妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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洞府を開く為に

 あれから良い事と悪い事が入り混じったような出来事が幾つも起こる。

予定通りに進んだのなんて最初のアンデッド掃討戦と荘園を手に入れた事くらいだ。

 

分かり易いのは避難した村人の帰郷が遅れている事。

おそらくだが、いつもはこれほどまでに早く退治して居ないので、税を集めるために領主が焦って嘘でも言ってるとでも思っているのだろう。なので税とか、その代用である労働をお願いするのはまだまだ先だ。

 

「ところで思ったよりもエルフの御客人が多いのはなんで?」

「双羽が作った温室ってやつ? 説明したら興味があるみたいでさ」

 予想もしていなかった技術泥棒にビックリである。

他所の町の技術者がコピーしに来るくらいは予想し、隠すための準備も考えていたが……まさかエルフが正面からやって来るとは思いもしなかった。

 

これをどう断ろうか、それとも技術が完成した所で高い値を付けるべきかを物凄い悩む。

 

「あ、心配しなくても増やした薬草を人間の領域に売り出しはしないわよ? エルフの領域でも育成に困ってる樹があるだけだから。ちゃんとお礼もするし」

「そこは必須の確認事項だね。いきなり金ランク予定者から資格を剝奪するところだったよ」

 危ない。もう少しで友人から知人どころか、見下げ果てた奴扱いするところだった。

転生前は日本人だったので、秘かに評価を変動させることに定評がある。まあ最低限の筋は通すようなのでそこは安心できた。

 

ならば代価は何が良いかな……と要求する物を考えていると、更なる爆弾が降り注ぐ。

 

「あ、そうだ。銀以上のランクで良いんだけど資料とかもらえる?」

「……建前の上では国相手でも関与を認めないってつもりだから基本は無理」

 目が半眼になって胡散臭い話を見る状態いなってる気がする。

それくらいに仰天する程の直球ぶりだ。紅梓はエルフらしから思慮の無さを発揮することもあるが、今回は特段だった。

 

じゃあ良いのね? みたいな感じで首を傾げる辺り救いようがない。

僕はエルフスキーでも何でもないので、この辺の対応は容赦なくすべきだろう。なおこの世界のエルフは髪を染めたり入れ墨入れたりする文化があるので、僕の好みから外れます。あとは主に性格が……ね。

 

「建前で、基本的にってことは条件付きでOk?」

「まあね。まだ冒険者ギルド自体が無いも同然だし、銀以上の審査には金ランク冒険者が立ち会うようにしようかと思ってる。あと……」

 言葉を濁すとキラキラした目で見つめて来る。

このエルフ食いつきが良いな~と思う以上に、本当に遥か年上なのか疑問に思えて来る。

 

とはいえ誤魔化すのも面倒だし、いずれやってくる事態に備えて用意した資料があるのでソレを出すだけだ。

 

「エルフの里にも冒険者ギルドを作って、ちゃんと資料の交換とか業績のまとめとか送ってくれるなら何の問題も無く渡せるよ。あくまでダメなのは他所の組織であって、身内は構わないから」

「じゃあ問題は解決ね。ええと冒険者ギルドの支部を作るには……面倒くさい」

 例え国であろうとも見せないというのは、あくまで口を挟まれたくないという建前でしかない。

そもそも荘園主である僕自身が初代ギルドマスターに収まる予定なのだ。それこそ国家騎士団なり魔術師団の中にギルドがある事にして、一定ランク以上のメンバーを引き抜いたら終わりである。

 

まだ成立したばかりで資料しかなく、他の市町村に何の影響力も無い組織なのだ。そこまで目くじらを立てることも無いし、裏技なら山ほどあるに決まっている。

 

「だいたい、警戒しているのはギルドメンバーが勝手に森に入ることだよね? それならこっちに来てるエルフに登録してもらって、そっち方面の依頼は全部こなせばいいじゃない。今の処、こっちで珍しい薬草とか探してもらうくらいは紅梓さん達なら散歩のついででしょ」

「その手があったか! 何年か後には中核メンバーがエルフだけで揃えられそうね!」

 妥協ではあるが、この方法ならば即席冒険者が用意できる。

地図を描いてくれとか言っても頑として受付ないだろうが、『薬草を採集する依頼』と『エルフとの交易で薬草を買う』という複数の手段が用意できるのが大きい。

 

もちろん温室とも併用できるので、うちの荘園からはかなり植物類の安定供給が可能になるだろう。

 

