ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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やばいですわ!!!!!!

 夜。仕事をやっつけている(可愛い表現)とヤツが来た。

 

「こんばんは、お兄ちゃん。また来てあげたよ」

 

 もういいよこのパターン。もう良くない? もういいって。もういい……許してください……。

 

「なぁに? どうしたの、お兄ちゃん? そんなに弱気になるなんで珍しいな〜、カレンが慰めてあげる」

 

 あのね。原因はおまえだからね。

 

「だってお兄ちゃん、全然約束守ってくれないんだもん。今度お家行くって言ったのに、いつになったらカレンを招いてくれるの?」

 

 ああ、それね……。っていうか別におれン家でやる必要はなくない?

 

「だってカレンもゴローに会いたいんだもーん。それに聞いたよ? アヤベさんに家の鍵、預けてるんだって?」

 

 しゃーねーだろ帰れねーんだから。猫ほっとくわけにいかんだろ。おれだってほんとは毎日帰ってゴローと一緒に寝たいよ。寝たいよ……。

 

「あーあ。カレン、頼ってもらえなかったなー。寂しいなー、悲しいなー。でもでも、まだ遅いってわけじゃないんだよ? カレン、お兄ちゃんのお家に行きたいな〜」

 

 おれだって帰りたいに決まってる。帰りたいよ……。

 

「あは。お兄ちゃん、疲れてる? よしよし、頑張ってるんだね。"みんな"のために、いつもお疲れ様。えらいえら〜い」

 

 触ンな。身の危険を感じる。

 

「……カレンだって傷つくんだよ? せっかく会いに来たのに、とことん冷たくされたらカレンも辛いなぁ〜。泣いちゃうかも。ぐすん」

 

 はぁ、このガキは……。ちらっと時計を見てみたが、人によっては寝てるような時間だ。これ以上の来客もないだろう。おれはパソコンのウインドウを閉じて立ち上がると、コーヒーマシンを起動をした。

 

「あー。こんな時間にコーヒーなんていけないんだー。眠れなくなっちゃうよ?」

 

 寝れないからいいんだよ。おまえにもくれてやる。

 

「……いいの?」

 

 いらねーなら別にいいンだぜ。

 

 クソガキがなにも言わなかったので、おれはマグカップを出してやった。

 

 悪いが食堂はもう閉めちまった。食材も買ってないんでこんなもんしか出ねえよ。メシ集ろうって腹なら、目論見が外れたな。

 

「……そんなの目的に来るわけないじゃん。お兄ちゃんはホントに、バカのフリが上手だね」

 

 バカのフリが上手くて悪かったな。こちとらシラフじゃい……。

 

「はぁ。バカのフリしてるうちに、ホントにバカになったんだね。ま、別にいいんだけどさ。カレンには関係ないし?」

 

 ないわけねーだろ、何言ってんだこのクソガキ……。

 

「まだ関係があるって? あのね、"お兄ちゃん"。わっかんないかなぁ──カレンはね、お兄ちゃんのこと、殺したいと思ってるんだよ」

 

 怖ッ、おま──人生で1番ビビってるかもしれん。こんなにビビったのは夜の山でクマに遭遇した時以来だ。あれほど心臓の鼓動を感じたことはない。

 

 ──嫌な予感が止まらなかった。

 

「お兄ちゃんの首筋に顔をうずめて思いっきり息を吸い込みたい。お兄ちゃんの肌を嗅いで、味わって、思いっきり齧り付きたい。お兄ちゃんの暖かさを感じて、味わって、カレンのものにしたい。お兄ちゃんの血液を浴びて、その温度を感じたいの」

 

 クソガキは酷く濡れた瞳をしていた。おれは体の震えを抑えられなかった。

 

「──そういえば、なんだか変な噂が流れてるよね。有馬で優勝した人がお兄ちゃんを手に入れるとか……あは、また拗れちゃって。どうせまた、ホントは大したことないんでしょ? でも……不安になっちゃうよね。ホントだったらどうしようって」

 

 エアコンが……止まった。冬の冷気を感じた。体が震えるのはそのせいだ。嘘です。そんなわけないです。とてつもない恐怖がおれを襲っているせいです。

 

「お兄ちゃんが誰かのものになるなんて耐えきれない。そうなるくらいなら、お兄ちゃんを殺してカレンだけのものにしたい。分かるよね。分かってほしいな」

 

 やばい。やばい、やばい、やばい、やばい……やばいよ……どうしようどうしようどうしよう。歯の根がガタガタと震えている。

 

 ひっ……ひゅッ、ほわっ、わッ……──

 

「怯えてるんだね、わたしに──あはッ! 怯えないでよ、カレンを誘ってるの!?」

 

 ほわあああああああああああああああ!!!

