妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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来年に向けて

 緋家での会議を終えて領地への帰還。

これまでの道中で最も騒がしい事になった。戦時に向けて仮祝言を適当に済ませ、麗さんが同行することになったからだ。収穫祭に合わせて豪華な挙式をするという事で、予算をまとめるという事になった。

 

もし救いがあるとしたら双葉と麗さんの仲は良くないが、最悪では無かったことだろう。『挙式までに愛人は切っておけ!』とか『私の方が先!』みたいな争いではないのが幸いである。貴族だからと言って割り切ったというよりは、お互いが望むベクトルが別方向だからだろう。

 

「毎日毎日そんなに低俗なお菓子ばかり食べて。はしたないとはお思いませんの?」

「何よ! そっちこそあんなに甘過ぎるお菓子食べてさ! しかも苦くするためにカラメル作るとか意味わかんない!」

 今日はお菓子に対する論議で喧嘩を始めた。

麗さんは自己主張が激しく、宮廷式の凝った技術で高価な調味料を強烈に利かせた料理を好む。双葉の方は面倒くさがりで、そのくせ毎日のオヤツは欲しがるタイプだ。表と裏を分担するというよりは、硬軟の方を分担するという感じだろうか?

 

興味のある分野では議論を始めると平行線で延々と自己主張を始めるのだが、どうでも良い分野にはまるで興味がないという点では二人ともよく似ていた。服飾に関してだと麗さんは格式と格好良さ重視、双葉は着心地さえよければ後はどうでも良いという風に対立しないのだ。

 

(まあ対立構造にならないだけマシかな。冷戦になって馬鹿みたいに張り合って予算とか遣われても困るからなあ。二人とも馬鹿じゃないからその辺を見極めてるんだろうけど)

 双葉は平民なので当然だが、麗さんも緋家の現状を伝えれば納得した。

今のところ二人とも金のかかる趣味はしてないし、僕が技術検証を試して失敗する方が無駄遣い気味なので、妥当なラインで争っていると言えるだろう。このまま仲良く喧嘩するレベルで収まって欲しいレベルである。

 

もっとも寝所での行為を引き合いに出し、マグロ女だの犬の様にワンワンだの言い始めた時は赤面するしかなかった。旅の恥はかき捨てというが、領地の中で口論されてなくて良かったと切に思う。

 

「……話は変わりますけれど、他人の処の問題を片付ける必要はありましたの?」

「その方が簡単だからね。それと詳しく話せないけど計画の予備案になるんだ。しかも一足先に始められるから、やっておかない手はないよ」

 麗さんが文句をつけたのは西領にある島の確保の件だ。

海路の計画でピストン輸送の話をした時に、城ケ崎なんて難所は欠片も口にしなかったが……そんな場所を最初から攻める気は無かった。西領の沿岸部にある場所で、水棲種族の協力があれば上陸作戦を組める島。そんな条件であればどこでも良かったのである。

 

その上で水棲種族が確保したい島をリストアップしてもらい、陸上が苦手な彼らの代わりに僕らが奪いに行くという提案をしたに過ぎない。命の代価は命で払うべきだし、彼らは……というか種族間の取引は誠意をもって対応し合う方がお互いのためになるのだから。

 

「それに去年、緋家で僕が名前を上げた手法と似てるんだ。緋雁原のヌシを倒すことで命を賭けてみせ、武名を上げたことで武門の人たちも納得してくれた。水棲種族の人たちにとって難しい場所だからこそ、僕や人間族が命かけて彼らの為に行動したって事を示せる訳だね」

「そういう意味では分かりますけれど……危険ではないかと申しあげて居るのですっ」

 いちいち説明すると、そんな事は判っているとソッポを向いてしまった。

化粧美人で素顔はそれ程でもないのだが、ツーンとしている所は結構可愛いと思う。別にツンデレと言う訳でもないが、悪役令嬢系で自己主張が激しく極端から極端に走るタイプなのだろう。その辺が判って来たのと、前に僕は舐められ易いと言ったのである程度は許容範囲を見せる様にして来た。その範疇でなら何を言ってもいいけど、越えたらガツンと怒る姿勢を見せたら大人しくなってくれたのは嬉しい誤算である。

