双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
「くっはー!! いやーおもろかったねーコラボ配信!!」
パリピと陰キャの地獄のような(リスナー談)コラボ配信が無事終了し、ルキヤ先輩こと真綾ちゃんが大きく伸びをする。こちらも釣られて首を回すと、思っていたよりも疲れていたのかポキポキと鳴った。
「改めてコラボしてくれてありがとう、真綾ちゃん」
「ホントホント! 誰に頼もうか迷ってたから助かったよ~」
「別にええよ気にせんで! ウチも前々からコラボってみてーなーって思ってたし! まーいっちゃん最初に出来るとは思ってなかったけど! ……今言うのもアレだけどさー、世良ちんじゃなくて良かったん?」
こちらのお礼もさらりと受け取りつつ、真綾ちゃんがふと疑問を口にした。
世良ちん───
お祭り女を自称する、賑やかなこと大好きな女性Vtuber。しかし言動の端々から滲み出る口の悪さから元ヤン疑惑がついて回っている人。ついたあだ名も「姐さん」やら「姉御」やらなんだか物騒なものばかりな人である。
「遥斗兄ぃも遥香姉ぇも世良ちんに憧れてVなったんしょ? とっくにコラボしてもおかしくないのに何でかなーって思ってさー」
「あー…………」
「それは、その……」
俺も遥香も言い淀んでしまう。
真綾ちゃんは悪気があって言っているわけではないのだ。ただ俺達のコミュ障っぷりを理解しきれていないだけで、純粋に疑問に思っているだけなのだ。いつの間にか兄と姉扱いされているのは普通に嬉しいので置いておくとする。
いやさあ、だってさあ、情けない話世良先輩ってさあ、憧れではあるけど同時にめっちゃ怖いんだよ! あの言動マジもんのヤンキーじゃないとそうそう出てこないって! なんかリアルでもかなり尖った容姿してるらしいしさあ!? 会ったら多分部屋の隅っこでガタガタ震えて命乞いしてるレベルで怖いの!!
まだリアルで会ったことはないけども、正直会うのが怖い! ただでさえ憧れ云々抜かしときながら、最低限の挨拶以外ろくに絡まないようなヤバイ級のシツレイ者なんだぜ!? 面と向かって何言われるか分からんからマジで怖いの!!
「だーいじょぶだって! 世良ちんそんな怖い人じゃねーから!」
「いやでもさぁ……」
「ウチだって大概しつれーな態度だし世良ちんとかあだ名つけてるけど、別に怒られたことないよ? まあ、ちょっと苦言? は言われたけど、別にそんなんでぶちギレるような人じゃねーからさ」
真綾ちゃんは大丈夫大丈夫! とあっけらかんとしてこちらを宥めてくれるが、いやしかしだよ怖いものは怖いのだよ。出来ることならはよう家に帰って反省会でも開きたい気分なんだわ。主に俺と遥香でダメ出しという名の傷の舐め合いになるが。
「まーまー、そう言わずに一回会ってみなって!」
「しかしねぇ……」
「ほら、なんなら後ろに居るし?」
「「…………へ?」」
真綾ちゃんから突然告げられたとんでもない言葉。一度遥香と顔を見合わせ、二人同時にゆっくりと振り返ってみると。
「おっつー真綾、コラボお疲れー」
「うぇーいおつぽんおつぽーん! ほら遥斗兄ぃ、遥香姉ぇ! あの人が世良ちんの中の人だよ!」
「「ヒエッ!?」」
そこには、ピアスじゃらじゃらアクセじゃらじゃらで、タンクトップに革ジャン、ダメージジーンズという出で立ちの、短めの髪をアッシュゴールドに染めた如何にもなヤンキーガールが風船ガムを膨らませながら、こちらに……というか真綾ちゃんに気安い感じで左手を上げて挨拶していた。
「紹介すんね! 我らがライブラフ一期生、神輿羅世良パイセンこと
「あーい、リアルでは初めましてやんね。神輿羅世良やってます周藤茉莉言いますー、以後よろしゅうなー」
「「アババババババ!?」」
嘘だろ噂通りのヤンキーじゃねえか! しかも関西弁女子! なんでこういう時だけ噂が大当たりするんだよ!! ナンデ!? リアルヤンキーナンデ!? コワイ!!