 

 東京グールのリゼさんみたいになってしまったカレンからおれは逃げ出した。金木くんの気持ちが分かった。

 

 部室のドアにたどり着く前におれは捕まった。

 

 やめろッ、悪かった! 謝るから!! 謝るからやめて!! 殺さないで!!

 

「大好きだよお兄ちゃん!! 愛してる愛してる愛してる、お兄ちゃんが思ってるよりもずっと!! もっとカレンを──ゾクゾクさせてッ!!」

 

 マジでリゼさんみたいになっちゃったじゃねえか! わ、分かった、分かった!!

 

 カレンはおれの腹の上に馬乗りになって、おれの手首を床に押し付けた。おれは全力で抵抗した。これまでなんだかんだいって、マジで全力で暴れたことなどなかったが、全力で暴れた。しかしビクともしなかった。

 

「助かりたいの!? カレンを選ばなかったくせに!? 今更都合がいいよね、カレンの気持ちもわかってたクセに!?」

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! た、助けて! 助けてぇ!? 

 

「何を言ったらいいかなんてカレンに言わせるのッ!? あはははは、お兄ちゃんはホントに優しいんだねッ、わたしになんの希望も残さないんだもんね!? 優しくしないのが優しさなんでしょ!? ほんっとに──笑わせないでよッ!! あは、あははははッ!!」

 

 カレンは──桜色に顔を染めて、酷く楽しそうに笑っていた。じっとりと濡れた瞳がおれを捉えている。唇が蛍光灯を反射して、怪しく光った。

 

 壊れている。おれはそれを知っていた。知っていながら、知らないふりをしていた。

 

 ……これは報いか? それにしてはちょっと、交通事故過ぎると思うが……。

 

「あは、あはは。あははは……カレンに優しくするのが悪いんだよ。優しいのは罪だよね。だから罰を受けるんだよ。いいよね? お兄ちゃんは我慢させるばっかりでさ。でも焦らしすぎだよ、だから……壊れちゃったんだぁ、カレン。お兄ちゃんと一緒だね」

 

 カレンがおれの耳元で囁いた。蜜のような声だった。

 

「壊れちゃおう? あは。あはは」

 

 ……。

 

 壊れたクソガキに何を言ったって無駄だ。火に油を注ぐだけだろう。だったらまあ、何言ったっていいか。どうせ変わりはしない。

 

 どけよ、クソガキ。コーヒーが冷めちまう。

 

「いいよ? お兄ちゃんの頼みなら、カレンはなんでも聞いちゃう。……だけど、もう少しだけ──カレンのことだけを見ていて」

 

 おれは内心ガクブルだったので言う通りにした。怯えを悟られると余計に調子に乗ることは明白だったため、全力で無表情を保った甲斐があったのかは分からないが、じっと目を合わせ続けるとクソガキのテンションが徐々に下がっていった。

 

「……」

 

 怖ッ。こいつが何を考えてるかなど分からないが、今が1番怖いかも知らん。

 

 くそ。だが……おれにだってプライドぐらいあるんだよ。目ェ逸らしたら負けだ。見てやるよ、おまえの望み通りにな。

 

「どうして……こんな時だけ、真面目な顔でカレンを見るの」

 

 通った。通るんかこれ。クソガキの目からハイライトが消えて……怯え? のようなものが混ざった。

 

「……見ないで。カレンを……その目で見つめないで。分かろうとしないで。カレンを──見つめないで、見つけないでッ!!」

 

 じっと見てたらクソガキがunravelのサビみたいなこと言っちゃったよ。なんで全体的に東京グールなんだよ。おまえだけ世界観怖いんだけど……。

 

「見ないで────カレン、こんなことが、したかったわけじゃ……」

 

 言うが早いか、カレンは怯える猫のように飛び退いて、すぐに逃げていった。おれは呆然とそれを見送った。

 

 ……助かった、のか?

