双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
柳瀬兄妹、というか遥斗の秘策とは?
「……で、遥斗。何をやらかすつもりなのさ」
オフコラボ報告配信を終了し、配信を終わらせた後。
遥香は俺にそう問うた。
まあ、当然か。俺が考えていることはとどのつまり、俺自身の脳内で完結していることであって、妹である遥香には一切何も伝えていないのだ。
「遥斗の考えることだから、まあ意味がない訳は無いと思ってるけどさ。そういうのはちゃんとあたしにも情報を共有して然るべきじゃないの?」
「……悪いと思ってる。だけど、先に言っていたら、遥香は反対すると思ったから」
「……本当に何をするつもりなの?」
遥香の眉がさらに訝し気に吊り上がる。
双子とはいえ、相手の全ての考えを察せるわけではない。20年接してきた双子の片割れである俺が言うのだから間違いではないと思う。
だから、今俺が考えていることを遥香に伝えたとき、どういう反応を返されるのか想像がつかない。怒るだろうか、悲しむだろうか。受け入れてくれるか、拒絶されるか。
ベストなのは遥香もそれに付き合ってくれることだが、最悪それは俺一人でこなすことも視野に入れている。正直、確率は半々といったところか。
「……遥香。お前、配信者として、何でもやっていくっていう覚悟はあるか」
「……何、いきなり。そりゃあ言い出しっぺだし、遥斗を巻き込んだ自覚もあるから、それなりの覚悟はしたつもりだけど」
「なら、今から俺が言うことに、頭ごなしに怒るなよ」
「次の配信、ホラゲ実況するぞ」
「断る」
:きちゃあああ
:きたきた
:ホラゲ気絶配信ってマ?
:大丈夫? 心臓止まらない?
:苦手なものに敢えて突っ込んでいくとかドMなの?
:聖様に見下されて罵倒されて興奮する双子イラストはよ
:↑こいつをつまみだせ!
数日後、俺と遥香は配信を開始した。
おどろおどろしいモノクロ調のゲームのタイトル画面を映しながら。
『はーい皆様こんついんー…………ライブラフ三期生の双子、妹の方御簾納里奈でーす………』
『おなじくこんついん! 兄の方御簾納優斗です! 今夜も俺達の配信に来てくれてありがとうございます感謝感激雨あられですペコリ~!』
『なんでそんなテンション高っけぇんだよ……うっざ…………』
:いつもとテンション真逆で草
:里奈ちゃんめちゃくちゃ萎えてて草
:兄貴テンションどうした
:情報が多すぎる
:お口わるわる妹助かる
『はい、というわけでですね! えー今回ボヤイターの告知にも書きました通り、二人でホラゲを実況プレイ配信してみようというわけなんですけどもね!』
『マジで何なのそのテンション……イラッとするんだけど……』
『はいこの通り、うちの愚妹はもう既にテンションだだ下がりなんですけどもね! いつもどおり二人仲良く喧嘩しながらやっていきたいと思いまーす!』
『なんなら今からガチで殴り合おうか』
『ちなみになんで妹こんな静かにぶちギレてるかといいますとですね、コイツホラー全般がどちゃくそ苦手で、ゴー○トバ○ターズの映画見て号泣するほどなんでごぜぇますはい』
『悪いかよ』
『そしてなんで僕がこんなテンションおかしくなってるかと言うとですね、僕も同じぐらいホラー全般苦手なのでテンション上げないとやってらんねぇからですはい』
『もうマジでコイツなんなん!? お前の自爆にあたしを巻き込むなよ! やるなら一人でやれよ巻き込み事故起こすなよ!』
『最終的にオッケー出したじゃん』
『ええ出しましたよ許可しましたよ! 「断ったらしばらくお前の晩飯茹で玉子の白身とささ身にするぞ」って脅されてなぁ!? 何が悲しゅうてボディビルダーみてぇな食生活送らにゃならんのだおかしいだろ!!』
:草
:草
:ひっでぇwwwww
:ド畜生やん
:死なばもろともという強い意志を感じる
:二人でやれば怖くないの精神
:たぶん絶叫が二人分になるだけだと思うんですけど(名推理)
:実の妹になんという仕打ちだいいぞもっとやれ
:腹いてぇwwwwwww
:里奈ちゃんが何をしたってんだ……
:まあオッケー出したんならしょうがないよね
:でも断って腹筋バキバキになったビルダー里奈ちゃんはちょっと見たいかも
:↑ドゴォ
初っぱなの掛け合いでコメント欄が爆速で流れていく。ちなみにこの掛け合いは事前に遥香と「こういう掛け合いをしよう」と決めていたものだ。
遥香が実況を渋りに渋ったのは事実だが、流石に自分の妹を本気で脅すような真似はしていないです。全てはリスナーを増やすため、後々のスパチャのため、身体を張っていかなければこの先生きのこれないと説得したのだ。ホラゲ配信を最後まで生きのこれるかはまた別の話。
