裏切り者は誰だ   作:七水らむね

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第2話―コキュートスの審判・後編

三輪秀次の場合

 

 

 

 

 

『おはよう、みわ先輩』

 

 

 目を開けばさっきとは真反対の光景が広がっていた。

 湿気の多い空気と不気味なコンクリートと鉄格子ばかりの空間に、俺は一人立ち尽くす。

 スピーカーから聞こえてくるのは、忌々しいあの声。

 モニターは自分の身長よりも上にあるので、自然と空閑が俺を見下す形になる。それが堪らなく不愉快で、イライラさせてくる。

 

『今からあんたにやってもらうのは犯人当て。ただそれだけ』

 

 じゃじゃーん、とふざけた口調の声が響くと同時に、目の前の壁だと思っていた部分に明かりが灯った。そこには――左手を手枷と鎖で繋がれた陽介が焦った表情をしていた。

「陽介!?」

 どうしてここに!!

 お互いにアクリルの壁を強く叩くが、勿論ビクともしないし、ヒビが入るなんて事もない。

 陽介が何かを叫んでいる。しかし全く聞こえない。

 

 

『誰がオサムを殺したと思う?』

 

 

 こちらの都合などお構い無しらしい空閑はそれだけを聞いてくる。

 無視して答えずに黙っていれば、先程まで笑っていた空閑が急に真顔になり『言わないんだ』と何か手元にあるスイッチのような物をいじりはじめた。

『言わないなら、言わせるまでだよね』

「何?」

『これを押せば人間にとって有害なものが上の換気口から出るらしい。化学式? は、しーおー……らしい。頭の良いみわ先輩ならこれで分かるって』

「……まさか」

 こいつの言っている事が本当なら、“有害なもの”の正体はCO……つまり一酸化炭素という事になる。

 一酸化炭素は人体に有害だ。下手したら中毒を起こして死んでしまう。

 

「くそ、近界民(ネイバー)の癖に……!」

『今それは関係ないでしょ。じゃ、ポチッとな』

 

 ピッという電源の入れられた音の数秒後、機械の作動したような重低音。慌ててガラスを叩くも、陽介はすぐに顔色を悪くし、足元がふらふらと覚束無くなっていく。

「やめろ、陽介は関係無い!!」

『なら答えなよ。誰がオサムを殺したの?』

 空閑のその言葉にぐ、と口を噤む。

 言いたくない。けれども言わなければ陽介が死んでしまう。

 自分の中の迷いが最高潮に達した時、派手な音を立てて分厚い壁の向こうに居る陽介が地面に倒れた。顔が真っ青を通り越して白く、目は今にも閉じられそうである。

 

 何を迷っているのだろうか。

 言えば……言えばいいのに。

「あ……秀次……?」

「……ッ!!」

 助けを求めてくるように手を伸ばしながら、呂律の回らない声で自身の名前を呼んでくる陽介。――俺は、こんな悪趣味なゲームで仲間を見殺しにするのか?

 もう限界だ。

 全部、全部言おう。

「……俺だ」

『へ?』

 小さな声は空閑に届かなかったらしい。息を吸い込み、今度は叫ぶような大声を出した。

 

「俺が……あいつを殺したんだ……!」

 

 冷や汗と心臓の鼓動が止まらない。

 靴底を濡らす濁った水がよろめいてたたらを踏む自身の足音と揃ってぴちゃぴちゃ鳴る。

『その記憶が間違っている可能性は?』

「無い。間違ってない。だってその日は――」

 

 

 

 ――姉さんの誕生日だったから

 

 

 

 その日、屋上の扉を開けば三雲がぽつんと立っていた。

 話し掛けようと近付けばあいつは、いきなり背中を震わせてわずかに声を漏らしながら笑い始めたんだよ。

 写真の事も音声の入ったCDの内容も全部知っていた。それ以降に起きた三雲絡みの事件も全部。

 だからこそ俺は三雲が裏切り者だと誰よりも強く思っていた。そして笑うあいつ見て耐えられなくなった。

「お前どうして笑ってるんだ」早足で三雲に近付き襟を強く握って胸ぐらを掴むと、三雲の顔から笑顔が消える。

「えっ、三輪先輩、いや、笑ってなんか……」

 何も分かっていないような間抜けな返答に視界が怒りで真っ赤に燃える。顔は沸騰するように熱くなり、胸が締め付けられる感じがした。

 

 どうしてこんな奴が生きているんだ。

 ボーダーを裏切って近界民(ネイバー)側についたこいつが、なんで生きている?

