双子系Vtuber、はじめました。   作:えびんす

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見切り発車
続くか続かないかは私にもわからん


プロローグ
~とある少年視点~


 春。吹き抜ける風が冷たくなくなり、桜の花が町のあちこちで咲き誇り始める季節。

 

 日本のとある町に暮らす少年は、夜、自室のPCの前に座り、マウスカーソルを画面内にさまよわせていた。

 

 ちら、と壁に掛けられた時計を見た。まだ『予定時刻』までは時間がある。それまで何をして時間を潰そうと考え、しかしそちらに夢中になって見逃してしまうのも嫌で。結局画面の前で、大して興味もないネットニュースや動画サイトを漁り、ネットの海に意識を漂わせる。

 

 

 少年には、近頃夢中になっているものがあった。

 

 

『バーチャルWetuber』。通称『Vtuber』と呼ばれる、少々特殊な配信スタイルをもつ動画配信者の総称である。

 

 世界規模で利用されている巨大動画投稿サイト『Wetube』。取るに足らない日常を映した動画から、億単位を超える再生数をたたき出した伝説的なミュージシャンのライブ動画まで、幅広いジャンルの動画が投稿されている。

 その中でも、投稿者自らが動画内に出演し、話題の映画やゲームの評価をしたり、身体を張ったバラエティ企画を行うさまを投稿し、広告料などで収入を得る『Wetuber』と呼ばれる者たちがおり、ここ数年で一大ジャンルとして名を広めていた。

 

 『Vtuber』はそのWetuberと呼ばれる者の中でも少々特殊で、自らの顔を出さず、『アバター』『ガワ』と呼称される、二次元キャラクターのイラストを用いる配信スタイルをとる者たちのことを指す。

 

 Vtuberの特殊性は、なんといっても「顔が出ない」こと。自身の容姿の美醜にかかわらず、アバターさえ用意できれば誰でも美男美女の配信者として活動できることだ。中には人外のキャラクターを用いる配信者がいるなど、一概には言えないのだが。

 

 

 それでも配信者本人の顔が出ないということ、それ自体が多大なメリットであることには間違いなく、またそれらの視聴者には『リアルの容姿は求めてない。気に入ったキャラクターが喋って動いているのが楽しいんだ』という考えを持っている者も少なくない。

 

 これらは要因としてはごくごく一部だが、その特殊性と需要の高さからVtuberは年々数を増やしており、今や個人で活動する者、企業に属する者、世界中の視聴者に注目される者からほとんど日の目を見ない者まで、多種多様、十人十色、ピンからキリまで様々だ。

 

 

 少年はその中でも、最近頭角を現し始めてきたとあるVtuberの生配信を、今か今かと待ちわびていた。

 

 

 やがて開始時刻10分前。SNSサイト『ボヤイター』でフォローしていたVtuberのアカウントから通知が飛んできた。

 

 

【まもなく配信します。みんなぜひ覗いてみてください】

 

 

 少年は急いで件のVtuberの動画投稿チャンネルへと移動する。生放送枠にはすでにたくさんの視聴者が訪れ、コメントを打ちながら放送開始を待っていた。

 

 

 :おつー

 :間に合った!

 :まだかまだか

 :今日もシンクロ絶叫聞けるかな

 :ユニゾン絶叫は鼓膜に効く

 :効きすぎて双子の声以外何も聞こえなくなったゾ

 :幻聴聞こえてますね・・・

 :破れた鼓膜交換してもろて

 

 

 少年もコメントを打ち、待機する。

 

 

 :あらかじめ鼓膜を破っておいた俺に隙は無かった

 

 

 :隙どころか穴があるんだよなぁ・・・

 :絶叫で鼓膜を破られる快感を味わわないとか正気か?

 :お前が正気に戻れ

 :サイコパスこわ

 :なんで双子んちやべー奴が集まってしまうん?

