実際にはそれ以外にも理由はあるのですが、それが明らかになるのはまだまだ先になる……かも?
「…すまない。私のミスで取り逃がしてしまった」
戦闘後、本部司令室に戻ってきた疾風は、開口一番で皆に向かって頭を下げて謝っていた。
何か言い訳でもしてくるかと思っていた弦十郎以外の面々は、目を丸くして驚いていた。
「確かに残念なことではあるが、全員が無事だっただけでも十分だ。疾風くんは何も悪くはない。相手はあのネフシュタンの鎧だったのだからな」
「フッ…気休めでも、そう言って貰えると助かるよ。ありがとう」
その会話はまるで熟年の夫婦のよう。
互いが互いを信用している何よりの証拠であるが、そのやり取り自体がまた別の意味で皆に衝撃を与えた。
「ん? 皆してこっちを見てどうした?」
「いや…なんというか……」
「女の子っぽい疾風ちゃんって始めて見たかも……」
「おい」
普段の言動などで忘れがちになるが、疾風はまだ若干15歳の少女なのだ。
どれだけ気丈に振る舞っていても、時には少女らしい表情を見せる時もある。
「司令…節度は守ってくださいね?」
「俺はちゃんと守っているつもりだが?」
「いえ…そう言う意味ではなく……」
思わず慎次もそれとなく注意を促してしまうが、その真意を待ったく汲み取れなかった弦十郎。
疾風と一緒にいる時の自分が周囲からどんな風に見られているのか自覚が無いのだろう。
「話を戻してもいいか?」
「あ…うん。いいよ」
なんだか脱線し始めたので、いつもの感じに戻してからワザとらしく咳ばらいをした後に近くにある椅子に適当に腰を掛けた。
「確かに奴の事を逃がしてしまったが、かといって全く収穫が無かったわけじゃない」
「と言うと?」
「まず、相手の目的。詳しい理由までは不明だが、私と響の身柄の確保を狙っていた。私達の目の前で堂々と宣言してくれたから、あれが虚言でない限りは信じていいと思う」
「そうだな。それに関しては我々もちゃんと聞いていた」
現場にいた装者三人が聞いていた上に、その時の会話はちゃんと記録されているので誰も疑ってはいない。
「どうして私と響なのか…だが。まだ判断材料が無さすぎるから何とも言えないが、私達の共通点ならある」
「私と疾風ちゃんの共通点…?」
そう言われても、響はすぐには思いつかなかった。
精々、女同士ぐらいしか分からない。
「そうか…疾風くんと響くんの共通点と言えば…!」
「二人とも体の中にシンフォギアの欠片…聖遺物が埋まっている事か!」
「弦十郎さんに翼、大正解だ」
もっと言えば、ほぼ同時期に装者として覚醒した事も挙げられる。
性格や体付きなどは全く違う二人だが、ことシンフォギア関連になると驚くほどに共通点が見つかる二人でもあるのだ。
その事に気が付いているのは、今のところは疾風だけだ。
「けど…だからどうしたってなるんだよな。自分達が希少な存在であるのは私だって理解している。でも、明らかにこっちの事を狙っていたのは事実。う~ん…」
ヒントが少なすぎる状況では、流石の疾風でも答えまで辿り着くのは難しい。
今回が初邂逅なのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「あと、他に分かった事と言えば、アイツ個人の事か」
「えっ!? 疾風ちゃん、あの子の事が分かったのっ!?」
「いや…別に名前とかは分からなかったぞ? 仮に聞こうとしても絶対に答えないような性格してたし」
「そうだな…。あれはまるで野生の獣だ。見る者全てに噛み付こうとしている感じがした」
普段から防人として自分の事を律している翼には、他の者達以上にネフシュタンの少女が異質に見えたのだろう。
これはきっと、翼にしか抱けない感想だ。
「声や顔…体格などからして、年齢は私達三人とほぼ同じ…十代後半ぐらいの少女であると推測できる。それと、肌の色が白いように感じた。その割には流暢な日本語を喋っていた…ってことは、恐らくは日本と欧州当たりのハーフなんじゃないか? バイザーに隠れて分かりにくかったが、髪の色が白か銀とかに見えた」
「「おぉ~…」」
あの戦闘の間に、そこまで観察していたとは。
感嘆の声を上げつつ、翼と響が揃って小さく拍手をしていた。
「今回は逃がしてしまったが、私達を狙っている以上は次があると思っていた方がいいだろうな」
「…またあの子と戦わなくちゃいけないのかな」
ノイズではなく人間と戦う。
それは『誰かを手を繋ぐ』ことを信条としている響には到底、受け入れがたい事だった。
「…響には悪いが、こればっかりはどうしようもないよ。私だって話し合いの余地があって、それでどうにかなれば最良だとは思うさ。唯でさえノイズだけでも精一杯なんだから、可能な限り無駄な戦いは避けるべきだ」
「そ…そうだよね! やっぱり…」
「だが、それは向こうもその気があった場合だけだ」
「…え?」
