これまた意外な人物と出会う事に。
なんとも荒っぽい歓迎を受けた疾風は、部屋を出てからトボトボと廊下を歩いていた。
「はは…久し振りだな…人間相手に本気で『死ぬかも』って思ったのは…」
ふと左手を見てみると、掌に手汗を掻いていた。
表情自体はいつもと同じだが、心臓は未だにバクバクと激しく鼓動している。
「しっかし…これからどうすればいいんだ? このまま帰ってもいいのか?」
ちゃんと財布などは持って来ているから、その気になればタクシー&電車を使って帰るという手もある。
まずはここにタクシーを呼んで貰い、駅まで行ってから電車に乗ってから帰る。
「…それが一番、現実的か」
呼び出された目的である『風鳴訃堂と会って話をする』は終わっているから、これ以上ここに留まっている理由は無い。
疾風自身、こんな場所は余り得意ではなく、可能であれば一刻も早く自分の部屋に帰りたかった。
「唯一の収穫があるとすれば、それは思い切り暴れられたことかな……ん?」
ついさっき、訃堂の刃が付きつけられた首元に手をやる。
うっすらとではあるが傷跡があり、血が出ていた。
「あのクソジジイ……マジで私を殺す気だったな…。いや、こっちも人の事は言えないんだけどさ」
訃堂が本気で疾風の事を殺そうとしたように、疾風もまた訃堂の事を本気で殺そうとしていた。
なんでそう思ったのかは本人もよく分かっていない。
ただ、不思議とあの時『この男はここで殺すべき』だと思ったのだ。
「まぁ…いいか。この程度の掠り傷、後で絆創膏でも付けておけば治る。帰る前にコンビニとかに寄るか……」
独り言を呟きつつ玄関を目指して歩いていると、曲がり角の所で誰かとぶつかりそうになった。
お互い、すぐに立ち止まったので実際に衝突はしなかったが、向こうの方は疾風の顔を見て何やら驚いた様子だった。
「おっと…すまない。き…君は…!」
「大丈夫だ…って、どうした?」
それは、白髪交じりの髪を持つ眼鏡を掛けた初老の男性で、先に行くことをしようとせずに、ジッと疾風の顔を見つめ続けていた。
「私の顔に何かついているのか?」
「い…いや…そうではない。それよりも、君が例の『神疾風』か?」
「自己紹介してないのに私の事を知っている…ってことは、あんたもまさか風鳴一族の人間か?」
「あぁ…。私は『風鳴八紘』。弦の兄であり、翼の父でもある」
「弦…って、もしかして弦十郎さんの事?」
「その通りだ」
「ふーん…あの人、お兄さんからは『弦』って呼ばれてるんだ。いいこと聞いたかも」
図らずもいいネタを手に入れた。
これは帰ってからが楽しみだ。
「二課の司令をやってる弦十郎さんの兄貴ってことは、八紘さんもなんかやってるのか?」
「現政府の内閣情報官を務めている」
「わぉ…これはまた」
父親が引退後も権力を振りかざす老害で、その二人の息子が表と裏で日本を支える人間。そして、その孫がシンフォギア装者。
なんとも業が深い一族だなと思ってしまうのは当然だった。
「しかし、どうして君がここにいる?」
「お宅の親父さんから直々に呼び出しを食らったんだよ」
「なんだと…!」
疾風が装者になったのはついこの間の話。
だというにも拘らず、もう訃堂に目を付けられてしまった。
親子であるが故に、すぐにその事を察した八紘は、拳を震わせながら歯を食い縛る。
「すまない……不肖の父が……」
「気にしないでくれ。もう終わった事だ」
「何かされなかったか? 何か危険な事などは……」
「別に? 黒服を着た連中100ぐらいに襲われたけど、余裕で返り討ちにしたし、その後にあのジジイとも少しだけやり合って、お互いに一撃を加える直前で攻撃を止めてるしな」
「あの父と戦った…のか…?」
「うん。お互い本気で殺すつもりで攻撃してたけど、結果はこの通り。普通に生きて帰ってこれた」
「何と言う無茶を……」
目の前のこの隻腕の少女が父と戦って無事でいられていることに驚くべきか。
それとも、あの化け物染みた強さを誇る父とほぼ互角だった彼女の実力驚くべきか。
どちらにしろ、この疾風という少女が普通ではないのは確実だった。
「もう向こうの用事は済んだ筈だから、このまま帰ろうかと思ってるんだが…」
「そうか…急いで帰らなければいけない用事でもあるのか?」
「別に? ただ、こんな場所とは急いでお別れして、自分の部屋でのんびりとしたいと思っているだけさ」
「ということは…まだ時間はあるのだな?」
「一応はな。今の私は二課の装者以外には基本的に何もやってないし」
「では、今から私に部屋に来てくれないか?」
「……は?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
余りにも唐突過ぎて断る事も出来ず、そのまま八紘に着いていく形で彼の自室まで来てしまった。
先程入った部屋よりは狭いが、それでもまだ広い方だった。
部屋…というよりは書斎に近く、室内の殆どが本棚で埋まっていた。
「無理を言ってすまなかった。だが、翼の父として、一度でいいから君と話をしてみたいと思っていたのだ」
「そうか…ま、いいけど」
喋り方や雰囲気だけならば訃堂と酷似したものを感じさせるが、疾風はすぐにこれが芝居であると見抜いていた。
この男の本質は全く違う。不器用な優しさを持つ男であると。