「とりあえず薬草とかの採集でも悪くない報酬は出すから、そっちで必要な物はその資金で買えると思うよ。行商人がここまで売買しに来るようになれば、都会でしか売ってないような物も注文できると思います」

「あんまり欲しいと思う物無かったけど……まあその辺は了解」

 概ね受け入れられたのでエルフ冒険者に関しては問題なさそうだ。

これで人員について底上げ出来たし、植物の安定供給と言うウリがあれば行商人がやって来るだけのメリットがある。

 

昔から言われている言葉だが、『近くに美味い飯屋やファーストフードがあるのに、どうして遠くの創作料理を食べに行く必要があるのか?』という言葉がある。それだけ何をやってるか分からない場所には行きたくないし、それが遠方ならば猶更だろう。その点、うちは質の高い薬草やら花が用意できるのだから訪れるメリットがあるはずだ。

 

「温室に関しても幾つか条件候補を用意しておくんで、そのどれか……または適当な複合でくださいな。くれぐれもこれ『全部呑む必要がある』だなんて誤解はさせないでね?」

「やあねえ。幾らなんでもそんなわけないじゃない」

 そういって笑う紅梓だが、過去にやらかしたことがあるので信用が置けない。

せっかく他のエルフたちが来ている事だし、不信に思われないように仲介したらちゃんと説明しておこうと思う。

 

ともあれエルフの件で悪い点もあったが良い点もあった。

村人が戻って来るペースが遅い事よりも、将来に向けた点ではよほど大きいだろう。温室のコピーも人間の領域に持ち込まないなら悪い影響はないだろうし。

 

(それに温度とか管理する結界を敷いたら、向こうには神職居ないらしいから全部パクられる訳でもないしね。……住民はまだ少ないけどそろそろ洞府を開くかな)

 準備が出来つつあるのに開かなかったのは、住民の思考と行動半径だ。

御利益をもたらす神様なら崇めるというなら人の行き来が多い場所でも良いし、排他感が強いならば逆だろう。日・月や森・山などのエネルギーが多い場所に作るのが定番なのだし、最初は積極的に広める必要はない。

 

それはそれとしてサッサと開きたいという気持ちもある。

転生させてくれたことの感謝は既に伝えてあるが、やはり慶事があれば折に触れて感謝の気持ちは捧げたいものだ。無事に荘園は手に入ったし、季節的に最初の収穫も間もなくというのもある。

 

(それに際してやはり教義は現世利益がいいかなー。僕自身が転生前の生活と比べちゃうし、銭湯だって娯楽施設に成っちゃてるしね)

 現世利益をも求めて生活を向上させ、他者を排除するのではなく努力を促す神様。

そう考え得れば崇めて悪い気はしないし、知識やコツを授けてくれる存在はありがたい物だ。現地宗教との折り合いもバッチリである。

 

それはそれとして面白かったのが、生活魔法という他愛ない魔法の存在だ。しかし、これがなかなか侮れない。清潔を保つ魔法とかだと掃除が簡単どころか、おそらくは殺菌作用があると思われた。そういう意味で入浴は完全にリフレッシュを目的とした娯楽になっている。

 

(本殿は別にして、やっぱり分社は銭湯に作るかな……。なんかこの流れだと、生活魔法の台頭で廃れた神様っぽいけど……)

 洞府を開設するメリットとしては、一番が結界の維持管理がやり易く成る事。

結界と言うのは敷設するとお互いが抵触したり、存在するだけで消耗したりする。

 

しかし洞府があるとその影響下にある限り、維持管理が一括化されるので扱い易くなるのだ。……洞府による全体結界が最上位である必要はあるのだが。

 

(後はやっぱり、神様の声が聞けるのはありがたいよね。特に未来予知とか授けてくれずとも、相談できるのは助かるもん)

 何というか俗世の事に関しては特に協力的と言う訳でもない。

しかしどういう場所が効率よくエネルギー集められるかとか、結界の維持管理がし易くなるとか押してくれたのも神様だ。

 

(……そう言えば結界と言うか、保全する機能のアレンジバージョンで体温の保全とか、『方向の保全』で指南車というコンパスもどきの作り方を教えてくれたのは地味にありがたかったなあ。アレがあると戦闘とか凄い楽だもん)

 指南車というのは黄帝という偉い神様にうちの神様が授けたとかいう便利グッズである。

コンパスと違うのは、特定の方向を二か所設定することだ。仮に片方は北に固定することでコンパスと同じ使い道をするとして、もう片方を太陽に設定すれば時間が判る。そして本隊に設定すれば遠距離行動しても迷う事は無いし、敵軍の本陣であれば霧の中であろうとも自在に奇襲ができる。

