双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
二週間後。我々御簾納兄妹は自宅のPCの前にて、待機中の配信画面を緊張の面持ちで見つめていた。
「もうすぐだな」
「心臓バクバクしてきたよ……」
何しろ大型コラボだ。俺的にはリスナー側として見たかった気持ちもあるが、まさか遥香の提案で参加することになるとは。兄として妹の成長に感慨もひとしおである。
ただ飛び入り参戦となってしまったことは申し訳ないな。取り次いでくれた玉緒さんと参加OKを出してくれた主催の先輩には感謝しかない。参加条件満たしてて本当に良かった。
:もうすぐか、楽しみだ
:この企画優斗君達も参加できるってことは……
:まあ後の楽しみにとっておこうや
:まさかこの二人が飛び入りとは
:箱内コラボであっぷあっぷしてた二人がなあ
:立派になって……(ホロリ)
:親目線のやついて草
:親の顔より見た双子の顔
:もっと親の顔見ろ定期
:何やらかしてくれるかワクワクすっぞ!
「おーおーやらかしを期待してくれてるようで」
待機所のコメント欄を見ても、俺達が何をしでかすのかを楽しみにしているのが大半だ。そりゃあ元々決まっていたメンバーの中に飛び入りしたのだから、何かしら意図があると思うものは多いだろう。
まさか、思いもしないだろう。
((とりあえず行き当たりばったりで頼んだらあっさりOKされただけだなんて言えねぇ……!!))
まさか本来は「駄目元で無理筋な飛び入り参加を申し込んで名前を売り、次回呼んで貰える布石にしよう。その間に歌枠なり雑談なりで繋ごう」という計画だったのが、相談した玉緒さんが俄然乗り気になって先方と連絡を取り、あっさり了承をもぎ取り細かいスケジュール調整までバッチリ完遂してくれやがったので、今さら後には退けなくなっただけだとは思いもしないだろう。
((トークデッキとか何も思い付かなかったなんて言えねぇぇぇ!!!))
まさかその完璧なスケジュール調整までしてくれたのに、そのあまりの展開の早さに呆然としてしまい、冒頭の挨拶どころかその後のトークテーマや果ては合間の雑談に投げる話の種に至るまで、一切合切何も決めていないなどとは誰も思いもしないだろう。ああ俺達もまさかこんなことになるとは思ってなかったよ。
まさか始まる前から俺達がやらかしているなどと誰が想像つくだろうか。俺達も想像が付かなかった。見抜けなかった……この海のリ○クの目をもってしても! はいはい節穴定期。
「ねえどうすんのよ遥斗!? 無理言ってねじ込んで貰ったのに何も用意してませんとか!! これ間違いなくチョンボどころか炎上案件じゃない!?」
「今更嘆いたところでどうにもならねぇだろ!? こういう時は高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変にだな」
「行き当たりばったりじゃねぇか!! ていうかそれ二週間前にあたしらがやったから天丼なんだわ!!」
「よしじゃあプランBだ!!」
「ねぇよんなもん!!」
「人のセリフ取るんじゃねえよ!!」
「手垢の付いたネタで取るも何もないでしょうが!!」
もうすぐ配信が始まるにも関わらず、己の不甲斐なさを擦り付けあいながら喚き立てる情けない兄妹がそこにいた。
いやもう本当にどうしような? お題は伝えておくからなにを話すか考えておいてねー、とは言われていたのにことここに至るまで何一つデッキを組めていないこの現状。まるで夏休みの宿題を最終日から徹夜でこなしている気分だ。責任の重大さで言えばこちらのほうが段違いであるが。
まあ、遥香にも言った通り、ここにきて今更喚いても仕方がないのだ。その場その場でお題にあったエピソードを思い出しつつトークするしかない。全ては用意しなかったこちらに責任があるのだから、なるべく炎上しないよう最小限に火種を抑えるのだ。
