もう一振りの天羽々斬   作:とんこつラーメン

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前回の話から、一気に翼が追い上げてきましたね。

なんだかヤンデレの空気が漂ってきたからかな?





疾風と翼と響

「……………」

「その…えと……すまない…」

 

 翼に案内された部屋は、そこらの高級ホテルも顔負けな程の豪華仕様で、滅多な事じゃ驚いたりはしない疾風も、今回ばかりは素直に驚いた。

 といっても、口笛を吹いて『これはまた…』と呟いただけだが。

 だが、問題はそこからだった。

 

 この短時間で急激に近づいてきた翼が、いきなり『荷解きを手伝う』を言い出したのだ。

 正直、色んな意味で嫌な予感がしたので勘弁したかったのだが、そんな事を言い出せるような空気でもなかったので、致し方なく頼む事に。

 それが悲劇の始まりとも知らずに。

 

「あそこまで整理整頓が出来ない人間も珍しすぎるだろ…。別の意味での天然記念物だぞ……」

「言わないでくれ…凄く気にしているんだから……」

 

 翼は、整頓能力などが致命的に欠けていた。

 本棚に本を並べようとすると、何故かジャンルは愚か巻数までもがバラバラに。

 クローゼットに服を収納しようとすると、数秒後には服はくしゃくしゃに丸まっていた。

 それを見てすぐに疾風は『頼んだ自分がバカだった』と判断し、割れ物系は全て自分で片付けた。

 左腕だけでも見事な整頓をしてみせた疾風に、翼は地味に落ち込んだ。

 

「おまえさ…普段の生活はどうしてるんだ? 確か、一人暮らしなんだろ?」

「ひ…暇な時に緒川さんに部屋の掃除をして貰っている……」

「年頃の女…しかもアーティストとして活躍してる奴が、幾らマネージャーとはいえ、そう易々と部屋に入れるんじゃねぇよ…。普通に慎次さんに同情するわ」

「うぐ……!」

 

 知れば知るほど、聞けば聞くほどに風鳴翼と言う人間が分からなくなってくる。

 武人染みた人間かと思えば、他者への依存が高いような素振りを見せ、トドメは一昔前で言う『片付けられない女』だった。

 疾風から翼への第一印象は『全てがアンバランスな女』となった。

 

「と…ところで、今からどこに行く気だ?」

「司令室。片付けている間に弦十郎さんからメールが入って来てな。帰ってきて今は司令室にいるから、顔を見せて欲しいだとさ」

「もう帰ってきたのか……」

 

 二課の司令と言う立場上、弦十郎が上に呼ばれた際は大半の場合、丸一日かかるのが常だ。

 なのに、今回は半日程度で済んでいる。

 思ったよりも早く終わったのか。それとも、いつもとは違う用事で呼ばれたのか。

 

「しかも、司令室には響も来ているってよ。どうやら、途中で弦十郎さんと鉢合わせたみたいで、そのまま一緒に来たんだってさ」

「立花……」

 

 響の事を話題に出すと、途端に翼が厳しい顔になる。

 それだけで、彼女が響に対してどんな感情を抱いているのか一目瞭然だった。

 

(…そのまま行くと、確実に破滅するぞ。分かってるのか…?)

 

 疾風の予想では、翼は今の自分がどれだけ危険な状態なのか全く理解していない。

 体ではなく、その心が。

 ほんのちょっとしたことが切っ掛けとなり、折れるか壊れるか暴走するかのどれかになってしまう。

 経緯はどうあれ、こうして知り合ってしまった以上は翼のそんな姿は見たくはない。

 

(私の存在が、こいつにとっての精神安定剤になるんなら、それでもいいかもな……)

 

 これから自分達は、文字通りの命を掛けた仕事をするのだ。

 戦場に置いては、ほんの少しの隙や動揺が命取りになりかねない。

 自分がいる事で少しでもそれが緩和されるのなら、それもまた仕事だと割り切ってやるしかない。

 

