これはプロット段階から考えていた事なのですが、どこで出そうかずっと模索していました。
色々と考えた結果、本格的に一期の話が始まる直前の、このタイミングで入れる事に。
どっちも癖者同士ですから、どんな化学反応が起きるのやら。
「…こんな機会でもなきゃ、私には一生縁が無い場所だな……」
そう呟く疾風の目の前には、今までの人生の中で一度も見た事のないレベルの巨大な屋敷があった。
場所は鎌倉、そしてこの邸宅こそが今の日本において影から強大な権力を持って『防人』として遠い昔から国防を担ってきた風鳴の本家である。
つまり、翼や弦十郎の実家ということになる。
どうして疾風がそんな場所に来ているのか。
その理由は、昨日の昼に遡る。
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二課本部にあるトレーニングルーム。
ここは普段、シンフォギア装者である翼や、嘗ては奏もが戦闘訓練や運動をする際に使用している場所だった。
だがしかし、今回の使用者は翼でもなければ響でもない。
「ふふ…こうして弦十郎さんとやりあうのは久し振りだな」
「そうだな。疾風くんが二課に所属してくれてからも、お互いに忙しくて顔を合わせる機会が前よりも減ってしまったからな」
「そればっかりは仕方がないよ。仕事だからな」
「だな。その分、今日は全力でいかせてもらうぞ! 疾風くん相手に手加減なんかをしていたら、あっという間に食われてしまうからな」
「言ってろ。そっちこそ、忙しくて腕が鈍ったなんて言い訳するなよ!」
互いに相対しているのは、いつのも服装の弦十郎と、紺色のタンクトップに黒のスパッツという格好の疾風。
上半身の露出がモロになっているせいで、彼女の右腕が肩口から完全に消失していることが丸分りになっているが、本人は全く気にする様子はないし、それは真正面に立っている弦十郎も同様だった。
そんな二人を端の方で見つめているのは、ジャージ姿の翼と響。
翼の方は真剣そのものといった感じの表情で、響はこれからどんな事が起きるのかドキドキしながら見ていた。
「響くん! 俺と疾風くんの模擬訓練をよく見ておくんだ! 見る事もまた立派な訓練の一環だと思え!」
「はい! 師匠!!」
二人はもうすっかり師弟関係となっていて、普段から響は弦十郎の事を『師匠』と呼んで慕っている。
そう呼ばれる弦十郎もまんざらでもないようで、周囲からは生暖かい目で見られていた。
「そんじゃ……いくぜ!」
「いつでもこい!!」
トントントン…と、小さなジャンプを何回か繰り返してリズムを取っていると、いきなり凄まじい速度で前方に向かって跳躍し、そのまま右足で弦十郎の側頭部目掛けて蹴りを放つ…が、そんなストレートな攻撃を読めない彼ではない。
すぐに反応され、その丸太のように太い腕によって軽々とガードされた。
「この程度じゃビクともしないか。結構、本気で蹴ったつもりだったんだけどな」
「だろうな。並の人間ならば、今の一撃で首の骨は愚か、首ごと吹き飛んでいただろう…だが!」
ガードしている腕を解き、そのまま疾風の足を掴んでぶん回す!
その勢いのまま、壁に向かって投げ飛ばした!
「疾風ちゃん!!」
「疾風!!」
このままでは壁にぶつかって大怪我をする!
響と翼は思わず大声を出すが、その心配は呆気なく杞憂に終わった。
「おいおい…乙女の足を掴んで投げるとか…それっていいのかよ?」
「笑いながら受け身を取っている君に言われてもな……」
そう…疾風は空中で体勢を変えつつ、鍛えられたしなやかな脚をバネのように曲げ、投げられた勢いを見事に吸収することに成功。
勢いを殺す事無く利用し、まるで水泳選手がスタートするかのようにして再び弦十郎に向かって蹴りを放つ!
その間、疾風は全く地面に足を着いていない!
「凄い…本気の叔父様を相手に一歩も引いていない…! 私なんて、シンフォギアを纏っていても圧倒されるというのに…疾風は生身でも強いというのか…!」
「疾風ちゃん…私と同い年なのに…どうして、こんなにも強いんだろう…」
格闘技に関して完全な素人である響でも一発で理解出来る。
目の前で繰り広げられている二人の攻防は、完全に次元が違うと。
「まだまだ! 流れは崩さないぜ!」
「床に手を付いた…カポエラか!」
左手だけで器用に全身を回転させながら、大きく横に開いた足で弦十郎に蹴りを放っていく!
