ウマ娘の頭悪いサイド   作:パクパクですわ!

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もぐもぐですわ!

おれのチームはアルファードという名前がある。

 

アルファードという星は、うみへび座の一点を構成する恒星(激ウマギャグ)だ。発音によってはアルファルド(Alphard)となるし、事実wikipediaにはアルファルドと書いてあるのだが、まあ大した違いはあるまい。

 

なんでも星言葉というやつがあるらしいのだ。今ググったのだが、例えばスピカだったら「抜群のセンスと直感力」。リギルなら「聞く耳をもつ包容力」。

 

そしてわがアルファードの星言葉は「孤独なもの」。

 

おれがこのチーム名を決めたのは、ズバリこの言葉のカッコよさである。孤独なもの……カッコいいではないか。おれは天才ゆえに孤独なのだ……。

 

「え? お菓子のアルファードからじゃないの?」

 

それはアルフォートだ! うっかり"ファ"と"フォ"を間違えるな、甘くなっちゃうだろうが!

 

「ふーん。でもいつも部室にはアルフォート置いてあるよね。だからてっきり、アルフォートが好き過ぎてもじったのかと思ったよ」

 

否定はしない。おれは正直、アルフォートはミルクチョコレート味だけでいいんじゃないかと思う。

 

「何言ってんの、二種類入ってるからいいんじゃん。トレーナーってば、お菓子ばっかり食べてると太っちゃうよ?」

 

おっ、自己紹介か?

 

「ねえ、まだそのこと擦るの? ボクが太ってるように見えるの?」

 

ふむ。骨折直後は酷かったな。

 

「いや、そんなでもなかったでしょ」

 

いいか。おれは自暴自棄になり、栄養バランスが偏るのも気にせずに好きなものばかりを食べるその精神をデブだと表現したのだ。そしてこの調整段階において、おまえは二週間で一キロ太った。

 

「……もう戻ったよ」

 

おまえ、あれからもコンビニに入り浸っていたそうじゃないか。コンビニスイーツを制覇すると意気込んでいたと、おれのところに報告があったのだ。

 

「え、うそぉ! 誰から聞いたの!?」

 

ああ、嘘だ。だが間抜けは見つかったようだな……。

 

「ハッ! し、しまった! トレーナー、鎌掛けたんだ! ずるい!」

 

はっはっは。大人はずるいのだ。

 

「……ボクと3歳しか変わらない癖に」

 

でもおれ二十歳だから大人なのだ。大人はコーヒーをブラックで飲めるんだよ。ほれほれ。

 

「その判断基準は明らかに大人じゃないでしょ。それにボクもコーヒーくらいブラックで飲めるもんね〜だ!」

 

クソガキはさっと手を伸ばしておれの飲みかけをさらって飲んだ。

 

「うえ、にが……く、ない。甘い……トレーナー! これゲロ甘じゃん! ブラックじゃないじゃん! 見栄張ってる!」

 

コーヒーというのはミルクを混ぜた瞬間にブラックでは無くなるのだ。つまり、その逆もありえる。

 

「砂糖いっぱい入れたってことじゃん!」

 

うむ、まあそういうことになるな。

 

「うえー。大人って汚いねー……」

 

そう、汚い。大人になるに従って、だんだん汚れていくものだよ。

 

「で、トレーナーは何やってるの?」

 

ふむ。今は昼休みだ。

 

「そうだね。トレーナーの生態がどうなってるか気になって来てみたんだけど、何これ。トレーナー英語出来るの?」

 

おれは天才だからな。英語なんてペラペラなのだ。

 

実際のところ、モニター前のスペースに散らばった無数の英語の論文とか、積み上がった何ヶ国語かの本の山は一見してとても頭が良さそうである。そして右手にコーヒーで完璧だ。頭がよさそうである。

 

「……ホントに? カッコつけてるだけじゃないの?」

 

いきなり来たと思ったら失礼なクソガキだ。今一度、トレーナーというものの偉大さを教えてくれるわ。

 

「でもトレーナーってば、ほんとに遊んでるだけじゃん。また反省文書かされたんでしょ?」

 

今年に入ってもう8回目だ。おれ、トレセンに来るまで反省文なんて書いたことなかったんだからな。めちゃくちゃ怒られたんだ。特に芝のところに穴を開けたのがダメだったみたいでな。

 

「え、でも翌日には元通りになってたよね?」

 

そうだよ、おれが徹夜で張り替えたんだ。あの部分だけ……。

 

