双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
『あっはっはっはっは! それで世良先輩に詰められたんだ?』
「いやぁ、あのときは生きた心地がしなかったですよ……」
「あの眼力間近で食らってみてくださいよ! 年甲斐もなく漏らしそうになったんですからぁ!」
ルキヤ先輩とのコラボ配信を終えたその日の夜、俺達は自宅にてWishcordの通話機能で三期生のメンツと報告会、兼反省会を開いていた。
まあ反省会とは言ったが、配信自体に関しては皆から合格点を頂けた。「言葉に詰まる場面が少し多かった」「話題を振られた時に視線が泳がないように」等々細かい指摘はあったが、全体としてみれば上出来であるとのことだ。やったぜ。
これを毎回やって当たり前? それはそうなんだがコミュレベルに問題ある俺達にまだそこまで求めないで頂きたく。
『まあでも、二人が無事目標達成できて良かった良かった! 正直心配してたんだぞ? あの二人のことだからギリギリまで引き延ばすんじゃないかって』
「うぐ……言い返せねぇ」
「実際ルキヤ先輩に凸されたから結果的に成功したようなものだしねぇ……」
美咲さん鋭い。俺達のことを良く分かっていらっしゃる。あのめっちゃ距離詰めてくるパリピっ子じゃなかったらグダグダで終わった自信しかない。よしんばコラボにこぎ着けられたとしても失敗してそう。
『うーん、まあそんなところだろうとは思ったよ。とにかく攻めの姿勢なルキヤ先輩だから、二人が受け身ながらも会話が出来ていた感じだからねぇ……』
『あ~俊輔さんもそう思いますかぁ~? コラボとは言いつつ実質インタビュー回みたいなものだったものねぇ~』
俊輔さんも凛花さんも正解。あの時は色々と必死で気付いてなかったけど、多分そこらへんも真綾ちゃんには見抜かれていたんだろうな。無意識か否かはさておき、かなり気遣ってくれたのだと今なら分かる。
……そうなんだよなあ、年下にめっちゃ気を遣ってもらってようやくまともな配信内容になるとかいう情けない結果なのは変わらないんだよなあ……。配信経験の違いこそあれ、もっとしっかりしていればより良い結果になったやも……。
『まあ気にしたってしょうがないよ! 自分達はまだまだ配信者としてぺーぺーなんだからさ、「先輩が気に掛けて引っ張ってくれるなんてラッキー!」ぐらいの気持ちでいた方がよっぽどいいぞ?』
「あー、そういう考えもありますか……」
「引率って感じかなぁ……?」
『そうだねぇ~、そこから一人立ち出来るように努力するのが一番かなぁ~?』
『頼るのと甘えるのは違うからね。僕らもライブラフの配信者なんだ、いずれは自分でコラボの企画とかを考えたり……とにかくこちらから攻める姿勢になれるよう、今は実習期間ぐらいに捉えたほうがいいね』
「なるほど……」
そっか、実習期間か。社会人経験のある俊輔さんの言葉が、俺の中で腑に落ちた。
俊輔さん達の言うとおり、今は先輩達の胸を借りて勉強する時間かもしれない。いずれはライブラフの一端のVtuberとして巣立つための、実習期間であると。そういう認識ならば理解できる。
なんだか、少しだけやる気が出てきた。こちとら勉強は得意なんだ、バンバン吸収して自分の糧としてやる。妹も同じ気持ちのようで、互いに少しだけ挑戦的に笑った。
「よっしゃ! 遥香、やるぞ!」
「お、やる気じゃん遥斗! っしゃーやるか!」
『いいねいいねぇノッてきたじゃん二人とも!』
『んふふ~、ここからどんな風になっていくか楽しみだねぇ~』
『今のうちにアレやっておいた方がいいかな? えーとなんだっけ、後方腕組み師匠面?』
『御簾納兄妹は自分らが育てた! ってこと?』
「俊輔さんは師匠というか近所の優しいおじさんって感じ?」
『おじッ…………』
「遥香、おじさんはやめてやれ……」
通話越しでも俊輔さんがショックを受けているのが分かる。妹よ、この年代の男性はおじさん言われるのすごく気にするんだ。お兄さんと言って差し上げろ。
『うん、とりあえず遥香ちゃんは脊髄反射でノンデリ発言するのやめような?』
『さすがに今のはひどいよぉ~』
「う…………ごめん俊輔さん」
『いや、いいんだ。実際おじさん言われる年齢だし、仕方ないよ……うん、仕方ない…………おじさん……』
『ほらーもー! 俊輔さん落ち込んじゃった! 結構繊細な人なんだから気を付けなよ?』
「ちょっと女子ー、俊輔さん泣いちゃったでしょー謝んなさいよー」
「茶々入れてくんな馬鹿兄! ホンットごめんね俊輔さん、今度お店の売り上げに貢献するから! 菓子折り持っていくからー!!」
『うん、ありがとうね……』
遥香の発言のせいでグダグダになってしまったが、どうにか報告&反省は終了。さてこの後はどうするか、となった時。
『そういえばさぁ~、二人は歌枠ってやらないのぉ~?』
凛花さんが何の気なしにそんなことを聞いてきた。
「歌かあ……」
「まあVの者としては避けて通れない道だよねぇ」
そう、Vtuberの強みとしてのひとつには「歌ってみた」がある。
元々はゲラゲラ動画からの発祥と言われており、ボカロ曲などを歌って録音したものを動画に編集して投稿する。ここから人気を博した歌い手などが台頭し、果てはメジャーデビューする人もいたりして、今では一大コンテンツの一つとして数えられる。
Vtuberも広義では配信者の一種ながら、ゲラゲラ等サブカルチャー系統の流れを汲んでいる以上、そういった需要は高い。特に歌唱力に定評のあるVなどはShort動画などでも投稿しており、Fullバージョンを熱望されることもしばしばである。
しかしなあ……歌枠なあ……?