「よし、玉緒さんが張り切りすぎたのが悪いということで!」
「遥香、流石に人としてそれはない」
「うん」
他責はやめなさい妹よ。
「…………ほら、始まるぞ。覚悟決めろ遥香」
「ふぅぅ……あーこれ終わったら反省会かなぁ」
「なるべく笑い話で済む内容にしような」
「ウッス…………」
さあ、ウィシュコにも『配信を開始します』とメッセが飛んできた。いよいよ始まるぞ、俺らの大博打が。……なんでこんな楽しいはずのコラボで勝手にヒリついてんだ俺ら。馬鹿なのか俺ら。馬鹿だったわ。
「よっしゃ、遥斗開始ボタンお願いね」
「おう。…………配信開始!」
起動した配信画面には、どこかで見たようなテレビのバラエティ番組をオマージュしたスタジオを背景に、司会を勤める女性Vtuberが一人。そして回答者として、ワイプのようにいくつか区切られた画面内で、これまた2Dアバターの男女が数人。それぞれマイクの音量などをチェックしているのか、少し忙しなく動いている。
そんな中、スタジオ風背景のセンターで動いている、いかにも魔法使いというか魔女です、という風貌の赤髪金眼を持つ妙齢な美女。『皆さんマイク音量大丈夫ですかー?』と裏で細やかな気遣いをしてくれたのが、司会を勤める彼女だ。
『はーいお集まりのリスナーの皆様、並びに出演してくださるVtuberの方々、こんばんわー!! ヘブンライブ所属のVtuber、異世界からやって来た超! 絶! 天才魔法使いの「ウィッチ・ザ・マリアンヌ」が司会進行を勤めまーす!!』
『『『『イエーーーーーーーイ!!!』』』』
司会の挨拶と共にメンバー全員で拍手。もちろん俺達もだ。
開始早々元気一杯に挨拶と自己紹介をする「ウィッチ・ザ・マリアンヌ」という方。Vtuber事務所としては最大規模の「ヘブンライブ」に所属している企業Vtuberである。
企業の特徴はその所属人数だ。何しろ現時点で150人以上という桁違いのライバーを抱えている化物箱、今でもシーズンごとに数人ずつ新人が増え続けているというとんでもない事務所だ。さらに所属しているライバーも曲者……もとい粒揃いという、一体どこから集めてきたのかと疑問に思うほどの個性的な面々が揃う、業界でもトップを争う場所。その中でマリアンヌさんは企業系Vとして最短日数で登録者50万人を突破するという偉業を成し遂げ、この記録は現在でも破られていないすごい人なのである。
『さあさあいよいよ始まりました、【日本に住んでビックリしたこと!】というのがこの配信タイトルなんですけども! 今回は国際的な大型コラボということで、色んな事務所や人気の個人勢から、忙しい人達がこの日のためにスケジュール合わせて参加してくれましたー本当にありがとうございます!!』
マリアンヌさんの特徴はズバリ「司会力の高さ」だ。何かしら企業の垣根を越えたコラボをするならとりあえず彼女に司会のオファーが来る、とヘブンライブの他のメンバーがこぼす程に、司会進行力が高い。配信全体の空気感の調整や柔軟な時間管理など、場を仕切るのがすこぶる上手いのだ。
今回はそんな彼女自ら企画した大型コラボということで、集まったメンツも相応に人気なうえ癖のある人達ばかり。この人達を相手に司会を任されるってマジですごいと思う。
『それでは早速ですがメンバーの自己紹介からお願い致しましょう! 配信画面にメンバー並んでると思うんですけど、左から順番にお願いしていこうかと思いまーす! まずは同じくヘブンライブ所属、ドイツから来てくれたユリウスくーん!!』
『
:ぐーてんあーべん!
:Guten Abend!
:ユリウスーーーー!
:ゴツイ!でかい!でもカワイイ!
:でっカワイイ人だ!
:ユリウスおいたーん!
:ここにも脳焼かれてるやつが……
:ユリウスはでっカワイイからな
:この人初見なんですけどどういう評価なんです……?
