自分が悪いと分ってはいるけど、凄くもどかしい気分です。
二課の本部に連れて行かれた次の日。
疾風は街中にあるカプセルホテルの一室にて目を覚ました。
「…もうこんな時間か。どうやら、相当ぐっすりと寝てしまっていたようだな」
枕元にあるスマホを手に取り時間を確認すると、朝の8時30分。
普段の彼女ならば7時ごろに目を覚ますので、少しだけ寝坊をしてしまった事になる。
と言っても、別に学校に通っている訳ではないので、そこかで時間に厳守する必要はない。
二課でバイトをすることになったとはいえ、彼女の立場上、正確な出勤時間を指定されている訳ではない。
それも今日までの話なのだが。
「まずは起きなきゃな……」
大きく欠伸をしながら体を伸ばしつつ、手櫛で軽く髪を整えながら、弦十郎と話した『バイト』の事を思い出していた。
『疾風くんには言う必要はないかもしれないが、念の為に言っておく。ここで話したことやシンフォギアなどの事は他言無用で頼む。脅すようで申し訳ないが、我々の事やシンフォギアは国家機密に該当する事でな。万が一にでも外部の物にバレたら、親しい者達や御家族に危機に晒される可能性がある』
話している弦十郎も、強く拳を握りしめながら耐えている様子だった。
そして、疾風の隣でそれを聞かされていた響は、怯えた子犬のような顔をしながらゆっくりと頷いていた。
疾風自身は、もう家族はいないし、外に友人と呼べるような人間もいないので半ば流しながら聞いていた。
「へっ…まさか、この私が『あんな連中』に関わる羽目になるとはな…世の中、何が起きるか分らないものだな」
まるで他人事のように呟きながら、首や左肩をグルグルと動かしながら体を解し、何度も骨をポキポキと鳴らしている。
狭い室内で出来る簡単なストレッチを行って、寝ている間に固くなった体を少しでも解そうとしているのだ。
最後に、両足を大きく広げ開脚をしてから、疾風は個室から外へと出た。
「さて…と。朝ご飯はどこで食べますかね……」
少しだけ迷ったが、今の疾風に行ける飲食店は(体的な意味で)本当に限られているので、選択肢はあるようで少ない。
結局、最終的には朝から開いている某ファーストフードショップにてハンバーガーセットを食べることにした。
体は鍛えているので、片腕だけでも普通にトレーは持つ事は出来た。
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「……で、どうしてアンタがここにいるんだ?」
朝食を食べた後に駅の構内にあるロッカーに私物を取りに行こうとしたら、駅前にて二課のエージェントである慎次が待ち構えていた。
「司令の代わりに疾風さんを迎えに来ました」
「弦十郎さんの代わり?」
「はい。本当は司令が行きたがっていたのですが、今朝になって急に上層部から呼び出しを食らい、司令の代わりに僕が来たというわけです」
「呼び出し…ねぇ……」
司令と言いつつも、要は中間管理職なのだ。
顔や体格に似合わず、苦労人なのだと思うと急に申し訳なってくる。
忙しい時間の合間に自分に会いに来てくれていたのだから。
「まぁ…いいか。男手が欲しいとは思ってはいたし」
「そうなんですか?」
「一応な。後で分かるよ。着いて来てくれ」
疾風に先導される形で一緒に構内へと入って行き、そのまま真っ直ぐにロッカールームへと進んでいった。
そこには、一つ一つは小さいが数が多いコインロッカーと、サイズが大きい代わりに数が少ないコインロッカーの二種類があった。
「私が使ってるのは、こっちのデカい方だよ」
