妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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共生と共闘と

 年末に水棲種族を説得する話だったのだが……。

気が付いたら事業説明会になっていた。思い付きではあるが狙ってやってるので幻覚ではない。

 

緋家の領主たちには先行して手紙を送り、離間の計として監督役に指名されたり海路を併用するルートを命じられたが、この対策を伝えると連絡してある。もちろん同時に水棲種族が列席することもだ。

 

「急な話で各領地の余裕がない上に、こちらを囮どころか使い潰す気かもしれないので第一段階は少数精鋭のみで行います。僕と希望者以外はギリギリまで参加を見合わせて構いません。そして第二段階初動までは確保した島での待機となるかと」

「いや、その……」

「言い方は悪いが……正気なのか?」

 僕は簡略地図を置いて一気に説明した。

途中で口を挟まれると面倒な上、前提段階をいきなり論議し始めるからだ。こういうのは所定の方針として言い切った方が良いと最近の経験で判った。

 

その上で諸将の中にいきなり首を傾げるのが出るのも当然だ。何しろ無謀な試みに見えるのだから。

 

「もちろん採算はあります。僕だって死にたくありませんからね。まずは一つずつ説明いたしましょう。最初に少数精鋭で動くのは領内の疲弊と混乱を収めるのに時間が掛かるのに、中央はゴリ押しを行うという矛盾をクリアするためです」

 当初案では五年後に西方奪還を行うはずだった。

しかし中央は穀倉地帯奪還における被害が少なく、予算も抑えられたことで前倒しを要求して来た。仕方ないので海路を使った二面作戦で何とかする訳だが、南領の別動隊を送り込み、陸路で西領を目指すのとは別ルートで魔族の目を引き付けるのが役目だった。そして安全にピストン輸送で上陸するのが第二段階と言う訳だ。

 

問題なのは海路は遠いので相互監視が出来ず、同時に作戦進行が出来ない事である。

 

「第一段階始動を中央が強く要求するのは間違いありません。そこで少々無謀に見える試みを行わなければならないのです。ならば言い出しっぺの僕が行くのは当然でしょう」

 中央は自分たちが安全に攻略を行うために、こちらを囮として使うだろう。

南領の行軍速度に文句を付けつつ、自分たちが動きを遅くしてもこちらの出馬要請を無視する気だろう。だから海路が先に動かざるを得ず、しかも見殺しにされる可能性を憂慮せねばならない。

 

ここで出る問題は早めに出る必要があり、それなのに引き返すことが難しい事だ。街道を通って動く筈の本隊がまるで動かずとも、こちらは判らない。場合によっては敵の精鋭部隊を丸々押し付けられ、少しでも減らすことが任務だと言われかねなかった。陸路ならば自分達も足を止める事もできるし引き返せるが、海路ではそうも行かないのだ。

 

「しかし、しかしだ銀殿。貴公は城ケ崎を、姉妹島を僅かな塀で攻略するとでも言うのか?」

「それとも水棲種族の力を借り代価として与えると? それはそれで禍根を残さんか?」

「その質問には戦力ではなく、情報を頂くとお答えしましょう」

 諸将が無謀に思っているのは、彼らから見て絶好の地形が一つだからだ。

干潮になると地続きになる小さな島と、その向こうにある比較的に大きな島。そこは西領の南部にあった沿岸都市を守るために古くから活躍した場所でもある。日本で言えば三浦半島の江ノ島、フランスならばモンサンミッシェルみたいな場所だと思ってくれれば良い。

 

地続きになる小さい妹ヶ崎は砦一つあれば守り易く、もう片方の姉ヶ崎はそれなりの軍勢を伏せて置ける。この双子島に船を隠して置けるので、海路から沿岸都市を目指すならば必ず落とさねばならない場所であった。

 

(まあ、城ケ崎なんか落とさないんだけどね。というかネ-ムドの要塞島を落せとかムリゲー過ぎるし)

 繰り返すが、第一段階は西領間近にある島を確保する事だ。

しかし別に難所を落すとは一言も言ってはいない。『人間の常識的』にそこを落とすことが最も効率的だからそう思えるのである。そして口に出して否定しないのは、その常識を中央にも思わせておく為だった。

 

だって囮として使い潰すつもりならば、攻めるタイミングとか普通に通報するよね? なら攻めない場所に敵戦力を集中されても構わないのだ。

 

(敵を騙すならばまず味方からと言うけど、宣戦布告して来ない自称味方だからね。この際だから利用させてもらおうか)

 中央でも中間の島からピストン輸送で上陸戦を行うとしか伝えていない。

上陸戦を邪魔するいやらしい場所に要塞島があるから、常識的にはそこを落とすのが当然だから聞かれなかっただけである。南商豪と呼ぶべきか西小終と呼ぶべきか分からないが、彼にだけは伝えておく必要があるだろう。現地に潜り込んだ工作部隊とか、無駄死にされても困るからね。

 

しかし中央政府に出した案やこの段階での話し合いでは、詳細まで伝える必要はないし、口にしない方が後に安全まであった。

 

「龍学才さん。僕の予想ではあの近辺に千近い島があり、海流の変化も実は複雑と見ていますがいかがですか?」

「ふむ。……我々の視点で良ければそうですな。近くに潜んで敵の増援を報告したり、小数であれば討ち取る事も可能ですぞ」

「おお!」

 今回、同席してもらったのは赤色港に居た龍学才さんだ。

彼は陸上での特使であり、外交官であると同時に色々な権限を持っている。流石に情報をいきなりはくれないが、イエス・ノーくらいを口にする事は無理ではないそうだ。

 

