ほんと…不幸なことが一度に襲い掛かるのって実害以上に精神的に辛いです…。
話も終わりに近づいてきたと思った途端に、弦十郎の口から出てきた協力の申し出。
響は口を開けたまま呆けていて、一方の疾風はその事を最初から予想していたのか、溜息以外のリアクションをしなかった。
「私達がこの二課に入る…ねぇ……」
「頼めないだろうか?」
響はともかく、疾風の方はあんまり期待は出来ないと弦十郎は思っていた。
幾らシンフォギアを纏って自分達に深く関わり、挙句の果てに本部まで連れてきてしまったとはいえ、今までずっと孤高に生きてきた彼女の意志をそう簡単に曲げる事は不可能に近いからだ。
「…正直な話、私は何処かの組織とかに属するのは好きじゃない。ましてや、それが政府直轄ともなれば尚更だ」
「…だろうな」
「どんな理由であれ、政府の犬に成り下がるのだけは御免だ」
「そう…か」
やはりダメか。
そう思い掛けた…その時、疾風の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「とはいえ、不本意な形とはいえ私がシンフォギアを発動させ、更には本部まで来てしまったのもまた事実。ここまで来ておいて『嫌だから帰る』なんてガキみたいなことは…言えないわなぁ……。それに…」
「それに?」
「…私は弦十郎さんに恩義がある。言葉なんかでは言い尽くせないような恩義がな。だから、私なりの妥協案を考えてみた」
「妥協案…か。聞かせてくれ」
「あいよ」
いつの間にか手に取っていたコップをテーブルの上に置き、そこにオレンジジュースを注いでから、それを持って近くにあった椅子に座り足を組んだ。
「バイトとして私を雇う…ってのはどうだ?」
「バイト…だと?」
「そうだ。バイトって形なら、いざって時にはある程度の自由が効くし、政府の奴等の言いなりにはならなくて済む。だって、私の雇い主はあくまで司令である弦十郎さんであって、無能な政治家連中じゃないんだからな」
オレンジジュースを一気飲みしてから、すぐにおかわりを注いだ。
「まぁ…時給とか勤務時間とかは要相談だけどな。どうだ? 悪くない条件だと思うが?」
「ふむ……」
確かに、決して悪い話ではない。寧ろ、それはこちらとしてはこれ以上ない好条件だった。
疾風の行動力の高さは弦十郎が一番よく知っているし、そんな彼女の長所を潰すような事はしたくない。
自分と慎次と了子の長所を全て併せ持つような疾風を味方に引き入れるメリットは絶大だし、万が一の時には司令代理を彼女に任せる事も出来る。
本当は、年端もいかない少女に自分と同じものを背負わせるような真似はしたくは無いのだが、疾風にはそれだけの才能があるのは事実であり、同時に様々な面で頼りにもなるのだから。
「いいだろう。俺としては全く異論はない。了子くん、慎次、二人はどうだ?」
「そうね…悪くないとは思うわ。疾風ちゃんのような子は変に縛り付けるよりは、ある程度の自由度があるようにしておいた方が最適だと思うわ。どちらにしても、ウチに来る以上は体の検査とかも出来るしね」
「僕も右に同じです。この二課は良くも悪くも最悪の事態に際しての自由が効かない組織ですから。『バイト』という名目で仲間になるという疾風さんの提案は良いと思います」
それぞれに意見は違えども、両者ともに異論はなし。
弦十郎が他の者達にも軽く聞いてみても、反対するような意見は出てこなかった。
先程の疾風と了子の会話で彼女の能力の高さが垣間見えたお蔭だろう。
「…よし。本日から疾風くんの事をアルバイトという事で二課に向かい入れよう。翼もそれでいいな?」
「はい……叔父様がそれでいいのならば」
別に入って欲しくは無いという訳ではないが、かといって一緒に居たいという訳でもない。
何とも言えない複雑な感情を抱えながらも、翼は首を縦に振った。
「そんじゃ、後で色々とこれからの事に付いて話をしようか。それから了子さんの検査とやらを受けるよ。それでいいかい?」
「そっちの方が優先順位が高いのね……」
「私の今後に関わる事だからな」
「こっちは疾風ちゃんの体に関わる事なんだけど?」
「分かってるって。別に行かないとは言ってないだろ?」
疾風に関する話はこれで終わり。
となると、次に話を振られるのは必然的に響になるわけで。
「さて…そっちはどうする?」
「え? わ…私?」
「そうだ。個人的には私と同じ『バイト』って形にしておく方がオススメだ」
「なんで?」