 

 …………。

 

 …………どうも、やべえな。今回は……普通に殺されたルートまであった。

 

 どうやら……また……死に損なっちまったらしい。安堵からかタフガイみたいになってしまうのも無理はないだろう。

 

 ……当分は、あれだな。夜の残業は控えよう。そうしよう。次の機会……そんなものが存在して欲しくはないが、それが起きたとしたら……おれは多分、あいつに殺されるだろう。ザ・ランの露伴先生みたいになってしまった。

 

 ゴローよ。おれ、もう一度生きておまえに会えるかな……。

 

 

 

-

 

 

 

 メイクデビューを華々しい結果で飾ったキタサンブラックに待っていたのは、洗礼というヤツだった。なんでも学内模擬レースに参加してきたらしい。らしいってのはなんか勝手に参加してたからだ。

 

 どーしたってんだ。

 

「……勝てなかったです。同じジュニア級の子たちだったのに……」

 

 それがどーしたってんだって聞いてンだよ。

 

「だって! あたし、毎日ホントに頑張って練習してるのに……自信、無くなっちゃいます」

 

 ふむ。久しぶりにトレーナーっぽいことでも言ってやろうか。

 

「え、別にいいです」

 

 えぇ。そこはおれがなんかいい感じのこと言って元気を取り戻す流れじゃないのかよ。

 

 クソガキ5号は珍しく落ち込んでいるようだ。話を聞くに、別にミスや不調があったわけでもない。単純に力負けしたのだそうだ。

 

 え、マジで? そりゃマズったな。

 

「トレーナー……このままだと、あたし……勝てないかもしれないです……」

 

 んん。だがなぁ、もうトレーニングは詰め込むだけ詰め込んでんだぞ。これ以上は流石に無理だ、おめーも分かってるだろうがな。

 

 おれの予測が外れた。めぼしいライバルはマークしてて、そいつらのトレーナーには調子どっすかとか言いながら情報収集をしていた。そういう時に横のつながりがあると楽だね。だからまあ、正直いけるだろとか思ってたんだが……。

 

 どうも参るな。ガキどもの成長速度ってのは予測がつかん。

 

「どうしましょう、トレーナー……。あたし、負けたくないです」

 

 待て、ちょっと考える。

 

 おれは真面目に考えてみたが、キタサンの能力をこれ以上底上げするプランがなかった。そりゃそうだ、練習の段階からアイデアを出し惜しむわけがない。

 

 はぁ。言い訳するつもりじゃないんだが、どうもおれはレーストレーナーとして経験が浅いな。いくら天才とはいえ、ガキどもがどうすりゃ強くなるかなんぞ見当もつかん。

 

「あたし……夜練でも朝練でも、なんでもやります。あたし、強くなりたい……!」

 

 流石にこれ以上はやりすぎじゃないか? いや……おまえがどんくらい頑丈なのか、ぶっちゃけ分からんけど。それでケガされても面倒なんだが。

 

 どうすっかね。

 

 ガラガラ。ドアが開いた。

 

「おいっすー! 調子はどうかなぁ、トレーナー!」

 

 こいつ、よくもまあノコノコと顔を出せたもんだな。まあいいや、ちょうどいいし座れよ。

 

「え、なになに? 作戦会議中? いいねー、ボクも混ぜてよ。輝くようなアイデアを出しちゃうよ?」

 

 実はしかじかかくかくでな。どうしたもんかと。

 

「えぇ。このパターンで真面目な話が飛んでくるの初めてじゃない? ちょっと解釈違いなんだけど……」

 

 おめーマジでぶっ殺すぞ。首洗って待っとけ、ったく……。

 

「てかそうだ! あのさあ! アルファードとの対決じゃなかったっけ!? なんかこの前ライスとすれ違ったんだけどさ! すんごい眼で睨まれたんだけど!?」

 

 ああ、それな……。

 

「それなじゃないよ! マックイーンもなんか目の敵にしてくるし! どういうこと!?」

 

 それはオメーが悪いだろ。整理券の転売て。おまえマジかって感じだよ……おめえマジかッ!! どういうつもりだオメーッ!! なにしてくれてんだッ、ぶち殺すぞ!?