成る程。流石は弦十郎の兄であり、翼の父だ。
色んな意味で、この人は自分の知っている二人とよく似ている。
「しかし…こうして見ると、本当によく似ているな」
「誰に?」
「君のおじいさんにだ」
「私のじいさん?」
疾風だって人間なのだから、当然のように祖父と呼べる相手だって必ずいる。
必ずいるのだが…生憎と、今までに一度もそう言った相手とは会った事が無い。
どんな名前で、どこに住んで何をしているのか。何も知らないし、聞かされたことも無かった。
「その様子だと、矢張り知らないのだな……」
「全然全く。そこまで興味も無いしな」
「君の祖父の名前は『神大造』といって、今は防衛大臣を務めていらっしゃる。過去に私も何度か世話になったお方だ」
「あのクソオヤジの父親が防衛大臣…ねぇ…。一体どうなっているのやら」
風鳴一族も相当だが、神一族も負けず劣らずに複雑なようだった。
このままいくと、腹違いの姉とかも出てきそうな気がする。
「彼は、君の事を誰よりも心配していた。だが、そう簡単に孫に会いに行けるような立場でもない…」
「だろうな。今の情勢で防衛大臣ともなれば、かなりの重要ポジションの筈だ。休みだって碌に無いんじゃないのか?」
「弦から聞かされていた通りだな。必要以上に聞き分けが良すぎる。成る程…これは心配にもなるか」
「それはどういう意味だ?」
流石の疾風も、父親の心境だけは理解が出来ない。
実の父が最低最悪だったことも拍車をかけ、基本的に肉親よりは血の繋がりのない他人の方が信用できてしまう。
「まさか、私のまだ見ぬ爺さんについて話す為に、部屋まで連れてきたのか?」
「いや…そうではない。話が逸れてしまったな」
コホンと軽く咳払いをし、話の流れを元に戻した。
「…翼の父として、私はどうしても君に尋ねなければいけない。どうして君は装者になろうと思ったんだ?」
「どうして…ね」
「私も風鳴の人間として、今までの君の経緯については聞かされている。君の身に起きた事は、その全てが偶発的なことだった筈だ。その気になれば断る事も出来た。何より……」
「この『腕』か?」
「そうだ。二年前のコンサートでの事件…事故に近いことだったとはいえ、君の腕と指が翼の持っていた刃によって切り落とされたのは変えようのない事実だ。しかも、その際に体の中に天羽々斬の破片まで突き刺さり、そのまま体に埋まったと聞いた」
「だな」
「君にとって、翼は因縁浅からぬ存在の筈だ。それこそ、殺したいほどに恨まれても不思議ではない程に。なのにどうして……」
「はぁ~……」
もう何度聞いたか分らない質問に対し、疾風はもううんざりしたかのような感情を込めて大きな溜息を吐いた。
「ったく…どいつもこいつも、同じ質問ばかりしやがる。それ…ついさっきも聞かされたよ。訃堂のクソジジイからな」
「あの人なら聞きそうなことだな……」
「だから、アイツに言った事と同じことを言ってやる」
少しだけ体勢を変えて座り直すと、訃堂の時とは違って、しっかりと八紘の顔を見ながら答えた。
「私が二課に協力するのは借りを返す為。あの時、私は弦十郎さんに命を救われた。私は基本的に貸し借りはしない主義であり、一方的な施しは嫌いでもある。命の借りはそう簡単に返せるものじゃない。だから、二課に協力することにした。私が装者として戦う事で、少しずつでも借りを返す為にな。…と、それが当初の理由だ」
「当初? では今は……」
「私はな…例え何であれ、過ぎた事に対していつまでもグチグチと文句を言ったりはしない。そんな事をしても無意味だから。過去を後悔するぐらいなら、それを糧として前に進んだ方が遥かに建設的だ。翼は翼なりに私に対する罪悪感を抱いていて、それをちゃんと吐露してくれた。私的にはそれだけで十分なんだよ。これ以上、アイツを責めるような真似はしたくないし、するつもりも無い」
なんと強い少女か。
実力もさることながら、この少女は心が強い。
本当に15の少女なのかを疑ってしまいそうな程に。
「それにな…翼の奴は危なっかしくて放っておけないんだよ。他にも無駄にお節介でお人好しな奴もいるからな。自画自賛をする訳じゃないが、私がいなかったらマジでどうなっていたか分からない。誰でもいいから、あの二人の仲を取り持つ人間が必要なんだよ」
「それが君であると?」
「正確には、自然とそうなってたって感じだ。ぶっちゃけ、私自身が一番驚いてる」
「そうか……」
最初から悪いイメージは無かったが、実際に話して理解した。
今までに過酷な人生を歩んできているから、もっと冷徹なリアリストかと思っていたが、本当は仲間を思い、友を思いやれる優しい心の少女だった。
この子ならば大丈夫だ。きっと翼や弦十郎の支えとなってくれる。
あの事件の生き残りの中での最大の被害者であるが、彼女は決して助けを求めようとはせず、それどころか他者の助けになろうとしている。
か弱い見た目とは裏腹に、なんと強かな少女か。
「だから、私に関してはそこまで気にしなくてもいいよ。それよりも、娘の翼の事を気に掛けてやったほうがいい。取り返しがつかなくなる前に…な」
「…そうだな。神疾風くん。君と話せてよかった。ありがとう」
「礼を言うのはこっちの方だよ。あのジジイと向かい合うよりも遥かに有意義な時間を過ごせた気がする」
「それは何よりだ」