「正直言ってあんまり自信はないですね」
「別に歌が上手いわけでもないからねー」
そうなのだ。オーディション用に歌ってみたを送った事はあるが、特段俺達兄妹は歌が上手いなどと自負していない。たまたま選曲したボカロの設定が俺達と同じ「双子である」という共通点があっただけで、これを売りにしようとは思っていなかったのだ。
加えて凛花さんことセレナと、美咲こと聖は既に歌ってみた動画を単体ないしコラボで出しているのだが、まあ二人ともお上手なこと。普段からカラオケやボイトレに通っているのかと思うほど、その歌い方は堂々としたもので。我々のようなトーシロ丸出しの歌では見劣りするわけなんですよ。
『んー、自信がないって言ってもなあ。視聴者はまだ二人の歌を聴いてないわけでしょ? 自己完結するには早いと思うぞ』
「それはまあそうなんですけどね……」
『僕もあまり上手くはないけど、近いうちに歌動画を出そうと思ってるから。二人もあんまり気にせず気楽に出しちゃえばいいよ』
まじか、俊輔さんも出すのか。でもあのギルベルトのバリトンボイスなら何歌っても大体映えそうだけど。
「んー……じゃあとりあえずShort動画で何かしら出す方向で考えてみますね。遥香と玉緒さんにも相談するので一旦落ちます」
『は~い、楽しみにしてるねぇ~』
『今度は歌でコラボしような!』
「うひー、お手柔らかにぃ」
遥香の情けない声を最後に通話を切る。
「ふぅー……三期生内なら普通に話せるようになってきたかな」
「そうだな、今度はこれを箱内のメンツまで持ってこれるようにならないと」
「まだ先は長そうだぁ……」
長そうとは言うが、そろそろデビューして数ヵ月は経とうというのに足踏みしてる時間が長いのが俺らなんだよな。他の皆はずっと先をいってるのに対し、俺も遥香も現状から一歩ずつが精一杯という状態。
ここらで一足飛びというか、荒療治的なことでもしないと先がなさそうだし、配信的にも美味しくない。やはり配信者たるものバズってなんぼ、一層気合いをいれなければ。
「でだ、妹者よ。これからの目標だけど、今俺の中で3つ候補に上がってるのがあるんだが」
「うむ、聞こう兄者」
「一つ目、さっきの話にも出た歌ってみた動画、または歌配信を行う。俺としてはこいつは前向きに検討している」
「あたしとしても賛成だよ。次は?」
「二つ目は俺達の強みであるマルチリンガルを使ったコラボ配信。現状ライブラフにはいないが、他の箱なら外国出身のライバーもいる。これを利用して、相手の母国語で突然話し出すドッキリなんか面白そうじゃないか?」
「いいね、面白そうじゃん! で、三つ目は?」
「このまま箱内でコラボ配信を重ねて足元を固める。先輩方の配信にお邪魔すれば名前も売れるだろうし、そこからこっちにチャンネル登録してくれるかもしれない」
「ふむ…………」
俺としてはまず歌配信かな。べ、別にコラボを避けてるとかそんなコミュ障的理由じゃないんだからね! ホントなんだから!! 誰にツンデレな言い訳してるんだ俺は。
「……あのさあ遥斗、それならさ、こういうのは?」
と、少し考え込んでいた遥香が提案してきたもの。
「────マジかお前」
ライバーとして、いや。
兄として、妹のそれは、中々に大胆な発想だった。
ちょっと尻切れトンボですがここまで。