「ええ? トレーナーってばそんなこと出来るの!?」

 

おれはトレーナーだぞ。ネットで調べながら頑張ったんだ。おれの自費で元通りにして、それプラス反省文5枚と説教一時間でようやく許してもらえたんだ。もうしません、許してくださいって……。

 

「……すごいね、トレーナー」

 

おい。別の意味のすごい、だろう。全然分かってないからな。

 

「いやいやすごいって。だってスカーレットにもライスにも怒ってないじゃん。トレーナーってすぐ怒るけど、一日経ったら完全に忘れてるもんね」

 

おれの長所だな。器がでかいのだ。

 

「鳥頭だね!」

 

ぶっ殺すぞクソガキが! 誰が鳥頭だ! おれはアメリカの大学を主席で卒業した超天才だぞ! 最年少トレーナーなんだぞ!

 

「まったまた〜。……え? 最年少なの?」

 

そうだが。

 

「……まあ確かに、ぶっちゃけボクとあんまり変わらないなーとは思ってたけどさ」

 

3歳も年上だっつってんだろうが!

 

「何にも知らない人に聞いてみたらいいじゃん。トレーナーってば背が低いし童顔だから、ボクの方が年上に見えるんじゃない?」

 

……。おれ、やっぱりそう見えてるのかなぁー。

 

「あ、傷ついちゃった?」

 

おれ、セノビックとセノビーとミロ混ぜて飲んでたんだよ。理想の配合とか考えてたし。

 

「な、なんかごめん……」

 

うむ。実際のところ、カルシウムだけを取ったところで大して意味はないのだ。よく食べてよく寝る、これに勝るものは特にない。それで伸びなきゃそういう運命なのだ。

 

──と、凡人なら諦めるところだが、おれは違う。おれは天才なので、自分の身長程度は自由に操るのだ。そしてその秘策は大体固まってきている。

 

「え? ホントに? 身長を伸ばせる方法ならボクも知りたい!」

 

いいだろう、伝授してくれるわ。

 

身長が伸びるということは、骨が伸びるということだ。そして骨が伸びる時期は限られている。つまり普通は成長期に限られるというわけだ。

 

おれが目をつけたのは成長ホルモンだ。骨が伸びる時期にはこいつがたくさん出る。つまりなんとかして成長ホルモンを出せばいいのだな。

 

「おお、それっぽいねー」

 

ではどうやってホルモンを出すのか……。それはズバリ。

 

「ごくり……」

 

よく寝て、よく食べて、よく運動することだな!

 

「……」

 

……。

 

「……普通じゃない?」

 

うむ。ちゃんと実行すれば、伸びる。来世の成長期でなら、必ず。

 

「ダメじゃん! 来世とか言ってる時点でダメじゃん!」

 

ダメなんだよ! くそーッ! そんなもんで背が伸びるかよーッ!

 

おれは夜更かしぎみの子供だったのだ……。ちゃんと夜には寝なきゃダメだったんだ……。ダメだったのに……。

 

というわけで、夜更かしには気をつけねばならんのだ。分かったな。絶対夜更かし気味とかなるなよ。絶対だからな。

 

「はーい! ……あれ? なんか忘れているような……」

 

ははは。鳥頭はどっちかな。

 

「こんのー! もう一回埋めてやる!」

 

麻袋を持たぬウマ娘など恐るに足らず! 貴様におれは捕まえられんわ!

 

「ボクに扱えないとでも……!?」

 

ハッ!? そ──それは、麻袋ッ! バカな、なぜおまえが──!

 

「免許皆伝だよ! ついでに麻縄も追加してやるーっ! 二度とボクに向かって舐めた口利けないようにしてやるからねー!」

 

ぎゃああああああ!

 

コースの上ならばともかく、ここは狭い部室内だ。ウマ娘としての身体能力は高かろうが、この場所ではおれの方が上!

 

逃げるんだよぉ──!

 

「くそっ、チビだからすばしっこい!」

 

チビにチビって言われたくねーよ!

 

ドアが目の前だ。テイオーよりも、おれがドアノブを開く方が早い。勝ったながはは、おれは扉の光の先へ突っ走って──その先にいたスカーレットに衝突した。あれ。え? なんでスカーレットいるの?