 

なお領地に帰ってから彼女の即落ちニコマ劇場はいかんなく発揮される事になる。道中の苦労は何だったのかと思う程にあっけなくしおらしくなったのは苦笑するほかなかった。

 

「大将よう。今度こそ俺に出番はあるんだろうなあ?」

「勿論さ。戻り次第に準備するけど、それが終わったら化け物退治の旅になるね。向かって来る敵を薙ぎ倒すだけで良く、余計な事を考えなくて済むのはなお良いね。中でも相手が『逃げない』のは最高さ」

 今回の件、幾つか候補はあった上で大通連好みの一番難易度が高そうな場所を選んだ。

実際にはもっと難しい場所もあったが、『可能な範囲で一番難しい』という場所になる。傭兵を雇えば済むような簡単な場所では水棲種族への貸しにならないのもある。しかし条件を並べた上で、『今のうちに解決した方が良い場所』であるからこそ選定対象に選んだのである。

 

何しろ放っておくと西領奪還作戦に弊害を与えそうな魔物が棲んでいるのだ。もし魔族の中で操る能力をもつ者が居たり、そこまでいかずとも行先を餌か何かで操ることが出来たら面倒になるのだから。

 

(そういう意味で一石二鳥なんだ。戦場に出てこられると敵の増援になる上、追い詰めても逃げられちゃう。でも巣にこっちから攻め入れば向こうは逃げられないのが大きいんだよね)

 空飛ぶ敵ほど対処に困る相手は居ない。

どれだけ居ようと強かろうと普通の敵なら、移動ルートを塞いで投石器なりアーバレストを撃てば勝ちようがある。山積みになった死体も壁に出来るので意外と戦い易いのだ。これに対して空飛ぶ敵は攻撃し難い上に、危なく成ったら勝手に逃げるので確実に倒すことも出来なかった。もし投石器を破壊されたら、もっと酷いことになるだろう。

 

この点が対象の選定で最も大きなポイントだったと言い換えても良い。自分たちの巣を守ろうとするだろうし、もし逃げ散るならそこは巣として使えなくなる。別の場所に逃げ込み続け、いつか全滅させることもできるだろう。

 

「そいつは面白れえなあ。で、どんな奴が敵なんだ?」

「ハーピーの群れだよ。大型種で強いけど、賢くないのがありがたいね。もしかしたら初歩的な魔法を使うかもしれないけれど、それだけだ」

 この魔物は翼の生えた女の姿をしているのだが、幾つか種類がある。

速度タイプや魔法タイプなどが居るが、一番厄介なのは言語を喋るほど賢い奴だ。そいつらは亜人種的な種族みたいな者なので魔法を使える可能性がある上、魔族と交渉したり戦術を理解する知恵があるから別の意味で危険である。西領まで飛んで行かれて魔族に助けを求められたら面倒な事になるだろう。

 

ともあれ今回は純粋に強いだけの連中であり、単純に倒して蹴散らせばよいのがありがたかった。

 

 領地に戻れば方針設定と麗さんの顔見せ。

これを同時にやっておくと置かないとでは激しく意味が変わって来る。何かあった時に麗さんが夫人としての権限で命令を変更できる可能性があるが、やっておけば代官である黄三硯も僕の命令の方が優先だと言い切れるからだ。

 

そして他の領主や魔物に攻められるとか、何かあったら麗さんが中心になって三硯が補佐する形で防衛戦を行えるだろう。

 

「ひとまずの方針は他所から調達した木材を適切なサイズ数種に加工して、それを他の領地の大工が同じことを出来るかどうかの指導。出来上がった素材で同じ物を、やはり他の領地の大工が牽引舟や柵に加工できるかと言う所だね」

「承知しました。クレーンと投石器は我が領だけですな?」

「うん。そいつはうちの特産ってことにしよう。二・三造りはするけど、送るだけでいいよ」

 規格化することで他の領地でも同じサイズの木材が加工できる。

陣地を守るための柵はまだしも、舟の方はピストン輸送に重要だからだ。外洋には向かない上陸への輸送専門なので本格的な船ではないが、それでもサイズがまちまちだと建造に時間が掛かってしまう。

