双子系Vtuber、はじめました。   作:えびんす

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つづいた
つづいてしまった
どうして


第一章
#01 ~きっかけは些細なこと~


 自分は平凡な人間だ。

 

 少なくとも、自分自身が、自分を客観的に見て、そう思っていた。

 

 

 

「遥斗、Vtuberやってみない?」

 

「は?」

 

 

 

 妹にそう言われるまでは。

 

 

 

 

 

 日本のとある街。

 

 首都圏とも、世間から隔絶されたような山中の村落とも違う、どこにでもあるごくごく普通の地方都市。

 

 県の中でも一位を譲るが二、三位を争うそれなりの規模の市。新幹線も停車するそこそこ大きな駅に、それなりに商業ビルが立ち並んで栄えている駅前。少し駅から離れれば繁華街などの大人の街並みが軒を連ね、そこからさらに離れれば、地方では有名なローカルなスーパーマーケットに、その周辺を囲う住宅地。

 

 どこにでも見られるような。本当にごく一般的な日本の地方都市。

 

 その中心部である駅から少し歩いたところにある、比較的最近に建てられた高層マンション。

 

 中流層、富裕層をターゲットにしたそこそこ値の張る分譲マンションの最上階。

 

 

 そこが俺、柳瀬遥斗(やなせはると)と、妹の柳瀬遥香(やなせはるか)が住む部屋だった。

 

 

 

「……すまん、遥香。もっかい言ってくれ」

 

 その部屋の、二人で住むには広すぎるリビングの、これまた二人では囲いきれない大きなダイニングテーブルに二人で向かい合って座っていたとき。

 

 妹、遥香からの唐突な提案に、俺はいまいちその意図というか、言葉の真意を図りかね。もう一度、「話をかみ砕いて喋れ」と言外に問うた。

 

 

「だから、あたしと遥斗でさ。Vtuberやって、お金稼ごうよ」

 

「オーケー妹よ、まずさっそく話の腰を折って悪いんだが、Vtuber? って一体なんだ?」

 

 

 正直に言って、俺はVtuberという単語に全く聞き覚えがなかった。

 

 おそらくはどこかで聞きかじった「Wetuber」のような、それともまた違うような何かではないかと予想はつくが、内容に関して全く想像ができない。

 

 

「Wetuberは知ってるでしょ?それの顔出しじゃなくて、イラストとか使ってWetuberみたいな活動する人のこと」

 

「要は…………アレか、俗にいう配信者ってやつか」

 

「そう」

 

「なんでそれを俺と遥香がやろうってことになるんだ?」

 

 

 確かwetuberは動画投稿して、その時に動画に広告挟んで、その広告料で収入を得てるんだよな? 中にはそれで億単位を稼いでいる猛者もいるとかいないとか。

 

 確かに魅力的でロマンがある話だが、俺たちがわざわざやるようなことだろうか。

 

 

「……パパとママが死んで、今日で3年でしょ」

 

「……ああ。もうそんなになるんだよな」

 

「……さすがにさ。パパとママの遺産ばっかりに頼ってちゃいけないって思ってさ」

 

「だからVtuberってか?」

 

「うん」

 

 

 遥香は、自分が言っていることの意味不明さを分かっているのか、遠慮がちに、ともすれば俯くかのように、ゆっくりと頷いた。

 

 

 俺たちには両親がいない。別に捨てられたとか、子供を置いて蒸発したとかそんなんじゃなく、普通に交通事故で亡くなった。

 

 毎年楽しみにしていた結婚記念の、夫婦水入らずでの旅行。二泊三日の温泉旅行のために長距離バスに乗った際、山中で落石に巻き込まれた。

 

 遺体には会わせてもらえなかった。生存者0という悲惨な事故の被害者は、直視できないほど酷い損傷を負っていたそうで、俺たちの両親も例外じゃなかった。

 

