それとは別に、今回はちょっとだけ主人公の関係者が設定を改変してから登場する予定です。
出番がこれっきりになる可能性は否めませんが…。
風鳴家の本家まで連れてこられたはいいが、眼前に立ちはだかる巨大な門は一向に開く気配が無い。
かといって、無遠慮に開くのも違うと思っているので、結果として疾風は門の前で棒立ちしているしかないのだ。
「人を呼び出しておいてコレとは…なんとも素敵な家ですこと」
聞かれていること前提で皮肉を漏らすと、いきなり門がギギギ…と音を立てながら開いた。
開いた門の先には、先程とはまた違う黒服たちが立っていて、疾風の事を待っている様子だった。
「神疾風様。遠路遥々、ようこそいらっしゃいました」
「…………」
不気味なまでの好待遇。
確かにこの場ので自分は客人かもしれないが、それでも自分のような小娘にここまでするか?
呼び出しを食らった時点で既に警戒心を持ってはいたが、ここに来てその段階を一つ上げた。
(しかも、私を呼び出した張本人がここにはいない。人の事を呼びつけておきながら出迎えも無しかよ。いや…そうじゃないな。裏のトップにいる人間ならば、それが普通なんだ。はぁ…どうも、響とかに当てられ過ぎたかな……)
心の中に生まれつつある油断を消し去り、ここからは一人で生きてきた頃のように神経と精神を研ぎ澄ませていく。
どんな些細なことも見逃すな。僅かな状況判断が生死を分ける。
それぐらいの気概を抱きつつ、疾風は開いた門を潜っていく。
「…で、私はこれからどうすればいいんだ?」
「お部屋にご案内いたしますので、どうか私の後に着いて来て下されば」
「分かった」
前菜として何かあるかと思って密かに身構えていたが、いきなり大本命の元まで連れて行くとは。
どうせ、地の利は向こう側にあるのだから、ここは大人しく従っておくか。
そう判断し、疾風は言われるがままに後からついていくことにした。
巨大な玄関まで行き、そこで靴を脱いでから屋敷の中へと入っていく。
どこもかしこもが高級感の塊で、普通に生きていては絶対に拝めないような世界がここにはあった。
「物珍しいですか?」
「そりゃあな。こんな場所に来る機会なんて、それこそ一生に一度あるかないかだろ。私のような一般人ともなれば尚更だ。自然と周囲に目が行くのは当たり前ってやつだろうよ」
「一般人…ですか」
前を行く黒服が妙に含みを持たせる言い方をした。
まるで、疾風が一般人ではないような言い方を。
(いや…今の私は装者になっているから、一般人扱いは流石に変か。表向きはバイトって形式になっているとはいえ、二課のメンバーである事には違いないんだからな…)
まだまだ、二課に来る前までの感覚が完全に抜け切っていない。
これからはもう普通の生活は出来ないのだから、一刻も早く『普通』の感覚を排除しなくては。
(随分と遠くまで行くんだな……)
屋敷自体は非常に広く、地図でもないと迷ってしまいそうだ。
最も、疾風は歩きながら少なくとも、部屋に至るまでの道筋は完璧に記憶したが。
「この部屋でございます」
黒服が襖を開けると、そこには軽く見積もっても100畳はあると思われる程の広い畳部屋に、ポツンと座布団が中央付近に二つだけ置いてある。
その光景だけを見れば、不思議なシュールさがあった。
「この部屋でお待ちください」
「誰もいないようだが…?」
「じき…いらっしゃいますので。では」
それだけを言い残し、黒服は音も無く去って行った。
残されたのは疾風一人だけ。
「入るしかない…か」
室内に入ってから襖を閉め、奥の方にある座布団に胡坐を掻いて座る。
本当は正座でもして待っているのがいいのだろうが、何故か今だけは変に畏まらない方がいいような気がしたのだ。
「………………」
左肘を足に付き頬杖を付きながら目を瞑る。
そうした時間が五分ほど続いた時、隠す気も無い程の強烈な気配を感じ、そっと瞼を開けた。
すると、自分が来た方とは別の…奥側の襖が開いて、そこから羽織袴を着て、白い長髪と髭を蓄えた老人が入ってきた。
この男が『風鳴訃堂』か。
疾風は、一瞬で全てを察した。
「貴様が…神疾風か」
「そういうアンタが風鳴訃堂サンかい?」
「いかにも」
確かに、弦十郎の父親と言われて納得するような容姿はしている。
特に目の辺りがよく似ている…が、彼のような温かみは微塵も無い。
この男は、目的の為ならば大量虐殺をも厭わない。
それどころか、血肉を分けた親兄弟ですら容易く見捨てるだろう。
そんな危険性を全身から発している。
疾風が色々と考察している事を知ってか知らずか、訃堂は疾風の真正面に腰を下ろした。
15歳の片腕の少女と、厳格な雰囲気を漂わせる老人が相対している。
傍から見れば、中々に奇妙な光景だと言えるだろう。
「単刀直入に尋ねたい。どうして私を呼んだ?」
「話がしたいからと申した筈だが?」
「それは建前だろう? 呼び出し方、連行の仕方、どれ一つ取っても普通に話をしようって感じじゃなかった。何か明確な理由があるんじゃないのか?」
「ほぅ…?」
自分を前にしても全く気圧される事が無いどころか、真っ向から意見を言ってのける。