 この時初めて人間に対して、本物の殺意が湧いた。

「ふざけるな!! 裏切り者!」

 怒りは完全に制御出来なくなり、そのまま襟を掴んでいた腕を突き出して手を離した。

 

「あ」

 

 ぐらり、とバランスを崩した三雲はそのまま地面に真っ逆さまに落ちていく。

 下を覗く勇気なんて無かった。ただ、自分は人を殺してしまったのだと、そう自覚するのにさほど時間はかからなかった。

「二日後に本部でも噂が流れはじめて……」

 それ以上は言わなかった。いや、言わなくても分かるから、これ以上自分の口から言うのを躊躇ったのだ。

 空閑は不機嫌そうな表情を覗かせる。

『……りょーかい。じゃあ止めよっと』再びスイッチを押す音。重低音が止まり、天井部分が開かれていく。

 陽介はピクリとも動かなくなってしまった。

「……おい、陽介?」

 震える声で倒れた男の名前を呼ぶ。分厚い壁を強く叩く。それでも動かない。動いてくれない。

 

『大丈夫だよ。生きてる』

 

 殺してなんかいないさ、と白々しい顔で呟いた空閑の顔は貼り付けたみたいな笑顔で。

『ほら、はやく次へ行かないと』

 よーすけ先輩を助けたいのならね。

 指をさされて鉄格子の消えた左側の通路を見る。

「くそ……、この悪魔が……」

 舌打ちをして倒れたままの陽介を後目に、俺は通路を進んだ。

 

『悪魔、ねぇ』

 

 どの口が言ってんだか。

 

 

 

 

 

***

二宮匡貴の場合

 

 

 

 

 

『おはよう、にのみやさん』

 

 

 空間に反響するスピーカーからの声で目を覚ます。

 さほど広くはない、檻に囲まれて薄気味悪い湿度の高い空間が見渡す限りに広がっている。外れていた格子の隙間から檻を出れば、すぐさま壁に設置されていたモニターが光を発した。

『やっほー……なんてね。にのみやさんからしたらそんな楽しい雰囲気じゃないよねえ』

 液晶には笑う空閑が映っており、場違い感の漂うテンションで会話を進めようとしている。

 

『にのみやさんにやってもらいたいのは、誰がオサムを殺したのか、っていう犯人当て』

 

 やっぱりか。

 心の中でそう思いつつ、先程から頭の中に存在していた疑問を画面越しの空閑へと投げ掛けた。

「何故お前らはそこまで三雲の死に拘る?」

『それは分かるでしょ。オサムはおれの大事な大事な相棒だから』

 逆に、どうしてにのみやさんはオサムが嫌いなの? と聞かれ、前に起きた出来事が脳裏に蘇る。

 

 

「数ヶ月前にトリガーが盗まれる事件があっただろう」

 

 

 盗られたのは俺の隊全員のトリガーだった。もちろん、鳩原が残していったトリガーも全部だ。

 作戦室内をくまなく探したが見つからず、その数日後にあのCDが本部内にばら撒かれて内容を聞いた。

 間違いない、トリガーを盗んだのは三雲だ。

 そう判断した俺は次の日、ラウンジに三雲を呼び出して例の件について問いただした。

「盗んでません……」

 控え気味に否定する三雲だったが、身体にくっつけるように持っていたカバンを奪って中を探ろうとすれば焦ったような表情を浮かべた。

「あれ? 三雲くんさ、盗んでないって言ったよね?」隣に居た辻がそう言うと、三雲が持っていたカバンの中からトリガーが四つ出てきた。

「どういうこと?」

「違っ」

 トリガーが机の上に置かれると三雲は顔を真っ青にして否定の言葉を叫ぶ。

「違います!! ぼくじゃない!」

「は……じゃあなんだよこれ!! なんでお前のじゃないトリガーがカバンに入ってんだ!!」

 耐えきれないといった様子で犬飼が負けず劣らずの声量で叫び、辺りの視線が全てこちらに集中しているのが分かった。

「……行くぞ」あまり目立ちたくはない。俺はトリガーを持って静かにラウンジから立ち去った。

 

 

「よりにもよってあの女と同じ事をしでかそうとした三雲を、俺は許す事が出来なかった」

 

 

 相手が民間人と近界民(ネイバー)という違いはあれど、同じ事をしようとしながらあの女を侮辱した三雲を。

 そして重大な規律違反を起こそうとしたにも関わらず、三雲の処分の軽さにも疑問を感じた。

「どうして三雲が嫌いなのか聞いたな。端的に言えば全部だ」

 三雲がトリガーを盗んだ時から、あの馬鹿の影がチラついて仕方ない。全部、全部だ。

 

「全部嫌いだ」

 

 そう断言すれば、空閑はへえ、と興味深そうにニヤリと笑う。

『まあいいや。それよりも重要なのは誰がオサムを殺したか』

 にのみやさんは知ってる? 知ってるなら教えて?