片腕、しかも三本の指だけで全身を支えているとは思えない程の速度の回転蹴りだが、それらを全ていなしている弦十郎もまた凄すぎた。
「立花……この前はすまなかった」
「いいえ…私こそ、ごめんなさい…。あれから、疾風ちゃんや師匠にいっぱい叱られました。誰かを助けたいという思いだけじゃ…何も出来ないんですね…」
疾風と弦十郎の攻防戦を見学しながら、翼がポツリと呟く。
それに対し、響もまた同じように謝った。
「そうだ。お前の志は立派だとは思うが、どんな事も実力が無ければ屏風の虎に過ぎない。理由は不明だが…疾風はその事を誰よりも理解していた」
「はい…。疾風ちゃんも言ってました。『想いだけでも、力だけでも駄目なんだ』って」
「力無き正義は無力であり、正義無き力は暴力である…か」
一歩間違えば、己がその『正義無き暴力』になっていた。
それを間一髪で引き留めてくれてのが疾風だった。
彼女のお蔭で正気に戻り、冷静に自分と向き合う事が出来た。
「立花。もう分かっているとは思うが、改めて言わせて貰う。暫くの間は戦場に出るのはやめておけ。叔父様の許可が出て、己に自信が付くまではな」
「そうします。足手纏いのまま現場に行ったら、それこそ危ないですから。疾風ちゃんも言ってました。『戦場においての未熟者は、自分だけじゃなくて他の味方すらも危険に晒す』って」
「疾風の言いそうなことだ。だが、その通りだ。ならばもう、今の自分が最もすべきことは…分かるな?」
「少しでも早く強くなって、二人に背中を預けられるようになる…ですよね?」
「その通りだ」
少しだけ…ほんの少しだけ二人の仲が進展した所で、目の前の訓練は佳境に差し掛かろうとしていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。ったく…全く鈍ってないじゃねぇか…」
「そっちこそ…蹴りの鋭さに拍車が掛かっているぞ…! 僅かでも油断をしていたら…間違いなく床に倒れていただろうな…!」
息も絶え絶え、全身汗だらけ。
あの弦十郎にここまで本気を出させ、尚且つ互角。
彼の実力を知っている者が見たら、顎が外れるほどに驚くだろう。
翼は疾風の実力をある程度、知っていたからそこまで驚きはしていないが。
「次の一撃で終わりにしようぜ…!」
「承知した…! では、参る!!」
二人の視線が交わり、互いの懐目掛けて駆け出した……瞬間、トレーニングルームの扉が急に開かれた。
中に入ってきたのは慎次で、いつも余裕の表情をしている彼にしては珍しく焦っているように見えた。
「し…司令! 大変です!!」
「慎次か? いきなりどうした? ノイズ警報は鳴っていないが……」
「んだよ…盛り上がってきた所だったのによ」
動きをピタッと止め、入ってきた慎次の方を見る二人。
すぐに戦闘状態を解除できるのも流石というべきか。
「ノイズではありません…ありませんが……」
「本当にどうしたんですか? 緒川さんにしては珍しい……」
普段からマネージャーとして一緒にいる事が多い翼からしても、今の慎次の要は明らかにおかしかった。
「いいですか…落ち着いて聞いてください。つい先程、鎌倉から通信が入ってきました」
「鎌倉からだと? まさかとは思うが……」
「はい…通信してきたのは風鳴本家。そして……」
思わず唾を飲む響。
一体、何が起きたというのか。
「風鳴訃堂さまが疾風さんと会って直接、話をしたいと仰ってきたんです!」
「な…なんだとぉっ!?」
「なんですってっ!?」
まさかの人物の名前が飛び出したことに驚きを隠せない弦十郎と翼。
一方、知らない人間の名前なんて出されても驚きようがない疾風と響は、二人揃ってキョトンとしていた。
「えっと…誰ですかね?」
「知らね。それよりもタオルくれ。あと飲み物も」
「あ、うん」
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掻いた汗をシャワーで流し、その後に別の私服に着替えてサッパリとした格好で司令室までやって来た疾風。
彼女と一緒に翼と響も入ってきたが、この二人は疾風の着替えを手伝ったからである。
「疾風…思ったよりもスタイルがいいのね……。もっとスレンダーだと思ってた…」
「いや…そこでショックを受けられても。なぁ?」
「あはは…ノーコメントで」
「なんでだよ」
地味に翼はショックを受け、この手の話が苦手な響は逃げた。
なんだかんだとありはしたが、順調に三人の仲は深まっているようだ。
「…で、さっき言ってた『風鳴訃堂』ってのは誰なんだ? 私と会って話がしたいって事らしいが……」
「簡単に言ってしまえば、俺の親父であり、この二課の嘗ての司令でもあった人物だ」
「嘗ての? それじゃあ今は?」
「以前、この二課が保有していた第2号聖遺物『イチイバル』の紛失事件があり、その責任を取る形で辞任しました」
「それと入れ替わるような形で、息子である弦十郎さんが司令になった…ってことか」
