原作主人公はどんだけ盛ってもいいってお婆ちゃんが言ってた。
おにぃの様子が変わった。
これはまずい。
「〝ゴムゴムのォ……」
「くっ!」
「JET
「がッ……!?」
おにぃの怖さは、強引に戦いのペースを呑みこまれてしまうことにある。
一度ノリにノったおにぃを食い止めるのは至難の業だ。
「〝JET
「げほッ、あア゛ァ! 調子にィ……乗るなァ!!」
「
「〝
それにこの尋常じゃない速さ……私の〝
おにぃの乱打と私の連続突きは、徐々におにぃの方に優勢が傾いていく。
「おらァ!!!」
「うぐゥ……!」
顔面に拳がクリーンヒットし、盛大にふっ飛ばされる。
空中で身体を捻って体勢を立て直しつつ着地。
速すぎて受け流しが完璧には間に合わなかったが、威力はある程度軽減することができた。
軽傷程度なら〝天万照〟で細胞を操作して戦闘中に治療することができる。
失った血や千切れた皮は戻らないが、ある程度は他の細胞で代用可能だし、細胞の分裂速度を無理矢理に促進させることでも治せる。
「さっきは驚いたから食らったけど……そう何度も同じ手が通じると思わないでよ!!」
「おう! けど負けねェよ!」
「〝
「〝JET
ドカァンッ!という衝突音と共に、爆風が巻き起こる。
お互いが目にも留まらない速度で攻撃を繰り出しているため、衝撃加速度が異常なまでに上昇しているのだ。
鍔迫り合いのような状態で拳と剣の腹を突き合わせて拮抗する。
「ぐぐぐっ! やるなァ、マイン!」
「ぎぎぎ……そんな、余裕、ぶっこいてるとォ……! 痛い目見るよ、おにぃ!!」
ガァン!と、お互いの拳と刃を弾き飛ばしてのけぞる。
反動に逆らわず後方に跳躍して距離を取り、息を整える。
「はァ、はァ……技を見せすぎなんじゃない? おにぃ」
「ん?」
「その〝ギア2〟ってやつ。私、絡繰りわかっちゃったよ」
発動前の独特な動作……あれはおそらく足をポンプにして血の流れを加速させるためのものだろう。
常人なら心臓が張り裂けるほどの血圧にも、内臓や血管が全てゴムならば耐えられる。
正しく、ゴム人間という特性をフルに利用した技だ。
それにあの独特な歩行術……以前までは使っていなかった!
おそらく航海の中で習得した技術。
誰かから見て盗んだのか……?
「そうか、そりゃすげェ。でもわかったところでお前はもうおれには追いつけねェ」
「追いつけるよ。私を誰だと思ってるの?」
目を薄く閉じ、集中を最大限に高める。
最も意識すべきは、全身に血液を行き渡らせる役割の心臓。
心拍もまた普段は意識せずに行なっている生理行動の一つ。
〝
耐えきれずにブチブチと千切れる血管を、亀裂が入るそばから修復し、無理矢理維持する。
身体が異常なほどに熱を持ち、身体が赤熱し、あちこちから蒸気が噴き上がる。
「私、おにぃの妹だよ。おにぃにできることなら、私にだってできるんだから」
「ししし、やっぱ一筋縄じゃいかねェな!」
そして同時に地面を蹴り、超高速の乱打戦を開始する。
建物なども踏み台にし、三次元的に殴る、蹴る、斬る、突くの攻防を繰り広げる。
いつの間にか港が見えるほどの距離まで移動していた。
「うおおおお!!!」
「でやあああ!!!」
私たちは2人とも頬や腕に切り傷や擦り傷を作りながら一進一退に剣と拳を突き合わせる。
攻防は拮抗していたが、〝
「〝JETォ——」
「〝
「ウッ!!?」
全力の薙ぎ払いがおにぃの身体に食い込む。
が、腕と膝でギリギリと刃を押さえつけられ、一瞬私の動きが止まる。
「——おおおォォ!! 〝JET
「がはッ!!?」
……確かに私が優勢のはずだが、おにぃは私とは比べ物にならないくらいにタフだ。
少々の優勢など容易くひっくり返される。
そしておまけに私の体力の限界も近づいてる。
もう長くは持たない。
「はァはァ、いい加減倒れなよおにぃ!!」
「うるせェ! はァ、勝っておれは〝海賊王〟になる!!」
「まだ言うか……!」
既に2人とも満身創痍。
もはや精神力だけで踏ん張っている。
これはすでに意地の勝負……先に妥協した方が負けなのだ。
「そんな夢見ないでよ! 私はおにぃに死んでほしくないの!
私海に出てわかったよ! この海には強い奴らがゴロゴロ居る! 東の海でこれなら、偉大なる海なんて命がいくつあっても足りない!
おにぃが死んだら私も一緒に死んでやる! それでもいいの!?」
「よくねェ! でも戻るのもいやだ! そんなもんは自由じゃねェ!
