出口かと思った鉄格子の先へと進んだ七人。
今まで通って来た通路からの眩しい光が背後から照らされ、気持ち悪いほどに明るい音楽が小さく鳴っている。
『痛い? 痛かった?』スピーカーから聞こえてくる迅の声に反論する者は居ない。『でもね、三雲くんはもっと痛い思いをしたんだよ』
冷や汗がこめかみを伝うのを感じる。周囲からコツコツと自分以外の足音が数人分響き、目だけを動かして周りを見れば自分と同じように背中からオレンジの光を受ける者が六人居た。
「……みんな、居るのか?」嵐山の声が弱々しく反響する。
声の響き方でここがそこそこ広い空間である事は感じられた。
僅かな光を頼りに隣に立つ男を見る。すると片脚を引き摺り、左肩を押さえていた。
他の奴も見てみるが、全員が左右どちらかの足首と全身の至る所に怪我を負っており、無傷の者は居ないようだ。
『最後はこれだよ』
ガサガサと紙を擦るようなノイズの混じるその言葉の直後、視界いっぱいに無数の明滅する赤い光が現れた。
背後のオレンジ色は消え、赤い光が全てを埋め尽くす。なんなのか分からずにきょろきょろ見回していたが、次の瞬間に荒船が驚きの声をあげ、七人はその赤い光の正体を知る。
「……もしかして爆弾か?」
シグナルレッドに照らされている濡れたコンクリートと一つの大きな鉄扉で構成されたその空間が、目の慣れと同時に輪郭を強く見せ始めた。
荒船の声のせいか、他の者にも次々と驚きが伝染していく。
予想は的中。赤い光は壁一面に付けられた手の平サイズの爆弾から灯る光であり、光は七人を監視するようにある一定の感覚で点滅を繰り返していた。
『全ての真実を言う事が出来たら、試練は終わり。でも言えなければ…………ドカーン!! ってね』
愉しげな声がエコーして消える。
七人はもうリアクションすらとれなくなっていた。爆弾に対して驚いているのもあるが憔悴しきった彼らの疲れは、既にピークまで来ていたのだ。
『時間は……そうだね……二分にしよっか。二分もあれば十分でしょ?』
はいスタート、と呆気なく始まったカウントダウンに全員がぽかんとして、数秒後にハッと気付いたように焦り始めた。
誰がやったのか。
お互いがお互いを疑う沈黙の中、時間は刻一刻と過ぎていく。
残り一分五十秒、四十秒、三十秒……
「……おい、誰だよ三雲を殺したのは!! 言え!!」
焦った荒船が大声で叫ぶ。それに対して、二宮が「知る訳が無いだろう。俺は殺してないからな」と突き放すかの如くキッパリと否定の言葉を言い切る。
「とか言ってお前が殺したんだろ」
不意にどこかから聞こえたそれに空気が氷点下まで凍りつく。
「……お前は何を言い出すんだ」二宮が声の主である太刀川を見る。
「あれ、もしかして図星?」
否定の言葉を言い切る前にへらへらとした笑みを浮かべて挑発する太刀川。挑発を真に受け、ぎし、と歯を噛み締めるような音が聞こえた。
二宮は太刀川を鋭く睨み付け、今にも殴り合いの喧嘩を起こしそうな雰囲気となる。
「お前……調子に乗るのも大概にしろよ」
ぐ、と下ろしていた右手を強く握り、半歩前に進んだ二宮は、太刀川の胸ぐらを掴もうとして何かに阻まれた。
「お前らいい加減にしろ」二宮と太刀川の間に遮るようにして風間が立つ。苛立ちを抑えきれないのか、二宮は退け、と風間に対して強い口調で言い放つ。
喧嘩をふっかけた
そんなお互いに譲らず喧嘩をしようとしている愚かな二人に対して、風間は、殺意を込めた手の平で二人の頬を同時に思い切り叩いた。
バチッ、と耳を
ぎょっとした表情でこちらを見る二人に対し、風間は自分の出せる最大の声量で叫んだ。
「喧嘩するくらいなら早く言え! 死にたいのか!」
ビリビリと空気が震える。
全員が風間に注目し、当事者である太刀川と二宮はお互いに睨み合い、舌打ちをして離れていく。
いきなりの叫び声と平手打ちに嵐山、影浦、荒船の三人が呆気に取られていると、それまで黙りこくっていた三輪が突然、怯えた表情を浮かべて身体を震わせ始めた。
何事かと荒船は三輪に近付こうとしたが、それは突然の発言によって出来なくなる。
「俺が殺した」
