もう一振りの天羽々斬   作:とんこつラーメン

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唇に大きな口内炎が出来てしまい食事が痛くて辛い…(泣)

飲み薬を飲んではいるのですが、いつ治る事やら……。

共感できる人は多いと思います。







疾風と翼

 車は一路、地下本部にある専用駐車場へと向かっていく。

 本部自体は私立リディアン音楽院の地下にあるのだが、その車両を停めておく場所もまた地下に存在していた。

 そうでないと、学校敷地内に見知らぬ車があることになってしまう。

 事情を知っている者達ならばいざ知らず、何も知らない者達からしたらホラーでしかない。

 

「…(じん)。私と一体何を話すというんだ」

「想像は出来てるんじゃないのか?」

 

 後部座席から感情を押し殺したような顔で尋ねる翼。

 一方の疾風は、助手席からバックミラー越しに彼女の顔を見ながら微笑を浮かべる。

 

「昨日、あの場で私の無くなった腕を見ていたって事は、アンタは知ってるって事でいいんだよな? どうして、こんな体になってしまっているのかを」

「あぁ……叔父様から教えて貰った」

「…ずっと気になってたんだが、その『叔父様』ってなんだ?」

 

 あの場にいる人間達の中で翼だけが唯一、弦十郎の事を名前でもなく役職でも呼ばず『叔父様』と呼んでいた。

 名字が同じで『叔父様』呼び…その時点で二人の関係性はなんとなく予想がついているが、疾風は翼の口から聞きたいと思っていた。

 

「…あの人は私の父の弟なんだ」

「成る程…だから『叔父様』ね。納得した」

 

 この清廉潔白を絵に描いたような少女が、まさか『あっち』の意味で『叔父様』なんて呼んでいた筈はないが、それでも何故か気になってしまった。

 

「実は、私はお前のいる病室まで行ったこともある」

「僕も行きましたよ」

「……マジ?」

「マジです」

 

 疾風が病院で目を覚ました時、目の前にいたのは悲痛の顔を浮かべていた弦十郎だけだった。

 なので、てっきり彼だけが自分の見舞いに来ていたのかとばかり思っていたが、実際には違っていたようだ。

 

「あの時はまだ疾風さんは意識不明の状態でしたからね。知らなくても無理はありません」

「仕方がない事とはいえ、自分の寝顔を見られていたってのは、どうも恥ずかしいもんがあるな……」

 

 性的な意味での羞恥心はとっくの昔に克服しているが、乙女心的な意味での羞恥心はまだまだ健在のようだ。

 辛うじて、まだそういった部分を残している事が弦十郎にとって唯一の安心だったりもする。

 

「…で、どうだった?」

「どう…とは?」

「恍けるなよ。ベッドの上で寝ていた私を見てどう思ったかって聞いてるんだ」

「…最初、報告を聞いた時は信じられなかった。あの時の私に余裕が無かったとはいえ…折れた刃によって誰かの腕を奪ってしまった事が……」

「ふーん……」

「その後…叔父様と緒川さんに連れられる形でお前の病室まで向かい、そして……」

 

 鏡越しとはいえ疾風に顔を見られなくなった翼は、俯きながら体を震わせて静かに呟いた。

 

「ベットの上で寝ている神を見て…シーツの下に本来はあったであろう右腕の部分が無くなっているのをこの目で見て……己の未熟さと不甲斐無さを心から思い知った…」

 

 泣いているのか。翼の声はどこか震えているように聞こえた。

 スカートを握りしめ、何かに耐えているようにも見える。

 

「私は…お前に対して絶対に許されない事をした…。どんな言い訳をしようと…あの時、私の心の動揺と未熟さが己の刃を折る結果となり、その刃がお前の右腕と指を奪う結果となってしまった…。どんな誹りを受けようとも、どんな仕打ちを受けても仕方のない事だ…。だが…だが、せめてこれだけは言わせてくれ……」

 

 俯いていた頭を更に下げ、そっと一言。

 

「すまなかった…。こんな陳腐な言葉で全てが許されるだなんて都合のいい事は考えてはいない。それでも…だとしても、これだけは絶対に言わないといけないと思ったんだ……」

「翼さん……」

 

 普段から翼のマネージャーをしている慎次は、彼女の悲痛な声を聞き、本当に心の底から申し訳なく思い、疾風に謝罪したいと思っているのがヒシヒシと感じた。

 問題は、疾風がそれを聞いてどんな反応をするかだ。

 

「そんな声を出すなよ。まるで、私が苛めてるみたいじゃないか」

「すまない……」

「また謝ってる。もういいよ」

「え?」

 

 自分の心情とは裏腹に、あっけらかんとした言い方をする疾風に、思わず翼は目を見開きながら顔を上げた。

 

