ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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行きますわ!!!

 よーし。んじゃ今日のトレーニング終わりだ。

 

「……ふうっ! トレーナー! どうでした?」

 

 いや知らん。おれレースとかよく分からんし。まあ良かったんじゃね?

 

「ほんっとにこの人……。はぁ、飲み物ください飲み物」

 

 ほい。

 

 そういや、おめーら有馬出ろよ。おれは練習終わりの先輩方3人に言った。

 

「えぇ。どうしたんですか急に。トレーナーさんらしくもないですな〜」

 

 テイオーだテイオー、あのクソガキがまたぞろ妙なことを言い出したんだ。有馬で勝負しよ〜とか言うだろ。そっから先は売り言葉に買い言葉だ。

 

「……いや、何してんのアンタ。まるで反省してない……」

 

 言うな。もう自分の性格が恨めしい。

 

「それで、どういうことかしら?」

 

 賭けだよ賭け。おれが、というかアルファードの誰かが勝ったらあいつに頭を下げさせる。

 

「テイオーさんが勝ったら?」

 

 あいつがアルファードに移籍する。

 

「うそでしょ……」

 

 ほんとだよ。あいつは本当におれが嫌がることを考える天才だ。これ以上クソガキの面倒を見るのはゴメンだ。そうなった未来など想像したくもない。

 

 というわけで、悪いんですけども……。

 

「え〜……。いやまあ、アタシは別に構いませんよ? テイオーにリベンジしたいし。タイシンもじゃない?」

 

「……コイツの言うことに従うのは気に食わないけど、いい機会なのは否定しない。でもタダでやれっての?」

 

「──そうね」

 

 アヤベさんがシャフ度で言った。すごいなその角度。

 

「あなたの頼みで出る以上、対価があって然るべきね。それで、何を差し出せるの?」

 

 がめつい奴らだ。しかしアドマイヤ先生が言うのであればおれも断れん。

 

 ふむ。望みを言うがいい。

 

「う〜ん。いちお〜確認なんですけれども。これってどれぐらいまでなら聞いてもらえるの?」

 

 金くれとか言われたら正直困る。同様の理由で高いもん買ってくれとかも無理。それ以外ならまあ、別になんでもいい。

 

「なんでも? 今なんでもって言った?」

 

 身長伸ばしてくれとか言われても困るぞ、タイシン。

 

「せいッ!」

 

 うぐッ……おれは気合いで食いしばった。そう何度もやられてたまるかよ……。痩せ我慢の笑みを浮かべるおれに、タイシンが目を見開いた。驚いてろ、クソガキめ……人は成長するもんだぜ……。

 

「うーん。ここまで範囲が広いと迷っちゃいますな。トレーナーさんなら、大概のことは出来るでしょうし」

 

「別に今すぐ決める必要もないでしょう。"お願い"という形で、使わずに取っておくのも手よ」

 

「それもそうか。またこいつがロクでもないことを言い出した時にでも使お」

 

 ……忘れてねーだろうな。テイオーをぶちのめしてくれないと、あいつアルファードに来ちまうぞ。

 

「別に構わないけれど……」

 

「そだね〜。キタサンも嬉しいよね、テイオーがウチに来るの」

 

「はい。……だいたい、トレーナーも受け入れてあげればいいのに。移籍したいって言ってるんだから」

 

 あいつの悪行を知らんとは言わせんぞ。定期的に来てはおれの仕事を増やしていくんだぜ。その上、あいつの面倒まで見ろだと。勘弁してください。ホントに。……ホントに、お願いします……助けてくださぁい〜……。

 

「うーん。まあトレーナーさんが割と本気で困ってるのは分かったけどさ〜……。あ、そうだ。せっかくレースに出るんだし、もっと盛り上げるアイデアをネイチャさんが思いついたみたいですよ〜?」

 

「聞かせて頂戴、ネイチャさん」

 

「トレーナーさんに命令できるのは勝った人だけ! それで、その分いっぱい命令出来るってのは?」

 

「──へぇ。つまり、アタシらでも勝負しようって? いいじゃん、()ろうよ。この機会に白黒つけとくってのも悪くない」

 

 まあ好きにしたらいいんだが、こいつらはおれの承認とか必要としていないらしいな。トレーナーとは。

 

 バチバチッと火花が散った。……え、アドマイヤ先生まで乗り気なの? 

 

「つまり、有馬記念で優勝したウマ娘が、この人への命令権を得る。そういうことよね?」

 

「お〜。い〜じゃんいいじゃん。なんだからしくなって来ましたね〜!」

 

「っし。久々に本気出すか──」

 

 えぇ。いや、まあ……いいけどね、テイオーに勝てるんならなんでも……。

 

「ケイ、私は明日から古巣に戻るわ。有馬までは顔を出さないつもり」

 

「だね。アタシもそうしよっかな、トレーナーさんはキタサンに集中させてあげなきゃ。タイシンも来る?」

 

「……いいの? なら、お世話になる。鍛え直さないと」

 

 移籍組は元いたトレーナーのところに戻るつもりらしい。勝利だけを目標に据えれば正しい判断だ。正直今は仕事とクソガキ5号のことで手一杯。トレーナーとして情けないが、助かるは助かる。助かるんだが……。

 

 えぇ、なんかガチじゃん……。

 

 まぁテイオーに勝てるならいっか。ついにあのクソガキに頭を下げさせることが出来る。ワクワクしてくるね、まったく。

 

「……行っちゃいましたね。あれっ、ってことは、ウチってしばらくあたしだけってこと……? え〜……やだな〜……」

 

 聞こえてるからな、お前。

 

 ともかく、決戦の日はそう遠くない。ガキどものやる気は年末に集中することになる。おまえもな、クソガキ。

 

 例の賭け、忘れてねーだろうな。

 

「分かってます。それに──……」

 

 なんだよ?