唐突に聞こえたその言葉に誰もが唖然とし、そして「「「は?」」」と、意味が分からないなんて言いたげな間抜けな声を出した。
「俺が殺したんだ」そうずっと言い続ける三輪の顔は真っ青で、この場で倒れてしまうのではないかと全員が心配になる程だった。
「おい、どういう……」
「殺した……殺した……」
あまりにも突拍子のない告白に、詳しく聞こうとしても三輪は青い顔のままそう呟くのみだ。
「くそっ、ふざけんな」
吐き捨てるように呟いてふと隣を見た影浦は、風間が訝しげな表情を浮かべているのに気が付いた。
「三雲は俺の目の前で死んだ。それなのに三輪は自分が殺したと言っている」
明らかになった矛盾に頭を抱え、訳が分からないという様子で唸る風間。
「は? 何言って……」
『ほらほら、あと少ししかないよ?』
今の言葉について影浦は本人に問い掛けようとしたが、迅のアナウンスにより遮られてしまう。
敢えて答えさせないように遮ったとしか思えないタイミング。――タイムリミットはすぐそこまでやって来ていた。
『じゅう、きゅう、はち、なな……』カウントダウンは止まらない。『ろく、ご、よん、さん……にい……いち……』
もうここまで来ると抗おうとする気力さえ残されていなかった。誰もが何も言わず、誰もが諦めの境地に達していた。
もう、自分達は死ぬ。だからか、同じく黙ったまま未だに考え込んでいる風間の事など誰も目に入っていなかった。
ゼロ♪
カチリと天使の皮をかぶった悪魔は手元にあったスイッチを躊躇わずに押した。……の、だが。
「……あ?」
「あれ……爆発しない……?」
耳を貫くような爆発の重低音も無ければ、熱い訳でもなく痛い訳でもない。
赤い光は点滅を止め、全員が死を覚悟していた筈の中、くつくつと笑う迅の声が流れる。
『これは“おふざけ”。爆死なんてそんな一瞬で死ねる方法で死なせる訳がないでしょ』今も尚、煽るような口調をやめる事は無い。『ほら、あの扉から出て来なよ。そしたら
死ぬと思っていた七人は胸を撫で下ろすと同時に、どこか気まずい空気のようなものが流れるのを肌で感じる。
気まずい――というよりも、緊張感と表した方が正しいだろうか。
開いて外に出られるようになった鉄扉の向こう側に歩けば、真実が分かる。
三雲を殺した真犯人が明かされる、と。
そう思いつつ開いた鉄扉の向こう側に更にある階段を上り、ボイラー室に出る。もちろん、全員が片足を使えなくしているので時間をかけてだが。
ボイラー室は常にゴウンゴウンと機械の動く低い音が鳴っており、気味が悪い。
非常口を示すマークがボイラー室の扉の上にある。間違いなくそこが出口であると確信した彼らは、安堵の感情を胸中で浮かばせつつ最後の扉を開ける。
するとそこは――とある工業地帯の駐車場だった。
「おめでとう! これで試練は終わり。これで君達は帰れる」
雨の降る明け方、雨粒と吹きすさぶ肌寒い空気が七人の頬にまとわりついてくる。
夜の青が僅かに混ざる灰色の雲が覆った朝方の薄明るい空の中、迅は傘をさしたまま笑っている。後ろの二人はやはりずっと真顔のままだ。
「……爆発させるんじゃなかったのか」
風間がそう言うと、迅はあははは、と口を大きく開けて爆笑する。
「やだなあ。爆弾は爆発しないよ。偽物だからねー」
「「「……は?」」」
淡々とした衝撃告白に目を見開く。あの爆弾は本物ではなかったらしい。
いや、よく良く考えれば当然だ。
あれだけ大量の爆弾をどこで手に入れるのか。それを冷静に考えていればよかったのだ。
「もちろん殺す気なんてものも無い。ただ……
笑顔が意味深なものになり、雰囲気の変わった迅に息を呑む。
「だ、誰に」
「そりゃあもちろん……」
迅の視線が七人の背後に向かう。
「ぼくですよ」
遠くから聞こえてきたのは、ここに居ないはずの……いや、
そんなはずは無いと思いつつも七人は恐る恐る後ろを振り返る。
「……おい」
その存在に、全員が目を剥いた。
声のする方に立っていたのは、傘をさしてこちらに怒りや憎しみの眼差しを向けつつ、こちらを見詰める少年。
「どうして……」
どうしてここに居るんだ、三雲……!!