「さっきも言っただろ? あの女は交渉のテーブルに付く気すらないと。なのに、こっちから一方的に話し合いをしようとしたって意味が無い。寧ろ、逆効果になるだけだろう」
「逆…効果……」
もしかしたら。
そんな一縷の望みを、信用している張本人の口から否定される。
自分よりもずっと頭のいい疾風の意見なのだから、そのショックはかなり大きかった。
「個人的には疾風くんの意見にも、響くんの気持ちにも共感は出来る。無駄な戦いは避けるべきだが、向こうにその気がない以上は戦いは避けられない」
「師匠……」
本当は響だって分かっている。
あの時、自分達に向けられた敵意は紛れも無く本物だという事が。
だからこそ、なんとかしてあげたいと思ってしまう。
「なぁ…響。そもそも、あいつはどうして私達の事を見下すような言動をしてたんだと思う?」
「私達を見下す理由…それは……」
「それは?」
「…自分の方が強いと思っているから?」
「その通り。あいつには『ネフシュタンの鎧』という絶対的なアドバンテージがある。それがアイツを増長させているんだろう。なんせ、強力な自己再生能力持ちだからな。そりゃ誰だって強気になるわな」
しかも、ネフシュタンは完全聖遺物だ。
その再生能力にはリミットが無い。
決してデメリットが無いわけではないが、それに関しては今回は黙っておくことにした。
ネフシュタンに関して、実は疾風は密かに了子から全ての情報を記載した資料を見せられている。
故に知っているのだ。ネフシュタンの危険性を。その恐ろしさを。
「彼女と実際に戦ったのは疾風くんだ。君から見て、彼女はどんな風に感じた?」
「どんな風…ねぇ……」
弦十郎に尋ねられ、疾風はひざ掛けに頬杖を付きつつ頭の中を整理する。
あの時、自分は何を見て、何を感じた?
「戦闘中…あいつは殆ど、その場から動こうとしなかった。素人の真似事みたいに鞭を振り回して攻撃を繰り返していた。攻撃力自体は高かったかもしれないが、鞭の扱いは素人以下だ。よく動きを観察していれば誰にだって避けられる」
「他には?」
「接近された時の対処の仕方が雑…というか、お粗末だった。近接戦になっただけで余裕が無くなり、すぐに距離を取ろうとする。まるで、そこが自分の場所じゃないと言わんばかりに」
頭の中にある記憶の引き出しを一つ一つ開けていきつつ、言葉を並べていく。
まるで別人であるかのように精神を集中させていた。
「そこから導き出されるのは一つだけ。奴が本来、得意としている武器は重火器や弓矢と言った所謂『飛び道具』に類するものだって事。あのネフシュタンは奴本来の力じゃない。仕方なく纏っているだけに過ぎないんだろう」
「仕方なく纏っている…だと? その言い方だと、まるであの少女の背後に別の誰かがいるような口振りだが……」
「そう言ってるんだよ…翼」
ここで疾風は全員の顔を見て、言っていいのかを改めて確認する。
何故なら、これは二課の者達のトラウマを抉るような行為だから。
「あの少女は下手人じゃない。二年前のあの時…ノイズ出現の混乱の最中にネフシュタンを奪った奴が別にいる」
「「「「「!!!!!」」」」」
断言した。いつもは思わせぶりな疾風が、珍しくハッキリと言ってのけた。
それだけ自分の言葉に自信があるのか。その確証があるのか。
「性格的な意味でもそうだが、今日襲ってきた奴の実力じゃ、幾ら現場が混乱していたとしても誰にも見つからずにネフシュタンを奪うなんて不可能だろ。とすれば、まず間違いなく実行犯がいる筈だ。そいつが……」
「あの少女を裏で操っている存在…」
「だろうな。もしかしたら、あいつはネフシュタンがどんな形で奪われて自分の元にあるのかも理解していない可能性がある。もしも全ての真実を知った上でネフシュタンを使っているなら、少なからず嫌悪感的なものを出していた筈だから」
実際に刃を交えた疾風だからこそ分かる。
あの少女は精神的な意味での潔癖症だ。
自分のしている事を全て理解し、その上で自分自身を嫌悪している。
それしか方法が無いと。こうするしかないのだと強く思い込んでいる。
だからこそ引けない。だからこそ自棄になる。
「ネフシュタンを奪った黒幕に、あいつはネフシュタンを与えられて私達に襲い掛かって来た。そう考えれば、一応の筋は通ると思う」
「自分の上司とも言える相手から慣れない武器を与えられたから、動きにキレが無かった…と?」
「そ。根拠も何も無い、あくまで私の推理だけどね」
ここで疾風はチラっと慎次の方を見る。
彼の口からある事を聞くためだ。
「なぁ…慎次さん。現代に生きる忍の一人であるアンタに一つ尋ねたい事があるんだけど」
「なんですか?」
「今までずっと銃火器を使って戦ってきた人間が、ある日いきなり上官から『今日からお前は鞭を使って戦え!』って言われて、そう簡単に使いこなせるものか?」
