双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
拙い本作を続けていくにあたり本当に励みになっています。
「あ、あの、本日はよろし、よろしくお願いします」
開口一番噛みまくりの自己紹介で始まった。初っ端からやらかした情けなさで早くも泣きそうになってしまうが、まだだ。まだ慌てるような時間じゃない。相手がもう眉間をグリグリしているがまだ慌てあわあわあわわ。
「緊張しますよね。あの手紙から事情は把握していますから、あまり気負わずいきましょう」
「あ、ありがとうございます」
「いえ。ではお二人とも、そちらに掛けて楽にしてください」
そう言って応対してくれた女性……末吉さんは、俺達に座るよう促す。
先程の初対面から場面は変わり、末吉さんに案内されたのはオフィスビルの16階、株式会社フロートが入っているフロアの一室。
応接室というプレートが掲げられた扉をくぐると、恐らく本革と思われるソファがガラステーブルを囲んでいる以外には、観葉植物と何かの風景画が飾られているだけのシンプルな部屋だった。
末吉さんは慣れた様子で上座の長ソファに座り、下座の一人用ソファに俺達を座らせた。
「一先ずお茶をどうぞ」
「ありがとうございます……」
なんだっけ、こういうお茶には「お構い無く」って言って手を付けないんだっけ? 急ぎの時だけだったか? いかん緊張しすぎてよく分からなくなってきた。
……遥香はもう湯飲みに口を付けていたが。緊張しているのは分かるが、せめていただきますぐらいは言っとこうぜ。それどころじゃないのは分かるけども。
俺もお茶を飲もうか一瞬迷ったが、末吉さんの「では始めていきましょうか」の一言でタイミングを見失った。後で飲もう。
「柳瀬さんは、地方の出身なのですよね」
「は、はい」
「東京を見て、どう感じましたか?」
「えっ……と、率直に言ってもいいですか?」
勿論いいですよ、と末吉さんが言う。
「人の多さに吐きそうになりました」
「あと駅で迷いそうになりました」
末吉さんは俺達の答えに苦笑した。率直にとは言ったがあまりにもばか正直に言いすぎただろうか。
「ああいえ、いいんです。お二人の事情なら仕方ないと思いますから」
「昔はこんなんじゃなかったんですが……」
「責めているわけではないんです。色々事情を抱えている人なんて沢山いますし、ウチにもお二人と似たようなライバーが居ますので」
末吉さんはそういって微笑んだ。
……駄目だ、この微笑みですら裏を勘繰ってしまう。いっそ無表情の鉄面皮で居てくれた方が楽だったかもしれない。
改めて思う。俺は本当に駄目な人間になってしまった。相手のこと全てを過剰に疑ってかかるような、そんな人間に。
遥香は……いや、遥香も同じだ。
聞かなくても解る。伊達に20年兄妹やってる訳じゃない。
解らない。この人の気持ちが、その目が、笑みが。
どんな顔をしているのか、解らない。
「…………深刻なのですね」
「ぁ……」
末吉さんに察せられてしまうぐらい顔に出ていてしまったらしい。
大事な面接なのに、こんな調子じゃ………。
「……お二人にどんなご事情があったのかは、私には分かりませんが、相当な苦労があったのだと思います。きっと、周りの人間を信じられなくなる程に」
「……すみません、こんな時に」
「…………正直申しまして、あの手紙をもらった時は、私は試されているのかと思いました。今までにない志望理由でしたから、面白半分で応募したのかと」
それを言われると反論できない。自分で見てもおかしい理由なのは重々分かっているつもりだ。
Vtuberやってコミュ障治るなら世話ねえよ、と言われればその通りである。そう簡単に治るのなら他にいくらでも方法はあるし、とっくの昔に解消されているだろう。
「……ですが、今日お会いして。あの手紙は嘘偽りなく、誠意を込めて書かれていたのだと分かりました。そしてここでの経験をきっかけに、それを克服したいという気持ちも」
「末吉さん……」
「せっかくチャンスを掴むために勇気を出してここに来たのに、後悔したくないですよね」
「ですから、お聞かせください。お二人はこのライブラフに入って、何をしたいですか?」
何をしたいか、か。
「……俺は、俺達は、もうお分かりかと思いますが、人との会話が苦手なんです」
「はい」
「このままじゃいけないと思っていても、どうすればいいかなんて検討も付かなくて。ただ時間だけ過ぎていって……」
だけど。
「妹に……遥香に、ライブラフの……神輿羅世良さんの動画を見せられて。それがあまりにも強烈で、新鮮で……眩しかったんです」
あの動画を見たときから俺は、心のなかに今までの陰鬱な感情とは異なるそれが渦巻いていた。
「俺は、何をしているんだ。このまま燻っていていいのかって、動画越しに、自分に問いかけられた気がしたんです」
「あたしは、そんな兄に……遥斗にただ甘えて、おんぶにだっこで。現状を何も変えようとしてきませんでした。だけど、世良さんの動画を見た瞬間、目の前が開けた気がしました。こんなにも、好きなことで輝いて生きている人がいるんだって」
「…………」
末吉さんは、俺達の話に黙って耳を傾けてくれている。その表情は、両親が死んでから見てきた大人たちのどの顔とも違っていて。
ただ、真っ直ぐに。俺達を見ている。
「あたし、この人みたいになりたいって思いました。たくさんの人と、楽しく話せるような。皆を楽しませられるような、そんな人に」
「俺は、やり直したい。このVtuberをきっかけに、もう一度社会に出られるような人間になりたい。親に胸張って、自慢できるような人間に」
そして俺と遥香は同時に頭を下げた。
「「自分達を、Vtuberにさせてください!」」
沈黙。それは数秒なのか、それとも数分だったか。
やがて末吉さんは、その口を開いた。
「お二人の思い、確かに聞きました。ただ漠然となりたいだけでない、切実な思いを」
それを踏まえて、と末吉さんは前置きして。
「……柳瀬遥斗さん、遥香さん。お二人とも、第三期ライブラフオーディション、合格です」
合格。
末吉さんのその言葉を噛みしめ。
「…………やっ、た? やったあ! 遥斗ぉ!!」
「ああ、やったな遥香!」
合格した。その事実に感極まり、遥香とハグを交わす。
「良かったぁ……ホント良かったよぉぉ……ふえぇぇぇ」
「おいおい泣くなよ」
「だっでええぇぇぇ……」
「はいはい分かった」
そのまま泣き出した遥香を宥める。末吉さんがすごく微笑ましそうに見ているから恥ずかしいんだけどな。
(はああぁぁぁあッ!!!! てぇてぇッ!!!! この二人マジでてぇてぇの塊やんけふざけんな私を尊みの爆弾で殺す気かッ!? マジで合格させて良かったぁぁ私グッジョブ過ぎね!? これは白米だろうが酒だろうが進みますわぁぁうへへへへへ)
内心そんなことを考えていたことなど俺達兄妹には知る由もなかった。
母さん、親父。
俺達、Vtuber始めます。
ようやく前置きが書き終わった……。
次回から本格的にVの話になっていきます多分恐らくきっとめいびー。