ちなみにこの辺の流れは前もって根回ししているので、いきなり駄目だと言われる可能性は低かった。

 

「これならば行けるのではないか? 十分に採算が……」

「お待ちくだされ。そこまでの協力ならば幾らでも致しましょう。双方の益であり、これまでの信頼関係もありますからな。しかし、それ以上を求められるならば……何をいただけるかをこの龍学才にお教え願いたいですのう」

「まあ、それはそうですよね」

 当然と言えば当然だが、他人の命を動かすならば相応の代価が必要になる。

小島に潜んで情報を伝えたり、敵の増援を邪魔したり少数ならば討ち取る。あるいは海流に載せて船を高速で運ぶ程度ならば問題ないと言ってくれる。だがそれ以上はどうだろうか?

 

当たり前だがこちらも命を賭けるか、あるいは生息領域の拡大なり、生存権強化への援助が必要だろう。

 

「城ケ崎の砦をお渡しするのは先ほど指摘されましたが、中央……というか西領の大公閣下がお許しにならないでしょう。そこでこんな計画を用意いたしました。これは後払いになりますが、前払いとして別のモノも用意しております」

「ホホウ……お見せいただきましょうか」

 ここで見せるのは普通の沿岸工事の援助と、この前に考えた水塞都市だ。

前者は妥当な話で魅力も薄いが実行し易く、場所は何処でも良いので水棲種族だけが得をする事も出来る。後者は人間と協力し合い、大きな港町を作り上げそこに水棲種族が逃げ込めるように、あるいは過ごし難い時は休めるように設計したものである。

 

最初から水塞都市だけにして形状にこだわっても良かったのだが……、一人の視点での改良と言う物が必ずしも望まれていないので段階を分けて置いた。僕が村でやった改良も、多くは無駄であったり作った当時は意味が薄い物であったからだ。

 

「いやあ、何と魅力的な提案ですな。人と共生関係というのが実によろしい。この計画ならば捨てられることもありますまい」

「中央が提供する報酬みたいに口約束にはしたくありませんので」

「では改めてお尋ねしましょう。銀殿ならば嘘は吐かぬとして、前払いの報酬とは?」

 後払いの都市計画だけでもかなり魅力的にはしていた。

もし戦争が起きないのであれば、是非も無しと頷いてくれただろう。ただの都市計画で相互に材料やら資金を提供し合うならば、お互いの監視は出来るし利益の範疇で話し合えるからだ。

 

しかし、命の代価という点ではまるで変ってはいない。自分の利益のために他人の命を賭けるという行為は、まるで変って居ないのだ。これだけで頷いたならば、龍学才さんは明日から特使の権限を剥奪されるだろう。

 

「千ある島の中に厄介な場所があると聞きました。先にその島を攻略しに行きたいと思います。工事に必要な道具込みで、僕らを運んでいただければ助かりますね」

「なんと! あの島を、いや、あの魔物たちを討伐されると?」

「どうせ後で邪魔になりますからね。なら早い方が良いかと思いまして」

 西領の沿岸に、ちょっと面倒くさい魔物が棲んでいる。

奪還作戦の時に聞いた空飛ぶ魔物はそこにも棲んでいるらしいのだ。どうせ戦うならば先に倒して悪いという事はあるまい。僕らが先に命を賭け、危険な魔物を排除する事に意味はあった。また敵に知られたとしても、囮になるならば悪い事はない。というか生存圏拡大のために魔物退治をするのは当然のことだしね。

 

そしてもう一つ、僕らが退治に行くと同時にするべきことがあった。それは島がそこそこ広いので、中間拠点の一つにできることだ。複数に分散するのであればそこまた拠点の一部になるということである。

 

「しかし、しかしですぞ。この計画に必要な物資や技術を先行して運んでしまい、私たちが奪って使ってしまうとはお考えには?」

「これは異な事を。これまで水棲種族の方は一度も誤魔化された事はないでしょう? ならば今回の取引もまた大丈夫だと判断しました」

 別に水棲種族を全面的に信用しているわけでもない。

一回だけならば出し抜いて嘘を吐くこともあるからだ。それならば評判には傷が付かず、あくまで計略ということになるだろう。しかし今回は別の判断がある。この計画は人間と水棲種族が共に手を携えて、いっしょに同じ年に暮らさねば意味がないのである。不得意な仕事と得意な仕事をお互いに入れ替え、梨状での作業と水辺での作業を分担しているのだから。

 

要するに水棲種族がクレーンやらいろいろ盗んでも意味がないという事だ。そういうのを人間が扱い、大型船建造や小舟のメンテナンスに使用して初めて意味があるのだから。

 

「よろしいでしょう。そこまでおっしゃるならば私も一族の者を説得し易くなります。あの島を攻略されたならば、当方も腹をく括るとお約束しましょう」

 こうして水棲種族を苦しめる魔物を退治することで、彼らの説得に替える事になった。

クレーンやら規格化した木材の手配が終わり次第、その島に向かう事になるだろう。




 と言う訳で主人公スゲーではなく、無謀な挑戦を少しずつ妥当なものに。
陸上が得意ではない種族の為に、一足先に空飛ぶ魔物を攻略に向かう感じです。
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