ユリウス・ウッフェルマン。マリアンヌさんと同じくヘブンライブ所属の男性Vtuberで、生まれも育ちも生粋のドイツ人。現世と天国の狭間の世界にあるというBARでバーテンダーをしながら、天国に行けず迷っている魂を導いている。
彼はなんと身長が192cm。さらにライバーになる以前の職業が消防士だったそうで、オフで会った人が口を揃えて「デカくてムッキムキのザ・ドイツ人」と評価するほどのステレオタイプな体格をしているらしい。人によっては威圧感あって怖いとも。
が、ドイツ人でありながら下戸でビールが飲めなかったり、日本のショートケーキにハマって6号ホールサイズを一人で完食るほどの甘党だったり、実は編み物が趣味だったりなどなど、ステレオタイプとは程遠いギャップの数々にメロメロになってしまったファンや同業者が多数。
でっかいのにカワイイ。だからでっカワイイ。いわゆるギャップ萌えを自ら体現した人である。
『ユリウスくんありがとー! 今日は久しぶりの対面なんですけど、日本に移住してしばらく経ったみたいだから、感じたこと驚いたこといっぱい披露してね!』
『はい、マリアンヌセンパイ! 話したいこといっぱいいっぱいあるので、今日は楽しんでトークしたいと思います!』
:日本語上手いなー
:イントネーションはままだ不慣れっぽいけど聞いててほとんど違和感ない
:この人漢字検定準二級持ちゾ
:うせやろ俺より漢字読めるやん
:草
:草
:国語やり直してもろて
:でっけえドイツ人男性からの先輩呼びってなんかこう……いいよね
:いい……
『ありがとうございますー! さあ続いてはVラヴァーズENから来てくださいました、アマンダちゃーん!』
『
:ハウディー!!
:ハウディー!
:はうでぃぃいいいいい
:Howdy!!
:Howdy!!!
:声でっけえ!!
:アマンダー!!!
:雄牛共の連帯感よ
:流石はVラヴァーズだわ
:アマンダー!俺だー!首に投げ縄かけてくれー!!
:脱走するな定期
アマンダ・アンダーソン。「Vラヴァーズ」のEN、つまりアメリカ支部に所属している、金髪碧眼で三つ編みとそばかすがチャームポイントな、カウガールスタイルの女性Vtuberだ。
ケンタッキー州の牧場出身で、牛や羊などの動物に囲まれて育ったため大の動物好き。脱走する牛(とセンシティブ発言するリスナー)を西部劇よろしく投げ縄で捕獲して回るのが日課というコッテコテな設定のアメリカ人である。なお中の人も牧場出身とのこと。
ちなみにVラヴァーズは女性Vtuber限定ということもあり、売り方も相まって「Vtuberのアイドル事務所」という別名も持っている。そのため彼女もアイドルの一人として歌やダンスなどを売りにしており、ガチ恋勢も多数存在。男と絡むのを良しとしない所謂「ユニコーン」も少なからず。
なお本人はどこ吹く風で事務所の垣根を越えた交流をしているのでユニコーンの角は定期的にへし折れている。
『アマンダちゃんとは初めましてですね! 今日は来てくれてありがとー!』
『こちらこそ誘ってくれて嬉しいデス!! マリアンヌさん、今日はヨロシクデス!!』
:元気いっぱいでヨシ!!
:いやー如何にもなアメリカ人だな
:まだちょっと片言なのかわいいね
:これでもかなり上達したぞ
:最初は「コンニチワ」と「アリガトゴザイマス」しか日本語喋れなかったからすごい成長率よ
:日本の同期とお話ししたいから頑張ったらしいな
:てえてえ
:このキャラで努力家で健気とかオタクにバチクソ刺さるやん
:めちゃくちゃ頑張ったんだなあ……
:古参からしたらもうこんなに日本語喋れてる時点で涙出るのよ……
:親面なのか彼氏面なのか
『はーい、いっぱい話そうね! それじゃあ続いては、Start Star所属、イタリアからお越しのマウロさーん!』
『
:隙 あ ら ば ナ ン パ
:息するようにナンパするなマウロ
:うちのアマンダに手を出すなマウロ
:ママンの飯でも食ってろマウロ
:マリアンヌから離れろマウロ
:せめてピッツァ出せマウロ
:帰ぇれ!!(直球)
:相変わらず速攻で燃やされるなぁ……
:まあマウロとコラボするならお約束やし
マウロ・ダンジェロ。Start Starという中規模な事務所ながら、そこに所属するメンバーの中でも頭一つか二つ抜けて知名度のある、イタリア出身の男性Vtuber。見ての通りラテンの血に逆らわない生粋の伊達男。画家の卵を自称しているがそんなことより女の子とデートだ! を地で行く超絶軟派イタリアーノである。
そんなマウロだが実は裏ではかなり真面目な性格らしく、同所属のメンバーにウィシュコで「女性Vtuberが不快にならないお誘いってない?」という無茶振りからのおバカなやり取りを晒されて以来、今まで炎上要素でしかなかった女性Vへのナンパ行為が茶番というかお約束に転換してしまい、一気に知名度が上がるという奇妙なバズり方をしたのはあまりにも有名。なお本人曰く「営業妨害やめてー!」とのこと。
『マウロさんナンパはせめて裏でやってくださーい!』
『オー、マリアンヌさーん! 相変わらず吸い込まれそうで綺麗な瞳だね! 初めてあった日からボクはその目にメロメロさ! きっと月の女神も嫉妬して裏側に隠れちゃうね!』
『お褒めの言葉ありがとー! あとでナポリタンあげるね』
『
:なんでやナポリタン美味いやろ!