『お父ちゃん、お母ちゃん、最近兄の鬼畜っぷりが常軌を逸しているとです……』
『おうどうした、誉めてもこのゲームの続編しか出ねぇぞ』
『誉めてもねーし要らねーよ!! つーか用意してんのかよ!!』
『うん、言い忘れてたけどこっちもやるから』
『あああああああ!! ふざけるなぁ! ふざけるなァァ!! 馬鹿野郎ォォォォオオ!!』
『そうキレんなって、フラグ回収してけば終わるから』
『こんな外道の兄がいる部屋に居られるかッ!! あたしは実家に帰らせて貰いますッ!!』
『ここがお前の実家だ諦めろ』
『ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!』
:愉悦の人やんけ
:下衆の極み兄貴
:凄まじいうめき声で草
:そこまで嫌かwwwwwww
:おいたわしや里奈上
……とまあ冗談半分本気半分で遥香と軽快に掛け合っていく。最近はこの軽薄な調子で繰り広げられるトークが好きだと言ってくれるリスナーも多く、大変にありがたい。
『はい、というわけでね。今回実況していくのはこちらのホラーゲーム【Sweet home】でございますけどもね。なぁに複雑な操作は一切なし、ただクリックするだけ! ね? 簡単でしょう?』
『そのクリック一つ一つがすさまじく重いんですけど』
『気のせいだよ。はいというわけでやっていくぜひゃっほう』
『いやひゃっほうじゃねーんだわ』
『いいから俺と一緒に犠牲になるのだぁ』
『ちくしょうこれ終わったら甘いものヤケ食いしてやる』
隣でぶつぶつ文句を言う───これも台本通りだが恐らく本心だろう───遥香を尻目に、ゲーム画面をクリックする。
すると画面に英語の文章が、演出の一貫か妙にゆっくりと浮かび上がった。
『えーっと、なになに? In 1967, a family suicide took place in this house. Since then, rumors have circulated that the ghosts of the family members who lived in this house appear. You go to the house to find out the truth behind the rumors......』
:!?
:ファッ!?
:今の英語優斗くん?
:なんて?
:滅茶苦茶流暢でビビった
:ネイティブの人呼んだ?
:つよつよ勢なんか
『ん? ああ、言ってなかったっけ。俺達英語は得意なんよ。んでこの文章だけど、【1967年にこの家で一家心中があって、それ以来怪奇現象が起こるって噂があるから、確かめるために一人で来た】って書いてあるな』
『なんでこんな如何にもヤバい所に一人で来るんですかねぇ……』
『ホラゲだからだよ』
『分かってるよそんなことぉ……身も蓋もねぇこと言うなよぉ……』
『里奈さんふにゃふにゃで草』
『苦手なんだからしょうがないでしょうよぉ……てか苦手なのはあんたもだろ……』
:ホラゲかと思ったら英会話レッスンだった
:はえーすっごい分かりやすい……
:英語ペラペラな人尊敬する
:まあ確かにこんなとこ複数人で行けよって思うよな
:何人来たところで動かすのは自分だから実質一人ゾ
:身も蓋もねぇこと言うなよぉ……
:ちょっと定着してて草
さてさて、このゲームはいわゆるflashゲーで、特定のオブジェクトを複数回クリックするとフラグが成立して、アイテムを拾ったり、イベントが起こったりしてゲームが進む。
今現在画面には、どうやら件のホラーハウスの玄関前に居るようだ。目の前には侵入者を拒むように、モノクロ調で表現されたドアが鎮座しているのだが、
『ノックしてもしもォォ~~~し』
俺はドアをひたすらクリックする。ドンドンドン! という激しく玄関を叩く音が断続的に鳴り響いた。
『ウワーッ! 躊躇いもなく連打してる!!』
『玄関で止まってられるか! 開けろ! デトロイト市警だ!!』
『一般ピーポーですけどもぉ!?』
:草
:草
:マジで兄貴のテンションどうした
:ジョ○フは草
:おい妹止めろ、目を背けるな
:おい全然怖くならねぇぞwww
バカやってるうちに玄関が開き、画面が暗転。次のシーンへ。家の中に入ってすぐだろうか、それなりに広い部屋のようだ。
『おっ、開いてんじゃーん』
『開けたんだよなぁ……』
『えーっと、ダイニングルームか。いやー荒れてますねぇ』
『そりゃ廃墟だからね』
『んーなにかないかなーっと……おっと、早速第一オブジェクト発見!』
『なにそのダ○ツの旅みたいなナレーション』
『ウーウウッフヤイヤイウォーウイェーエエー』
『歌わなくていいから』
:急に歌うよ
:第一村人(故人)マダー?