 空閑が赤い眼をこちらに巡らせる。俺は殺してなんかいない。他の奴らの中に三雲を殺した犯人が居るのだろうか。

 頭の中に一人、顔が浮かぶ。

 

「三雲を殺したのは嵐山しかいない」

 

 その男の名前をハッキリと言った。

「俺は昔からあの男が嫌いだった」

『……そうなの?』

 首を傾げる空閑。どうやら何も知らないらしい。

 

 

「良い人ぶった偽善者。自己中心的で、人の為に行動する自分に酔っている、押し付けがましい男だ」

 

 

 自分の嵐山に対する印象を言えば、空閑は面白おかしく笑った。

『ずいぶんストレートに言うんだね』

「事実だからな」

 相変わらず笑っている空閑に不快感を催す。

『うーん……そっか。じゃ、次に行こうか』

 通路を遮っていた鉄格子がゆっくりと開かれていく。くそ、まだあるのか。

「俺はいつここを出られる?」

『いつだろうね? にのみやさんはいつ出られると思う?』

 逆に質問をし返され、口ごもる。そんなの分かる訳がない。

 

 つまりはそういう事なのだろう。俺達の言動次第でいつ出られるかも変わる。

 ため息をつき、渋々といった様子で二宮は通路の先へと歩みを進めた。

 

 

『生きて出られればいいけどね』

 

 

 

 

 

***

影浦雅人の場合

 

 

 

 

 

『おはようございます、影浦先輩』

 

 

 頭が痛い。身体もだるい。

 硬いコンクリートの地面に寝転んでいた影浦は湿気た空気と辺りに漂う嫌な気配を察知し、顔を顰めた。

 天井の近くにつけられたモニターがジジ、と一瞬ノイズを出す。直後、画面に映ったのは、まだあどけなさの残る顔つきをした少女だった。

「おはよう、じゃねえよ」

『あはは』

 モニターから笑いかける雨取を睨むが意に介さないといった様子だ。

『影浦先輩。探偵ごっこは得意ですか?』

「あ?」

 唐突によく分からない質問をされ、思考が少しの間止まってしまう。直後にアクリルの壁の内部が明るい光に照らされた。

 こちら側のコンクリートで出来た空間とは違う白い近未来的な狭い空間が広がるその中央に、友人である北添尋が立っていた。

 

「! ゾエ!!」

「……カゲ? どうして……」

 

 まさか、と首を傾けてモニターを見上げれば、画面には笑顔の消えた雨取が映る。

『北添さんは昔一度、蜂に刺された事があるらしいですね?』

 ええと……なんて可愛げのあるモーションをしながら手元にある書類らしき紙束をペラペラと捲る音を鳴らす。しばらく紙を捲り、数秒後にぱあっと明るい表情を浮かべて。

『つい先程北添さんに蜂毒を注射させて頂きました』

――そんな、恐ろしい言葉を口にした。

「……毒?」

『蜂に刺される事により身体の中に抗体が出来る可能性があります。そして二回目に蜂に刺された際、体内で蜂毒と抗体が反応し、確率でアナフィラキシーショックを起こす』

 先程とは違い冷酷な声音で愛想無く言葉を紡ぎ続けている。

 

 

『そうなったら北添さん、死にますね』

 

 

 笑顔で死刑宣告をする少女に恐怖すら覚えてしまう。寒気がして、戦慄した。

 淡々と注射器を持ったまま説明を続ける雨取。嫌な予感はしつつも彼女の話を聞かない訳にはいかない。

「殺す気かよ……!?」

『いえ、解毒剤はありますよ。でもこれを注射しないと北添さんは数分後に確実に死にます』

 あくまでも低姿勢な彼女は、こちらに見せ付けるように注射器を右手で持つ。

 