「色々と言い訳がし易いからだよ。弦十郎さん」
「どうした?」
「当たり前ではあるけど、二課の事やシンフォギアの事は他言無用なんだろ?」
「そりゃあ…な」
「仮に街中のど真ん中で叫んでも誰も信じないとは思うけどな」
そう言われて冷静に考えると、確かにそうかもしれないと思ってしまう。
シンフォギアは完全に超常現象の類に足を突っ込んでいるから。
「もしも正式に二課の隊員になった場合、それこそどう言い訳をするつもりだ? お前…まだ家族や親友がちゃんといるんだろ?」
「うん……今は大切な友達と一緒に寮に住んでるけど……」
「私達は謂わば『実動部隊』だ。いつ、どんな時に召集されるかわからない。そんな時に『バイトの人に急に呼び出された』って言えば後で色々と言い訳もし易いだろ?」
「そうだね……」
疾風の言葉に響の瞳から迷いが消えていく。
それを見て、疾風はある確信を持った。
「いざとなれば、私が口車を合せればいいだけだしな」
「いいの?」
「その方がこっちとしても都合がいいんでね。これから背中を預け合う関係になるかもしれないんだ。少しでも相手の負担を減らす事は、結果として自分の負担を減らすことにも繋がる」
「そっか……ありがと! 疾風ちゃん!」
「お前…私が言った事、ちゃんと聞いてたか?」
なんだか、リアルなツンデレを見たような気がする。
少女達の織り成す青春群像劇に、了子は別の意味で興味を持った。
「…私は今まで色んな人間達を見てきた。だからこそ分かるんだが…響。お前さん…他人に余計な心配や迷惑を掛けないようにする余り、自分だけで無駄に抱え込んでしまうようなタイプだろ?」
「そ…それは……」
分かり易く目を逸らして人差し指をくるくる回す。
どうやら、響には隠し事は出来ないようだ。
「別に思い悩むのは一向に構わない。人間なんだから、そんな事は誰だってあるさ。だがな、それをずっと抱え込むような事はやめとけ。度が過ぎれば自分だけじゃなくて、見ている方だって辛くなる」
「疾風ちゃん……」
「そんな時は、せめて私に全部吐き出せ。文句でも愚痴でもなんでもいい。思い切り出してしまえ。同年代でお互いに同じ秘密を共有している身なんだ。遠慮なんてする必要はない」
「うぅ~…ば~や~で~ぢゃ~ん!!」
「うぉっ!? 急に抱き着くな!」
疾風としては、単純にこれから降りかかるかもしれない苦労を少しでも軽減するつもりで言った事なのだが、響からしたら彼女の言葉は物凄く嬉しくて溜まらないものだった。
「あ~り~が~どぉ~!」
「分かった! 分かったから離れろ! そして鼻を拭け!」
ウルウル涙を流しながら鼻水も出し、完全なギャグ顔となっていた。
必死に抱き着いてくる響の事を引き剥がそうとするが、片手では上手くいかない。
結果として、疾風と響の疑似百合空間が誕生したのだった。
「あ~…こほん。響くん、それで君はどうする?」
「私も疾風ちゃんと同じ『バイト』でお願いします!」
「そう言うと思ったよ。では、響君もそのようにしておこう」
「ありがとうございます! 立花響、一生懸命頑張ります!」
元気ハツラツと言った感じで返事をする響の事を、翼は眉間に皺を寄せながら見つめていた。
無論、その事に疾風は気が付いていたが、敢えてここでは何も言わずに黙認することにした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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その後、歓迎パーティーはなし崩し的に終了し、そのまま疾風と響は『バイト』についての話を弦十郎とし、それから疾風だけが了子に連れられる形で彼女の研究室まで足を運んでいた。
因みに、バイトの話の際に主導権を握っていたのは疾風で、響は完全に軽い返事と頷きしか出来なかった。
「研究室っていうから、てっきり書類やらなにやらで散らかって、足の踏み場もないような場所だと思ってたが…意外と綺麗にしてるんだな」
「疾風ちゃんは研究員にどんな先入観を持ってるのよ…。私みたいに綺麗好きの研究者もちゃんといるんですからね?」
「らしいな。少しだけ認識を改めるよ」
「少しだけなのね……」
下着の状態で人間ドッグのような機械の寝転び、そのままの状態で了子による診察を受けていた。
服を脱ぐのに一切の躊躇いが無かった事に僅かに驚いたが、彼女の事を弦十郎から教えられていた疾風の事を思い出してから、すぐに納得をした。