「どうして二種類あるんですか?」
「あっちの小さい方は、100円で手軽に使える代わりに入れられる量が少ない。逆にこっちのデカい方は、一回使うのに500円取られる代わりにかなりの量が入れられるようになってる」
「成る程…用途に応じて使い分けるという訳ですね」
「そーゆーこと。噂じゃ、ここのコインロッカーって危ない取引にも使われてるらしいけど…真偽は不明。実際に見た人間は誰もいないからな」
「このご時世じゃ不思議ではありませんが……」
二課も『裏側』に属している組織なので決して他人事ではないのだが、それ以上に危ない橋を渡っているせいか、どうも余り実感が湧かなかった。
「いつも使ってるのはこの…2番のロッカーだ」
ポケットから鍵を取り出してから、左手の残された指を器用に使ってロッカーを開錠する。
中にあったのは、大きめのリュックと紙袋が一つ。
それから、スーパーなどで売られているビニールが一つ。
「これは?」
「こっちのリュックには色んな私物やらが入ってる。で、こっちの紙袋には勉強用の書籍が入ってる。んで、このビニールには私の着替えが入ってる」
目の前に成人男性がいるにも関わらず、恥ずかしげも無く着替えの事を主張する。
まさか、自分は疾風から男として見られていないのかと思い、地味に落ち込む慎次なのだった。
「ビニールはリュックの中に入れて…っと」
「慣れてますね」
「慣れるしかなかったってのが本当だけどな」
左腕だけで器用にリュックを開けて、その中に着替え入りのビニールを入れてから閉める。
そして、そのままリュックを背負ってから左手には紙袋。
その容姿と相まって、なんともアンバランスな格好になっている。
「紙袋ぐらいは持ちましょうか?」
「大丈夫だよ」
「…やっぱり、誰かに借りを作るのは嫌ですか?」
「勘違いしないでくれ。確かに、貸し借りは好きじゃないが、こんな小さなことまでに拘るような馬鹿じゃない。慎次さんには別の事を頼みたいんだよ」
「別の事?」
「そ。ちょっち来て」
言われるがままに戻るようにして駅を出て、そのまま駅前広場を進んでいく。
すると、広場に面したショッピングモールが見えてきた。
いつの間にかもう10時を回っていたようで、店々が開店し始めている。
「あそこに行くから付き合ってくれ」
「100円ショップ…ですか?」
「その通り。これから私が暮らすのって、所謂『宿舎』みたいなもんだろ?」
「そうですね」
「だったら、ちゃんとそれに合わせて雑貨品とか色々と買い込んでおかないといけないだろ」
「その荷物持ちを僕に頼みたいと?」
「御明察。正直な話、本気で男手が欲しいとは思っていたんだ。だから、もし仮に誰も来なかったとしても、こっちから電話をして呼び出すつもり満々だったんだよ。手間が省けてよかったよ」
「ははは……それは何よりです」
疾風の話を聞き、慎次は本部を出る直前に弦十郎とした会話を思い出す。
『疾風くんの事だから、恐らくはこっちに来る前に色々と買い出しをしようとする筈だ。本当は俺が行ってやりたいが、お前も知っての通り、お上から呼び出しを食らっているからな…。だから頼む。彼女の元まで行って、もしもの時には荷物持ちをしてやってほしい』
以心伝心なんてレベルじゃない。
弦十郎は完璧に疾風の思考パターンを把握していた。
同時に、もしも疾風が誰かを呼ぶのだとしたら、まず真っ先に弦十郎を指定するだろう。
というか、それしか有り得ない。
現在、二課のメンバーで疾風のスマホに登録してあるのは弦十郎と了子の二人だけだから。
(司令……疾風さんと仲が良すぎじゃありませんか?)