「はぁ…前途多難…だな」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 溜息交じりに司令室へと入ると、そこにはいつも通りの弦十郎に、先にここへと向かっていた慎次。

 そして、疾風と同じ名目上『バイト』の響がいた。

 

「おぉ…疾風くんに翼か。慎次から色々と報告は受けている。ここの部屋はどうだった?」

「流石としか言いようが無かったよ。政府直轄機関ってのは伊達じゃないな。客間一つにまで、あそこまで金を掛けているとは思わなかったよ。しかも、しれっとバリアフリー仕様になってたしな」

「こんな事もあろうかと…というやつだ」

「フッ…抜け目のないこって」

 

 ニヒルな返事を返してはいるが、その顔はちゃんと笑っていた。

 口には出さない気遣いが、疾風にとっては逆に有り難かった。

 

「ところで…さっきから妙に疾風くんと翼との距離が近いような気がするのだが…」

「あぁ…その事か。なんというか……」

「色々と話す事で、二人の仲が深まったんですよ。ね?」

「いや…仲良くなったというよりは、単純に懐かれたって言った方が正しいような気が……ん?」

 

 慎次が態と曲解した言い方をしたことで、変な誤解が生まれてしまった。

 より正確に表現するならば『翼の方から距離を縮めてきた』だ。

 そんな彼女はと言うと、さっきからずっと響の事を凝視していた。

 

「えっと……翼さん?」

「……………」

 

 疾風とは一応の和解はしたが、それと響との話はまた別問題である。

 何故なら、響は翼の相棒であり特別な存在でもあった奏のギアを継承する形となっているのだから。

 

「ハァ…なに新人相手に睨みつけてるんだよ。みっともないぞ」

「疾風…けど、私は……」

 

 まだ響の事を認められない。

 碌に話もしていないのだから仕方がないのではあるが、だとしても露骨すぎた。

 まだ翼の事を良く分かっていない響でさえも、自分が彼女に嫌われていると自覚してしまうほどに。

 

 だが、それとは別の事にに弦十郎たちは驚いていた。

 

「あ…あの翼が……」

「奏さん以外の相手を名前で呼んだ…?」

「え? ええ? そんなに珍しい事なんですか? 疾風ちゃんの事を名前で呼ぶのが?」

 

 普段から、余り他人の事を名前で呼んだりしない翼が、疾風の事をしたの名で呼んだ。

 マネージャーである緒川でさえも未だに『緒川さん』なのに、何をどうしたらこの短時間でそこまでの仲になれるのか。

 

 何とも言えない空気になりつつある中、これまた空気を読まない人物が司令室へと入ってきた。

 

「はぁ~い。疾風ちゃんが来たっていうから、少し様子を見に来たわよ~…って、どうしたの?」

「アンタもまた絶妙なタイミングでやってくるな…了子さんよ」

「はい?」

 

 まだ何もしてないのに、まるで自分が何かをしてしまったかのような空気になる。

 流石の了子も、これには目をパチクリとさせて棒立ちになるしかない。

 

「な…何があったの?」

「それはこっちが聞きたい」

 

 完全に場の空気がカオスになりつつあった…その時、それを真っ向っからぶち破るアラームが鳴り響いた。

 

「おいおい…こいつはまさか……」

「そのまさかだ!」

 

 一瞬で全員が仕事モードに切り替わり、オペレーターたちはすぐに場所の特定と、この事を二課で預かる事を一課に連絡し始める。

 弦十郎も司令としての能力をいかんなく発揮し、全員に見事な命令を出していった。

 あの了子でさえも、すぐに開いた席に座ってから解析を始めている。

 

「出現位置の特定…完了しました!」

「どこだ!」

「リディアンから二百の距離です! 座標はここです!」

 

 正面モニターに座標が表示された地図が表示され、それを睨み付けるように凝視する。

 

「ここから近いな……」

「だな。だが…逆を言えば、すぐに駆けつけられる場所って事にもなる。不幸中の幸いなのは、ノイズが出現したのがリディアンの付近ってことだな。あそこなら避難所も充実しているから、こっちが到着する頃には市民の避難は完了しているだろうさ」