『修くんを殺したのは、誰だと思います?』

 

 解毒剤を渡して欲しければ教えてください、と雨取は言う。

 もちろん、さっさと疑わしい人物の名前を言ってしまえば済む話だ。だが、発言するのを拒絶しているかのように自身の口は動いてくれない。

 躊躇っているのだ。友人の命が懸かっているはずなのに、こんな時に限って友人の命よりも自分を優先していた。

『どうして何も言わないんですか?』怒りを含んだ声。『言えば北添さんは助かる。言わなければ死ぬ。ただそれだけ。北添さんの生き死にを左右するのはわたしじゃない――』

 

 

 

『――あなたなんですよ? 影浦先輩』

 

 

 

 真っ直ぐ指をさされ、ぐっと息を飲む。

 生き死にを左右するのは俺。もしこのまま言わなければ俺は大事な友人を殺す事になる。

 そう明確に言われて躊躇っている場合ではなかった。

 

「……んなの一人しか居ないだろ。あの人だよあの人。嵐山さん」

『へえ』

 

 雨取はまさに驚いた、というような表情をしている。そりゃあ驚くだろうな。だってあの人は外面()()ならまさに『人畜無害』とか『平等』とか『世界平和』みたいな言葉が擬人化したみたいな人だもんなあ。

「お前知らないのかよ。あの人が一番三雲にえげつない事してたんだぜ」

 良かれと思って。君の為を思って。

 あの人は三雲に対して笑顔でいつもそう言っていた。三雲が泣き叫んでもふらふらで倒れそうになってても、笑顔で『君の為にして()()()()』と。

 俺も一度その光景を見た事があった。

 

「あ、嵐山さん」

「まさか君が近界民(ネイバー)と繋がっていたとはね」

「違います! あれは嘘なんです!」

「嘘は良くないな。君は迅を殺そうとしていたんだろう?」

「ちが……げほっ、し、死んじゃう……やめてください……」

「? やめる訳ないだろ? 俺は三雲くんの為を思ってやってあげてるんだ」

 

 とにかく限度を知らなかった。

 嫌われ者の三雲を嫌わずにちゃんと接してあげてるー、すごいー、って言われたかったのか。

 どんどんやる事成す事過激になっていった。

 

「しかも本人は無意識でやってるから気付いてねえ」

 

 無自覚だからなおさらタチが悪い。

 だからこそ、行き過ぎた言動で三雲を殺してしまったのではないか。

 

『……なるほど』

「言っただろ。早くこいつに解毒剤を渡せ」

『分かりました。いいですよ』

 

 意外と呆気なく彼女は手元のボタンを押す。すると、天井の一部が開き、その部分から彼女の持っている注射器と同じ形をした物が音を立てて落ちた。

『じゃあ影浦先輩は次に進みましょうか』

「は?」

 左の道を塞いでいた鉄格子がゆっくりと天井に上がっていく。

「おい聞いてねえぞ!」

『言ってないので当たり前ですよ。さあ早く次のステージへ行きましょう?』

 すぐに次へ進ませようとする雨取をモニター越しに見ていると、数ヶ月前の会話をふと思い出し、わずかな疑問が浮かび上がった。

「おいお前」

『……なんですか』

 

 

「お前、前ユズルに三雲が近界民(ネイバー)との関わりを持ってるかもしれない、って相談してたんだってな」

 

 

 先程まで自分が入っていた檻の前の段差に座り、モニターを睨みつけるように見る。

『ええ。確かに相談しました』雨取はすぐにそれを認めた。

「ならなんでその時に上層部に相談しなかったんだよ」

『……うふふ』

「笑ってないで何か言えよ」

『うふふ』

 その後何を聞いても笑うばかりで一言も話さなくなった雨取を無視し、ため息をつきつつ開かれた通路へと渋々進んだ。

 

 

『……今言わなくてもすぐに分かると思いますよ』

 

 

 

 

 

***

荒船哲次の場合

 

 

 

 

 

『おはようございます、荒船先輩』

 

 

 さっきまでの、僅かな寂しさを持った雰囲気は無くなっていた。

 あるのはコンクリートの壁、天井、地面。そして鉄製の棒が縦に並べられた格子。淡い黄色の明かりが灯る薄暗い空間はまるでホラーゲームの舞台だ。

 砂嵐を映していたモニターが暗くなったかと思えば突然ぱっ、と明るくなる。

 そうしてモニターに映ったのは、おかっぱ頭の可愛らしい少女――雨取千佳だった。

「なあ……ここはどこだ?」

『三門市のどこかです、うふふ』

 口角をやんわりと上げただけの全く笑顔とも言えない笑顔を浮かべ、不気味に笑う雨取。

『それよりもいいんですか?』

「……何が」

 

 

『他の方があなたを犯人として疑っているみたいですが』

 

 

 不意に告げられた言葉に心臓が跳ね上がる。

「は!? ふざけんな、俺じゃない!」

 誰だ、誰が俺を犯人だと言ったんだ!!