最初な仏頂面だった疾風も、いつの間にか自然な笑みを浮かべていた。
先程までの緊張が完全に解れ、いつもの彼女に戻ったのだろう。
「帰りに関しては心配しなくてもいい。父の無茶振りに付き合って貰う形で連れてこられたのならば、きちんと送り届けるのが筋というものだ。私の方から帰りの車を用意するように言っておこう」
「助かるよ。この借りは装者として戦う事で返す事にする」
「そうしてくれ。…翼と弦のことをよろしく頼む」
「任せてくれ。特に、弦十郎さんには本当に色々と助けられてる。今度はこっちが助ける番さ。それじゃ…失礼するよ」
最後に八紘に向かってしっかりと頷くと、静かに部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送りつつ、心の中で思いを馳せる。
(大造さん…貴方のお孫さんは素晴らしい人間だ。きっと…貴方に似たのでしょうな……)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…ってなことがあった」
そして、八紘が用意してくれた車によって何事も無く二課の本部まで帰ってきた疾風は、食堂にて彼女の帰りを待っていた皆に事情を説明していた。
出る前にはいなかった了子もしれっと混ざっているのは地味に驚いたが。
「お爺様に関しては予想通りだったけど…」
「まさか、兄貴まで本家に戻って来ていたとはな」
「あの人とはいい話が出来たよ。翼…良い親父さんを持ったな」
「自慢の父上だからな」
「みたいだな」
翼や弦十郎とは普通に話してはいるが、それを聞いていた響は今にも泣きそうな顔で心配していた。
「だ…大丈夫だったのッ!? だって、100人の人に襲われたんでしょっ!?」
「心配いらねぇよ。あの程度、準備運動にもならねぇし」
「そうだろうな。疾風君に掛かれば、いかに風鳴の精鋭といえども相手にならんだろう」
「その直後には死ぬかと思ったけどな」
首元に貼っている絆創膏を触りながら、あの時の事を思い出す。
訃堂の放った殺気は今でも濃密に記憶に刻まれていた。
「実に今更ですが…本当に良くご無事でしたね」
「お互いに『殺すつもりだったけど、殺す気は無かった』って感じだったしな。最初から生かして帰すつもりではあったんだろうよ。最も…あのジジイのお眼鏡に適わなければ、今頃は首から上は無かったかもしれないが」
トントンと首を叩きながら慎次に向かって言ってのけるが、それは一歩間違えば死んでいたかもしれないという事だ。
それを普通に言ってのける時点で、彼女が常人ではない証拠になる。
「にしても、さっき聞かされた時は驚いたわよ~。まさか、私が出かけている間に疾風ちゃんが風鳴の本家に呼び出しをくらうだなんて……」
「おや? 了子さんは私の事を心配してくれてたのかな?」
「当然でしょ?」
「…そっか。ま…悪い気はしないな。というか、響…そろそろ離れてくれ。いい加減に暑苦しい」
「だってぇ~…こうしてないと、また疾風ちゃんがどこかに行っちゃいそうなんだもん……」
「あのな……今回のはかなりのレアケースだって弦十郎さんも言ってただろ? 余程の事が無い限りは、もうこんな事は無いよ」
帰って来てからコッチ、ずっと響は疾風に抱き着いたままになっている。
翼もそうだったが、一体いつの間にここまで懐かれてしまったのやら。
疾風本人は本気で理解出来ないでいた。
「それよりも疾風くん。兄貴と一体どんな話をしたんだ? 詳しく教えてくれないか?」
「私も聞きたいな。父上と何の話をしたのか教えてくれ」
「分かったよ。つっても、そこまで変わった話をしたわけじゃないんだけどな…」
そうして、その後は疾風の報告という名の土産話に花を咲かせることになったのだった。
意外な組み合わせ。
元ネタが元ネタである以上、同年代よりは年上…特に政治家とかとよく話すイメージがある疾風ちゃん。
次回は完全に未定です。
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
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響
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翼
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クリス
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未来
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マリア
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切歌
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調
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まさかの弦十郎
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まさかまさかの慎次