妖怪にまで零落した女神と契約して、異世界へ布教に行く話【完】   作:ノイラーテム

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偽装情報

 食べられる物が見つかったので、後は念の為に種類を増やしつつ詰めの作業だ。

暇な時に他の食材を試しつつ時間を遊牧民向け食材の開発に向ける。他には水棲種族と仲次をしてどんな代価で保存食を売るかと、その加工所を僕が技術提供して可能な限り安く抑えられるようにしておく。

 

適正価格が決まればその範囲で彼ら自身による交易を行うだろう。

 

「羅虎さん。本当にこの味で良いの? 固いし雑味が凄いんだけど」

「贅沢は言えん。だいたい手間と予算を考えたらこれでも上等なくらいだ。疫病で羊が死ねばもっと酷い飯もよくあったからな」

 魚肉をすり下ろして塩と混ぜ、棒状に突き固めた保存食。

天日に干したり燻製にしたりと色々技法を試しながら何種類か作ってみた。今のところ皮や骨ごと強引に磨り潰し、塩を始めとした保存料用の香辛料(その地方で安い物)を入れて燻しながら乾燥させるという事になった。

 

とはいえマズイ物はマズイので気になって羅虎に相談してみたのだ。

 

「それは判るんだけど他の人は大丈夫ですか? 我慢できる羅虎さん達以外の人たちも食べれなきゃ意味がないんだけど」

「鍋なら味が変わるから問題ない。それに漬け汁で味わいが変わると教えてくれたのはお前だ」

 確かに鍋にするなら問題はない。出汁と漬け汁で味が変わるものね。

しかし誰もがそうするわけではなく、焙って食べることもあるそうなので少し気になるのだ。切り落として食べるだけなら仕方ないが、もうちょっと味の方を何とかしたい。キリタンポみたいな訳だし炉に刺して焙るのだろう。イメージ的にはケバブみたいな感じの料理には出来そうだ。

 

その上で味付けに関する美味しくするナニカを混ぜる。ケバブなら薄切り肉に付ける酸味のあるソースだし、肉自体の味付けだと香辛料以外に……。

 

「ああ、アレだ。あれがあったじゃないか」

「何だ?」

 僕は味見用のサンプルを二本用意すると、一本をそのまま焙ることにした。

次に雑穀を摺り潰したガレットも焼き、削ぎ切りにした魚肉の保存食を載せていく。上に酢やら溶かしたチーズを載せ、一品目の料理を完成させた。まんまケバブである。

 

酸味の強い味付けと、チーズのまろやかさで包み込んでしまうので魚肉の味わいは気にならないだろう。もし遊牧民たちがヨーグルトみたいなのを持っているならばそちらでも良い。

 

「ひとまずは焼き物でこういうのを用意してみました。簡単な方法としては漬け汁よりも強い味付けさえあれば焼き物でも問題ないかと。もう一つは時間が掛かるので、ちょっとお待ちください」

「ああ……?」

 そういって僕は『作ったけど使わなかった品』を取りに行く。

用意するのは注射器だ。筒状の穴が開いた針とガラス製の容れ物を組み合わせ、圧力で中身を押し出すアレである。ガラス製品が作れるようになり、ドワーフやら魔術師たち向けにアピールするために作った器具の一種なのだが……サッパリ興味なさそうでそのままにしていた。

 

その中でも穴の経口が大きく、全体的に出来の良くない試作品を使う事にした。食品用に試して汚れるのであれば、使い捨てる方が良いだろう。

 

「本当は作成段階で混ぜるべきなのですが、今からだと適正な比率で混ぜられないので味を強くしますね。強過ぎたら油を囲炉裏で焼き落としてください」

「何をする気だ?」

 羊の脂の方が良いのだが、無いので豚の脂で代用する。

要するに和牛偽装肉とか結着肉とか作る時に使う手法で、肉の中により質の高い肉から採った脂を注入する方法である。小さな容れ物で脂を速攻で溶かし、注射器で吸引すると魚肉の保存食に注入していく。