「そりゃ…確かに、この体を見た直後とかは色々と恨み辛みもあったさ。けど、今はもうそんな事は無い。あれはもう二年の前の事…過ぎた事だ。他の奴はどうかは知らないが、少なくとも私は過ぎた事をいつまでもグチグチと言う趣味は無いんでね。お前さんに謝罪の気持ちがあるって分かっただけでも十分さ」

「神……」

 

 どうして、この少女はそんな事が言えるのだろう。

 目の前に自分の身体に決して消えない傷を残した張本人がいるのに、それを全く気にしていないかのようにする。

 神疾風は強い。体だけじゃない。その心が強い。

 自分なんかよりも、よっぽど天羽々斬に相応しいのではないのか。

 思わず、そう思ってしまうほどに。

 

「お前は強いな……」

「勘違いするな。私は強がってるだけさ。カッコつけてな」

「ふふ…そういう事にしておこう」

 

 翼が笑った。あの事件以降、鉄面皮だった彼女が。

 まるで、ツヴァイウィングとして活動していた頃のように。

 

「それにな、アンタのシンフォギアの破片が無かったら、昨日の時点で私は死んでいたかもしれないんだ。確かに、アンタの刃は私の身体を傷つけて腕を指を奪ったかもしれない。けど、その破片が今度は私の命を救ってくれた。そう思えば、少しはマシなんじゃないのか?」

「もしや…慰めてくれているのか?」

「もしかしなくてもだよ。昨日、弦十郎さんから話は聞かされたが…これから私はアンタと一緒にノイズのクソッタレ共と戦わなくちゃいけないんだろ? だったら、いつまでも辛気臭い顔をされてちゃコッチのヤル気も削がれちまうってもんだ。だから慰めた。それだけだ。他意は無い」

「全く…お前って奴は……」

 

 翼の雰囲気が柔らかくなり、研ぎ澄まされたような刃のような空気が霧散していく。

 本人にその気は無いのだろうが、これ紛れも無く疾風の功績だった。

 

(ありがとうございます…疾風さん。不謹慎かもしれませんが、翼さんと刃を分かち合ったのがアナタで本当に良かった…)

 

 まだ出会って二日目ではあるが、それでも神疾風という少女の事が少しだけ分かったような気がした。

 自分よりも他人の事を気に掛け、不和を良しとしない。

 そして、誰よりもはっきりと意見を言ってくれる。

 組織やチームなどでは最も必要とされる存在だ。

 

 車内の空気が少しだけ明るくなったところで、車は本部へと続く極秘扱いの道へと入って行った。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 本部に到着し、車から荷物を降ろしていく。

 その殆どが疾風の物ばかりだが。

 

「では、今から疾風さんの部屋に案内しますね」

「ちょっと待ってください、緒川さん」

「どうしました?」

 

 慎次の先導で部屋まで行こうとした時、翼がそこで待ったをかける。

 何事かと思っていると、彼女の口から思いもよらない一言が飛び出した。

 

「部屋ならば私が案内します。荷物も私が持ちましょう」

「いいんですか? 部屋の場所は分かりますか?」

「分かりますとも。私だって、ここで何回か寝泊りをしたことはありますから。奥の方にある、あの部屋で良いんですよね?」

「その通りですが…本当に大丈夫ですか?」

「防人に二言は有りません。お任せください」

「ま、ちゃんと案内してくれるなら、私としてはどっちでもいいんだけどな」

 

 当人を無視して話が進んでいくが、そんな事は気にしていないので、とにかく早く連れて行ってほしかった。

 

「…では、お願いします。僕はこれから司令室に顔を出して来ますから」

「了解しました。任せてください」

 

 慎次から荷物を受けとり、彼は先に司令室へに行ってしまった。

 歩く速度が相当に早いのか、あっという間にいなくなった。

 

「何者だ…あの人は?」

「いずれ分かるさ。それよりも、部屋はこっちだ」

「あぁ」

 

 疾風が持っているのは、背中にリュックと左手に紙袋だけ。

 その他は全て翼が持ってくれていた。

 

 実は、翼と二人きりになれたのはチャンスだと思っている。

 車の中でも色々と話はしたが、こうして二人だけにならないと話せない事もあるのだ。

 とはいっても、まずは段階を踏んでいかなくてはいけないが。

 

「…なぁ…かなり込み入った話をしてもいいか?」

「なんだ?」

「二年前のあのライブ会場で、アンタの相棒である天羽奏が死んだって聞いた。その原因もな」

「…誰から聞いた?」

「了子さんから。体の検査をしている間、暇だろうからっつって話してくれたよ。恐らく、あれは私だから話したんだろうな。響の奴には深い部分までは話してないだろう」

「そう…でしょうね……」

 

