妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

94 / 118
オーデーン

 唐突な食糧供給の要請があったのだが、そんな余裕はない。

穀倉地帯の解放は半ばであり、これから残りを奪還しようと戦争をしようと言うのに渡してしまうと備蓄が無くなってしまう。しかも潜在的な敵でもあるので、扱いが難しい。

 

とはいえ放置すれば確定で敵と成り、迂闊に渡すと利敵行為というレッテルが張られてしまう為である。

 

「羅虎さん。今から接待名義で宴を開きますが、食べても良い物と駄目な物を教えてください。禁忌や習慣的な問題があるかもしれませんしね。例えば魚や豚はどうです?」

 文化圏とか宗教の問題で食べられない物が存在するかもしれない。

ゴボウを食べる習慣が無ければ木の根にしか見えないし、豚や牛を食べてはいけない地域では皮をかじる程度でも問題だろう。面倒くさいことに、もてなしを受けた時は礼儀として黙って食べるが、家に持ち帰っては絶対に食べない物もあるので注意が必要だ。

 

だからこのタイミングでするべきことは、まず『何なら食べても良いのか』を確認し、文化的な問題をクリアする事である。その上でどうやって食料を集め、どうやって受け渡すかを後で考えれば良い。

 

「魚は大丈夫だ。川や海の近くで育ってない者は苦手かもしれんがな。豚は育ててはいないが、出されれば食う。どちらも良く焼くか煮るかした物に限るが」

「それだけ聞ければひとまずは大丈夫です。せっかく調達したのに食べられもしない物を寄こしたと言われては二度手間ですから」

 どうやら遊牧民としての習慣の問題だけで宗教的には大丈夫なようだ。

これならばなんとかなるかもしれない。この場に無いだけで、他所から調達することはできるのだから。その上で手配だけこちらでやっておいて、供給するのは迂回ルートを通れば問題ないだろう。

 

まるで冷戦時代に東側へ物資を流すかの様な行為だが、まあ似た様な事だし参考にしているので仕方がない。

 

「今の言葉をあえて伝えたのは、その説明をせよと言う事か?」

「察してくださると助かります。羅虎さんほど物判りの良い方ばかりとは限りません。もし形状が気になるならば、回した食料の食べ方も一緒に研究しておいた方が良いかもしれませんね」

 僕としても嫌味で行ったわけではない。後半は確かに忠告と実情を交えていた。

調達するのであって手元から回すわけではないし、遊牧民に対して一般的ではない食事を提供するという事を先に言っておいたのだ。名目的には今回の宴会は正使であるキリーの帰還と、一緒に来た水棲種族相手なので試す分には丁度良い。

 

彼らも他人向けの食事で、食材が気に入らないから非礼だったとは言わないだろう。問題は今のうちに出しておくべきなのだ。

 

「……読めて来たぞ。貴様あの連中から食料を手に入れさせる気か。思いもしなかった手ではあるが、それだと幾らも報酬は渡せんぞ?」

「望んで宝を得たいわけではありませんしね。一方で困ってる人を助け、一方で商談を持ち込み、一方で敵対戦力が無くなる。何の問題があるでしょう? そんな三方一得とでも言うべき状況に持ち込めればと思っています」

 僕の案は水棲種族経由で食料を調達する方法だ。

彼らの元でなら魚介類が手に入り易いし、風と海流に乗ればかなりの速度で遠方からでも保存食を輸送できる。そういう意味で用意し易いのは第一に魚、そして保存がきく豚の塩漬けだろう。

 

その商談をまとめれば彼らには食料が、水棲種族には利益が、僕の元には平和が戻ってくるという事だ。目論見通りに進めばだが、身を切る三方一両損より良いかもしれない。

 

「聞いていた通り欲がないのだな。宝物や援軍を望むかと思ったが」

「羅虎さんは信用の出来る方とお見受けしますし、貴方が率いる一族もそうでしょう。しかし部族会議に出席する全ての氏族の長が同様でしょうか?」

「それを言われると頭が痛いな」

 この男は硬骨漢のようだが全てがそうではないだろう。

他所の氏族から縄張りを奪えば良い、他国ならばもっと良いという者も居るに違いない。そして二進も三進も行かなくなったら、最初は同じ遊牧民から奪うべきではないと言っていた長も、食料が尽きればそうせざるを得なくなる。他所者ならばなおの事だろう。

 

だから食料はどうにかして渡しておくべきだし、様々な人間が居るのであればその対策もしておく必要がある。

 

「何を食わせる気なのか心配になって来たな」

「その辺は安心してください。他のメンバーは既に慣れてるくらいですから、外見上は問題ありませんよ。エルフから食べられる草木をもらうよりは抵抗感がないはずです」

 ゴボウに偏見があるわけではないが、相手は遊牧民である。

羊と同じような物を食わせる気かと言われかねないのが面倒だった。それに加工するにしても魚の方が楽である。加工所は作らないといけないが、保存食を作らせることが可能ならば魚の方が用意し易いのだし。

 

ともあれ宴席は始まりキリーと水棲種族を上座に置いて接待を開始した。僕はもちろん羅虎をメインに料理の解説役である。

 

