そして、『彼ら』が……?
とある山中にある洋館。
その一室にて、長い金髪を携えた女性が一人、モニターを見ながら渋い顔をしていた。
(ある程度の苦戦はすると予想はしていたけれど、まさか完全に圧倒されるとは思わなかったわ…。完全聖遺物を纏っている『あの子』が、どうしてあそこまで一方的に倒されたのか…ある程度の原因は分かるけど……)
画面を切り替えて、何かのデータのような物が表示された。
そこには響や翼、そして疾風の顔写真が記載されている。
(どれだけ完全聖遺物と言えども、素の状態での身体能力の差までは補えない…か。これが風鳴翼や立花響だったならば互角以上に戦えていたかもしれないが、実際に相対したのは神疾風。彼女の戦闘能力は間違いなく他の二人よりも上。それに加え、この短期間で既に風鳴翼よりも天羽々斬を使いこなしているようにも見える。だが、それ以上に問題なのは……)
またモニターを切り替えると、そこにはネフシュタンの少女と疾風が戦っている映像が。
少女が地面に膝を付き、それを疾風が見下ろしている。
彼女の全身からは緑色に発光しているエネルギーが放出され、疾風自身の顔も完全に変貌し、挙句の果ては髪や眉毛などが真紅に燃え盛り逆立って揺れている。
どう考えても普通の状態ではないのは確実だ。
(シンフォギアの暴走…とはまた違う。この時の彼女は間違いなく自意識があった。にも拘らず、この変化…。しかも、またもや謎の緑色のエネルギーが確認されている。どんなに調べても、これに類似するエネルギーはどこにも確認されていない。正真正銘の『謎のエネルギー』…)
肘を付き、目を瞑ってから思考を集中させる。
その顔には焦りが見えた。
(これは一体どういう事だ…? 少なくとも、シンフォギアには『あんな機能』は一切無いし、あんなエネルギーを放出する機構も搭載されていない。ならば、天羽々斬の隠された能力…? いや、それも有り得ない。神疾風以上に長く天羽々斬を纏っている風鳴翼のギアからは、今までに一度もあんなエネルギーは観測されていない。となると、考えられる答えは一つだけ……)
頭を上げてから天井を見つめ、目を細める。
(あれは『神疾風自身の能力』という事になる…。あれは本当になんなの…? 考えれば考えるほど分からなくなる…! 彼女が不意に零した『ゲッター』という単語が何か関係しているのかしら……)
頭の中が袋小路になり、大きく息を吐きながら椅子から立ち上がった。
その顔は未だに渋い表情をしたままだ。
「『融合症例』は二人もいるから、どっちか一人ぐらいは…と思っていたのが甘かったようね。立花響はともかく、神疾風…あの子の存在は間違いなく私にとって最大の脅威となる。圧倒的な戦闘力もさることながら、あの優れた頭脳と行動力…決して侮ってはいけない…」
羽織っている白衣のポケットに手を入れながら、彼女は部屋を後にする為にドアへと向かう。
「聖遺物のスペックで勝っていても、本体のスペックに差があり過ぎる…。場合によってはあの子を……」
そこまで言ってから、ふと何かに気が付いたかのように顔を上げる。
「『彼ら』との協力関係が無かったら、あの敗北の時点で計画を大幅に変更せざる負えなかったかもしれないわね……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
洋館内の大広間。
その角の方でネフシュタンの少女が膝を抱えて蹲っている。
ネフシュタンの驚異的な再生能力によって身体的損傷は無いに等しいが、その心には大きな傷があった。
(どうして…どうして勝てなかったんだ…。こっちは完全聖遺物、向こうは欠片から生み出されたギアを纏っているのに、どうして手も足も出なかったんだ…どうして……)
疾風によって完膚なきまでに叩きのめされ、半ば逃げるようにして帰還してきた彼女を待っていたのは、自分が付き従っている人物からの『お仕置き』だった。
(痛いのは怖くない…戦いだって怖くは無い…。あたしが一番怖いのは…それは……)
初陣から大きな失敗を犯してしまった。
その負い目が彼女の心に更なる影を生み出す。
「ちくしょう…! なんで…どうして…あんな奴なんかに…!」
自分は正しい。正しい事をしている。
その自負が彼女の体を突き動かす。
正しいのだから負ける筈が無い。
だが、実際には自分は無様な敗走をしてしまった。
「あいつに…『フィーネ』に見捨てられる…! それだけは…それだけは絶対にイヤだ…!」
追い詰められた精神が限界を迎えようとした…その時だった。
彼女の傍で誰かが膝を付き、その方に優しく触れた。
「何を泣いているんだい。クリス君」
「な…何も嘆くことはないよ。そうだよね、コーウェン君」
「その通りだ。まだ『計画』は始まったばかり。一回程度の失敗では揺るぎはしないよ。だろう、スティンガー君」
「う…うん。次でちゃんと成功すれば、きっとフィーネも褒めてくれるよ」
「コーウェン博士……スティンガー博士……」
そこにいたのはスーツを着た二人の男。