「だ、大丈夫……? えらいガッタガタ震えとるけど……」
「茉莉ちゃんが怖いんしょ。見るからにヤンキーだし」
「これがあたしのスタイルなんやからしゃーないやろ!? 別にヤンキーってほどでもないわ!」
「いやわりとヤンキーよ?」
「やかましいわ黙っとけ真綾!!」
「ほらーそうやってすぐドス効かすー、だから初対面の人怯えるんじゃん?」
「むぅ…………」
すごいな真綾ちゃん、あの怖いお姉さんに一歩も臆することなく会話してる。なんならちょっとたしなめてる。比べて真綾ちゃんの背中に隠れる俺達兄妹の情けなさよ。
「あー、ごめんな二人とも。別に脅かそうとかそんなんちゃうから。ちゃんと挨拶しやなアカンやん?」
「い、いえこちらこそ失礼しました……御簾納優斗やってます柳瀬遥斗です……」
「妹の方、御簾納里奈やってる柳瀬遥香です……あぅぅ……」
おっかなびっくり自己紹介。アイサツは大事、古事記にも書いてある。
「遥斗くんと遥香ちゃんやね? よろしゅうな二人とも! あたしに憧れてライブラフ来てくれたんやんね? 会えて嬉しいわぁ!」
茉莉さんは俺達の名前を聞いて、嬉しそうに笑った。あ、笑うと結構顔立ち幼くなるなこの人。
「ライブラフでさあ、二人に会いたいって奴いっぱいおるんよ。なんか人見知り激しいから滅多に事務所来ることないらしいやん? そのせいで超レアキャラ扱いされとるで自分ら」
「あはは……ひ、人見知りというかなんというか……」
「コミュ障拗らせてるだけっす、はい…………」
「んー……まあ、珠緒さんから事情は少しだけ聞いとるんやけどな? なんや学生ん時えらい目に遭うて、そのせいで人間不信気味になったとかなんとか……」
玉緒さん、ざっくりとでも事情説明してくれてたのか。つくづくあの人には頭が下がる。
「で、そのーなんや? 皆コラボしてみたい、会ってみたいとは言うとるけど、その事もあって皆遠慮がちになっとって。事情が事情やしあんまグイグイいくのもアカンやろってことで自重しとったんよ……真綾が空気読まずに突撃したけど」
「えー? 二人とも話したらちゃんと会話できたよ? あんま遠慮すんのもしつれーだしなーって思ってさ」
「お前は距離感バグっとるから特に自重せえ言われとったやろが! 皆が皆お前みたいに会ったら友達ーみたいにならんねやぞ!?」
「まーまー配信も成功したし結果オーライじゃん? それに茉莉ちゃんが初めてじゃなくて良かったんじゃね? ふつーに見た目怖いし」
「見た目の話は止めろ!!」
なにやら漫才コンビのような軽妙な掛け合いを繰り広げる真綾ちゃんと茉莉さん。恐らく歳もそれなりに離れているとは思うが、なんだか仲の良い姉妹の口喧嘩といった雰囲気があり、思わず頬が緩んでしまう。
「ったく……まーそんなわけやから、別に二人をハブっとったわけちゃうねん。むしろ二人が良かったら遠慮なくガツガツ行ったって? みーんな楽しみにしとるで、二人と話すの」
「…………いいん、ですかね」
「ええに決まっとるやん、何を遠慮することがあんねんな! コミュ障だの人間不信だのがなんや? そんな人間、個人でも企業でもぎょーさんおる! なんやったら二人より人間性アカン奴ライブラフにもおるし、今更一人二人増えたとこで変わらんて! どーんとぶつかって来ぃな!!」
そう断言した茉莉さんは、一度自分の胸を拳で軽く叩き、俺達に向かって爽やかに笑って見せた。
この人、すごいな。あんまり歳は変わらないと思うのだが、人間が出来ていると感じる。きっと、このVtuberというまだ新しいコンテンツの荒波の中で、一生懸命努力した結果培われたのだろう。
それはリスナーたちの言う「姉御」というよりも、むしろ「母性」とも感じられるような、温かく包み込んでくれるような……。
「「茉莉ママ…………」」
「いや誰がママやねん!! こんなでかい子供産んだ覚えないわ!!」
「にゃははははっ!! 茉莉ちゃんナイスツッコミー!!」
いかん口から本音が漏れた。お口チャックしとこ。
「はぁー、まあええわ。ウチに来たからにはしっかり面倒見たるから、せいぜい思いっきり羽ばたいて見せえ」
「はい、茉莉さん! いえ……世良先輩!!」
「あたし達、頑張って世良先輩に追い付きます!!」
「どうせなら追い越したる、ぐらい言ってええねんで? …………まあそれはそれとしてや」
と、先程までにこやかに会話が出来ていたのだが、徐に茉莉さんが俺の左肩と遥香の右肩をそれぞれ鷲掴んで顔を近づけ…………いや、ちょっと待って痛い痛い痛い肩掴んでる手がどんどん強くッ!?
「初コラボしたんか…………あたし以外の女と」
そこには先程まで優しかった先輩はおらず、代わりに不敬を働いた舎弟をお仕置きする修羅のにこやかな笑顔があった。
「えらい楽しかったみたいやんなあ……元舎弟共ォ……?」
「「アイエエエエエエエエエエエ!?」」
「んもー茉莉ちゃんまたそうやってからかって遊ぶー!」
「アッハッハッハッハ!! 冗談やじょーだん!!」
パッと肩から手を離し呵呵大笑する茉莉さん。
いや、あの…………目が『マジ』だったんですけど。
「兄者ぁ……やっぱりヤンキーこぁぃ……」
「あの、詫び料はいかほどで……?」
「いや、せやから冗談やっちゅーに!?」
「茉莉ちゃんの冗談は冗談にならねーんだわ」
「黙っとれ真綾!!!」
親父、母さん。
俺達、やベー人を憧れにしてしまったやもしれません。
「あの、ちなみになんですけど茉莉さんおいくつで……?」
「あたし? 19やけど?」
「まさかの年下……!?」