 残されたのはこのマンションの部屋と、俺たちの大学費用らしいまとまった貯蓄、生命保険。そして家族の思い出プライスレス。

 

 

 当分暮らせるだけの生活費はあるが、それに甘えてばかりもいられない。大学には行かず、俺も遥香も当面の安定した収入が必要になった。

 

 

「……普通に会社員じゃダメなのか」

 

 

 そう、普通に考えれば就職することだ。それが一番手っ取り早い。わざわざ収入を得られるだけの地位にたどり着けるかどうかも分からないVtuberでなくとも、それでいいのではないか。

 

 

 ――――そうすることができない理由は、想像がつくとしても。

 

 

「……無理だよ。あたし、もう遥斗以外信じられない」

 

「遥香……」

 

「大人がもう信じられない……親戚も、そうじゃない奴も、誰も……」

 

 遥香はそう言って再び俯いた。

 

 

 俺たちは、生まれ育った環境に関しては、恵まれていたと思う。

 

 家族びいきで見ても整った容姿だった親父と母さん。特に母はロシアとイタリア、日本のクウォーターの美女で、街を歩けば十人が十人振り返るような人だった。

 

 父も父で、最終的には上場企業のサラリーマンだったが、下手な俳優より整った顔立ちだった。昔父の友人に勝手にアイドルオーディションに応募されたと語っていたが、あながちあり得ない話ではない。今となっては真偽も確かめようがないが。

 

 そんな両親の下に生まれた俺たち兄妹も、自分で言うのもなんだがそれなりに整った容姿だ。遥香は学年問わず男子に告白された回数は数知れず、俺もよく女子に声を掛けられていた。

 

 だけど、両親の事故の後は皆俺たちから距離を置いた。

 

 あの事故のことを聞いたのだろう。以前とは別人のように、表情に暗い影を落とす遥香と、無意識のうちに周りと壁を作っていた俺。誰も彼も、俺たちとどう接していいかわからず、腫れもの扱いだった。

 

 教師も親身になっているつもりだっただろう。しかし「面倒くさい」と目が語っていた。

 

 

 そして親族も俺たちの味方じゃなかった。誰も彼もが、俺たちの後見人を名乗らなかった。

 

 「もう高校生だし」「大人の目が必要なほどじゃない」「アルバイトでもやっていけるでしょう」

 

 ガキは要らないと。むしろ両親の遺産の方がよほど価値があると、言葉の裏が透けて見えるようだった。

 

 俺も遥香も、そんな大人たちを信用できなかった。

 

 

 自分がしっかりしないと、大人たちにいいようにされる。俺が妹を、たった一人の肉親を守らなければ。

 

 

 今考えても、その選択は間違っていないだろう。だが、もっと取れる手段があったはずだ。

 

 所詮は高校生。どこかに伝手があるわけでもなく、ただ高校を卒業したのちは、機械的にアルバイトをする日々。

 

 このままではいけない。早く安定した収入を得なければ。そう考えはするが。

 

 

「……あれ以来、人と上手く話せなくなっちゃった。みんな心の奥底で、あたしたちのことどう見てるか、怖くなって」

 

「…………」

 

 

 俺も、遥香の気持ちはよく分かった。

 

 他人の目が、怖くなった。自分をどう見ているのか分からないのが、どうしようもなく恐怖だった。

 

 俺も、そうだ。そうなった。

 

 

 人の目を見て話せない。目を見たら、自分の心を見透かされそうな気がするから。

 

 相手とペースを合わせて話せない。そうしないと、会話の主導権を握られる気がするから。

 

 人の感情の機微が分からない。だって、自分の感情を相手に悟られたくないから。

 

 そんなこと、事故の前はまったく気にしてなかったのに。

 

 両親の死から起こった一連の人間関係は、俺たちが思っている以上に、俺たちの人格に影響を及ぼしていた。

 

 

 端的に言えば、コミュ障になってしまったのだ。

 

