そのうちpixivにも同じの投稿しときます。
「マキ、まだ昼御飯食べてたの?」
「んあ?」
教室の自席でお弁当を広げているマキの後ろから声をかける。マキはちょうど白米を口へ運んだところらしく、咀嚼しながら返事をした。行儀がよろしくないようで。
「……ん! 葵、ちょうどいいところに来た! これ食べて!」
「いや、私学食行ってきたからお腹いっぱいなんだけど」
「お願い! 後生だから!」
「……まあいいけどさ」
「やった! ありがと!」
食べる量がほんの少し増えたので体重増、なんてことは無いはず。そう信じてマキの前の席の椅子を借り、対面へ座る。
「……待って」
「なに?」
「多くない?」
「だから手伝ってって言ったんじゃん」
マキの前に広がるのは、お弁当もとい三段の重箱。その中にぎっしりと敷きつめられた具材。ここだけ正月気分満載だ。
「どうしたの、これ」
「お父さんが『作りすぎたから持ってけ』って……」
「だからって女子高生に持たせる量じゃないよ」
「でも折角用意してくれたし、残すのは絶対したくないから」
「出た、ファザコンマキマキだ」
「うるさいやい。あ、これ使って」
「ん、サンキュ」
マキから渡された割り箸を割る。割り箸占いは……凶。箸の片方が『9』の字になってしまった。
その箸を持っておせちの様な弁当と対峙する。まず目に付いたのは卵焼き。焦げ目がないだし巻き玉子だ。それを一つ箸で掴んで口へ放り込む。
「……美味しいねこれ」
「でしょー! お父さんの料理は最高なんだよ!」
「はいはいファザコンファザコン」
「むー!!」
学食で昼御飯を食べた後なのに、驚く程に箸が進む。
──ああ、しばらくは体重計には乗らないでおこう。
◇◆◇◆◇◆◇
「で、マキマキの弁当食べすぎてお腹空かないんか」
「……はい」
結局残っていたお弁当の八割を平らげてしまった。我ながらよく胃袋へと入ったものだと、感心さえしてしまった。
「まあ今日作ったんはカレーやし、保存出来るからええけど」
「ごめんねお姉ちゃん……」
「じゃあウチトイレ行ってくるわ」
「はーい……」
私の双子の姉──琴葉茜の作った夕飯を食べれなかったことに対する罪悪感を感じていた時。ふと訪問者を告げる呼鈴が鳴った。
「はーい」
姉がトイレへ行ってしまったため、必然的に私が出るしかない。ゆっくりと正座を崩して立ち上がり玄関へ向かう。向かってる間に2回目の呼鈴が鳴ったので、余程急いでいるのだろう。程なくして玄関の扉を開いた。
「ごめん葵! 少しだけ匿って!!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
扉を開くと同時に駆け込んできたのは、先程話題に挙げていた弦巻マキ。そそくさと靴を脱ぎ、その靴を持ってトイレへと駆け込んだ。
『うわなんやーっ!?』
『ごめんちょっとだけここに居させて……!』
……何をしているんだろうか。
姉と友に呆れて部屋へと戻ろうとした時、もう一度呼鈴が鳴った。私は先程と同じくして玄関へと戻り、今度はチェーンを掛けた状態で玄関を開く。マキの慌てようから察するに、何かに追われていたはず。それがそこにいるのかもしれないので、警戒はしておく。
そうしてドアを開くと、そこにはスーツ姿の一人の男性。
「……どなたですか?」
私が聞くと、男性は踵を揃えて背筋を伸ばした。
「私、とある方に仕えている執事でごさいます。先程その方のお嬢様をこの周辺で目撃したので、一軒一軒聞きこみ調査をしている所でして」
「は、はあ……」
お嬢様が家出でもしたのだろうか。なんにせよ、執事を雇えるくらい高貴な方達とは関係ないだろう。
「と言われても、心当たりありませんけど」
「そうですか……」
これで帰ってくれるだろう。だが、私の中に一つ好奇心が芽生えてしまった。私はそれを口にする。
「ちなみに、そのお嬢様? の名前とかっていうのは……」
「はい。弦巻マキお嬢様です」
男性の口から発せられた単語が頭を通り過ぎていく。処理が追いつかない。どういうことなのだろうか。
思考回路が追いつかないながらも怪しまれないように反射的に唸り、思い出そうとしているフリをする。
「あー、マキさんは確かに私と同じクラスにいますし今日も途中まで一緒に帰りましたけど、帰り道で別れてからは見てないですよ」
「なんと、ご学友の方でしたか。いつもお嬢様がお世話になっております」
「あ、いえいえ、私も楽しくさせてもらってます」
何だこの会話。よく分からないことになっているな。
「では私はまた別の方に聞き込みへ向かいますので、この辺で失礼させていただきます」
「あ、はい。お気を付けて」
「ありがとうございました。それでは、失礼しました」
私はそのままドアと鍵を閉めた。ドアの向こうの気配が消えたのを確認して、トイレのドアを解放した。
「……どっか行った?」
「行ったよ」
「はぁぁぁ……」
追手を振り切って安心したのか、大きな溜息と共にへたり込むマキの姿。全くお嬢様感がないが、あの話はホントだったのだろうか。
「マキ」
「ん?」
「お嬢様って言ってたけど、本当なの?」
「あー……」
「実はあの人がストーカーで、嘘ついているとかじゃない?」
「お、落ち着いてよ葵」
「……ごめん」
マキが呼吸を整えているところに、三人目からヤジが飛ぶ。
「取り敢えず、はよ出てき」
「あ、茜ちゃんごめんね」
「今日はもう散々やわ……」
今日は姉を振り回してばかりだったので、後でエビフライでも作ってあげようかな。
途中で出てくる執事は伊織弓鶴イメージ。
続きを書く気は無いので、勝手に創造しててください。(not誤字)