「お手元の料理は少量ずつ二品参りますが、基本的にどちらも同じ物です。片方は元の形状を残した物、もう片方は磨り潰して柔らかくした物になります」

「これが同じ物?」

 最初はまず揚げ物から入る。判り易く形状を残した物ばかりだ。

羅虎を始めとして慣れない者は驚くが、食べ慣れた者はにこやかな笑みで詳しく紹介している。豚や魚を荒く切って揚げた物と、摩り下ろして固めた物。ほぼ同じ形状になる様に加工して、専用の陶器の器に盛っている。

 

そういえば売れる物や贈答品を作ろうとして最終的にガラスの器に落ち着いたが、料理に盛る器としては陶器が一番適していた。今回だと右と左に分けた皿など、必要性に合わせて簡単に形状を決めて量産できるのだ。何だったら魚の形状とか、豚をデフォルメしても良いだろう。数を作って場合によっては記念品として渡すならば、安価で量産し易い陶器の出番と言う事だ。

 

「そろそろ本格的に食べたい方もおられると思いますので、食べ易く串に刺した物を何品かお持ちして、その次は鍋になります」

「むむむ」

 カツから串揚げに変えると、もう元の形が何であれ気にならない。

元の形状が残る方はブツ切りの姿が見て取れるし、練り物にする方はツクネになっている程度の事だ。最終的に鍋になると、ツクネからツミレに移行する訳だが……焦れた客は自分で欲しいサイズの分量を勝手に鍋に落としていった。

 

最初は驚いていた羅虎であるが、この頃には自分が部族の者に紹介するつもりで考えているのだろう。色々な形状の素材を思い出しながら、不思議な事に一番形状の残らないツミレに目を留めていた。

 

「確認するがコレを固めて置けるか? 部族の保存食で羊をメインに、鳥や兎などその場で手に入る肉を混ぜて棒状に固めた物がある」

「なるほど。それを削ぎ切りにして鍋に入れるんですね? 可能ですよ。ちょっと待ってください」

 要するにキリタンポみたいなものだろう。

確か米のキリタンポが有名だが、兎の肉などで造ったキリタンポもあったはずだ。ソレを思えば遊牧民の間で似たような料理があったとしてもおかしくはない。そもそもソーセージだって腸の中に詰めるミンチであり、保存食の一種なのだから。魚肉ソーセージって手もあるよね。

 

そこで僕はソーセジの他にオデン用のタネを持ってきてもらった。今回は鍋に入れる肉としてツミレを優先したが、別にオデンのタネだって構わないのだ。水棲種族たちには、魚の調理法の一つとして説明していた。

 

「これは普通の腸詰ですが魚で似たような物を作ることも出来た筈です。そして、腸詰ではありませんが練った魚を固めたのがこちらになります。鍋に入れてみましょう」

「すまんな」

 オデンのタネで手ごろな物をそのまま投入し、一番大きいモノを削ぎ切りにする。

そしてソーセージも追加してしまい、それぞれ個別に小皿へ取ることにした。せっかくなのでディップとしてゴマダレや魚醤の他、チーズを溶かしてフォンデュ風のソースを用意する。

 

煮上がった端からそれを試食する羅虎はこれまでの中で最も真剣な表情だった。上座でキリーが一瞬だけ目端に止めたが、心配無いとアイコンタクトを送ると再び水棲種族たちと話し始める。

 

「少し柔らかいがこの食材をこちらの指定する形状にすればいけるはずだ。とはいえ大量に用意できるのか?」

「技術自体は僕が……僕の信奉する神さまに授かった物です。水棲種族たちに教えると独占できなくなりますが、神さまなら教えてやれとおっしゃるでしょう。加工場の設計で水棲種族たちからもそれなりにいただきますから、僕へのお代は気にしなくても大丈夫ですよ」

 この際だが利益よりも信仰の方を取ろう。下手な報酬よりも彼らに感謝してもらった方がありがたい。

それに練り物を作ること自体は単純な物だ。隠匿して水棲種族が自分で発明する前に、『君たちなら自分で思いつくだろ?』とそしらぬ顔で、加工所を設計して彼らに量産させた方が最終的な利益は取れるかもしれない。

 

技術供与を無償で行い、加工場の設計料と機材の開発費だけをいただく。その上で水棲種族は各地で量産して売りさばき、食材のネームバリューが広がるまでは、遊牧民たちが主に引き受けるという訳だ。誰も損をしていないのが 良い。

 

「そういう訳にもいくまい。何をしたらこの借りを返せる?」

「遊牧民がこちらに攻め込んでこなければ構いませんよ。もし気になさるのであれば、個人的に動かせる人間を傭兵として僕の作った冒険者ギルドというのに参加させてくださいな」

「冒険者ギルド?」

 せっかくなので冒険者ギルドのアピールもしておいた。

基本的には傭兵なので戦力を借りる言い訳にできるし、あちこちの情報を集める仕事でもあるから問題はない。所属する時期次第では、ハーピーの島を攻める時に使えるだろう。

 

遊牧民の兵士がこちらに加わっても疑われるだけだが、この方法でならば疑われないのがありがたい。




 と言う訳で食料を寄こせと言う無い物ねだりはクリアされました。
自分の所になければ他所から回せば良いよねと言う話。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。