 

 自分の言おうとしていた事を先に言われたばかりか、詳細な説明まで加えてくれた。

 矢張り、こんな時の疾風は頼りになると改めて実感した。

 

「さて…私達はどうすればいい? 翼は当然のように出撃かもだが、碌に訓練もしていない私と響はまだ頭の上に卵の殻を被った嘴の黄色いヒヨコも同然だ。普通に考えるなら、出撃なんて絶対に有り得ない話だが……」

 

 そう…普通ならば絶対に有り得ない。本当に普通ならば。

 殆ど何も出来なかった響と違い、疾風は最初から卓越した戦闘能力でノイズを撃破してみせた。

 だからこそ期待をしてしまう。彼女ならば、やってくれるのではないかと。

 実際、疾風の方は目で訴えている。『自分も出させろ』と。

 

(疾風くんならば翼のブレーキ役になってくれるかもしれんな……)

 

 自分の知らない間に翼と疾風は仲が良くなっていた。

 疾風にばかり頼るようで気が引けるが、それでも今は頼るしかなかった。

 

「…頼めるか。疾風くん」

「それが命令ならな」

 

 クルッと後ろを向き、弦十郎の大きな背中を左手でポンと軽く叩いた。

 

「任せときな。給料分は仕事をしてくるさ。行くぞ…翼」

「えぇ! 叔父様…いえ、司令! 風鳴翼と神疾風…出撃します!!」

 

 疾風の言葉に翼も力強く頷き、二人は走って司令室を後にした。

 

「あれじゃ、どっちが年上か分らないわね。本当に疾風ちゃんって15歳? あの子と話してると、まるで他の同業者と話してるみたいなのよね」

「疾風くんだからな」

「その一言で片付けるのもどうかと思うけど。にしても……」

 

 指だけはちゃんと動かしながらも、了子は二人が出て行ったドアを憂いに満ちた目で見つめる。

 

「なんだか申し訳なくも思っちゃうわね。まるで、翼ちゃんのメンタルケアを全て疾風ちゃんに任せたみたいで」

「本来ならば…俺達がしなければいけない事…なのだがな……」

 

 同年代の同性だから…というだけではない。

 疾風の体の中には、翼の持つ刃の欠片が埋まっている。

 二人の仲が急激に深まったのも、そこに理由があるのかもしれない。

 

「さて…と。どれだけ疾風ちゃんが強くても、あの子がまだシンフォギアに関しては素人なのは事実。こっちで出来る限りフォローしないとね」

「頼む。では、響くんはこっちに来て……んんっ!?」

「急にどうしたのよ? 変な声を出して…って。あら?」

 

 弦十郎と了子が周囲を見渡すと、どこにも響の姿が無い。

 オペレーターたちは自分の仕事に忙しくて他を見ている暇がない。

 ダメ元で慎次に顔を向けると、彼の顔がハッとなった。

 

「ま…まさか…響さんも二人と一緒に行ってしまったんじゃ…!」

「なんだとぉっ!? 気が付かなかったのかッ!?」

「余りにも自然にいなくなっていたものですから……」

「あの子の性格的に、ここでジッとしている事なんて出来なかったんでしょうね。同年代で同じ境遇の疾風ちゃんが行こうとしていたから特に…ね」

「なんということだ……!」

 

 こうなったら、響の事も疾風に任せるしかない。

 今の翼には他のサポートが出来るほどの余裕が無いから。

 疾風の負担ばかりが増えていく現状に、弦十郎は頭を抱えるしかなかった。

 

「せめて…無事に帰ってきてくれ……」

 

 

 

 




次回、やっと本格的な初戦闘…になるかも?

ここまで長かったですね。



主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?

  • クリス
  • 未来
  • マリア
  • 切歌
  • 調
  • まさかの弦十郎
  • まさかまさかの慎次
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