 

それを囲炉裏に掛けると豚の脂が少しずつ滲み出て、削りながら取り分けると豚の脂が付着した魚肉になるわけである。

 

「これは豚の味か? 豚の味がする魚……」

「今回は後から注入しましたし豚の脂を使いましたが、実際に作る場合は羊の脂を最初から使うと思います。ただ本当に作る場合でも、魚に羊を少し混ぜているとちゃんと説明した方が良いでしょうね。最初から保存食とかしか言わない場合は、嘘だと判明した時に危険ですから」

「なるほど。騙されたと怒る者も居るだろうな」

 そんな感じの工夫をしながらどうにか受け入れられる保存食を作り上げた。

ちょうど水棲種族が居るので彼らに概要だけを説明して作ってもらったところ、野球で使うバットの太い部分と細い部分の差くらいのサイズがあって苦笑するしかなかった。しかしアイデア段階だけなら問題が解決されたのではないかと思う。

 

少なくともこれが普及すれば遊牧民が数年ほどは攻めてこなくなるだろう。その間にこちらも西領を奪還して態勢を立て直し、防御を固めつつ食料を生産すれば彼らとしても無駄に戦いを引き起こしはしないだろう。

 

 水棲種族に話を通して、幾つかの場所で加工所を作ってもらうことになった。

ひとまず材料に関してのみ徹底してもらう方向性で話はついている。加工場を設計し必要な器具を作ることも含めて提供することに関しては、適当に小さな便宜を測ってもらうだけだが、これで遊牧民が攻めてこないのであれば万々歳だ。直接支援したわけではなく、遊牧民が購入して自活するだけなので裏切者判定を受けないのもありがたい。

 

問題はその保証が何処にもなかったことなのだが……。

 

『銀や。そなたに言伝を受けておる。ありがたく聞くが良い』

「はい。娘々のお言葉しかと拝聴いたします」

 直接その情報を聞いたわけではない。しかし間接的に教えてもらった。

こんな方法を取ったのはおそらく重要な情報であり、遊牧民から見れば部外者である僕に喋るわけには行かなかったに違いない。

 

要するに水棲種族と話を付けに行った羅虎なりの礼なのだろう。

 

『国境沿いの草を刈っておけ、出来るならば木の新芽も無い方が良い。との事じゃ』

「草を?」

 誰の伝言化は直ぐに判ったが、最初は何の事だか良く判らなかった。

きっと彼の方でもそのつもりだろう。おそらくは情報を突き詰めて、あるいは西領を奪還する間際になって思いつくと思ったに違いあるまい。

 

直接に告げては直ぐに判るかもしれないし、僕の表情から他の者が彼の入れ知恵を察するかもしれない。それを避けるために徐々に理解が進むように、あえて他人を介して伝えたのだろう。

 

(……となると遊牧民にとっての意味が関わって来るのか)

 しかし僕には前世の記憶が保存されている。

何でも思い出せはしないが、ある種のキーワードがあれば類推する事は可能だ。遊牧民について知っている事や、かつてのモンゴル帝国などの話を組み合わせると見得て来たモノがある。

 

「あの方も良く分からない事おっしゃいましたわね。畏れ多くも九天玄女さまに伝言をお願いするだなんて」

『良い良い。あの者はそなたならば判ると思っておったようじゃな。随分と感謝しておったようじゃぞ。既に察しておろ?』

「一応は納得の行く回答が得られました」

 すっかり神さまに傾倒した麗さんは怒っているがありがたい助言なので勘弁してあげて欲しい。

娘々の方は既に判っているようで、こちらの頷きに微笑みながら返してくれた。とはいえここでそのまま答えるわけにはいかない。

 