 

「え? ちょっ、きゃあっ!?」

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

結局埋められた。うまぴょい(物理)である。

 

だが今度はおれ一人ではない。

 

「……なんでボクまで」

 

テイオーも有無を言わさず埋められていた。地面から二人分の生首が生えているわけで、相当にシュールである。

 

同罪らしい。納得がいかん、テイオーだけウマぽいされればよかったのに。

 

「もう散々だよぉ。ちょっと遊びに来ただけで、どうしてボクまで埋められなきゃいけないのさー……。制服が土まみれになっちゃうじゃん、洗うの大変なんだから」

 

おれはスーツだぞ。高い金出して買った一張羅なんだぞ。

 

「いーじゃん、どうせテキトーに着崩してるんだし、大して似合ってないんだし。どーせいいスーツが欲しかったんじゃなくて、高いスーツならなんでも良かったんでしょ?」

 

おまえ、そんなことばっかり言ってたらおれが傷つくぞ。事実を言うことで傷つく心もあるんだぞ。おれはもうボロクソに言われて泣きそうだよ。

 

「はいはい分かったって。じゃあ今度、ボクがスーツを選んであげるよ。絶対前よりマシにしてあげるからさー」

 

マシって何だ。そこはカッコよくしてやる、だろ。

 

「いーじゃん別に。っていうか、トレーナーの仕事はボクをカッコよく育てることなんだけどね」

 

今でも十分カッコいいよ、おまえは。

 

「え? そう? ……にへへー」

 

ちょろ。ちょろQですわ。もうひもQですわー。

 

「……ねえ。あたしが居るってことを忘れて、ずいぶん仲が良さそうじゃない?」

 

おう。実は真後ろに立たれると、首が回らなくて顔が見えん。ついでに視線の高さも合わせてくれ。

 

「反省してないのね。次はコンクリに埋めるわよ」

 

まったまた〜。そんなことしたら死んじゃうだろ〜? ヤクザじゃないんだしさ〜。

 

「持ち運びも楽になるし、あたしは結構本気で考えてるけどね。普段は部室に飾っておけばいいし」

 

「それいいね! ボクたちだったら持ち運びもできるし!」

 

昼下がりのがらんとしたコースを前に、スカーレットはパイプ椅子を持ってきてどかっと不機嫌そうに座った。

 

「あんたたち、なんで埋められてるか、分かってる?」

 

ぶつかったのは悪かったよ。だがおれも痛かった。そしておまえも痛かった。引き分けってことにしようぜ。

 

「……。トレーナーバッチ、千切られたいのかしら」

 

「ねえスカーレット、その位置だと多分、トレーナーからパンツ見えてるよ。足閉じた方がいいんじゃない?」

 

こいつ言いやがった。

 

スカーレットが青筋を立てている。耳もぴくぴくしている……。

 

>白色か……。

>見てないよ。

 

おもむろに浮かんできた二択。まさか、これは脳内選択肢……!

 

>白色か……。

 

「あんた殺してやるッ! 今、この場所でッ!」

 

やべえ押し間違えた! 選択肢で押し間違えること、あると思います。あるわけねえだろバカか。

 

ちょ、ちょっと待て! おれがおまえなんぞに発情するか! パンツなんて単なる布だ! 落ち着け!

 

顔色を名前の通り緋色(スカーレット)に染め上げて、パイプ椅子を振り下ろさんばかりのスカーレットに叫んだ。

 

「それはそれでムカつくッ!」

 

落ち着け、死ぬぞ!? まじでスイカ割りみたいな感じで死ぬぞ! 絶対夢に出てやる、一生付き纏う悪夢になってやるからな! おれを殺したら末代まで呪ってやる!

 

「そんなの知ったもんですか、このクズ野郎──っ!」

 

顔の真横をパイプ椅子が掠めていった。正直股間がキュッと小さくなるくらいには怖かった。真夜中にクマと遭遇したときだってこんな恐怖感はなかった。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ! だめよスカーレット、こんなのでも殺したらダメ、殺したらダメよ、私はダイワスカーレットなんだからッ、落ち着くのよ……ッ!」

 

必死に自分に言い聞かせてるようだ。その段階まで興奮している。まるで親の仇のように睨みつけていた。殺気が漏れていて相当怖い。

 

地面に打ちつけたパイプ椅子がちょっと変形していて、地面にめり込んでいた。こんなので叩かれたらスイカ割りじゃ済まない。スイカ砕きだ。もう砕くことが目的になってる。

 

スカーレットは殺意の波動を制御することで手一杯だ。黒い波動が漏れ出している。

 

おれもここまできてふざけている余裕はない。選択肢一つ間違えただけで死ぬとかfateかよ。バッドエンドだけで40個ぐらいあるとか命の価値どうなってんだ。

 

>ごめん。お詫びに、今度二人でデートに行こう。

>もう少し派手なやつの方が好みだな。

 

終わったわ。さっきからおれの脳内選択肢どうなってんの?