別の意味で疾風の将来が心配になってしまった慎次なのだった。
「それじゃ、とっとと行こう。今ならまだ開いたばかりだし、ゆっくりと見れるだろうさ」
「了解です」
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「…思ったよりも多く買ってしまった。悪いな」
「これぐらいなら問題無いですよ」
あれから、100円ショップで色々と買った後に別の店も覗き、そこでもまた色々と購入してしまい、気が付けば昼を回っていたので仕方なく一緒に(割り勘)で昼食を取り、いつしか時間は15時半を過ぎて16時になろうとしていた。
「久し振りに買い物なんてしたもんだから、調子に乗ってしまった…」
「疾風さんは女の子なんですから、それぐらいで丁度いいと思いますよ?」
「…なんて反応したらいいのか困るな」
今まで、疾風の事を女の子扱いしてきた者達と言えば、弦十郎と彼女の援助交際相手の変態親父ぐらいしかいない。
両者を同列にしている訳ではないが、それでもストレートに女の子と呼ばれるのにはまだ抵抗がある。
端的に言うと、恥ずかしい。
「会計の時にチラッと財布の中を見てしまったのですが…思っている以上に持っていましたね」
「普段から余り散財とかしないし、基本的に稼いだ金は貯金するようにしているしな」
「口座とかを作ってるんですか?」
「まさか。私は、そんなもんを作れるような人間じゃないよ。それに、紙に書かれた数字よりも、目の前にある現金の方が安心できるんでね」
「分かるような…分からないような」
疾風は、あんまり銀行を初めとした金融機関を信用していない。
そのせいなのか、弦十郎にもバイト代を払う時は現金で手渡しにして欲しいと頼んでいた。
そんな事を話しつつ、慎次の運転する車で二課の本部へと向かっていく二人。
彼が車で来ていた事を知った時は、ちょぴりだけ感心するように口笛を吹いた。
本部に近づくという事は、必然的にその上に建てられているリディアン音楽院に近づいていく訳で。
「ん? おい慎次さん。前から来てるのって……」
「翼さんですね。学校帰りなのでしょう」
助手席に乗っている疾風が歩道を歩いてこちらに来ている翼の姿を見つけた。
制服姿の彼女を見て、目を細めながらうっすらと笑った。
「あの制服…リディアンのだよな。ってことは、あいつもリディアンの生徒って訳か」
「はい。翼さんはリディアンの三回生になりますね」
「響も今年、リディアンの入学したって言ってたな。ってことは、翼は響にとって二重の意味で先輩って事になるのか」
「言われてみれば確かに……」
装者としての先輩であり、学校でもまた先輩でもある。
何気に繋がりの多い二人だった。
「向こうもこっちに気が付いたようだな。どうする?」
「まずは話しかけて見ましょうか」
端の方に車を止め、翼が近づいてくるのを待つ。
彼女もこちらの意図に気が付いたのか、何も言わずに車の傍までやって来た。
「お疲れ様です、翼さん」
「今、帰りかい?」
「緒川さん…それに、お前は
意外な組み合わせに、翼は少しだけ驚いたような顔を見せる。
疾風の方はいつも通りにしているが。
「私の事は名前で読んでくれて構わんよ。名字で呼ばれるのは慣れてないんでね」
「…悪いが遠慮しておく」
「そうか。別に無理強いはしないがな」
気まずそうに眼を逸らしながら断られても、疾風は全く気にしない。
この程度の事で落ち込むような、軟な人生は歩んで来てはいない。
「緒川さんは、どうして神と一緒にいるんですか?」
「今日から疾風さんは本部にて寝泊まりすることになって、僕が迎えに行っていたんですよ」
「神が本部に……?」
どうやら翼にはまだ知らされていなかったようで、明らかに驚いた反応を見せた。
翼と疾風もまた因縁浅からぬ仲であるので、心中穏やかではないのだろう。
疾風の方はもう殆ど気にはしておらず、翼だけが一方的に疾風の事を意識しているのだが。
「翼さんはこれからどうするんですか? 本部に来ますか? それとも……」
「いや、私は……」
チラッと疾風の事を見て、また目を逸らす。
それを見てから、疾風は頭の中であることを思い付く。
「予定が無いのなら一緒に来いよ。昨日も言ったが、アンタとは一度じっくりと話をしたいと思ってたんだ」
「わ…私は別に話なんて……」
「そっちには無くても、こっちにはあると言っている。良いから来いよ」
「……承知した」
年下とは思えない程の疾風の迫力に気圧され、翼は後部座席のドアを開いて車に乗る。
半ば強引ではあったが、今の彼女にはこれぐらいの方がいいと思っていたので、敢えて何も言わずに慎次は車を発進させた。
こうして、なんとも言えない空気を車内に漂わせながら車は一路、二課本部へと続く専用の道へと進んでいった。
次の次ぐらいには戦闘シーンがあるかも?
それはそれとして、何気なくやったカップリングのアンケートが凄い事に。
話の流れ的に弦十郎さんが票を集めるのは予想していましたが、まさかのクリスも同じぐらいの票を集めていました。
似たような境遇故に仲良くなれると思ったのかな?
主人公の疾風とのカップリングは誰が良い?
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響
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翼
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クリス
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未来
-
マリア
-
切歌
-
調
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まさかの弦十郎
-
まさかまさかの慎次