 

 でも、と遥香が顔を上げて続けた。

 

 

「でも、このままじゃダメだよ……このままじゃ、あたしたち本当にダメな人間になっちゃう」

 

「…………」

 

「人のこと、一生疑いながら生きる人間になる。自分でも気づかないうちに、たくさん、たくさん人を傷つける人間になる」

 

「……いや、遥香が悪いわけじゃ」

 

「そんなの!!」

 

 バンッ、と両手をテーブルに思いきり叩きつけながら、遥香が立ち上がる。

 

 そして、その勢いが急速に弱まりながら、それでも、遥香は弱弱しくつぶやいた。

 

 

「……そんなの、パパもママも望んでない」

 

「…………」

 

「嫌だよ……天国のパパにも、ママにも……顔向けできない人間になりたくないよ」

 

 

 

 そうだ。

 

 遥香の言うとおりだ。

 

 このままでは、親父にも母さんにも、顔向けできない。

 

 人を一生疑ってかからなければ生きられない人生など、どれほど窮屈か。今この時ですら苦しいのに、これが何十年と続くなんて、耐えられない。

 

 俺も、そんな人間になりたくない。両親が悲しむような人間になりたくない。

 

 

 だが、それでも疑問が残る。

 

 

「だけど、それでなんでVtuberなんだよ」

 

 

 遥香は俺の疑問に答えず、ポケットからスマホを取り出し、Wetubeアプリでとある動画を開いた。

 

 

「……これ見て」

 

「…………?」

 

 

 遥香に手渡されたスマホに映し出された、一つの動画。

 

 

 タイトルには「神輿羅世良(みこしらせら)、若衆のいじりにキレてしまう」。

 

 

 なんじゃこりゃ、と思いながら画面をタップし、動画を再生する。

 

 

 

『ラッセラーーーーイ!! 若衆のみんな元気かー!? 神輿羅世良のお祭り雑談にようこそー!!』

 

 

 

 そこにはねじり鉢巻きに祭法被を羽織った少女のイラストが、まるでアニメーションのように動いているのが映っていた。

 

 

 

:ラッセラーイ!

:ラッセラーイ!

:姐さん今日も汗が輝いてるぜ!

:姐さん汗拭きます!

:馬鹿野郎俺が拭くんだよ!

:新参はどいてろ俺が拭く!

:古参のおっさんども見苦しいぞー!

:そうだそうだー若者に譲れー!

 

 

『お前ら誰がアタシの汗拭くとかしょうもないことで喧嘩すんな!! アタシとお喋りしに来たんだろうが!』

 

 

 

 それは、俺にとってあまりにも新鮮で。

 

 

 

『――――ってことがあってさー、アタシマジでショックだったわけ。ほら若衆アタシを慰めろよ』

 

 

:マジでかわいそう   相手が

:なんてひどい奴なんだ!姐さん謝って!

:姐さんカタギには手ェ出さないって約束したでしょ

:これはエンコ案件ですわぁ姐さん……

:マジかよ姐さん最低だな

:俺そんなシャバいことする姐さん見とうなかった

:アンタ変わっちまったよ……もうついていけねェ

 

 

『オイなんでだよ!? なんでアタシが悪いみたいになってんだよ明らかアタシ被害者だよなぁ!?』

 

 

 

 あまりにも、痛烈で。

 

 

 

『あー……いつまで一人でいりゃいいんだ……アタシも彼氏欲しいわ……若衆以外で』

 

 

:な゛ん゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛

:と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛

:なんで藤原〇也が湧いてるんですかね……

:姐さんが藤原〇也のモノマネ得意だからだぞ

:姐さん地下労働はまだ終わってないでしょ

 

 

『誰がカ〇ジか!? お前らいい加減にしないとマジで神輿に縛り付けて崖から落とすぞ!!』

 

 