「その通りだ。だが、幾ら表舞台から姿を消したと言っても、政界などに対するその影響力は計り知れない」
あの弦十郎が冷や汗を掻きながら説明をする。
さっきまでの汗は完全に拭いてはいるが、これでは全く意味が無い。
「弦十郎さんの父親ってことは、そいつは翼の……」
「お爺さん…ってことになるのかな…?」
少女二人が翼に視線を向けるが、彼女は腕を組んだまま黙りこくっていた。
「…で、そのジーさんが私のような小娘に一体何の用だってんだ?」
「それは分かりません。本当についさっき通信が来て、用件だけを述べてから通信を一方的に切ったんです」
「なんじゃそりゃ」
相手の意図が全く分からない。
実際に現場に立ち会わない事には、疾風とて推理のしようが無い。
「しかも、迎えも向こうで用意するようで…こちらからは一切の手出し無用と…」
「俺達に介入をさせない為か…くそ!」
「そのようです。疾風さんが迎えの車に乗るまでは、我々は本部から一歩も出ないようにと言っていましたから…」
悔しそうに拳をぶつける弦十郎。
父の性格は、ここにいる誰よりもよく知っている。
知っているからこそ分からない。
どうして疾風の事を呼ぶのかが。
「引退をしても力を持ってるって事は、ここで下手に断ったりとかはしない方がいいんだろうな」
「そう…なりますね」
「なら、行くしかないな。それって今からなのか?」
「はい…もう鎌倉から車を出して、こちら向かっている途中だそうです」
「抜かりの無いこって。それじゃ、私も、もう行かなきゃな」
踵を返して司令室を出ようとすると、急に弦十郎が疾風の肩を掴んでから自分の方へと振り向かせる。
「疾風くん! 危険だと思ったら全力で逃げろ! 大丈夫だ! 何があっても絶対に俺が君の事を護ってみせる!!」
「私もだ! 疾風…お爺様は決して油断のならない相手だ…気を付けてくれ!」
「あ…ありがとよ。二人の気持ちはしっかりと受け取ったよ。んじゃ、今度こそ行ってくる」
本気で心配をする二人に笑顔で応え、疾風は司令室を後にした。
その後ろ姿を見つめつつ、弦十郎と翼はずっと暗い顔をしていた。
「どうして…お爺様は疾風に会いたいと仰ったのでしょうか…」
「さぁな…。息子の俺にも、あの人の頭の中は未だに理解出来ていないからな…」
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本部を出てすぐの所に、黒服にサングラスといった格好の『いかにも』な男達が黒光りするリムジンの前に立っていた。
間違いなく、こいつ等こそが『迎え』だと判断した疾風は、連中の所へと真っ直ぐに歩いて行く。
「神疾風さん…ですね」
「私の名前を知っている。ってことは、やっぱりアンタ等がわざわざ鎌倉から迎えに来たっていうご苦労な奴等か」
「はい。風鳴訃堂様が貴女の事をお呼びしております。我々とご同行願います」
「改めて言わなくてもいいよ。こっちも最初から、そのつもりでここまで来たんだしな」
「ありがとうございます。では、こちらへ……」
黒服の一人がリムジンの後部座席の扉を開けて、疾風に乗るように促す。
それに対し、疾風は驚く様子も見せずに大人しく車内へと入っていった。
彼女が乗ったのを見届けてから、黒服たちも中へと入ってきた。
「見張りでもするってか? 心配しなくても、そんな真似はしねぇさ。ここで逃げたりしたら、それこそ弦十郎さんや翼に迷惑を掛けちまうからな」
「…仕事ですので。出せ」
「はっ」
こうして、疾風は鎌倉にある風鳴の本家へと向かう事になったのだった。
次回、訃堂のじーさまと疾風との出会い。
どうして彼女を呼び出したのでしょか?
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
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響
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翼
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クリス
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未来
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マリア
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切歌
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調
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まさかの弦十郎
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まさかまさかの慎次