の余裕を持たせれば良いだけだ。
「独立独歩を保つだけなら故郷の人々だけを助けて、何処かの島に移住することをお勧めするけどね。沿岸部とはいえ西領が本格的に復帰したら、何を言われるか判らないと思うけど」
「それが出来ないから苦労してるのさ。全員が移住してくれるなら、とっくに助け出してる」
彼の言う故郷が住民のみならば話は早かっただろう。
助けるだけ助けて、水棲種族に頼って何処かの島を貰えばよい。彼らに気を使って生きる必要はあるし、従属関係と言うのは変わらない。しかし陸上を得意としない彼らとならば良い関係が築けるはずだ。だが残念ながら土地を含めての物らしいので難しい選択肢を迫られる可能性はあった。
ただ、話の内容から少しだけ前向きな情報を伺えた。もしかして、西領の現在の状況をそれなりに知っているのだろうか?
「と言う事は現在進行形で移住には反対なんだ? 飢餓で動けないとか以外でも」
「そういう事だ。連中は住民を奴隷にはしてるが皆殺しにしてる訳でもないし、いちいち交流を見張ってる訳でもないからな。俺が直接見たわけじゃないが、大回りしてセントール族の居る大平原から行けば商人も入り込めるらしい」
西領のもっと西!? 意外ではあるが納得のいく話だった。
西部域は地続きなので、西領よりも西に土地が広がっている。他の国と隣接しているわけだが、遊牧民とセントール族……所謂ケンタウルスの国らしい。ケンタウルスは屈強な種族であり、魔族とも敵対していないそうなのである程度は交流があるのだろう。まあケンタウルスの移動力を考えたら、魔族でも倒しきれないと察しているだけだろうが。
しかしこのことで、現地の情報をある程度は確保できることが判った。既にそれなりの情報が知られているだろうし、現地を段階的に開放することで、もっと詳細な事情も判明するに違いない。
「なるほど、これでだいぶ読めて来た。大公閣下を中心として上層部も馬鹿揃いじゃない筈なのに、どうりで強硬策を進める筈だよ。現地の情報があるから今なら勝てると踏んだわけか」
「それはそれとして、南領やら東領の兵を使い倒したいんだろうけどな」
「死ぬのは他所の兵士なら都合が良いって事だろうね」
つまり情相手の手薄な場所を知って居るから、そこを突ければ勝てると判っている。
しかし全部を話せば敵にも知られるし、仮に自分達だけでもギリギリで勝てる兵数なら勝手にやれと言われそうだから黙っていたのだろう。逆に言えば南領や東領の兵が居れば楽ができるし、そこで死んでくれれば今の権勢も保ったままだから彼らからすれば『そうあるべき道』なのだ。
だから馬鹿は馬鹿役の人間にやらせておいて、上層部は状況を誘導していたに違いない。
「その情報を回してくれるなら時間も短縮できるし援護もできると思うよ。その上でだけど、最後まで君は信頼されてるの? 妾の子供だからついでに処分しようとか言われたりはしないかな?」
「言ってくれるな。まあその心配がないとは言わんがね。下の兄はギリギリまでは信用できる」
一番困るのは南領の兵士共々、沿岸部から解放に向かったこいつを処分しようとする流れだ。
公子が居るから大丈夫と思って油断していると、何時まで経っても援軍は来ずボロボロになった敵軍を後ろから、それもこちらの生き残りと一緒に殲滅なんて悪辣な事をしかねなかった。
その辺をこの男は承知しつつも、それなりの保証があると告げた。
「下の?」
「会ったろ? 俺らを推薦した将軍閣下さ。一番上の長兄は出来過ぎて謀殺されてね。下の兄貴は子殺しに合わないように馬鹿を演じた上で、自分は中央の将軍になったんだ。他所に出たから実家の事は知りません、上級貴族だから全て部下に任せますってフリをしてる」
「……なるほど。そのお兄さんが大公閣下を追い出すまでは安全って事だね」
信長じゃないが馬鹿を演じて外から後継者の地位を狙っているらしい。
次男か三男ともども父親が一か所に居る時に、速攻で謀殺することで成り代わるつもりなのだろうか? まあ後ろくらい陰謀を暴きたてて、兵を率いて正統性をもおめるというコースかもしれないけどね。
いずれにせよあの将軍閣下が大公閣下と争っている間は問題ないらしい。少なくとも援軍を求め、南領やらの支援を引き出すためにもこちらを処分することはないという見通しだ。全てを信じるわけにはいかないが、何とかなりそうな雰囲気ではある。
「それで、だ。作戦そのものはこないだ聞いたから問題ないと保証しても良い。一足飛びに故郷を奪還しろとはいわないが、段階的に解放するなら打ってつけの上陸地点がある。だが……」
「だが? 何が懸念があるの?」
現地の地形も理解しているとあって、なんとかなりそうなのは助かる。
信用しきるわけにはいかないが、自分も行くと口にしている以上は大丈夫だろう。その上で問題があると口にした。
「そりゃあ海を掘に使えるならの話だろ? 巨人はもういないが、空飛ぶ魔物どもが居るぞ。なんとかできる作戦がないと死ぬのは俺らだ」
「それなら問題ない。実は城壁と塔代わりに使えるモノに当てがあるんだ」
どうやら飛行する魔物の群れが居るらしい。
ドラゴンじゃないそうなので、むしろ安心した。巨人とドラゴンが束になって来たらどうしようもないけれど、相手がハーピーとかグリフォンなら何とかなるからね。流石にワイバーンの群れだと怪しいけれど。
と言う訳で話が大きく動きます。
「先に情報収集だ!」と言う話でしたが、「もうあるぜ! 代わりにお願い!」
ということになったので、細かい作戦を詰めていく感じになります。
あとは交渉ですが、その辺はまあ通る内容を思いつけますので。