 

逆にここで統一規格を設定できれば、同じ材料が発生するので何処の領地でも同じ物を作ることができるという訳だ。売り物としては微妙だが、軍事的に海辺だけで使用できれば十分なので問題はない。

 

「質問ですけれど、そんなに上手く行きますの? 女官の編み物一つとっても同じ物は一つもありませんわよ? 以前にそれで苦労したことがありますの」

「そうだね。普通は自分の作り易いサイズや、師匠が教えた通りにしか作らないから」

 我儘なので意外と忘れそうになるのだが、麗さんは女官の経験があった。

といっても中央のお姫様付きの侍女であり、身元の十分な貴族しかなる事の出来ない女官と言うやつだ。その時の経験を思い出しているのだろうが……言ってはいけないけど、意外に物が見えていて驚いた。この辺は僕は北領で失敗したからなあ。

 

何しろこの世界に限らず徒弟制度というものはそういうものだ。経験則と前例でしか動かず、自分にとっての最適解こそが基本なのである。

 

「だったらどうやって徹底しますの?」

「協力してくれる大工には鋼の定規や小槌とかの工具を提供する。うちで覚えることになってるから渡すのにも丁度良いしね。彼らにこのサイズを目安に釘を作ったり、木を切断してくれと覚えてもらうんだ。繰り返してればそのうち標準が変わるよ」

 普通の大工はあくまで鉄の工具を修復したり、鋳溶かして使い回す。

しかし鋼の工具は今まで以上に損耗し難く、小槌はともかく定規などは目減りし難い。一度渡しておけばずっと使ってくれるだろう。何だったら現品と引き替えで新しいのを格安で提供するのも良いはずだ。

 

そして何より自主的な作り置きとしてのノルマではなく、適格サイズの素材を買い取る制度にしておけば、どうやってもそのサイズに合わせて来るという訳である。作り置きのフリーサイズを100%だが代価を基本、適格サイズならば120%の値段な上で金を直接と明確な差をつけるわけだ。

 

「さっきもいったけど大工たちは師匠から作り易さ優先で教えられたことを前提にやってるんだ。日常の釘なら指の大きさのどこまで、大きい建築用ならここまで……とかね。針やなんかも同じはずだよ。だってその方が簡単だもの」

「そこで目安として定規を提供する訳です。このサイズに合わせて作れ、長いならば削って落とせと」

 同じような理屈で木材は最大級で測って、それを適当なサイズに切り直して物に合わせる。

それこそ柵なんて現地で似たようなサイズの木を使い、適当に紐で結わえれば良いのだ。普通ならばサイズを統一する必要などはない。

 

しかし今回は少し違う。柵であれば協力してくれる水棲種族たちが持ち易く、荷物を載せる上陸用の舟に積み込み易い方が良いのだ。

 

「懸念としては御指示いただいた舟がちゃんと浮かぶかどうかですな。川と海では違うのでしょう?」

「その辺も含めて本格的な生産は試験してからだね。ハーピーが棲んでる島の外観を調べてもらう事になってるから、その時に一緒にデータも送ってもらおうか。ガレー船で引っ張れば上陸できる筈なんだけどね」

 ハーピ-がどんな場所に棲んでいるかで結構作戦が違ってくる。

洞窟なら楽勝だし、屋根になる大きな木の下で雨宿りするならば少し面倒だろう。しかし相手の本拠地がどこか判るか判らないかで、作戦がまるで違ってくるのだ。情報収集が大前提と言えるだろう。

 

こうして来年の夏だか秋に掛けての冒険に向けて作戦を考えながら、改めて農業や畜産の指示を出していった。




 と言う訳で領地に戻って、次の作戦の準備です。
家庭問題とかをサクっと流しつつ、魔物退治の話。
あとは強襲上陸艇を作ってる感じですね。まあ水棲種族さえ居れば、肩車でも良いのですが。
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