「絶対に不可能です。そもそも、鞭と銃火器とでは射程距離が違い過ぎる上に、感覚も全く違う。更に言えば、皆さんが思っている以上に鞭の取り扱いとは難しいんです。本物の鞭は想像以上によく撓りますから、素人が下手に扱えば逆に自分の身体を傷つけてしまう。そんな事をするぐらいなら、これまで通り銃火器で戦っていた方が遥かに戦力になるでしょう」
「ありがと。流石は慎次さんだよ。まさか、私が言いたい事を全部言ってくれるとは思わなかった」
「疾風さんのお役に立てたようで何よりです」
弦十郎とは別の意味で慎次のことも信用していた。
普通に頼りになるというのもあるが、それ以上に知識が豊富なのだ。
単純な実力も己とは引けを取らないし、弦十郎が忙しい時などは良く慎次と模擬戦をしているぐらいだ。
「私が思うに、あの鞭さえどうにか無力化できれば、その後はどうとでもなると考えてる。体術だけで見るなら、今の響でも簡単に制圧できるよ」
「ほ…ほんと?」
「これに関してはほぼ間違いないと思う。あの『鞭』があるから相手は自分に近寄れない。そう思っているから、私達に対して強気なんだろう。だって、こっちは拳に剣にドリルだもんな。どれもこれも超接近戦向けの武装ばかりだ」
「そうだな…。私三人はいずれも、相手に近づいて初めて真価を発揮する武器ばかりだ。遠距離戦用の技が無いわけではないが…手数が少ないしな」
「私なんて、遠距離攻撃の技なんて一つも無いよぉ~っ!?」
「「だろうな」」
無手で戦っている響が遠距離戦をするには、それこそ気の塊を放つぐらいの事をしなくてはならない。
現在では余りにも非現実的ではあるが。
「心配するな。ちゃんと手は考えてる」
「そうなの?」
不安そうな響に、疾風は力強く頷く。
「やる事は単純だ。私と翼の二人であの鞭を掴むなりなんなりして、アイツの身動きが取れないようにする。その隙に……」
「私が仕掛けるんだね」
「そうだ。奴が話を聞こうとしないのは完全聖遺物を纏っているが故に自分が強いと思い込んでいるから。だから、思い知らせてやる必要があるんだ。そんな物が無くても私達の方が強いと。お前の持つアドバンテージなんて無いに等しいんだと。体じゃなく、その心を屈服させないといけない。そうして初めてスタートラインに立てる」
何とも乱暴なやり方だと疾風自身も自覚しているが、相手が相手なのでこれぐらいの方が丁度いい。
無理矢理ではなく、向こうの意志で話そうという気にさせないといけない。
その為にはまず、こちらの実力を示す必要があるのだ。
「でも、どうして私がフィニッシュ役なの? 疾風ちゃんじゃダメなの?」
「私の場合、今回で痛めつけちまったからな。それで私が倒しても、結局は『そうだよな』で終わってしまう。けど、響の場合はそうじゃない。覚醒した時期こそ同じだけど、本当の意味での初陣は今日だっただろ? そんな相手にすら倒されたら、流石のアイツだって認めざる負えないだろ。自分の負けだって」
「なんか…遠回りに馬鹿にされてる気がする」
「私的には褒めてるつもりなんだけどな……」
気難しい年齢だ…と思いつつ、自分だって響と同い年であることを思い出して悲しくなる疾風であった。
「まずは奴を倒す。話し合い云々はそれからでも遅くは無い…というか、それからじゃないと無理だろう。あいつとの話し合いに関しては響に任せようと思ってるけど」
「また私ッ!?」
「適任だろ? 私じゃまた挑発しそうだし、翼じゃ喧嘩になりそうだし」
「否定は出来ない……」
もしも、あの少女と二人っきりになったら、まず間違いなく喧嘩腰になって色々と聞き出そうとするだろう。
そうれなるともう話し合いどころではない。
「だろ? あーゆー手合いには、響のような限りなく一般人に近い奴が適任なんだよ」
「疾風ちゃんは違うの?」
「私は一般人じゃないだろー」
大衆的に見れば一般人かも知れないが、世間からすれば疾風は立派な『不良』に該当する。
少なくとも、帰るべき家も無く幼少期からずっと援助交際をしつつ放浪生活をしている少女を『一般人』とは呼称しないだろう。
「そんな訳だから、その時が来たら頼むぞ」
「うん! 私…頑張る!」
完全に途中から司令である弦十郎を置いてきぼりにて話が進んだ。
別に本人は気にしてはおらず、寧ろ疾風が皆を仕切るその姿が想像以上にに似合っていることに驚いていた。
「そういや…さっきから気になってたけど、了子さんはどこに行ったんだ?」
「疾風さん達が帰還した辺りからいなくなってましたけど……」
「また研究室かもしれんな。なんせ、ネフシュタンが再び姿を現したんだ。彼女も気が気じゃないんだろう」
「ふーん……」
全く疑う様子の無い弦十郎とは違い、疾風はその目を光らせていた。
なんか、話ばっかりしてましたね…。
果たして、クリスちゃんはどうなってしまうのか?
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
-
響
-
翼
-
クリス
-
未来
-
マリア
-
切歌
-
調
-
まさかの弦十郎
-
まさかまさかの慎次