この疾風という少女は他人に肌を見せる事に対して羞恥心が無いのだと。
そんな世界を今まで生きてきた人間なのだと。
「その体…不便じゃない? 私が義手とか作ってあげましょうか?」
「別にいいよ。この体になって二年にもなるんだぜ? 嫌でも慣れるさ。それに、私の義手なんかを作ってる暇があるんなら、少しでも自分の研究に専念してくれ。それが結果として私達の為になるんだからな」
「疾風ちゃん…貴女は……」
本人は否定していたが、疾風は組織向きの性格をしている。
精神的に不安定になっていた響のフォローをしただけでなく、個人の損得よりも全体の事を…近い未来の事を考える。
今までは一人で生きてきたから自分本位な人間に見えるだけで、彼女の根幹にはチームの事を第一に考える気持ちがあるように思えた。
「それで? 私の身体はどんな感じなんだい?」
「体自体は健康そのものよ。だけど……」
「胸の傷…いや、入り込んでいる破片か?」
「そうね。医者の言っている通り、これは今の技術じゃ摘出できないわね」
「そっか。そういえば、響の奴はどんな感じだったんだ?」
「あの子も似たようなものよ。体自体はどこにでもいる健康優良児。でも、胸の部分にガングニールの破片が深々と埋め込まれてる。あの子、その傷のせいで生死の境を彷徨っていたらしいわ」
「…あいつもあいつで大変だったって事か」
「個人の苦労って点じゃ、疾風ちゃんほどじゃないでしょ。どう考えても、重傷具合なら疾風ちゃんの方が圧倒的に上よ?」
「右腕…持っていかれちまったもんな。ついでに左手の薬指と小指も」
左手を持ち上げてから何回か目の前で動かす。
体の部位が欠如しているというのは、何とも不思議な気分になる。
感覚的には、まだそこに失った筈の腕や指があるような感じがするからだ。
「翼ちゃんの事…恨んでる?」
「なんで?」
「そりゃ…あの子のアームドギアが壊れたせいで疾風ちゃんの腕と指が失われた訳だし……」
「…別に恨んでなんかいないよ。そりゃ…色々と言いたい事や思う事はあるけどな。少なくとも、今の私にはアイツに対する恨み辛みの念は無いよ」
「強いのね……」
「そんなんじゃない。ただ、終わった事は終わった事として私の中で処理をしているだけだ。そうじゃなきゃ潰れちまうからな。特に、今みたいな身体だと」
検査をしながら疾風を会話をする事で、了子がずっと疑問に思っていた事に対する一つの回答が出た。
(疾風ちゃんのアームドギアがどうしてドリルなのか…今分かった。例え何があっても、決して揺るがない信念と鋼のような意志力。その強大な精神力がギアに作用して『折れない意志』と『真っ直ぐ貫く信念』を具現化する形で『ドリルの義手』という前代未聞のアームドギアへとなったのね……)
見た目や歳に騙されてはいけない。
神疾風という少女は、こちらの想像を遥かに超える存在かもしれない。
少なくとも、了子にはそう感じられた。
「…終わりよ。そこから出て着替えていいわ」
「分かった」
機械の台から降りて、器用に片手で服を着ていく疾風。
流石にそれを傍観している訳にもいかないので、彼女の元まで行って着替えを手伝った。
「ありがとな」
「どういたしまして。というか、いつもそうして着替えてるの?」
「もう慣れたさ」
「難儀ねぇ…。これからは誰かに言って手伝って貰った方がいいわよ? もう疾風ちゃんは一人じゃないんだし」
「……そうだな」
着替えを手伝ってくれている了子の一言に、疾風は僅かではあるが笑みを浮かべた。
それを見逃さなかった了子もまた、同じように笑みを浮かべた。
(なんだ…ちゃんと少女らしい笑顔も出来るんじゃない)
その笑みが、疾風がどれだけ背伸びをしているのかという証拠になり、同時に付け入る隙にもなる。
だからと言って決して油断は禁物だが。
石橋を叩いて渡る…これからはそれ以上の慎重さを持って行動しなくてはいけない。
疾風の顔を見て、了子は密かに心の中で気を引き締め直した。
もうお分かりかと思いますが、疾風の言ってる事は完全な屁理屈です。
それでもまぁ…屁理屈も理屈のうちとも言いますし。
これで完全にストックが切れました…。
次回は未定か、もしすぐの思い付いたら明日かもしれません。
全ては明日の私の気紛れ次第です。
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
-
響
-
翼
-
クリス
-
未来
-
マリア
-
切歌
-
調
-
まさかの弦十郎
-
まさかまさかの慎次