遊牧民にとって重要な事であり、明確な裏切りでこそない物の……例えば侵攻作戦などがやり難くなる情報だとしたらどうだろうか? 余裕があっても食料供給をしたら僕が罪に問われかねない様に、彼もまた罪に問われる可能性があるはずだ。

 

「娘々にはお手数おかけしまして申し訳ありませぬ。言伝確かに承りました。確認の為に得た答えを口にしたいところですが、これは同盟関係者が漏らしてくれた重要時になります。麗さん?」

「貴族にとってソレを黙っておくのも、素知らぬ顔をするのも当然の事ですわ」

 麗さんに目を向けると神妙な顔で頷き返した。

ならば問題なかろうと情報を整理しながら説明していく。まずは穀倉地帯で食料が採れないことで、食料の流入が減った遊牧民の話を伝える。このままでは彼らが攻めてくる可能性がある事、その対策として保存食を手配したこと。

 

ソレを手持ちでやったら僕が罪に問われることや、逆に彼の情報がこの場で公開されたら彼も同罪だという事を順を追って説明していった。

 

『よろしい。では開陳いたすが良いぞ。どうして国境沿いの草を刈る事が遊牧民の侵攻を遠ざける事になるのじゃ?』

「それは彼らにとって家畜が財産だからです。家族どころか財産である家畜とともに移動する彼らは、補給をさほど気にせずとも大規模な侵攻が出来ます。しかしこれからあるかも判らない食料を奪いに行くのに、草木の生えていない地方を選ばないでしょう。そんなことをしたら大切な家畜がバタバタと死んでしまいますからね」

 モンゴル帝国は補給線を気にせずに大侵攻が可能だった。

それは家族ぐるみ家畜ぐるみで一緒に移動したからである。温かい寝床も豊富な食料も矢を作る材料すら所持して延々と移動し続ける。それが遊牧民の有利性であり、同時に不利な部分でもある。

 

遊牧民の価値観からして、家畜の餌となる草木が生えていない場所に行こうとは思わないのだ。結果的に偵察もおざなりになるし、進攻しようとする意欲も失われるだろう。

 

「餌が無くとも自分たちの食料が無ければ攻めることもあったでしょう。魔族に恨みがある者が所属して居れば唆されて攻めることもあるでしょう。しかし食料には解決の道が付き、彼らよりも西部奪還で魔族を攻めるとなれば義勇兵として向こうに逃げた人々も同流するかと」

「西領には何も無いから? でも領土だって……っ!」

『そうじゃ。遊牧民にとって土地は縄張りに過ぎぬ。餌も食料も財貨もない土地には興味を示さぬであろうのう』

 現在の西領には魔族が好き放題している。

目ぼしい金銀財宝は根こそぎ奪って本拠なりに移動させているか、既に交易で中立の種族と交換に使っているだろう。そして頼みの食料も奴隷に任せて適当な生産をしている以上はさほど効率も良くはない。食料が無いならそれでも奪いに行くが、無いのであれば攻める理由がないのだ。

 

その上で遊牧民も最初は偵察くらいはするはずだ。国境線付近でこちらの様子を伺うだろう。そんな時に僕らが国境沿いの草を刈ってしまえば、こちらに攻めて来るだけでも羊を食わせて行けるか分からなくなるのである。

 

「何しろ西領は暖かく、それゆえに穀倉地帯でもありますが砂漠もあるくらいですからね」

 前にも行ったと思うが、沿岸部を始めとして砂漠に面した場所は幾つもある。

大公閣下の御料地である白紗などは砂漠に面している総構えだから無敗の城と呼ばれるくらいだ。良い土地は軒並み田畑にしているだろうし、そうでない場所は砂漠が多いのだろう。

 

こうして僕らは無駄な戦いを無くす努力を行い、目の前の敵に専念することになったのである。




 と言う訳で遊牧民向けの保存食を開発。
それだけでは攻めてくる可能性が残るので、家畜を率いてやって来にくいようにする感じですね。
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