孫の翼でさえも、自分の前では借りてきた猫のように萎縮してしまうというのに。
目を細めながら、訃堂は目の前にいる少女に対する評価基準を改めた。
「…貴様が装者となった経緯は聞かされておる。それを踏まえた上で尋ねよう」
「なんだ?」
「そのような体となり、仇とも言える相手が傍にいる。であるというにも関わらず、何故に貴様は二課で戦う事にした?」
「なんでだと思う?」
「それを申せと言っている。金か? それとも情に絆されたか? もしくは色恋の類か?」
「さぁ…なんでだろうねぇ……」
「あくまで答えないつもりか」
二人の視線が交わり、火花が散る。
指の先。表情の僅かな変化。足先。全ての動きに目を配り、いつでも動けるようにする。
普通に座っているだけなのに、まるで銃弾飛び交う戦場の真っただ中のような空気が室内を支配した。
「一つだけ言えることがあるとすれば、それは『借り』を返す為さ」
「借り…だと?」
「そうだ。図らずも、私はアンタの息子さんに命を救われた。その後もなんだかんだと世話になっちまった。私は一方的に施しを受けるのは嫌いでね。受けた借りは何が何でも返さなくちゃ気が済まないのさ」
「くだらぬ。そのような矮小な考えでは何も守れん」
「私の考えをどう思おうが、それはそっちの自由さ。文句を言うつもりはない。それに、アンタは一つだけ勘違いをしている」
「勘違いだと?」
「そうさ」
足をモゾモゾとさせて楽な体勢になり、前傾姿勢になって今までとは比べ物にならない程に鋭い目で訃堂を睨み付けた。
「私はね…最初から全てを守ろうなんてバカな考えは持っちゃいない。私が守るのは、私が守りたいと思った者、自分の手の届く範囲の人間しか守るつもりはない」
「国防を担うつもりはないと?」
「国防? はっ! 冗談きついぜ。例え国家予算級の金を積まれてもお断りだね。こんな性根から腐りきった国なんて一刻も早く滅びてしまえばいい。これは、私の本心だ」
「貴様……」
訃堂が守ろうとしているのは国であり人ではない。
疾風が守ろうとしているのは人であり国ではない。
思想が真っ向から相反している二人が睨み合う。
「…………」
「…………」
何も発さない。動こうともしない。
二人は微動だにもせず、互いの目だけを見つめ続けていた。
「ところで…一ついいかな?」
「なんだ」
「さっきからずっと、襖の向こうで待機している部下たちをそろそろ出さなくてもいいのかい?」
「気付いておったか…」
訃堂が『出てこい』と言うと、周囲にある全ての襖が開き、そこから黒服の集団がぞろぞろと現れてきた。
「小娘。貴様が真に防人たる資格があるか。天羽々斬を持つに相応しいか、その身を持って示してみせよ!!」
「きひ…きひひ…! なんだよ…結局はそういう事かよ…。いいぜ…そっちの方が手っ取り早い。それに……」
自然な動作で立ち上がり、少し歩いてから悠然と黒服たちの前に行く。
15歳…しかも、体が欠損している少女とは思えない程に濃密で鋭い殺気に、黒服たちは思わず後ずさる。
「今の私は色んな意味で消化不良気味でね…。丁度、全力で体を動かしたいと思っていたんだ」
「ならば丁度良い。やれ!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
最初はこんな体の少女を相手に戦えと言われて戸惑いがあった。
だが、今は違う。
この少女はそんな生易しい存在ではない。
やらねばやられる。
そんな圧倒的危機感を全身から漂わせていた。
故に、男達は全力で挑みかかった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
決着はすぐに済んだ。
僅か一分足らずで、百人近くはいた精鋭たちをKOしてしまった。
しかも、疾風は全く呼吸を乱していない。疲れていないのだ。
「う…うぅぅ……」
「つ…強すぎる…」
畳の上に倒れている黒服の男達は、誰も彼もが疾風の蹴りの餌食となっていた。
そもそも、疾風の全力の蹴りは弦十郎クラスでなければ普通に防ぐ事すらも出来ないのだ。
常人がそれを行おうとすれば、逆にガードした腕ごとへし折られるのがオチだ。
実際、男達の大半が体のどこかを骨折している。
「くく……あの弦十郎と互角に渡り合えたというのは本当らしいな」
「ここに来る前も、その弦十郎さんと訓練って名のガチバトルをしてたんだがな」
「成る程。それ故の『消化不良』か」
ここで初めて訃堂が不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。
その手にはいつの間に用意したのか、一本の長刀が握られていた。
「我が愛刀…『護国挺身刀・群蜘蛛』。よもや、貴様のような小娘によって久々に我が血が湧き立つとはな…!」
「やっぱ…そうなるわな」
自分の手に付いた返り血を舌で舐めとり、両足に力を込める。
訃堂もまた、戦闘態勢に入った疾風を見て刀を構えた。
「死ねや!! クソジジイ!!」
「粋がるでないわ! 厚顔不遜な小娘風情が!!」
文字通り、一瞬のうちに間合いを詰め、まるで刃の如き蹴りを放つ!
