双子系Vtuber、はじめました。 作:えびんす
ライブラフでライバーデビューすると決まってからは、あっという間に時間が過ぎていった。
オーディション合格を貰った後、俺と遥香は珠緒さん───本人から気軽に名前で呼んでほしいと言われた───に、デビューするにあたっての注意事項を聞かされた。
不用意な発言、誹謗中傷、個人を特定されるような発言は絶対にしないこと。
周囲の人間に、自分がVtuberとして活動していることを公言するのは極力避けること。
分からないことや気になることがあれば、何でも相談すること。
炎上した際は慌てず、冷静に指示を仰ぐこと。
……などなど、まあ活動をする際に注意するべきことを説明された。確かにネットのアンテナサイトでも、度々Vtuberの炎上記事が載っていることから、やはり相応に気を付けねばならないのだろう。
まあ慎重というか臆病ぎみな貴方達ならそこまで心配はありませんよ、とは珠緒さんの談。
否定はしないけどちょっと複雑だった。会話なんて臆病なくらいで丁度良いのよね。
また、オーディションでは俺達兄妹の他に、三人が合格しているらしく、全部で五人が三期生としてデビューするとのことだった。まだ他の同期とは顔を会わせていないのだが。
俺達以外の同期は既に顔合わせを済ませているらしい。もしかしたら珠緒さんが配慮してくれたのかもしれない。
その珠緒さんだが、本人曰く三期生の統括マネージャーとしてしばらく働くらしい。それぞれ専属か二、三人を掛け持ちして個別にマネージャーは付けるとのことだが。
珠緒さんは俺達の事情を鑑み、専属でマネージャーを付けてくれるそうだ。彼女には頭が下がる。
そして面接から一週間後。ついに俺と遥香のアバターが完成したとのことで、早速送って貰った。
「これが、俺達の……」
「もう一人の自分……」
そこには、美少年と美少女。
どちらもグレーを主体としたブレザータイプの制服を着用。ライトグリーンの瞳に、男は黄色と緑、女は赤と青のメッシュが一部に入っている茶髪。
活発で勝ち気そうな表情の女、落ち着きのある男。
名前やプロフィールも一緒に添付されていた。こちらは多分珠緒さんが後から付け足したものだろう。
「お、おおぉ…………」
「な、なんか、いよいよって感じだね」
「もうすぐデビューするんだって実感湧いてくるな」
当日はこのキャラクターを動かしながら配信をするのだ。いやでも緊張と期待が高まる。
今回の三期生には、どうも共通するテーマというものがあるらしい。珠緒さんが言ってた。
曰く、『剣と魔法の世界観』。昨今のアニメ傾向などを鑑み、ファンタジー系のコンセプトを推していくのだそうだ。
このキャラクターにメッシュが付けられているのも、恐らくこのキャラクターが得意な魔法の属性かなにかを表しているのかもしれない。遥香なら火と水、俺は風と……なんだろう、土か雷だろうか。
色で魔法の属性だのなんだのが察せられる辺り、自分も最近のアニメに影響を受けまくっているのだと感じる。
同期もそういったコンセプトを元にしたアバターが送られているらしい。まだ公式のホームページにも情報がないが、大まかな情報だけは俺達にも入っている。
「なんだっけ……シスターと教師と……」
「魔王だったな、たしか」
如何にもなファンタジー設定である。そんで俺達は学校の生徒か? 双子が珍しいだけで設定的には普通だ。
いや普通で良いんですけどね。演技とかあんまり自信ないし。
というか魔王演じる人がすごい。俺だったら魔王とかロールプレイ重要そうなキャラクターでどう立ち回っていいか分からないし。普通に生徒で良かった。
改めて贈られたアバターを見る。
(……これから、長い付き合いになるんだろうか)
あまり愛想は良くなさそうな、落ち着いた表情を見せる少年。俺はもうすぐ、このイラストに俺という魂を吹き込むのだ。
名前を見る。なんだか珍しいというか仰々しいというか、中身が負けてしまいそうな名前を。
(
元の名前と殆どかすってもいないが、それぐらい別人の名前でいてくれた方がかえってやりやすいかもしれない。しばらくは本名とライバー名でごっちゃになりそうだが。
「…………ね、遥斗」
ふと呼ばれて横を見る。
最近はめっきり見なくなっていた遥香の笑顔が、そこにあった。
「どうした?」
「…………配信、楽しみだね」
「…………ああ」
楽しみ。あの元々あがり症で最近ではコミュ障も加わったぽんこつの遥香が、純粋に楽しみだと言った。
あの遥香が、昔のような笑顔で、なにかに夢中になっていた時と同じような顔で言い切ったことが、自分のことのように嬉しかった。
もう一度、アバターを見る。
さっきよりも、心なしか表情が明るく見えた気がした。
(…………よろしくな、
配信は目前に迫っていた。
配信当日。
「あわあわあわあわあわあわあわわわ」
「いや緊張しすぎだろいくらなんでも……」
あの時の嬉しさを返してくれと言いたかった。
