ウマ娘の頭悪いサイド   作:パクパクですわ!

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行きますわよ!!

 

 

「トレーナー。ご飯、流石に鶏肉ばっかりで飽きました」

 

 ……。

 

 ついにこの時が来たらしいな。

 

「……別にあたし、責めてるわけじゃないですよ。トレーナーが色々工夫してるの、食べてたら分かります。どれも美味しいですし」

 

 みなまで言うな、予想してたよ。もうずっと鶏肉しか食ってないもんな。

 

 オメーのメシの余りもんがおれのメシになるんだ。おれが言うのもなんだが、気持ちはわかるぜ……。

 

 ちと言い訳を聞くがいい。

 

「はい」

 

 予算がついたおかげで、おれは遠慮なく食材を買い込めると思っていた。だが実際は既にオーバーしている。赤字だ。なんでか分かるか?

 

「……まあ、だいたい予想はつきますけどね」

 

 だろうな。

 

 クソガキどもが容赦なくたかってくるせいだ。最近じゃ練習終わりに来る連中もいる。夜の部は昼休みっつー時間制限がないからな……。最近じゃ強制的に20時で締めてるが、整理券を配布してくれとか訳のわからんことを言い出すヤツさえいる始末だ。そんで22時くらいに仕事で疲れた大明神がやってくるだろ。

 

「たづなさん、お仕事大変なんですね……」

 

 あの人が実質的な理事長だからな。霞ヶ関でいう事務次官みたいな感じなんだよ。ちびっ子理事長はすぐ畑とか作ろうとするからな、苦労が偲ばれるよ。

 

 ともかくおれは、仕事で疲れた大明神におつまみとお酌をしてやりながら相談しててな。しかし年初めでもないのに予算を当てるのは結構微妙なとこらしくてさ。それは予算ではありませんとか言われた。頭抱えてたよあの人。ちょっと申し訳なくなったもん。そうなりゃおれだって強くは出れない。だからまあ、部費でなんとか補ってる。

 

 鶏肉ばっかりなのもそのせいだ。ちょっとでも安く済ませようと思ったらレパートリーが増やせん。たまには魚とかも出したいんだけどさ、最近マジで高いんだわ。ウマ娘基準の量を用意しようと思ったら部費は一瞬でパンクするだろう。おまえ1人の食費ならまだしも……。

 

「……うーん、なんかちょっと責任感感じるかも」

 

 はぁ。元はといえば、おまえがくだらんことを言い出したのが発端なんだからな。普通に責任はあるだろ。

 

「トレーナーさんがわけ分かんないこと言い出したせいですよ、確実に」

 

 賭けに乗ったのはオメーだろ。

 

「こんなことになるなんて思わないでしょ! バカなんですか!?」

 

 こっちのセリフですゥー! こんなことになるなんて思わんだろうがッ! ああクソッ、テイオーだ! 何もかもあいつのせいだ! あのガキ、何食わぬ顔でメシ食いにくるんだぞ!?

 

「てッ……テイオーさんは悪くありません! 万が一、アルファード食堂の噂を流したのがテイオーさんだとしても、きっと何か深い考えがあったに決まってます!」

 

 なんか知らんがクソガキ5号はテイオーのことを妙に慕っている。レースに感銘を受けたらしい。あんなクソガキのことを尊敬しているなど、現実が見えてないか、イカれているかのどちらかだ。

 

 ……賭けるか? 

 

「うっ……」

 

 賭けられンのかッて。

 

「うぅ……ッ」

 

 キタサンは怯んだ。口でどう言おうと、テイオーの悪行は認識しているらしい。

 

 ガラガラ。扉が開いた。

 

「やっほートレーナー! 遊びに来てやったよー!」

 

 悪の元凶がやってきた。

 

 おい座れ。おまえとは一度、じっくり話をする必要がある。

 

「えー。なんで?」

 

 こいつほんま、こいつほんまに。

 

「……テイオーさんですよね、ウチの……その、噂を流したのって」

 

「エ? ……あー、あれねー。いやー、失敗したなぁー。あのさ、いろんな人に自慢して回ったんだんだよね。いつでもタダで美味しいご飯が食べられるんだから当然でしょ? そしたらなんか行列出来てるしさ! めっちゃ並んでるせいで全然食べらんないじゃん!」

 

 こいつほんま。こいつほんまに。

 

 おい見ろキタサン。悪がクソガキの形をして喋ってやがる。

 

「テイオーさん……嘘ですよね……?」

 

「イタズラで暖簾掛けといたのがよくなかったよねー。あれのせいで余計に行列が増えた感あるよ。でも今更外せないでしょ? 明日の分の整理券まで配り切っちゃったんだもん」

 

 は? マジで整理券配ってんの? おれ知らないんだけど。誰だ? 誰が配ってんだ?