:喫茶店のナポリタンの美味さ知らねーな?
:さてはアンチだなオメー
:まあイタリア人にとってパスタにケチャップは邪道だから……
:食わず嫌いは良くないぞマウロ
:食ってみな?トぶぞ
:ああ、次はピッツァにパインだ……
:それは俺でも許せない
:お、喧嘩か?
『はいナンパ野郎は放っておきましょう。続きましては個人勢! オランダからやって来たメリーちゃーん!』
『
:メリーさーん!
:かわいいよメリーさん!
:ラブリーメリーさん!
:愛してるぞメリーさん!
:メリーさんの羊毛に包まれて眠りたい
:ここの変態率おかしくね?
:メリーさんあまりにも無防備過ぎるので……
:手取り足取りおじさんがワラワラと寄ってくるんだ
:もしもしポリスメン?
:コイツらを独房にぶちこめ!
メリー・シープランド。オランダからやって来た羊と人間のハーフの女の子。夢は羊の女王になることらしい。
さてそんなメリーさん、なんと初の外国出身の個人勢Vtuberということで注目を浴び、現在では個人勢ながら登録者100万人を目前とする怪物配信者。特にほんわかとした細めの話し声と、本人から滲み出る世間知らず感がちょっと危ないおじさんリスナーから支持され、たびたびスパチャ*1で怪文書を投げられては意味が分からず困っている様子を楽しまれるという、中々に不憫な人である。
ちなみに親しみを込めて「メリーさん」と呼ばれているが、某都市伝説とは関係ない。
『さぁー今日も変態おじさんが釣れてますねぇ~』
『悪い人たちじゃないんですよ。 ちょっと変な日本語を教えられて困るだけで……』
『羊共ー? あんまり変なこと書いてるとその内マジで逮捕されるからなー?』
:あーい
:すんませんしたー
:反省してまーす
:コイツら反省ゼロやん
:一回マジで捕まれ
:サーセン
『ということで、今回のメンバーは以上…………と、言いたいところなんですが』
ここでマリアンヌさん、一瞬お茶を濁す。
『おや、どうしましたセンパイ?』
『実はですね、今回集まったメンバー以外に……飛び入り参加が一組いるんですよ! 最後にそちらを紹介させてください!』
『Oh!? ワタシたち以外にもいたんデスかー!?』
『わー、それはすごいねー! かわいい女の子だといいなー!』
『どんな人なんでしょー?』
:棒 読 み
:あまりにも棒読みすぎて草
:示し合わせたようにwww
:ここまで台本通り
:いやまあ最初から映ってるしな……
:飛び入り参加だった以外に目新しい情報ないのよ
:噂の双子ちゃん!
:でも参加資格満たしてるの?
うーんあまりにも綺麗な棒読み! 皆さん出身はバラバラなのに日本のエンタメを良く分かっていらっしゃる。
さあ、いよいよ大トリである俺達の番だ。隣の遥香と目線を合わせアイコンタクト。大きく頷いて先ほど切っていたマイクのスイッチを入れる。
『それでは最後はこの二人! ライブラフから飛び入り参戦してくれた、何かと話題の双子ちゃんだー! 優斗くーん、里奈ちゃーん!!』
さあ、行くぞ。
何をやらかすかと思った? 始まる前にやらかしてたんだよ!
なおどうしてこうなったかは私にも分からん。