 

「……いえ、なんでもないです。さ、トレーナー! あたしお腹ぺこぺこです、ご飯作ってください!」

 

 遠慮のないガキだ。分かったよ。

 

 そんなわけでアルファードは一時解散。クソガキはホープフルステークスの前に1レース叩く必要があるらしいので、とりあえずそっちに集中。

 

 自動的にそんな感じになったので、トレーニングの日々は続く……はずだったのだが。

 

 今回の話がなんかどっかから漏れたらしくて、有馬記念で勝ったヤツの願いをおれが叶えるとかいう噂が流れたのだ。ドラゴンボールじゃん。おれァ神龍じゃないんだぜ。

 

 くそッ、なんなんだよッ!!

 

 

 

-

 

 

 

「──お兄さまッ!! どういうことなの、説明してッ!! 早くッ!!」

 

 ブチギレたライスさんが怒鳴り込んできた。なに……なんなの、なんなの? 怖いよ……。

 

「有馬で勝ったらお兄さまに何でも言うこと聞いてくれるって……お兄さま、何考えてるの!? ライスに黙ってそんなこと……どうしてッ!!」

 

 ライスさん……。

 

 違うんすよ。違うんす。聞いてください、おれの話を聞いてください……。

 

「だから早く説明してってライス言ってるよねッ!?」

 

 ライスさんが机をぶっ叩いた。怖いよ……。なんでなの……。やめてください……。

 

「はぁッ、はぁッ……ふぅッ、ふぅッ──少しだけ頑張って、ライス、落ち着けるように頑張る。頑張るから……だから、お兄さまも頑張って説明してね。ライス……手加減するの、へたくそだから……ッ!!」

 

 わ、分かった。分かった……。分かった、落ち着いて聞いてな……。実はかくかくしかじかで……。

 

 おれは怯えながらライスに説明した。

 

「……なんだ、そういうことだったんだね。えへへ、ライス早とちりしちゃった。ごめんなさい、お兄さま」

 

 あの……なんで怒ってたんですか……?

 

「……だってずるいよ。お兄さまにお願い聞いてもらえるのは、ライスだけなんだもん」

 

 そうなの?

 

「そうだもん」

 

 ンなわけねーだろ。調子乗んなよコイツ……。さっきはマジで怖かったから強くは言わないけど。

 

「お兄さま、最近は珍しく頑張ってるから、ライスは我慢してるんだよ。ワガママ言って困らせたくないもん。アルファードのひとたちはずるいなって思ってても言わないの」

 

 おーい。言ってます。言ってますよ、気づいて。

 

「でもずるいよ! テイオーさんとそんな約束するくせに、ライスはダメなの!? どうして!」

 

 約束じゃねーよ。賭けだって言ってるよな。オメーも負けたらおれに頭下げるんか?

 

「むぅ。ライス、意地悪なお兄さま、嫌い」

 

 はぁ。このクソガキは自信ないですみたいなツラしてるくせに自己肯定感はめっぽう高いところが面倒なんだよな。

 

「テイオーさんがいいって言うなら、ライスにも権利はあるよ……そうでしょ、お兄さまッ!?」

 

 ひいっ、やめて、大きな声出さないで! 怖いんだよおまえ!!

 

「何したらいいかなんて分かってるよね!? ライスはずっと我慢してたんだよ!? なのに……!」

 

 わ、分かった! 分かったよ、分かった! 分かったって!

 

「えっ! じゃあ……いいの!?」

 

 ライスさんはパァっと顔を輝かせた。嘘のような変わり身だ。さてはコイツ……いや、何も言うまい。

 

 くそ。分かったよ、分かった。有馬でおまえが勝ったら好きにしろ。でも分かってんだろうな、ウチの連中が勝ったらオメーは頭ぁ下げろよ……。

 

「えっと、頭下げたらアルファードに入っていいの?」

 

 ライスさんはぺこりと頭を下げた。そんなとこで天然を炸裂させられても困る。違うって言ってんだろ。有馬だ有馬。おまえ分かってやってるよな。

 

「えっと……つまり有馬で勝てば、お兄さまはライスのものになってくれるんだよね?」

 

 違うよ。違うからね。

 

 おれはだんだん疲れてきた。このクソガキ、とぼけた顔しやがってよ……。舐めてんのか。舐めてるだろうな。

 

 はぁ。まあせいぜい頑張ってくれ。

 

「ライス、頑張るよ。だからお兄さまも、ライスのことを見ていて」

 

 なんかキリッとした表情でライスさんが言った。あのね、おれライバルの立場だからね。応援とかする立場じゃないの、分かります?