:姐さんが怒った

:ヒエッ

:許してください命ばかりは

:そんなんだからいつまでも独り身なのでは(ボソッ

:あっ(察し

:オイオイオイ死んだわアイツ

:無茶しやがって……

:おかしい奴をなくした

:骨は拾ってやるよ 嵐が過ぎた後にな

 

 

『テメェふざけんなあああッ!! ライン超えたな!? ライン超えちゃったなテメェオイ!?』

 

 

 

 

 あまりにも、眩しかったんだ。

 

 

「この『ライブラフ』って、今波に乗ってるVtuber事務所なんだけどさ。今2期生までいて、今度3期生を募集するらしいの」

 

「……つまり?」

 

「第三回オーディション開催するってこと。個人だったら機材からイラストから全部用意しなきゃだけど、ここなら機材とイラストは最低限用意してくれるし、バックアップもちゃんとしてるみたいだしさ」

 

「お、おう……?」

 

 

 よく分からないが、サポートとか福利厚生はしっかりしている会社だ、と言いたいのだろうか。

 

 確かに下手に就職して飛び込んだところがブラック企業でした、なんていう事態は俺も避けたいが、それだけではVtuberになる理由としては弱いような……。

 

 

 

 

「……遥斗。これなら、何とかなると思わない?」

 

「何とか、って?」

 

「あたしたちのコミュ障、治すきっかけになると思わない?」

 

 

 そういった遥香は、ひどく真剣な目で。

 

 しかし決して、冗談で言ったわけではないのだと。俺は理解できた。

 

 

「初めから相手の顔が見えなくて、ただ流れてくるコメントだけならさ。コミュ障を治すきっかけにならないかな」

 

「…………」

 

「手段としてはおかしいってことは分かってる。でも、やってみなくちゃ分かんないじゃん?」

 

 

 それに、と遥香が付け加える。

 

 

「遥斗が一緒にやってくれるなら……頑張れる気がするの」

 

 

 嘘偽りのない。まっすぐな目で、妹は俺を見ていた。

 

 そうか。お前はお前なりに、ちゃんと考えてたんだな。

 

 

「……ダメ、かな」

 

 

 三度、俯く。

 

 それなのに、俺はダメな兄だ。

 

 遥香の提案がダメなんじゃない。妹にきちんと相談せず、兄だからと、自分が何とかしなければと考えて、妹の気持ちをないがしろにしていた俺がダメなんだ。

 

 ダメで元々だ。どうせコミュ障、治せる目処もきっかけもないのなら、いっそのこと賭けてみればいい。

 

 それに妹の言うことにも一理ある。相手の目を見ず、心を探らないで済むコメントなら、とりあえず文面通りに受け取ればいいのなら。

 

 それだけで済むなら、これほど楽な特訓相手はない。まずコメントと会話することで、この無駄に慎重に相手を探ってしまう癖を治せていければ。

 

 いずれは、きっと社会復帰も叶うのではないか。

 

 甘い見通しではあるが、何もしないよりはマシではないか。

 

 

 

 

「分かった。お前に付き合うよ。やるよ、Vtuber」

 

「……ありがと、遥斗」

 

 

 

 妹の提案を呑むと告げたとき。

 

 俺は久々に、妹が心から微笑んだのを見られたのだ。

 

 

 

 

 

 そして俺たちは早速挫折しそうになった。

 

 

 

「遥香…………行くぞ」

 

「ごめ、無理……もうちょっと待って、心の準備、が……ぅぉえっ」

 

「諦めろ、元はと言えばお前が言い出したことだろ……うぷ」

 

「遥斗も人のこと言えないじゃん……うえっ」

 

 

 

 

 ――――――就職するうえで一番大事なこと。

 

 

 面接という、俺たちにとっては高すぎる壁が聳え立っていることを、すっかり忘れていたのだ。

 

 

 




初っ端から重い……重くない?
文章が下手なのはこれから鍛えていくので許し亭許して
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