 :やべー奴筆頭だからだろ

 :草

 :辛辣だけど否定できない

 

 

 思わず苦笑する。少年もこれから放送を行う配信者に対しての総評は概ね似通っていた。

 

 考えることはみんな一緒か。そんなことを考えるうち、真っ暗だった配信画面が切り替わる。

 

 フリー素材であろうどこかの部屋のイラストに、やはりどこかで聞いたことのあるフリー音源が流れ出す。そして画面の両端には、よく似た顔の美少年と美少女。

 

 

 :きちゃあああ

 :はじまた!

 :やっぱり顔がいい

 :こんちゃー!!

 

 

 今日の主役の登場に俄かに沸き立つコメント欄。

 

 グレーを主体としたブレザー制服に身を包み、男は黄色と緑、女は赤と青のメッシュが一部に入っている茶髪。そしてどちらもライトグリーンの瞳を持っていた。

 

 活発そうな表情の美少女と、どこかクールな印象の美少年。

 

 

『みんなー、こんついんー!ライブラフ所属の双子ライバー、妹の方の御簾納里奈(みすのりな)でーす!』

『みなさん、こんついん。同じくライブラフ所属の双子ライバー、兄の方の御簾納優斗(みすのゆうと)です』

 

 

 印象通り快活に挨拶する、里奈と名乗った少女と、穏やかに口上を述べる、優斗と名乗った少年。

 

「Vtuberのやべー奴隔離所」「キワモノ担当事務所」「個性の殴り合い宇宙」「闇鍋」etc。数々の異名を持つVtuber事務所『ライブラフ』所属のVtuberの中でも人気を誇る二人のライバー。

 

 

『御簾納里奈』『御簾納優斗』。双子という属性を前面に押した、双子系Vtuberである。

 

 

『おう待機所のコメ見てたぞ、誰がやべー奴筆頭じゃ言ったやつ出てこい』

『そういう言動するからやべー奴言われるんだぞ、いい加減学べ』

『兄ちゃんだってそのコメント見たとき若干キレてたじゃん』

『表に出すのがダメだっつってんの』

 

 

 :ヒエッ

 :兄もキレてて草

 :お、俺じゃねーし(震え声

 :↑里奈姐さんこいつが言いました

 :俺も聞きました

 :そいつが犯人です

 :お前らァ!?

 

 

『お、そこの君かぁ、君あとで屋上ね』

『何度も言いますが屋上には鍵が掛かっていて入れないので安心してくださいね』

『じゃあ校舎裏』

『塀じゃなくてフェンスだから目立つ』

『体育倉庫は』

『そこならいいぞ』

 

 

 :いいのか(困惑)

 :妹のお仕置きは止めないスタイル草

 :的確に目立たない場所絞り込むのこわい

 :やめろ体育倉庫は俺に効く

 :トラウマ抉られてるやついて草生えない

 :トラウマニキ強く生きて

 

 

 テンポよくこなれた会話を繰り広げる優斗と里奈、それに合いの手を入れるように流れ続けるコメント欄。この兄妹ならではとも言える会話のテンポの良さと、腹黒さとチクリと毒のある物言いがハマる、という視聴者は多い。そして双子というVtuberの中でも珍しい特徴が受け、同企業所属のライバーの中でも上位に食い込む人気の二人だ。

 

 

『里奈、クラスメイトのトラウマ掘り起こした罰として今日はマシュマロ返したあとホラゲ実況な』

『ええ!? やだよホラゲ! 前に散々やったじゃん今日はいいでしょ!』

『この前俺がとっておいたチョコ勝手に食ったことまだ許してないからな』

『謹んでプレイさせていただきます』

 

 

 :草

 :草

 :食べ物の恨みは恐ろしいな

 :弱み握られててかわいい

 :兄貴チョコとっておいてるのかわいい

 :兄妹喧嘩てぇてぇ

 

 

『でも兄ちゃんもホラゲ苦手じゃん』

『そう、だから俺は今回「ホラゲ実況中に叫ばない」を個人的目標にしたいと思う』

『秒で失敗するなこれ』

『少しは兄を信じられんのかこの愚妹は』

『あたしの兄ちゃんを全面的に信じたこその答えだけど?』

『そんなネガティブな方向で全幅の信頼寄せられたくなかった』

 

 

 :ユニゾン絶叫聞けないん?