褐色の肌に金髪でサングラスを掛けているのが『コーウェン』。
真っ青な肌に黒い髪をしているのが『スティンガー』。
この二人もまた、ここを拠点としている者達だった。
「フィーネには我々から言っておこう。だから今は……」
「つ…次の作戦に備えて身体を休めておいた方がいいよ。そうだよね、コーウェン君」
「あぁ。今の我らにはクリス君の存在が必要不可欠なのだ。完全聖遺物を纏える唯一の存在である君がね。そうだろう? スティンガー君」
「う…うん。基本的に僕達は頭脳労働担当だからね。クリス君がいなくちゃ何も始まらないんだよ」
「ありがとう…二人とも……」
涙を拭ってから立ち上がり、クリスは二人に礼を言った。
口は悪いが、根は素直な少女のようだ。
「さぁ、お風呂にでも入って疲れを癒して」
「その後にゆっくりと眠りといいよ」
「うん…分かった。おやすみ…」
「「おやすみ、クリス君」」
二人の励ましによって少しだけ元気を取り戻したクリスは、そのまま大広間を後にした。
それと入れ替わるような形で、白衣を着た金髪の美女『フィーネ』が入って来る。
「コーウェン博士。スティンガー博士。幾ら協力者とはいえ、余りあの子を甘やかさないで貰えるかしら?」
「お…おや。随分と酷い言い草じゃないか。そうだよね、コーウェン君」
「全くだ。本来ならば君がしなくてはいけないメンタルケアを我々が代わりにしてあげているというのに。礼を言われる筋合いはあっても、文句を言われる筋合いはないと思うのだがね。だろう? スティンガー君」
「う…うん。それに、今の彼女はこちら側の貴重な戦力。こんな所で使い潰すのは非常に惜しいよね」
「十全に使いこなせてはいないとはいえ、それでも彼女だけがネフシュタンを纏える。その事実だけは忘れてはならない」
真っ向から言い負かされ、フィーネの眉間の皺が更に深くなる。
まるで破裂寸前の風船のような状態だろう。
「…どうして、あなた達は私に協力しようという気になったのかしら?」
「それは前にも言った筈だ」
「き…君の考えに共感したからだよ」
「…………」
常にニヤニヤしている二人に対し、フィーネは全く信頼も信用もしていない。
彼女にも彼らが何を考えているのか全く理解出来ないからだ。
「…いいわ。今はそういう事にしておいてあげる。だが……」
踵を返して部屋に戻ろうとした寸前、ふと顔だけ振り返ってから両博士を鋭く睨み付ける。
「この私を裏切った時は一切容赦はしない」
「肝に銘じておこう」
フィーネもまた部屋に戻り、残されたのはコーウェンとスティンガーのみ。
二人は顔を見合わせてから体を震わせた。
「容赦はしない…か」
「お…面白い冗談だよね」
「全くだ。どれだけ転生を繰り返していても所詮は人間」
「『選ばれし者』ではないフィーネでは絶対に僕達には勝てないのにね」
声を出さないようにしながら笑いをこらえる二人。
元々が異様な二人であるが故に、言葉では表現しにくい不気味さがそこにはあった。
「そもそも、フィーネもクリス君も全く気が付いていない」
「問題なのは聖遺物なんかじゃない。そもそも、完全聖遺物程度ではあのエネルギーに…『ゲッターエネルギー』には絶対に勝てない」
「どれだけ完璧な状態で発見されたとしても、神話の時代から時の止まった古代の遺産では」
「『進化』を司る大いなる存在に太刀打ちできる道理が無いのだ」
「そ…そうだよね。どんなに足掻いても『過去』では『未来』には勝てないもんね」
二人は足並みを揃えて歩き、窓際まで移動して空を見上げる。
そこには鳥の親子が並んで飛んでいた。
「しかし、どうもフィーネは雪音クリスを使い潰す気のように見られる」
「そ…それはダメだよね。少なくとも、死なせるわけにはいかないよね」
「その通り。彼女は大切な『贄』なのだから」
徐にコーウェンがスーツのポケットから一枚の写真を取り出す。
そこには街中を歩く疾風の姿が映し出されている。
「フフフ…よもや、この『世界』に『奴』がいるとは思わなかった」
「だ…だけど、だからこそ納得出来たよね」
「そうだな、スティンガー君。消滅する寸前に次元の歪みを越えて旅をし続け…」
「ぼ…僕達は別の並行世界でも『ゲッターに選ばれし者達』と邂逅してきた」
「どれだけ姿を変えても」
「我等の目は誤魔化せない」
「『一人目』と『三人目』。そこから随分と時間が掛かってしまったが…」
「つ…遂に出会えたね。『二人目』と」
「奴こそ、ずっと影に日向にと我等の宿願を阻み続けた怨敵」
「『あいつ』の考える搦め手に、何度も痛い目に遭わされてきたよね」
「だが、この世界の『二人目』…神疾風はまだ覚醒途中のようだ」
「む…無理も無いよね。他の世界とは違って、この世界には微塵も『ゲッター線』がないんだから」
「故に、我らの行動も著しく制限されている。だというのに、彼女は……」
「ま…間違いなく、その肉体から…いや、あのシンフォギアからゲッター線を放出させていた。あれはどういう事だろうね。コーウェン君」