 

ただこれらの設定には能力同士の抵触で上手く維持管理できないと、あっという間に破綻してしまうのだ。論理的に矛盾がと言うわけでは無く、距離とか強度的な問題の方である。土台に当たる術式を一番強くして、コンパスの針みたいなのを次に、その次は……とか面倒過ぎる内容だった。教えてくれる人が居ないと完成は難しそうだ。

 

(その辺の逸話込みで、やっぱり軍師系の神様だよね。今の処……おばあちゃんの知恵袋的な扱いしかしてないけど)

 何というか申し訳なさで溢れ、洞府の設営に尽力すると改めて誓った。

となると早速行動ではあるが、全体計画もあって大きく変わるわけでは無い。お風呂など現世利益を感じられるところに幾つかの場所に分社を置くとして……本殿はやはりエネルギー的なモノが良い場所だろう。

 

この村は盆地なので山は四方にあるが別に四神相応と言う訳でもないので、川は西に流れて一番大きな森……エルフの領域もそちらにある。ちなみにドワーフの領域は四方にある山の内、東南に当たるエリアがソレだ。

 

「東から真新しい太陽の光……いや。日月の両方を取り入れるならやっぱり陽と月の両方が掛かる夕方を基準にすべきなのか? その上で川と山の配置を考えると北西側かなあ」

 元の世界では西域の神様だからといって、別に合わせたわけでもない。

しかし他の色々を兼ね合わせるとどうしてもその辺りになるのだ。村の中央には火事場と銭湯があるので上流側にしたくなるのもあり、エルフの領域を避けるならば北寄りにならざるを得ない。ゆえに北西なのである。

 

それはそれとして考え込んでいた僕が急に声を出したので、静にしていた双葉が顔をあげた。

 

「どしたの?」

「あー。神様のお社をまた作ろうかと思ってね」

 故郷に居た頃は二人の遊び場にしていた場所に作ったんだっけか。

隠れる事が出来て、そもそも住んでいる地域が山間の村だったので自然と洞穴になった。

 

しかし不思議なのは双葉の顔が輝くような笑顔になったことだ。この反応はどう考えても昔の事を思い出して、ほんのりと懐かしむような感覚ではない。

 

「桃園の神様!」

「あー。桃も生えていたらしいね。……エルフの人に聞いてみようか。あったら植樹しよう」

 西域の神様だったらしいが、その山には桃が生えていたという。

それを酒にしたり若返りの薬として食べていたそうな。……桃太郎の逸話で爺さん婆さんが若返ってエッチな事をして桃太郎が生まれるという話があるが、それは此処から来ているのだという。

 

まあフルーツ一杯食べられるようにするって約束したし、エルフと交易するなり温室技術の代わりにもらうなりするとしようか。

 

「となると、お蚕さんも欲しいかな。家蚕じゃなくて純正の天蚕になりそうな気もするけど」

 蚕の逸話も面白くて、確か禁輸品だったころに御姫様が嫁ぐ時に髪の毛に隠したんだったか。

この国には普通に家蚕が居るので大儲けは無理だが、自分の荘園で生産して居れば独自の装束を作れるだろう。

 

最初はコスプレみたいな扱いされるだろうけれど、前世の思い出を参考に色々と紡ぎあげていくのも悪くないかもしれない。今回は双葉を着飾らせても悪代官に目を付けられたりはしないだろうしね。

 

こうして洞府を開く準備を整えると同時に、本格的にエルフに注文する内容を決める事にした。




 全てが順調な訳でもないので、少しだけ足踏み。
その間に色々準備をやっていく感じですね。

●エルフの文化と対応
 植物傾斜した文化なんだから、植物向けの技術が出たら関心持つのは当然。
エルフは原始生活だというテンプレを信じた主人公が悪いというか……。
その代わりに普通に交渉とか交易は乗ってきます。
別に排他的だからといって、対等の交渉や利益が出るなら何もしない訳でもない。

なお作中にある様に、この世界のエルフは髪を締めたりタトゥー入れたりします。
目元とかに隈取を入れたり、紅粉を引く人も居たり。
ただパンクロッカーまで入ってない感じですね。
ちなみに紅梓さんは金髪碧眼の典型的な容姿ですが、髪の毛を一房ほど紅に。
そして梓の木を示すタトゥーと、それを補強するアクセを付けています。
人間でいうと名札を付けてる感じですが、そういうのを恥ずかしがる文化ではないです。

ともあれ次回で洞府を設営するので、その早ければ次くらいから神様で来るのかな。
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