 

 釈然としなさすぎる。なんで清々しい顔してんだよ。えぇ……。

 

「──それでも、お兄さまは優し過ぎるから。誰かが困ってたら、助けちゃうの。……ホントはライスだけを助けてほしい。だから、そうさせる」

 

 怖ッ。禍々しいオーラが可視化されてる。

 

「テイオーさんに伝えておいて。ライス、今度は負けないから」

 

 ライスはざっと踵を返して去っていった。

 

 こ、怖かった……。

 

 なんなんだよ、くそッ!

 

 

 

-

 

 

「──トレーナーッ! どういうことですの!? 説明してくださる!? 早くッ!」

 

 ブチギレたもちもち饅頭が殴り込んできた。

 

 んだよ。今度はなんだ、うるせーな……。

 

「食堂を閉めると聞きましたわよ!? ようやくわたくしが整理券を手に入れたのに……! いくら積んだと思っていまして!?」

 

 オメーの頭には食欲の二文字しかねーのか!! 秋天が終わった途端にこれか!? 何一つ学んでないらしいな、おめーは!!

 

「ひっ、怒鳴らないでくださいまし! 驚いてしまうでしょう!」

 

 つかおまえ、金払ったって……多分騙されてるぞ。誰から買った?

 

「テイオーですけれど」

 

 あのガキ……。あのな、実はかくかくしかじかでな。

 

「ッ──トウカイテイオーッ!! 今度という今度は許しませんわッ! わたくしを世間知らずのお嬢様と見くびりましたのね!?」

 

 おお、キレてるキレてる。そりゃそうよ。

 

 つか……なんかおれも腹立ってきたな。あいつ善意で整理券配り始めたとか抜かしてたのに、ついに中抜きし始めたのか? 聞いてねェぞ……。

 

 あのガキ!!! オイいちご大福ッ、あいつ許せねえよな!?

 

「誰がいちご大福ですのッ、ぶち殺しますわよ!?」

 

 許せねえ。許せねえ……許せねえ。マジで許せねえ。あいつ……あいつに……消えない絶望を与えてやる。

 

 どんな手段を使ってでもあいつを吊し上げてやる。おいマック。

 

「まず、わたくしを甘くて丸いお菓子に例えるトレーナーの頭を吊し上げて差し上げます」

 

 マックはおれにキャメルクラッチを極めた。

 

 ぐああああああああああああ!! 死ぬ! 死ぬ! 許してぇ!!

 

「はぁ。全く……次はありませんわよ。よく覚えておきなさいな」

 

 ぐっ……。はぁ、相手がマックだから油断した。そういやコイツら馬鹿力なんだった。

 

「ただ、テイオーに報いを受けさせるという案には賛成です。トレーナーの食堂を閉めるなどと……許せませんわ」

 

 いや、そもそもあいつのせいだからな、食堂とか呼ばれる羽目になったの。閉めるのはおれの明確な意思だから。

 

 つかいつまで乗ってんだ。重──

 

「なにか言いまして?」

 

 はい。すんません。

 

 だが……おまえ、今から有馬やって間に合うんか。

 

「トレーナーが協力してくれるのであれば、問題ありませんわ。3食作って頂けるんですわよね?」

 

 なんでだよ。普通に練習しろよ。

 

「じゃあわたくしの整理券はどうなるんですの!? あんなに苦労して手に入れたというのに!」

 

 知らねーよ!!

 

 はぁ、分かったよ。メシ食いたいなら食わせてやる、オーナーゼフが優しくて良かったな。でもその代わり有馬に出ろ。テイオーを倒せる可能性は少しでも上げる必要がある。

 

「言われずともそのつもりです。今度という今度は許しませんわよあのクソガキ……」

 

 よし、その意気だ。というかそろそろどいてくれ。

 

「そういえば、トレーナーはいつからランプの魔人になったんですの? 妙な話が出回っているようですけれど」

 

 ああ、それがさあ。テイオーのクソガキがかくかくしかじかでさぁ。

 

「ずるい! ずるいですわ! アルファードに移籍などと……食べ放題ということですの!? 許し難い暴挙……食の格差です!」

 

 おまえ、ほんと食うことしか頭にないのな……。

 

「トレーナー! わたくしにも権利はあるでしょう!?」

 

 あいつに勝てればなんでもいいよ。マジで勝ってくれ、分かってんだろうな。

 

「当然です。いいでしょう……目にモノ見せて差し上げます」

 

 おうがんばれ。あとそろそろどいてくれ。

 

「行きますわよトレーナー! 今年最後の花火を打ち上げにッ!」

 

 えぇ。なんか巻き込まれてんだけど……。いやトレーニングはマックちゃんが自分でやるんだよ? そこはおれ関係ないからな。分かってんのかこいつ。

 

 ぐっと拳を振り上げるマックの下敷きにされながら、おれは前途に渦巻く混沌に慄いていた。大丈夫なんかこれ……。

 

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