「それはまだ分からん。だが、彼女の存在そのものが鍵になっている事は間違いないだろう。何故なら……」
「神疾風もまた『ゲッターに選ばれし申し子』だから。そうだよね、コーウェン君」
「その通りだよ、スティンガー君。だが、一人ではゲッターの力は満足に発揮出来ない」
「だ…だからこそ絶対に必要なんだよね。雪音クリス君が」
窓から今度はクリスが入っていった部屋のドアの方を見つめ、二人は笑みを深くする。
常に不気味な笑みを浮かべているので、その変化は非常に分かりにくいが。
「性格、境遇…あの二人はとてもよく似ている。似ているからこそ神疾風を目覚めさせるのに打って付けの存在になり得る」
「い…一緒にいるあの二人でも悪くは無いけど……」
「『仲間』だけではゲッターは目覚めない。『進化する意思』を目覚めさせるには明確な『敵』が必要だ。それも『後に和解する可能性を秘めた敵』が」
「だ…だけど、ネフシュタンだけで大丈夫かな? 現状、十全に能力を発揮出来ているとは言い難いよね」
「そうだね、スティンガー君。確かに『鎧』だけでは些か不十分かもしれないね。あれは本来、フィーネが持ち込んだ物。過度の期待はしない方がいいかもしれない」
「じゃ…じゃあ、どうするんだい?」
「『鎧』が駄目ならば…『剣』を使えばいい」
「剣?」
「そう…『天使から授かった不滅の剣』さ。上手くいけば……」
「い…一気に目覚めさせることが出来るかもしれないね!」
二人はまたもや揃って体を震わせる。
今度は我慢することなく笑っていた。
「楽しみだね! とっても楽しみだね!」
「そうだね、スティンガー君。だが、一つだけ懸念するべき事がある」
「や…『奴等』の事だね」
「あぁ。我らがこうして次元と時空の壁を越えられたのだ。それならば、『あの二人』も同じように次元を超えてこちらに来られても不思議ではない」
「か…彼女達もまた『ゲッター線の申し子』だものね」
「それだけではない。シンフォギアの存在する世界にはいずれも『アレ』が存在している可能性が高い」
「た…『黄昏の角笛』…。あれが依代になったりしたら……」
「最悪の場合、『皇帝』を呼んでしまう可能性もある…」
「そ…その時は、僕らも形振りは構っていられなくなるね」
「その前に、なんとしても神疾風を目覚めさせなくてはいけない」
「だからこそ、雪音クリスとフィーネには頑張って貰わなくては」
「い…いざとなったら『種』を使う事も考えないといけないね」
「そうならないように僕達も頑張らなくては」
一通り話し終えると、二人もまた大広間から出る為に出入り口へと歩き始める。
その足並みは見事に揃っていて、それだけ意思疎通が出来ている証拠でもあった。
「そういえば、例の防衛大臣を襲撃する件はどうなっているんだい?」
「そ…そっちの方は首尾よく進んでいるよ。成功するかどうかは分からないけど」
「あれはあくまで『保険』に過ぎない。成功しても、しなくても問題は無い。揺さぶりさえかけられればいいのだから」
「そ…そうだね。大事なのは過程ではなくて結果だもんね」
「元いた世界と似通った世界に立ち寄った際に手に入れた『あの男の細胞』をクローニングして復活させるのも急がないとね」
「アレに関してはフィーネにすら極秘にしているからな。慎重に行かなくては」
今後の事を話しあいながら、二人は廊下の奥へと消えていく。
その際、二人の影が怪しく蠢いていた。
はい。皆大好きインベーダー界のアイドルのコーウェン君とスティンガー君の登場です。
彼らには今後もストーリーに深々と関わって貰う予定です。
次回はデュランダル輸送の話…の前の話になるかも?
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
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響
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翼
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クリス
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未来
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マリア
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切歌
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調
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まさかの弦十郎
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まさかまさかの慎次