 疾風と響。

 装者となった原因と切っ掛けは全く同じなのに、人間性が全く違う二人。

 響の方は元気を体現したかのような性格をしており、疾風の方はその年齢とは裏腹に冷静沈着で頭脳明晰、運動神経抜群と非の打ちどころがない。

 他者への気遣いが出来ると言う部分は共通しているが、疾風の場合は気遣いの仕方が違う。

 だからこそ、彼女にだけは話したのだろう。

 

「ずっと聞きたかった。アンタ…風鳴翼にとっての天羽奏はどんな人間だったんだ?」

「…どうして、そんな事を聞きたがる?」

「純粋な好奇心…だけじゃないな。故人とはいえ、彼女は私にとっての先達だ。参考として聞いておきたいと思ってな」

 

 それは建前だ。本心は別にある。

 疾風が最も危惧している事。それをどうしても確かめたいのだ。

 場合によっては、自分が憎まれ役を買って出なくてはいけなくなる。

 

「奏は…そうだな。一言で言えば、いつも明るくて私の事を引っ張ってくれていた、大切な…掛け替えのない友人であり相棒だった」

「掛け替えのない…ね」

 

 少し引っかかる言い方。

 疾風の中で徐々に不安が広がっていく。

 

「ギアを纏う度に苦しい思いをしていた筈なのに、奏はいつも笑顔でそんな事を微塵も感じさせない。そんな奏に私は支えられた。奏がいてくれたから、私は戦えたんだ……」

「そっか……」

 

 ほぼ確定だ。間違いない。

 顔には出さないが、疾風は『厄介なことになったな』と内心で頭を抱えていた。

 

「だが…奏は死んでしまった。疲弊をした私を…あの場に倒れていた立花を守る為に…己の限界を超えた力を発揮したんだ」

「絶唱…だったか。それを使ったんだってな」

「そこまで聞かされていたのか…」

「装者となる以上、知っておかなきゃいけない事だから…だそうだ」

 

 絶唱の事を聞かされた瞬間から、疾風はこれを己の切り札とすることを決めていた。

 だが、彼女は切り札を安易には出さない。

 本当に必要と判断した時、最高のタイミングで放つ為に使わないでおく。

 

「だから…私は奏の分まで戦わないといけないんだ。奏が守ろうとしたものを…私が代わりに守らないといけないんだ。私は防人だから…防人として己を律して戦場へと赴かないといけないから……」

「防人…ね」

 

 前言撤回。

 これはもう『厄介』の一言では済まされない。

 どうやら、事態は疾風の想像以上に大変なことになっているようだ。

 

(恐らく、この事は既に弦十郎さんや慎次さんも知っている筈だ。それなのに未だにこのざまって事は……)

 

 近すぎるが故に変に気遣って言いたくても言えないか。

 それとも、もう手遅れだと判断して見放しているか。

 

(あの二人の事だから多分、前者だろうな……)

 

 弦十郎は言うに及ばず、慎次の方も相当なお人好しに見えた。

 優しすぎるからこそ言えないでいるのだ。

 

「けど、これからは神…いや、疾風も一緒に戦ってくれるのだろう? お前の戦闘能力については叔父様から聞かされている。初めてギアを展開したとは思えない程だったと」

「そいつはどうも。ところで、私を名前で呼ぶのは嫌だったんじゃないのか?」

「そ…それは…あの時はまだ疾風に対して引け目があったというか…」

「今はもうないのか?」

「そうじゃない。そうじゃないが……疾風の中には私の天羽々斬がある。私達はシンフォギアで繋がっている。そう思うと、不思議と他人とは思えなくてな……」

 

 今度は自分の番か。

 まさか、こっちにまで矛先が向くとは思わなかった疾風は、背中に氷を入れられたかのような感覚に襲われた。

 

「…っと。話している間に到着したな。ここがそうだ」

 

 自分で話題を振っておいてなんだが、かなり後悔していた。

 辛そうな顔をしながらもポツポツと話すぐらいを想定していたのに、翼は悪い意味で疾風の想像の遥か上を行っていた。

 それだけじゃなく、自分までターゲットにされてしまいそうになる始末。

 生まれて初めて、疾風は同性の相手に危機感を覚えていた。

 

「そうだ。ここまで来たのなら、荷物整理も私が手伝おうじゃないか」

 

 お願いだから勘弁してください。

 

 

 

 

 




おや? 翼の様子が…?

けど、まだ決まったわけじゃありません。

その前から既に弦十郎さんとのフラグは立ってるんですから。


主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?

  • クリス
  • 未来
  • マリア
  • 切歌
  • 調
  • まさかの弦十郎
  • まさかまさかの慎次
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