今現在、自宅のPCの前で、初配信の時間を今か今かと待っている。
三期生がそれぞれ自己紹介と、ハッシュタグ───ライバーの配信情報や、ファンアートなどを検索しやすくするための機能───の名前を決めたりする配信だ。
そのなかで、俺と遥香改め「
ついこの間、楽しみだと言っていたあれは何だったのかと言いたくなるほど、遥香は緊張に呑まれていた。一周回ってこちらが冷静になってしまうぐらいだ。
「遥斗ぉぉ……」
「落ち着け、もう泣こうが喚こうがどうにもならんぞ」
「アイエエエ……」
自分のキャパシティが限界に達したのか、とうとう頭を抱えて蹲ってしまった。初配信を控えたライバーとしてはあまりにも情けない姿である。
しかしそうしている間にも同期は次々に初配信を終えていき、いよいよ俺達の出番が目前に差し迫っているのだ、ここらでいい加減復活して貰わないと困る。
というかね、ビックリしたよ。ビックリした。お皿のお豆が飛び出すぐらいビックリした。
何がって、同期が揃いも揃って濃すぎることなんだよ。
トップバッターの女教師改め「
二番目のシスター改め「
一番ビックリしたのが魔王改め「ギルバルト五世」の配信だったんだけど。
「どうも人族の皆~。余は魔界の王、ギルバルト五世であるぞぉ、よろしく~」
って、威厳あるアバターから嘘のように気が抜けるゆるい喋り方だったんだけど。それなりに低めの渋い良い声でそれだから思わず笑ってしまったんだけど。
どいつもこいつも一瞬で爪痕残していきやがったもんだから、配信を巡ってきたリスナーの期待はそりゃ高まるというもの。
「これだけ癖の強い奴らの大トリを務める奴って一体どんな……」と。それはそれはワクワクしながら俺達の配信開始を待っていることだろう。やめてくれよ。
「無理ぃ……無理だよ遥斗ぉ……あんな奴らに勝てるような配信思い付かないよぉ……」
「弱音吐くなって言いたいけど同意見だわ……」
お前ら期待しないでくれ。こちとらただのコミュ障兄妹なんだぞ。出来ることなら今すぐ逃げ出してぇ。
「……はい、というわけでねぇ、余の初配信はここまでだね~。次が最後の三期生メンバーだから皆そっちに移動してね~、余も見に行くぞ~」
嗚呼、終わってしまう。そして俺達の番が来てしまう。
:ここでええのんか?
:期待
:大トリはどうなるんやろか
:情報何もなかったから正直こわい
:ライブラフを信じろ
:頭ライブラフの何を信じれば良いんだよ
:草
:まあライブラフは良い意味で信じられないの同意
:正座待機
うわぁ視聴者さんがいっぱいだあすごいなあ。出来ることなら半分ぐらいこの辺で帰ってくれませんかねぇ。
「ほら遥香見ろ、俺達を期待する不特定多数の目がお前を見てるぞ、日本全国から俺達を見てるぞ、コミュ障の俺達がなにをやらかすか期待してるぞほら先陣切れよ」
「おいお前遥斗ふざけんなよ、仮にも妹にそんな役押し付けていいと思ってんのか? 双子だからって何言っても大体予想できるから何言ってもいいだろとかふざけたこと考えてないよな? おい押すなマイクに近づけるなざっけんなコラくそ兄貴ィ!!」
「良いではないか良いではないか、跡継ぎである長兄を生き残らせるため自ら盾となる妹の壮絶な
「エモいだけで死んでたまるかこのッ、おい離せッ、ちょっ、強、力強ぇなおい!?」
「兄に力で勝る妹なぞ存在しねぇ!」
「てめぇ、ふざけんな! かわいい妹ちゃんに何するんだよォ!!」
「君はいい妹だったが…………君がVtuberに誘ったのがいけないのだよ!!」
「謀ったな兄者ァァァア!!!!」
あーもうこんなことしてる間にもガンガン時間は過ぎていくのだ。現に俺達の配信開始までもう2分もないぞ。
と、その時、珠緒さんからのLimeが来た。
ちなみにLimeとは無料でチャットだとか通話が出来るアプリのことである。前に気軽に連絡できるよう珠緒さんにとID交換してたの忘れてた。
『貴方達らしく、楽しんで配信してください! 失敗なんて気にしないで!』
そんな拙いながらも、珠緒さんの真っ直ぐな気持ちが届くようなメッセージ。
俺も、遥香も、その文面を見て、少しの間無言になった。
次いでSNSの通知が立て続けに三件。いずれも同期のセレナ、聖、ギルバルトからだった。
『愛しの教え子達ー、見守ってるぞー』
『お二人の配信の成功を、影ながら祈っております』
『リラックスだぞ~。余も見守っておるからなぁ~』
「みんな…………」
「…………」
珠緒さんが。やっと俺達が信じられそうな大人が、俺達を信じてくれている。
俺達の同期が、SNSで俺達を応援してくれている。まだ顔も見たことのない俺達を。
「……遥香、やるぞ」
いつの間にか、緊張も震えも、何処かに吹き飛んでいた。
「…………うん。やろう、遥斗」
繋いだ手に、迷いがなくなった。
「……配信するぞ」
「うん」
画面を、切り替えた。
さあ、やろう。
次回、いよいよ初配信開始。