 :兄妹の絶叫聞きたかったからこの枠開いたの!

 :絶叫して 

 

 

『ほら兄ちゃん求められてるよ?需要と供給だよ?』

『うるせぇ俺は叫ばんぞ!絶対叫ばんぞ!!』

『えぇ……まあいいや、やるならやろうよ。あたしも覚悟決めたからさ』

『よーしじゃあ今回実況するホラーゲームは……』

 

 

 

 少年は御簾納兄妹の配信を見ているうち、いつの間にか自分の口角が上がっていることに気づいた。

 

 

 学生服を身に包んだ少年少女のイラストと、まるで友達の会話を聞いているような妙な心地よさ。少年はこの雰囲気が好きだった。

 

 

『うっわぁ……夜の廃墟マジで怖い』

『毎回思うけどなんで人捜すのに夜中に一人で行くんだろうな』

『だよね、明るいうちに人たくさん呼んで探せって思う』

『というかまず警察に任せてしかるべきだろ、行方不明なんだから』

『それを言い出したら大半のホラゲが成立しなくなるし……』

『成立しなくなってこの世からホラゲというジャンルが消え去ればいいのに』

『マジでそれ』

 

 

 :草

 :ホラゲの時意見がぴったり合致するの草生える

 :まあ兄妹の一理ないこともない

 :そうかな……いやそうか……

 :だからホラゲが成立しなくなるだろ!

 

 

 

 なんとなしにWetubeの動画を流し見ていた時、偶然目に飛び込んできた御簾納兄妹の切り抜き動画を、なんとなく再生したのが少年のVtuber生活のきっかけだった。

 

 肩の力が抜けるような穏やかな雑談配信、兄妹の代名詞ともいえる「ユニゾン絶叫」が生まれたホラーゲーム実況、高い歌唱力を生かした歌配信と、声帯のポテンシャルを見せつけたモノマネ企画。

 

 彼ら兄妹のほかにも様々なVtuberに興味を持ち、切り抜きやアーカイブを見てきたが、やはり優斗と里奈の二人に落ち着くのだ。

 

 

 いつの間にか少年にとって、彼ら二人の配信は、生活になくてはならないものになっていた。

 

 

『あっあっぁ、今なんかいた!なんかいたよね!?』

『いやいや自分の影だって絶対そうだって』

『ホラゲでそういうの通じないって分かってんでしょうが!』

『分かってても理解したくねぇんだよ!』

『あたしだってそうだよ! というかそろそろ操作代わってよ!!』

『まだ序盤も序盤なんだわ!! というかお前の罰なんだからつべこべ言わずプレイする!!』

『ふぁっきんまいぶらざー!!!』

 

 

 :親の声より聞いた兄妹喧嘩

 :もっと親の喧嘩聞け

 :(親の喧嘩はもう聞きたく)ないです

 :親の喧嘩の声聞いて育ったワイ、フラッシュバックで悪寒が止まらない

 :両親不仲ニキかわいそう

 :兄妹のクラスメイト闇抱えてるやつ多すぎ問題

 :そら兄妹より長く生きてるクラスメイトばっかりだからな

 :クラスメイトなのに年上?妙だな……

 :何年留年してるんですかね……

 

 

 

 少年はPCの画面を見つめながら、思う。

 

 

 ああ、自分は、Vtuberが。

 

 

 御簾納兄妹が、本当に好きなんだなあ、と。

 

 

 

 

『『わああああああああああああ!!!!!』』

 

 

 :うるせえ!!

 :鼓膜吹き飛んだ

 :ユニゾン絶叫助かる

 :ノ ル マ 達 成

 :何も聞こえない 何も聞かせてくれない

 :壊れかけなのはラジオじゃなくて鼓膜

 :叫ぶと妹と同じ音域になる兄貴好き

 :お耳キーンなるこの感覚癖になっちゃうヤバいヤバい

 

 

 少年は痛む鼓膜に顔をしかめながら、それでも笑っていた。

 

 

 




短いと思うけどここまで
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