双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
悩みながら指を動かしています
「ライブラフ」。群雄割拠のVtuber業界において、破竹の勢いで勢力を伸ばしている、今もっとも勢いのあるVtuber事務所である。
個性豊かなVtuberを多数抱え、全員がチャンネル登録数10万人越えという肩書きを持っている。
特に1期生と呼ばれる3人は既に50万人という大台を突破、いわゆる企業勢と呼ばれるVtuberの中でもトップクラスの人気を誇っていた。
そんなライブラフが某日、満を持して「3期生オーディション」を発表した。
「誉めると増える」「また増やすのか」「アレみたいな逸材がいるのか?」「溢れる闇鍋の具材」etc……
ライブラフがまた逸材を増やすという期待、今所属しているライバーに勝る奴が果たしているのか、という不安。入り交じったそれらは瞬く間に全国へ拡散した。
ライブラフの募集要項は3つ。
「おもしれー動画送った奴優勝」
「好きなことなら無限に語れるぜってやつちょっと来い」
「Vtuber好きってことアピールして♥️」
要約するとこんな感じである。
まず一次審査では動画を送る。内容はなんでもよく、とにかく審査員の目に留まれば勝ち。歌動画、モノマネ動画、はたまたこれだけは負けない!という自分の特技など。
それをパスしたら次は書類審査。これは企業に所属、言ってしまえば就職に近いのだから大事なことである。履歴書はきっちり書け。ここで大半がふるい落とされる。
俺達は、この書類審査に合格した。
「やった!遥斗やったよ最終審査だよ!」
「まさか通るとはなぁ……」
正直最初の動画審査で落とされると思っていた。なにせ俺達のアピール出来る強みといえば「双子の兄妹」ということだけで、他に自慢できる特技と言われてパッと思い付くものがない。
さらに言えば配信者らしい機材も何もない。この時点でほとんど詰んだようなものだった。
悩んだ俺達は、ダメ元でスマホに歌を録音し、それをPCへ転送。慣れないMIXソフトとかいうもので四苦八苦しながら楽曲と合わせ、「双子で歌ってみた」の音源を作成。
画面が真っ暗なのもどうなのか、という遥香の提案で、動画編集ソフトで簡単な動画を作り、音源と合わせる。
この時点で俺も遥香も疲労困憊といった有り様だった。
Vtuberってのはこんなことほぼ毎日やっているのか? 仮に俺達がなれたとしてもこんなこと続けていけるのか? 正直軽く見ていたが前言撤回、尊敬するよ。
とにかく、これで応募するための動画が出来上がり。早速ライブラフに送りつけた。
これでダメならまた他の方法を探さなければ。そんな考えをよそに届いたのは、一次審査合格の通知。
「マジか……」
「通っちゃった……」
これには俺も遥香も思わず困惑。何が審査員の琴線に触れたのか解らない。
解らないが、ともかく次の書類審査だ。合格通知には、履歴書ともう一つ、Vtuberになってやりたいことを簡単でいいので書くように、とのこと。
「やりたいこと、か」
「なんだろ……遊ぶ金欲しさ?」
「犯行動機だろそれ……コミュ障を治したいんだろ」
「そうなんだけどさ、それをバカ正直に書いていいのかなって」
「それは……まあ、確かにな……」
コミュ障を治したいです、面白いねハイ合格、とはならないだろう、普通に考えて。妹が正しい。
だが俺達がVtuberになるのはそもそもが社会復帰のためだ。これを抜きに書いてしまうと、どんな文章も薄っぺらくなってしまうような気がする。
「やっぱり書いておこう。まともに人と話せるようになりたい、Vtuberをその足掛かりにして、社会復帰の第一歩にしたいって書けば多少は伝わってくれる……はず」
「すっごい不安なんだけど……まあここまで来たらちゃんと書くしかないかぁ」
「……遥香、そこ誤字」
「んにゃあああまた書き直しだぁ!?」
失敗しちゃいけないと思うほどやらかす現象、あると思います。
ともあれ、人と上手く話せないのを治したい、Vtuberをきっかけに、社会に問題なく出られる人間になりたいということを、出来るだけ誠実に伝わるよう文章におこす。
社会復帰の為にVtuberというのもおかしな話だが、これが俺達の志望動機なので書かないという選択肢はない。出来るだけ誤解なく伝わるよう、誠実に、分かりやすく。
果たして、書類審査も無事合格通知が届いたのだった。
「いよいよ最終審査かあ……それも合格したら、いよいよデビューなんだね」