 

「整理券の転売……え……うそ、ですよね……? テイオーさん、嘘ですよね!? 嘘って言ってください……」

 

「いやいやいやいやいや!! 違うんだって、違うの!! してないって、してないよ! ボクのことなんだと思ってるの!?」

 

 おまえ、マックイーンにいくら払わせた。

 

「い……いちまんえん……」

 

 おま、マジか。

 

 おまえマジか。

 

 おまえマジか。マジなのか。マジで言ってんのか。

 

「違うんだってッ!! ホントに払うなんて思わないじゃん! マックイーンが必死になって頼み込むもんだから、ちょっとからかっただけなんだって! 整理券あげた後のマックイーンの笑顔見てボク、からかっただけなんて言えなくて!!」

 

「テイオーさん…………」

 

「ボクも返そうとしたんだよ!? でもマックイーンめっちゃ怒ってて! なに言っても聞いてくれなくてさ! あんな冷たい顔したマックイーン見たことなくて!! ねえどうしたらいい!? トレーナー! ボクどうしたらいい!?」

 

 テイオーは完全にドツボにハマっていた。

 

 自分のやってきたことの全てが自分に襲いかかっている姿には見覚えがある。それは……おれの姿だ。

 

 おまえは……おれだ、テイオー。もう1人のおれがおまえなんだ。

 

「サスケみたいなこと言わないでよッ!! トレーナーも頭おかしくなってるの!?」

 

 テイオーは錯乱している。

 

「うぅぅぅぅ……! 今年の有馬ヤバいよ、ホントにヤバいよ、周りが敵しかいないよ! スカーレットもさ、捕食者みたいな目をボクに向けてんの! 最近じゃもう四六時中視線を感じるの、怖いよぉ! もう謝るからもう許してよ! 全部トレーナーが焚き付けたんでしょ!?」

 

 ちッげーよボケナス! 謝るから許して欲しいのはこっちの方だよッ! どうせ今回もあの噂流したのオメーだろうが!! 

 

「トレーナーの噂流しすぎててどれがどれだか分かんないよ!!」

 

「テイオーさん……嘘ですよね……?」

 

 おれがドラゴンボールみたいになってるヤツだよ!! あれのせいでおれ有馬の結果次第でとんでもないことになるぞ!? 特にライスはヤバい、あいつが勝ったらマジでヤバい!! 

 

 マジでやべーンだぞッ!? ライスといいカレンといい、これ以上何か外力が加わるとどうなるか分からん、どうなるか分からない、分からない──ンでンなことなった!? ギャグ時空だった日常を返せよッ!

 

 分かってんだろうなッ! おまえが勝つのが1番平和なんだからな!? おまえ負けんなよ、絶対負けんなよ!?

 

「なんでトレーナーがボクのこと応援してるんだよッ!! どうすんの!? ねえこれどーすんの!?」

 

 おめーのせいでこうなってんじゃねーかッ!! なんだァあの噂ァ! なんでこんなに拗れた!? おめーのせいだよなぁッ!?

 

「トレーナーがばかすかウマ娘を引っ掛けるのが悪いんでしょ!? どう考えてもトレーナーが悪いじゃん! ボク完全に被害者だよ、何か悪いことした!?」

 

「今のとこ、悪いことしかしてないです……」

 

「うわーん! もうヤダ、有馬出るの怖い! トレーナー、なんとかしてよ!」

 

 こっちのセリフだわ!! だから負けんじゃねェって言ってんじゃねえか!!」

 

 くそ……くそったれ、くそったれ!! ちくしょう、ちくしょうッ!! ちくしょう……ちくしょう……!!

 

 ……これしか。

 

 ……、……。これしかないのか。

 

 ………………ああ、くそ。これしかないみたいだ。

 

 おい、クソガキ。

 

「……なに、バカトレーナー。そんな覚悟決めちゃったような顔して」

 

 ……一時休戦だ。おまえはおれが鍛える。そんで絶対に有馬に勝て。分かったな。

 

「……うん。分かった。そうする。がんばろ、トレーナー……」

 

 ああ……がんばろうな……。

 

 そういうことになった。

 

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