その攻撃にぴったり合わせるかのように、カウンターの要領で刃を振るう!
このままいけば、どちらも致命傷は確実!
だが、実際には血は一滴も流れず、打撃音も聞こえない。
「「…………」」
疾風の蹴りは訃堂の側頭部ギリギリの場所で止まっていて、訃堂の刃もまた疾風の首元でピタリと静止していた。
「危ないねぇ……もう少しで、右足を失った挙句に死ぬところだった」
「抜かせ。例え右足を切り落とされたとしても、次の瞬間にはその右足を囮にし、残った左足にて我が首を蹴り飛ばしていただろうが」
これが本当に本気なのかは分からない。
ただ、一つだけ言えることがあった。
倒れている黒服たちには、年端もいかない片腕の少女と風鳴一族の長が全くの互角に見えた…ということだった。
「…で、満足したかい?」
「あぁ…そうだな。見たいものは見れた」
「そうかい」
それを聞き、疾風は静かに足を降ろし、また訃堂もゆっくりと彼女の首筋から刀を下げた。
「覚えておくがいい…神疾風。貴様がどれだけ粋がろうとも、その身にはこの国の象徴たる神なる剣が埋まっている事を。それがある限り、貴様は我が一族とは切っても切れぬ関係にある事を」
「フッ…本当にそうなればいいな」
スッキリとした表情をしつつ、疾風は部屋を後にした。
それを大人しく見送っていた訃堂であったが、その顔には何かを企んでいるような笑みが浮かんでいた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
疾風が部屋を出て行った直後、訃堂は開きっぱなしになっている襖の奥に向けて話しかけた。
「…よもや、この儂を相手に気圧される事は愚か、真っ向から対峙してみせるとはな。貴様の孫娘は想像以上の逸材であったわ。このまま潰してしまうのは実に惜しい」
「物騒な事を言うな。あの子の首に目掛けて刃を振るった時は生きた心地がしなかったぞ」
「あの程度、あ奴にとっては児戯にも等しかったであろうよ。お前にはそう見えなかったか? 大造よ」
奥からやって来たのは、スーツを着た白髪交じりの初老の男性。
大造と呼ばれた彼は、先程まで疾風が座っていた座布団に腰を降ろす。
そんな彼の名は『神大造』。
現政府の国防大臣にして、神疾風が全く認知していない祖父でもあった。
「鳶が鷹を生むとはよく言うが…よもや、あのロクデナシの息子から、あんな少女が生まれてくるとは思わなかった」
「少し前までは援助交際などで生計を立てておったようだがな」
「それも仕方がない事なのかもしれん。父である私から見ても、あいつは紛れもないクズだった。あの子の母も同様にな」
「だがしかし、そのクズから生まれたのが稀代の天才児だった。知っておるか? 神疾風のIQは300らしいぞ」
「それだけの頭脳があれば、幾らでも明るい未来が築けるだろうに…それを奪ったのは実の両親であるとは…皮肉なものだ」
己の息子の愚かさ故に、その子供…自分にとっての孫娘が全ての咎を背負っている。
どれだけ悔いても悔やみきれるものではない。
「しかも…あのような体になり…シンフォギアの装者にまでなって……」
「それもまた一つの運命。にしても、あれ程の者を弦十郎なんぞにくれてやるのは実に惜しい……」
「何を考えている?」
「いやなに。あの娘を孕ませ、我が子を産ませれば、翼以上の後継者が誕生するやもしれんと思ってな」
「訃堂! 貴様はまた同じ過ちを繰り返すつもりかっ!?」
「過ちではない。これもまた護国の為に必要な事。それだけよ」
「例え、どのような事があろうとも…疾風だけは貴様の道具にはさせんぞ!」
「なんとでも言え。所詮、貴様も儂と同じ。今日初めて孫の顔を見た男に言われる筋合いはないわ」
「ぐっ…!」
役職上、会いたくても会えなかったと言えばそれまでだ。
だとしても、大造が疾風の事を大切に想っているのも本当だった。
「私の命に代えても、疾風を寝取らせはせんぞ…!」
「好きにほざくがいい。全ては国を護る為。我は護国の鬼となる」
「狂人が…!」
どれだけ狂っていると分っていても、彼が今までの日本を守ってきたのもまた事実。
だとしても、越えてはいけない一線は確かにある。
訃堂はそれを微塵も躊躇いなく踏み越えていく。
同じ神剣に選ばれし孫達を持つ二人の男は対峙する。
国の為に。孫娘の為に。
まだまだ鎌倉での話は続くんじゃよ。
次回は疾風のその後の話。
翼の(名目上の)お父ちゃんが登場予定。
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
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響
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翼
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クリス
-
未来
-
マリア
-
切歌
-
調
-
まさかの弦十郎
-
まさかまさかの慎次