「合格したら、な。まだ気が早いだろ」
「だってあのちゃちな動画からここまでこれたことが奇跡みたいなもんじゃん! このまま最後の審査も合格もぎ取っちゃおうよ!」
「はいはい、だからちゃんと次の面接もお行儀よくしろよ」
「分かってるって! いくらあたしでも面接ぐらい行儀よく…………」
「…………」
「…………」
俺も遥香もそこで気づいた。気づいてしまった。
俺達、人と話せないのに、面接できるのか? と。
そして面接当日。
「あー緊張する……吐き気してきた」
「吐くなよ、絶対吐くなよ? 絶対だぞ?」
「その言い方やめて……吐かなきゃいけない気がしてくる」
「いっそ吐いた方が楽になるかもな」
「面接官に吐瀉物の臭い撒き散らすのはアウトでしょ……」
都内某所。通知書に記載されていた住所にたどり着いた俺達を待っていたのは、見上げるようなオフィスビルだった。
そもそもライブラフというのは正式な会社名ではない。
正式な名称は「株式会社フロート」。主に仮想現実や拡張現実などの企画、開発を行う次世代IT企業。その業績は、一般人の俺達でもニュースなどで時々耳にするぐらいだから、業界的にはすごい会社なのだと思う。
そのフロートが新たな可能性として立ち上げたのが、「ライブラフ・プロジェクト」。誰でも気軽に、笑って使ってくれるVR、ARプラットフォーム企画。
その第一歩として目を付けたのが、当時やっと注目され始めていたバーチャルWetuberだった。
Vtuberを自社で集め、やがて発表するプロジェクトのケースモデルにする。当時としてはかなり無茶な目的だった。
だがフロートは見事ビジネスチャンスを掴んだ。集まったライバーはことごとくが人気を集め、ライブラフ、そしてフロートはVtuber業界において一、ニを争うVtuber事務所ブランドとしてその地位を確立させた。
それを機に自社を現在のオフィスビルに移転、同オフィス内に複数のスタジオを抱える、今最も勢いのある事務所である。
……というのが、俺達が自主的に調べたライブラフの情報だった。
ほぼ初めての大都会で迷わないよう住所を調べたついでに概要を見ていたので、規模などはそれなりに理解していたつもりだったが……。
「改めて見るとマジでデケェな……まあこれ全部じゃないだろうけど、それでもこんなところにオフィス構えるって相当だよな」
「うぅ……兄上ェ……オラやっぱ無理だぁ、もう家さ帰りてぇ……」
「似非かっぺする余裕があるなら平気だな、覚悟決めて行くぞ」
「待って待ってマジで待って、割りとマジでお待ちくんなんしマジで」
「もはや何語よ」
「いやもう無理マジで無理死ぬ無理死ぬ死ぬ」
「待てや」
ここまできて遥香がコミュ障の極みを発揮してバックれようとするのを首根っこ掴んで抑える。
「お前ここまできて帰ろうとするな」
「離せ兄者ァ! こんな人の目が四方八方ある空間にいられるかあたしは帰らせて貰うッ!!」
「お前が始めた物語だろうが遥香ァ! 俺だって正直帰りたいけど必死で耐えてんのに言い出しっぺのお前が帰るなオイィ!!」
「無理だって無理だってぇ!」
「無理っていうのは嘘つきの言葉なんですッ!!」
「ぴぃぃぃぃぃ!」
なおも逃げ出そうとするじゃじゃ馬を必死で繋ぎ止める。コイツだけは絶対に逃がさん。
というかこんな往来で騒ぎ立てたら余計目立つのが分からんのかコイツは。
どうにか逃げ帰ろうとする愚妹を宥めすかし、ようやくビルのエントランスに入った俺達。
なるほど中も清潔だ。一等地に立つオフィスビルだけあって清掃も行き届いているのが手に取るように分かる。
俺は妹を引き連れて奥の受付へ向かい、カウンターの受付嬢に用件を告げる。
「あの、株式会社フロートの面接で伺ったのですが」
「株式会社フロートですね? お繋ぎいたしますのでお名前をお願い致します」
「柳瀬遥斗と、柳瀬遥香です」
「柳瀬様、畏まりました。そちらのソファにお掛けになってお待ちください」
まずはオーケー。あとは案内を待つだけだ。
「えっと、緊張は手のひらに人の時を三回書いて飲み込んで……あれ、人って最初に右に払うんだっけ」
……先に妹の緊張をとることからだな。
それから5分ほど時間が経ち、ようやく遥香の緊張がとれてきた頃。
「大変お待たせいたしました。本日の案内と面接を務めさせて頂きます、株式会社フロートの
いよいよ、俺達にとって最大の試練が訪れた。
詰め込み過ぎた感
次話もよろしくお願いします