 

「ボクだけど」

 

 おめぇぶっ殺すぞ。

 

「いやいやいや。せめてもの罪滅ぼししてんじゃん。せめて計画的な営業ができるようにって」

 

 おめぇぶっ殺すぞ。

 

「テイオーさん……。嘘って言ってください……」

 

 何が営業だよ。これとトレーナー業両立させてんの奇跡だからな。おれが全く家に帰れてないの誰のせいだと思う? なあ、これ誰のせいだと思う?

 

「……ごめんって。悪いとは思ってるよ。でも普通断るでしょ、いきなり来てご飯くださいとか言われてもさ。ホイホイご飯作っちゃうトレーナーも悪いでしょ、それは」

 

「……それは、そうです……。ホントに……うちのトレーナーは、バカなんです……」

 

 くそッ! 何もかもこのクソガキのせいだ、何もかも……。

 

 おれはもう引き返せないとこまで来ちまった。なぁ終わるよな、年が明けたら終わるよな? 終わってもいいんだよな?

 

「いや、トレーナーが決めないなら誰がそれ決めるの……」

 

 最悪の形でパズルが完成しちまった。くそォ!

 

 ……ガキどもな。最近はおれに差し入れとか持ってくるんだよ。食器とかも自分で洗ってる。どころか調理を手伝ってくる始末だ。もうめちゃくちゃだよ。おれの情緒もめちゃくちゃなんだ。

 

 助けてくれ、テイオー……。

 

「重いよ。重いって。ボクも困るよ、こんなので責任背負わされるボクの身にもなってよ」

 

「うぅ……。テイオーさん、あたしからもお願いします。うちのバカなトレーナーを助けてあげてください……。あたしには、なんにも出来ないんです……。なんにも……ッ」

 

「重いってッ! なんなの!」

 

 もうめちゃくちゃだ。もうめちゃくちゃなんだよ。おれは2ヶ月くらい家に帰ってない。家に帰って暖かい布団で眠りたい……。

 

 ……休みが欲しい。休暇を取って北海道に行きたい……。ぐずっ……。

 

「わ、分かった。分かったから、分かったから……。な、泣かないでよトレーナー、大丈夫、全部大丈夫だから……。大丈夫だから、きっと上手くいくから……」

 

 おれはテイオーの胸で泣いた。

 

「わ、私……責任感じてるんです。トレーナーの生活を直そうとしたのに、余計に悪化して……これ、私のせいですよね。わ……私のせいですよね、これ……だってトレーナーは私のために、こんな……こんな……!」

 

「やめてってばッ! ボクに懺悔されても困るって! うっ、なんか責任感じてきた……。あれ、ボクが悪いのかなぁ、これって天罰なのかなぁ。なんでこんなことに……」

 

 無理に引っ張ったせいで変に結んでしまった糸みたいだった。解こうとしても、どこに糸口があるのか分からない……分からないんだ……。

 

「重いよトレーナー。もう正直に言おう? 引っ込みつかなくなっちゃったんだって。もうこれ以上は無理なんだって、言おう? 許してくれるよ、みんな」

 

 認める……認めるよ……。こんなに長期化すると思ってなかったんだ。大明神に怒られればそれで終わっていた頃が懐かしいよ……。

 

 誰かおれを叱ってくれ。止めてくれ……。もう気分はオルガだ。止まれないんだ。ミカに追い立てられたオルガもこんな気持ちだったのか。一期のラストらへんね。

 

「分かったって、分かったよ。……まぁ、そうだね、不定期でやる方式に徐々に切り替えてこう? それで徐々にフェードアウトしてく感じにしよう? そしたらボクも気軽に来れるしさ……」