 腸が煮えくり返るような感覚。俺は殺してなんかいない。むしろ――

 

『では彼が死んだ日に言い争いをしていたというのは?』

「あれは……!」

 

 あの日の昼、息絶えだえの三雲と本部の角でぶつかって。

「お願いします、助けてください」なんて泣きながら言うもんだから、その場で詳しく話を聞いてみただけだ。

「ただそれだけだよ!」

『そうなんですか。ちなみにどんな会話をしたんですか?』

 ……もしかして、知らないのか?

「泣きながらずっと殺される、殺されるって言ってたけど……」

 その言葉を聞いた雨取は少しだけ口角を上げた。

 

『荒船先輩は、誰が修くんを殺したと思ってます?』

 

 正直に答えて下さいね、と笑顔で念を押され嘘をつこうにもつけない状況へと追い込まれる。

 

 

 

「二宮、さん……が、怪しいと思う」

 

 

 

 恐る恐るその名前を呟く。

『理由は?』

「数ヶ月前にあった二宮隊のトリガーが盗まれた事件……」

 その言葉を機に、記憶が呼び起こされていく。

 それが発覚してから数日後、三雲と二宮隊の三人がラウンジで話してたんだ。

 遠くから見てたし最初の方は聞こえなかったけど、突然三雲と犬飼の叫び声がラウンジ中に響いた。

 

「違います!! ぼくじゃない!」

「は……じゃあなんだよこれ!! なんでお前のじゃないトリガーがカバンに入ってんだ!!」

 

 俺は最初犬飼の言っている事が分からず小声で犬飼が言った“お前のじゃないトリガー”を数回呟いた。

 そして思い出した。二宮隊全員のトリガーがこの前何者かに盗まれた事、前の日にばら撒かれていたCD。

 思い出してまさかと脳内で嫌な想像をしていたら二宮さんが机を強く叩きながら立ち上がって、三雲の胸ぐらを勢いよく掴んだ。

 胸ぐらを掴んだ二宮さんの目は殺意が満ちていて、本当に、人目が無ければ今すぐ三雲を殺すんじゃないかと思う程だった。

 

 慌てて作戦室に戻りそのCDの内容を聞けば、三雲が近界民(ネイバー)と関わりを持っていると思われる音声。

 その音声の中には元・二宮隊だった鳩原未来の事についても触れられていて。

 

「それがきっかけなんじゃないかと……」

 

 更に三雲が死んだ日も、彼は誰かを探しているようだった。いや、俺も確か聞かれたはずだ。三雲を見ていないか、と。

 

 自分でも頭が混乱してくる。本当に二宮さんが殺したのか? いや、でもそれ以外考えられない……

 頭の中で思考をぐるぐる巡らせていると、錆びた音を立てて鉄格子が開き始めた。

『さあ、考えるのは後にして、今は早く次に向かってください』

 雨取の顔は、表面上は笑顔だが心の中ではさっさと進めと言われてる気がしてたまらないほどの圧がある。

 

 仕方なく頭の中で張り巡らせていた思考を一旦仕舞って、次の場所へと足を向かわせた。

 

 

『本当に嘘はついてないんですよね?』

 

 

 

 

 




次回予告

 




『第二の試練は、この真っ直ぐ伸びた通路を歩いて進む事です』




残虐な舞台が幕を開ける。


『あんたが、殺したんだよね?』


仕組まれた罠は彼らを捕食するように次々と襲いかかる。


「ああああああああッ! くそっ、くそっ!」


そこにあるのは無慈悲。ただそれだけ。




『じゃあね。生きてたらまた会えるはずだ』


「ふざけんなよ!! こんなのただの拷問だろ!」

「こんな所で死んでたまるか……」

「迅……お前の本当の目的は一体何なんだ!」




「何を訴えたとしても、君達はただの加害者でしかないんだよ」





 
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