おれはもっともっと、仲間と一緒に冒険がしてェんだ!!」
平行線なのはわかっている。
対話など最初から無駄だと割り切っているのだ。
おにぃはそれで止まるような安い男じゃないから。
だから手足を切り落とす。
力づくで言うことを聞かせてやるのだ。
私の
「〝ゴムゴムのォ……バズーカ〟!!!」
「〝
互いの渾身。
ぶつかり合い、鍔迫り合い、打ち勝ったのは私の方。
おにぃは斬撃に肌を切り裂かれながら、遥か上空へと——
「おォ……〝ゴムゴムの風船〟!! ぶふうゥーーー!!!」
「はあ゛!? おにぃ、何やって……ッ!!」
吸い込んだ空気を吐き出し、その勢いでさらに上空へと舞い上がるおにぃ。
何をするかはわからない。
が、こういう時おにぃはいつも逆転の一手を打ってくる。
窮地に立ってなお貪欲に勝利のために突き進む。
その精神性が奇跡を呼び込む力になっているのだ。
「やらせるか……!」
おにぃはなおも繰り返し空気を吸い込み、吐き出し、空へ空へと上昇を続ける。
あそこまで上空に行かれては飛ぶ斬撃の〝
だが、このまま指を咥えて見ているだけなのはまずいと私の直感が告げていた。
ならばやることは一つ。
「待てェ! おにぃ!!!」
私も空を飛ぶしかない。
強化された身体能力と知覚能力、平時とは比べ物にならないほど精密に動かせる肉体。
私たちは日々、生きているだけで様々な力を受ける。
気圧、重力、空気摩擦……これら全ての身体にかかる力を受け流し、推進力として用いることで、水中と似たような挙動、即ち空中での跳躍を実現させる……!
「〝
よし、できた……!
私はさらに速度を上げ、上空に浮かび上がっていくおにぃに追い縋る。
おにぃの上昇方法は無駄が多く、速度も速くはない。
今は黒雲の近くまで上昇しているが、追いつくのも時間の問題——
「〝ギア3〟!!」
「な!?」
「〝骨風船〟!!!」
次も吸い込んだ空気を吐き出して上昇するのかと思いきや、おにぃは親指を噛み、吸い込んだ空気を腹から足に移動させた。
まるで巨人族であるかのように膨らんで巨大化した足が雷雲へと伸ばされ、青白く弾ける雷を纏いはじめる。
質量+位置エネルギー+電気ショック……これから繰り出される一撃は私が経験したこともないような超強力な〝必殺技〟になるだろう。
おにぃはこれで勝負を決める気だ。
私は推進に使っていたエネルギーを全て剣先に集中させ、せめて一矢報いるために全力を尽くす。
「マインーーー!! おれはお前を、何度だって越えていくぞ!!!」
「く……!」
「おれは〝海賊王〟になる男だ!!!」
負けてたまるか、負けてたまるかッ!
身体が壊れても構わない、全身全霊、命も魂も全部乗っけておにぃの手足を切り落とす!!
「〝奥義……!!」
「〝ゴムゴムの……!!!」
これがッ、最後だァァァーーーッ!!!
「
「
……互いに放った生涯最高の一撃は、眼下の街並みを破壊しながら突き落とされた私の敗北を以って終止符となった。
☆★☆★☆
「う……ぐ……」
「起きたか、大馬鹿野郎」
目が覚めるとそこは医務室と思われる場所だった。
声がした方を振り向くと、スモーカー大佐が仏頂面でこちらを見下ろしていた。
「ここは……?」
「〝
「えっ!? うぐォォー! いだだだだだっ、し、死ぬゥ……」
ガバッと起き上がって確認しようとしたが、全身がまだ寝てろと言わんばかりの激痛を発したので大人しくそのまま寝っ転がることにした。
「あの、スモーカー大佐。〝
「そうだ」
「あの、なんで……?」
「モンキー・D・ルフィが〝
「っ……!」
おにぃが〝
ということは、せっかくの包囲作戦も失敗に終わったわけか。
「お前が言った通り、やつァ危険だ。あの強さ……本部の将官に匹敵しかねねェ。
よって奴の首には6000万の賞金がかけられた。初頭手配としては異例の金額だ」
「……」
ならもう、捕まったらインペルダウン行きはほぼ確定か……。
笑えもしない最悪の事態だ。
「おれァ、ローグタウンに就いてから一度も海賊を〝偉大なる航路〟に入れなかった。だがあいつはそれを突破した。このままじゃ終わらせねェ、あいつは必ずおれが捕まえてやる」
そう言ったスモーカー大佐の目は猟犬のように鋭く、〝白猟〟の名に恥じない威圧感に満ちていた。
絶対に、何としても捕まえるという固い意志がその瞳には宿っている。
「それは無理ですよ、スモーカー大佐」
「あァ!?」
「おにぃを捕まえるのは私だからです」
おにぃはもう取り返しのつかないところまで来てしまった。
ならせめて、手の届かないところに行ってしまう前に、私の手で監獄に入れる。
そして毎日会いに行くんだ。
そうすれば離れ離れにはならない。
だからスモーカー大佐には悪いけど、おにぃを捕まえるのはこの私だ。
他の誰にも譲ってやらない。
おにぃは私だけのおにぃでいてくれればいいのだから。
「はっ! 無様に負けて落ち込んでんじゃねェかと心配していたが、案外ピンピンしてやがる」
「ええ。おにぃは放っておくとどこまでも進んで行ってしまいますから。私も止まってなんていられないんです」
「枯れてねェなら重畳だ。お前を連れてきた甲斐がある。
〝麦わら〟は捉え損ねたが、お前の戦闘力も鑑みて曹長にまで階級を上げてやる。本当はさっさと階級上げてやりてェとこだが、おれの裁量じゃあこれが限界なんでな。精々手足として使ってやるから覚悟しとけ」
「はい! これからもよろしくお願いします、スモーカー大佐!」
おにぃがどこに行ったかはわからない。
前途は多難だ。
けれど、水平線の果てまで追って必ず見つけ出して捕まえてやる。
私の愛はいつまでも、おにぃを逃したりなんかしないんだから。