 

 ちゃっかりしたクソガキだ、オメーは来るのかよ。

 

「言ったでしょ、トレーナーのご飯好きなんだって。別にお金払えって言うなら払うよ? でも本気で請求してこないじゃん。トレーナーは甘いんだよ、結局」

 

 本気で払う気ないだろおまえ。

 

「……まあ、なんかなあなあでいけるかなーって。そもそもボク、サイフ持ち歩いてないし。PayPayとか導入してくれたら楽なんだけど」

 

 本格的に営業してんじゃねーか。本末転倒すぎるだろ。

 

「トレーナーさん、あたしなんだか気まずくなってきました。あたしのご飯代、部費から出てるんですよね……」

 

 やめろ、そこちょっと微妙なラインなんだからあんま突っ込むな。

 

 自腹切んのは結構しんどいが、おまえに払わせるわけにもいかんだろ。ま、あれだ。GⅠ勝ったら賞金で払ってもらおうかな……。

 

「まあ、トレーナーさんがそれでいいなら、あたしは大丈夫ですけど……」

 

「あー、そういえばGⅠチャレンジしてるんだったよね。トレーニングするんならボクもやろうか? GⅠは結構レベル違うしさ」

 

 ああ、そうね。メシ代くらいは働いてもらうか。

 

 はぁ。泣いたらちょっとスッキリした。ここんとこおれも結構疲れてたらしいな。定期的に心の壊れたクソガキが来るせいだ、全く。

 

「トレーナーってさ、人間関係ちょっとヤバいよね」

 

 それな。ほんとそれな。おれをお兄ちゃんだのお兄さまだの言う連中にろくなやつがいない。あとおれをトレーナーって呼ぶ連中もろくな奴がいない。

 

「えいッ」

 

 キタサンに頭をぽかっと叩かれた。ほらな。こいつも最近じゃ物理的な攻撃に躊躇いがない。他人の痛みが想像できねーんだよ。

 

「聞いてくださいよテイオーさん。この人ほんッッッとに素直じゃないですよ。素直にお礼も言わせてくれない! 絶対なんか余計な一言あるじゃないですか。もちろん素直にお礼も言わない! というか借りを作るのをめっちゃ嫌がるんですよ!」

 

「それねー。トレーナーも大概心が壊れてるんだよ。もっと優しい目で見なくちゃダメだよ? 身長ぐらい心が小さいんだから。てゆーかキタサンの方が身長高いんじゃない?」

 

 うそだろ……?

 

 この散々な言われようより、このクソガキに身長を越されているかもしれない事実よ。おいクソガキ、ちょっと立ッてみ。

 

「……トレーナーさんって、身長いくつですか?」

 

 160cmだけど。正確には159.8。

 

「あー……。背を比べるのは、やめた方がいいかもです」

 

 ……。

 

 うん。そうだね。やめよう、不毛だ。

 

「うそでしょ? 気ぃ遣われてるよトレーナー。遠慮されてるよ。優しさが痛い時もあるんだね」

 

 うるせーぞ! 人が気にしてることを……! あのな! 世の中には背ぇ高いやつもいれば背ぇ低いやつもいるんだよ! それが多様性だろうが!!

 

「ちょっと違うんじゃない?」

 

「ちょっと違うと思いますけど」

 

 やめろ! 丁寧なツッコミを入れるな! 現実が見えちゃうでしょうが!

 

 くそったれ、もう一回成長期来ないんかおれ。大人になるって嫌なことばっかりだ……。

 

「まあいいんじゃない? トレーナーホントに成人に見えないし」

 

「えッ、成人してたんですか……?」

 

 おいおいおいおいおい。おいおいおいおいおいおい。おいおいおいおいおいおい。

 

 おーいおいおいおいおい……。ぐずっ……。

 

「キタサン! トレーナーが泣いちゃったじゃん! どーすんのこれ!」

 

「あっ、えっ……っと、あ……たしはその、別に気にしないっていうか。むしろ……そう! いいと思います! 同級生みたいで!」

 

 おーいおいおいおいおいおい……。おーいおいおいおい……。

 

 おれはおいおいと泣いた。

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