:優斗くんテンションがおかしいけどマジでどうした
:自分も怖いのを勢いで誤魔化してるんでしょ
:あーなるほど
:で、いつ頃絶叫するんです?
:まーまーもうすぐですよ
:いかんニヤニヤしてしまう
クリックに反応したのは額縁に入った絵のようだ。画面にオブジェクトの詳細な画像が表示される。
『えーこれは……家族の絵ですかね?お父さんお母さん、えー子供は二人、男の子と女の子かな? どっちかが描いたんですかね』
『ねえお母さんだけ妙に黒っぽい色使いなのはなんで……?』
『明らかにお母さんが原因って感じだな』
『あーやだやだ……これじっと見てるとこっちまで呪われそう』
『いやあ流石にそれは』
バリンッ!!
『『おわあああああっ!?』』
:草
:うるせぇ!!
:俺もビビった
:鼓膜キンキンなんだが?
:こっちにダメージ来るのは聞いてないんですけど
:ユニゾン効きますねぇ!
『あービックリした!! 心臓止まるかと思った!!』
『なんの前触れもなくガラス割れるのやめろ!!』
いきなりバリンッ、はやめてくれよ。いや、そういうゲームなのは分かってるけどせめてもうちょっとこう、前兆というかそういう前振りみたいなのないんですかね?
なんの前情報もなくプレイしたけどこれそういうのばっかりなのか? 俺心臓持つかな……。
『…………里奈さん、ひとつ提案があるのですが』
『なんでしょうか優斗さん』
『ここでやめて雑談配信に変更というのは』
『おい言い出しっぺ』
『いやだって怖いもん! 覚悟はしてたけどやっぱ怖いもんは怖いもん!!』
『お前がやるっつってあたしも巻き込んだんだろ!! ここでヘタれるとかお前赦されざるよ!?』
『分かってるけどさぁ!! 頭では分かってるんだけどさぁ!!』
『あのことバラすぞ今ここで』
『どのことだよ!? 全く身に覚えないけどなんか怖いからやめろ!!』
『このまま進めるか今あたしにこの場であのことバラされるか二つに一つださぁ選べ今選べすぐ選べほら選べ』
『全力でやらせて頂きまぁす!?』
:一 転 攻 勢
:一瞬でヘタれる兄とぶちギレ妹
:形勢逆転してて草なんだ
:お前らボケとツッコミ目まぐるしく入れ替わるな
:漫才コンビかな?
:優斗くんそれはないわ
『…………カスタードシューで手を打たないか』
『実は兄貴は中学一年の秋にー!』
『やめろおおおおおおお!!』
:草
:もう顔面草まみれや
:往生際悪いなw
:中1のとき何があったんだよ
:ガチの叫びやん
:逆に気になるわ
:やらなくていいから黒歴史聞かせてくれ
『ちくしょうやるよやりますよ! その代わりお前も目ェ逸らすなよ!! 絶対だからな!』
『分かったからはよ進めんかい! しまいにゃ本当に喋り始めるよ!!』
『こんにゃろうなんつー脅し文句だッ! クッソ、こうなりゃヤケクソだ! 速攻でクリアしてやる!!』
『おら早く進めるんだよぉ!!』
『分かってるから急かすな!』
【ヴァァァアアア!!】
『ぎゃああああああああ!!』
:うるせぇ!!
:草
:鼓膜ないなった
:なんにも聞こえなくなったんだが
:あれ今日って鼓膜破壊配信でしたっけ?
:クリアが先か俺らの鼓膜が潰れるのが先か
:狂気の沙汰ほど面白いッ……!
:鼓膜倍プッシュだ……!
:鼓膜倍プッシュってなんだよ
:私にも分からん
母さん、親父。わりと早くそっちに行くかもしれません。
後半へ続きます。