 

どっちだ……?

 

少しクールダウンをしたらしいスカーレットが顔を赤くしたままスカートを抑えておれを睨んでいる。ちょっとは殺気が収まってきた。

 

>もう少し派手なやつの方が好みだな。

 

「────やっぱり殺そう。ここで」

 

違う違う違う違う間違えた間違えた間違えた間違えた!

 

どうなってんだ! さっきから押し間違いしかしてないが!? おれの脳内タッチセンサーガバガバじゃねえか!

 

「へー、もっと派手なのが好みなんだ……。もっと、派手なの……うええええ!? ちょ、トレーナー! 何考えてんのさ!」

 

テイオーが勝手に顔を赤くしている。勝手にやってろ。

 

なりふり構ってられない。もうスカーレットはパイプ椅子を振り上げているのだ。

 

スカーレット!

 

「何。遺言なら、聞いてあげるわ」

 

──言葉を間違えてはならない。

 

何だ。何を言う。何を言わなければならない。考えろ、このIQ300の、灰色の脳細胞(当社比)で──。

 

おれは、夕食にカレーが食いたいッ!

 

「……? あんた、何言ってんの……?」

 

──選ばれたのは綾鷹でした。

 

おれの狙い通り、突然こんなことを言われたらわけが分からないだろう。おれだって分からん。だがそれこそがおれの狙い。必ず生まれる、意識の空白──それが、スカーレットを冷静にさせるはずだ。

 

「……もしかして、作って欲しいの?」

 

いや、別に。そう言いたくなる気持ちをグッと堪えた。

 

「あたしの作ったカレーが食べたい……ってこと!?」

 

……そうだ。

 

「あ、あたしの作るご飯が食べたいってこと!?」

 

ああ。

 

「朝も夜も、お味噌汁からおかずまで……ってこと!? そういう、こと……!?」

 

うん?

 

「何よもう! しょうがないわね、そうならそうって最初から言いなさいよ、勘違いしちゃったじゃない!」

 

ふむ。何言ってんだこいつ。

 

「え、ええ? なんで?」

 

心の声をテイオーが代弁してくれた。

 

「だってそういうことじゃないの? 命が懸かってる状況なんだから、あたしに許されようとするのが普通じゃない。そこでカレーが食べたいって、つまりあたしに作って欲しいってことよね」

 

なんでそんな深読みするんだ? こいつ、もしかしてアホなのか。そんなカイジばりの深読みするか普通? ライアーゲームかよ。

 

「だって、あたしの得意料理がカレーって知ってて言ってるのよね」

 

「え? そうなの、トレーナー?」

 

こいつの得意料理なんておれが知っているわけがない。おれは堂々と、正直に答えた。

 

うむ。そうだ。

 

おれは涼しい顔をして頷くほかなかった。

 

「全くお騒がせなんだから。ほら、昼休み終わっちゃうわよ」

 

「えー!? ウソ、もうそんな時間!?」

 

とか言いながらテイオーはぬるっと地面から両手を出して穴から脱出した。は? おまえ自力で出れるの? おれは出れないんだが? ウマ娘との根本的なスペックの差が存在してるが?

 

「仕方ないわね。でも今日はトレーニングがあるから、週末にでも作ってあげる。ちゃんと予定空けときなさいよね」

 

「じゃあねー! トレーナー! スーツ見にいく約束、今週の日曜日でいいよね!」

 

よくないが。おれ、日曜ぐらいゆっくりしたい。クソガキの相手とか絶対いやでござる。

 

「来なかったらまた埋めるからねー!」

 

おっけい、きっちり空けとくぜベイビーどもよ。

 

とか言いつつ、校舎へ戻っていく二人を見送った──いや、見送らざるを得なかったのである。下手な言葉をかけたらまためんどくさいことになるのだ。

 

二人の影が見えなくなって、やっと一息ついて気がついた。

 

あ、ちょ……脱出! 出られないが! 出られないんだが! だ、誰か助けてー!

 

 




・トレーナー
IQ5。

・トウカイテイオー
IQ13

・ダイワスカーレット
IQ11

本日の合計IQ:29

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